学徒は橙に集う
自分自身が何者かすら判断できない生物が学舎に足を踏み入れる。
青々と茂る木々の間から溢れ、顔に差す光を誰かの手で庇う。
もはや歩きなれたこの足で建物の中へと入る。
白く長く何処までも続いて見える通路、高い天井。
当たり前だが、マンションとは違った。少し歩くと校内案内図を見つけた。
「僕はどこへ向かえばいい…」
呟き覗き込む、ある程度学習してあるから図中の文字を問題なく読解することができた。
職員室は論外、校長室も違う、○○課のような類いの場所も避けよう。
職員に見つかれば、言い訳なんて思い付かないだろう。
もっと情報はないのか。記憶を探す。
「生徒証!」
鞄をまさぐり生徒書を見つけだす。よく読みヒントを見つけた。
「2年5組、どの教室だ!」
学年を見つけすぐさま目の前の校内案内図を探す。
彼女は1限が終わるとか言っていた、早く見つけなければ職員が教室から出てくる。
「3階の206室、急ごう」
マンションの階段より横幅の長い綺麗な白い階段を上がる。
絵画らしき物が規則的な距離感で壁に配置されている。
ゆっくりと鑑賞している時間もなく、3階まで上りきる。
頭上の長方形の看板に書かれた数字を遠目で確認し、件の教室を見つけた。
「おい、嘘だろ。間に違う教室がある」
後ろから人が来ないとも限らないできるだけ早く決断しなけれぱ。
教室に取り付けられた窓からは学徒が勉学に励む様子を確認することができた。
僕は瞬時に窓の位置より体制を低くし、大きく息をついた後両足首に力を込めた。
何歩かの助走を経て、自分の姿が教室の窓から見えないよう、スライディングし廊下を通過した。
「飛べないこと以外は、優秀かもな」
人間のからだの仕組みについて、感心したのはこれが初めてだ。
人間はこの世のどんな生物より無駄が多いとばかり思っていたが、何かしらの頂点と呼ばれるだけある。
何て考えていると謎の旋律が流れ始め、前後から何かを引きずる音の後号令がかけられ声が響き渡る。
その後、前後の教室の前方の扉が開き始めた。僕は慌てて目的の教室の後方の扉から中に飛び込んだ。
教室の中は木製のものが多く暖かい雰囲気だった。僕はこの橙に学徒として集った。