青空の旅立ち
夏特有の暑い風が装束のフードを揺らす。
僕は人や車の行き交う交差点を見下ろしていた。
「そう簡単にゃあ、生物って奴ぁ死なねぇよ」
背後からは相変わらず、自分達の仕事に対し適切ではない表現をする仲間が1人。
「アルク、僕達は死神なんだ。生物が死なないと仕事が出来ない。分かるよね。」
僕達死神には他の生物には出来ない仕事がある。
死んだ生物の魂を審判の間という場所まで案内する。
しかしこの仕事は生物が死に至らない限り遂行出来ない。
そして、死神は神様の類いであり神様には生物が生きている姿を見守る事が義務づけられている。故に僕達から生きてる生物を殺すようなことは禁止されている。
「そうだけどよ。だからって交差点を見つめてねぇでもいいんじゃねえか?」
真っ直ぐなのはいいことよ、だけどな力抜けねぇのは違うと思うのよ。
「甘い。」
僕は一瞬冷たい目でアルクを睨み付けた。これだからアルクって奴は嫌なんだよ。
「零、お前真面目すぎんだろ」
こいつ曲がらなすぎて何かしてやるのがしんどくなってきたな。
だけど、こいつは俺の唯一の相棒であり仲間だ。諦めねぇぞ、俺は!!
「死神は真面目なくらいが丁度いい」
死神はどんな奴だろうと結局は真面目に近くなる。
仕事は早い者勝ち、最初に見つけた奴が遂行する。
同時に見つけた場合にはどちらとも譲らぬ話し合いが始まる。
話しの内容は今までの経験や仕事に対する考え、などが中心だ。
「もうお腹いっぱいっす」
ここいらで引いとかねぇと、お説教口調に殴り殺されちまう。
「やっと理解してくれた」
アルクなりの優しさであることは分かってる、だからこそ甘えられない。
話しも一段落つき、再び交差点を見ようとしたその時、黒い風が目の前に渦巻いた。
「たっだいま~、お二人さん」
「ちょ、ユーリエ声大きい」
中から出てきたのは一仕事終えたユーリエと鈴音だった。
「ユーリエ、鈴音、お疲れぃ」
アルクが優しく労いの言葉をかける。
「本当に疲れた。ここから審判の間遠すぎじゃない?」
「でも、お話ししてるときのお爺さん楽しそうだった。お孫さんに会ってみたい」
鈴音に現実を教えるのはまだ先にしよう。
三人が言葉を交わさずとも合致した意見だ。
そんなに目を輝かせながら言われたらこんなこと尚更伝えにくい。
「私、見つけても男二人に譲るわ、鈴音も今日はおしまいにしにない?」
鈴音はこくりと頷いた。その時、アルクが声を出した。
「おい、あれ見ろよ」
指で差された方向に場にいる全員が振り向いた。
ある程度高さのあるマンションのベランダから植木鉢か落下していた。
しかも、落下の目処が立つ場所には複数の人間が往復していた。
これだけ人間がいれば1人は巻き込まれて死ぬはず。
「相棒、出番だぜ」
これでこいつも仕事ができる。俺の不真面目なイメージも少しは変わるだろ。
「でも、アルク……」
「うっせぇ!!早く行けやぁ!!」
僕は申し訳ない気持ちを持ちつつ人混みに飛んだ。
そして死ぬ女子高生の正面に立った。
「仕事の時間だ」