暗闇の決意
初めまして、赤い翼をすべる者です。
この作品が僕が初めて書いた小説になります。
内容や作品名何もかもが素人で至らない点が多いかもしれませんが
皆さんの生活の数分間になれたなら嬉しく思います。
では、恋する死神をお楽しみ下さい。
「ずっと前から好きだった」
俺はついに自分の思いを打ち明けた。
彼女がどう答えるか、そのことだけで心臓が止まりそうだった。
少し間が開いたあと彼女は口を開いた。
「ちゃんと守ってよ、純」
そう言うと固まる俺を気にすることなく横断歩道を渡りだした。
慌てて追いかけると、俺の目の前で衝撃の光景が広がった。
車両用の信号は、赤のはずなのに猛スピードで走るトラックと、偶然にもそのトラックの前を歩く彼女。
考えている暇はなかった。俺は自分の持っていたカバンを歩道に投げ捨て、横断歩道に飛び込んだ。
「間に合ってくれ」
俺は開いた手のひらを精一杯前に突きだした。
彼女は酷く驚いた表情をしてこちらをみていた。
触れたのは空気だった。
守れなかった。
「ごめんな、咲希」
あれから何日くらいたったのだろうか、俺は若い男性の声が聞こえたので、驚いて目を覚ました。
「あ~死んじまったな。」
金髪で装飾の細かい道服を身にまとった男の姿が、暗闇を少し明るく見せていた。
「誰、お前」
出てきて当然であろう疑問を目の前の男にぶつけた。
男は口を開けこう答えた。
「俺は、エンマ大王。悪いことをしていたら舌を抜いちゃうヤツだ」
最初は信じられなかったが男の発言の通り俺は死んでいる。
そのことから少しずつ信じられるようになった。
「エンマ大王様、咲希はどこですか」
この質問をしたとき俺はこの場に2人しかいないと思っていた。
不意にエンマ大王様は口を開き俺の後ろを指し示した。
「あまり個人的な質問に答えてる時間はない、君以外にもまだ沢山」
振り向くと大勢の人間や動物がドミノの様に並んでいた。
同じ日にこんな多くの生物が死んでしまっていることを目の当たりにした。
「それとも、後ろの奴を待たせてまで教えなければならないことなのか?」
言われてみれば大勢待たせてまで説明してもらうことではない。
揺らぎかけたが、やはり止めることが出来ない。
「どうしても、教えてもらいたいんです」
その青年は、今までここに来た人間の中でただ1人を除いてまだ生きた目をしていた。
訊かれること全てに生きたいと願う影が見える。
俺がこの責を担う前に共にいた彼女でさえ死の淵で発する言葉に
生きたいと感じる様な雰囲気すらなく、とても地球上で初めて死を経験した生物だとは思えないほど明るくとても楽しそうだった。
ふと、脳裏を彼女のある言葉が響いた。俺は小さくそれを呟いた。
「優しく、ねぇ」
エンマ大王様は、何かを懐かしむように笑っていた。
「どうかしましたか?」
こんなにも死んだ人間のことで考えることはなかった。
「いや、何でもない」
今回ばかりはサービスしないと駄目だろうな。
「決めた、お前を生まれ変わらせる」
その言葉を聞いた時、一瞬本当に彼の口から出た言葉か疑ってしまった。
「はい。」
「行ってこい。んで、見つけてみせろ」
出来ないかもしれないと思うことはあったが、不思議と怖いと思うことはなかった。
彼は暗闇の更に奥を指していた、今なら人の舌を抜いているという噂も信じられる気がした。
「あんま、焦るな。最後にどうせ生き物は死んじまうんだからな」
これまでの俺に対する最低な皮肉であり、これからの俺に対する最高の助言だ。
だか、これから起こることを予測しているかのような言葉で少し腹が立った。
俺は歩きだした、より深く暗闇に入るにつれて感覚と思い出を忘れながら。
いつか自分を思い出せるように、強く願いながら、新たな姿に変わって行った。
少しずつ自分の意思が薄れていき、声が聞こえた。
「ここからは、僕の物語だ」
ショートヘアのような髪型をした青年のシルエットが脳裏に写された。
こうして僕は暗闇を抜け光に包まれた。
そして気づいたときには青空の下、着なれた黒装束を着て浮かんでいた。