学舎の緑
なぜ僕の名前を?と揺れ動く電車の中で疑問に思った。
驚きが強く、返事をするのに数秒かかった。
「あぁ、そうだ」
「1限の途中くらいには着くかな」
思考と発言の内容が異なってしまう程現在の疑問が複雑だ。
彼女は僕の名前を知っていた、違う、この体は性格には僕のものではない。
正確には人間のものだ。僕がこうなる前の人格の所持物だ。
だとしてどうしてこの人間なんだ?この体でなければならない理由でもあるのだろうか。
こんな状況でも分かっていることが1つだけある。
それは、この体の正式な持ち主と彼女は親しい関係という事だ。
「零、元気無い?苦手な科目でもあった?」
「いや、別に。課題だ、課題の解答で悩んでてな」
「あ、手伝わないよ?零が分からない問題私が分かるわけないし」
そう彼女はいたずらに微笑した。僕も仕事仲間が恋しくなってきた。
電車の窓を額縁に流れゆく景色を背景に僕は彼女を見た。
横顔だったものの、1つの作品となっていた。
1本に束ねられ、肩から垂れる髪型も作品に価値を上乗せする。
「にしても零さ、この暑い中黒パーカーなんて着て大丈夫?不審者みたい」
服装なんて気にしたことなかった、彼女の発言の雰囲気を感じるに僕も制服は着れているらしい。
着れていなかった場合パーカーより先に目がいくはずだ。
「別に、そうでもない。って、今不審者みたいって言ったか、フードしてないのにか」
「言ったよ、だって黒じゃん?怖いし」
手当ての時とはまるで別人だな。言葉に遠慮がないのはそのままだが、どこか拍車がかっている
そう考えるとあの時の僕と、今の僕とでは何が違うのだろうか。
また異なる疑問が増えた、時間はかかるがそのうち理解すると信じよう。
「そろそろだね、準備しないと」
「おう、って立ってるから心配ないか」
「ねぇ、零ってそんな突っ込み気質だったっけ?」
「何か変だったか?」
違うのは、彼女には悪いが当然というほか無いんだな。説明は非科学故に省略する。
「変ではないけど、少し何かなぁ」
「具体性が欠けてるな」
「やだやだ、難しいこと言わないで!」
合わせるというか、変に勘ぐって人格を新たに作ってしまった僕も悪いが、よくよく考えると素でこれの彼女も悪さをしてる気がする。
「ほら、早く降りるよ、1限終っちゃう」
「ちょっと待て、先々行くなって」
僕は何もかもまだ分からない、人間素人だ。
……人間素人ってなんだ。よく分からない単語を誕生させつつ、追い慣れた彼女を追った。
彼女のあとを追うといつも何かしら驚かされる、今回は木々や植木と共に形作られる学舎の姿だった。
さて、僕の教室はどこだろうか。なんて浮かぶ疑問が学生に染まった。