第94話 ドロップとポーション
「しっかししぶとかったなあこいつ。こんなのが何体も襲ってきたら、流石に面倒だぜ」
数百体のゴブリンとの戦いの後に、タフなゴブリンジェネラルを相手にした影治は、流石に疲れを感じていた。
といっても、肉体的な疲労は【体力回復】で抜けているので、精神的な疲れや【体力回復】では抜けきらない部分の疲れになる。
「……てか、改めて見るとドロップ回収すんのも面倒だな。チェエエエエエス! お前も回収手伝ってくれー!」
「グィィィ! バコッ! バコッ!」
影治に指名されたチェスは、任せてくれと言わんばかりに元気よく蓋を開閉させる。
指示を出した当人は、とりあえず目についたゴブリンジェネラルのドロップの下へと向かった。
「こいつはまた何の金属で出来てるんだ?」
ゴブリンジェネラルは重そうな金属の鎧を纏いつつ、片手には影治の背丈ほどもある盾を。もう片手には影治の背丈よりも長いグレードソードを装備していた。
そしてゴブリンジェネラルがドロップしたのは、これまで見た中では大きめのサイズの魔石と、戦闘時に装備していたグレードソードだ。
試しに持ち上げてみた影治は、少なくとも15キログラム以上はありそうだと感じた。
振り回せないことはないが、刀身が長すぎて少々扱いづらい。
「そんでもって、あんだけ倒した割りには回収できるレア系ドロップが少ないな」
ざっと見たところ、ゴブ布などの日用品以外の装備系のドロップは、大半が石製の装備だ。
幾らチェスが仲間に加わって収納に余裕が出来たとはいえ、影治は石製の装備までいちいち回収する気が起きなかった。
「それ以外だと……またしてもこいつか」
チェスの協力もあり、回収すべきものを回収し終えた影治は検品作業を行っていた。
そこで目についたのが7本の素焼きの陶器の小瓶だ。
アンデッドからドロップした小瓶に入っていたのは、薬などではなく毒薬と麻痺薬だった。
今回ドロップした小瓶は、毒薬ども麻痺薬とも瓶の形状が違う。
少なくとも前回は形状によって種類が分かれていたので、今回も恐らくそうなのだろう。
毒薬とも麻痺薬とも違う形状の瓶が2種類ドロップされていた。
「どちらも前に手に入れた瓶より大きいな。その分内容量も多いようだが……。やはりここは漢識別するしかないな!」
無鉄砲な部分がある影治でも、前世であればそのような真似はしなかった。
しかし今の影治には回復魔術があり、少々の毒程度は治癒できる。
そこで中身不明の小瓶の1つを手にとり、蓋を取り除いた影治はすぐにグビッと一口に飲み干す。
「ん、んん? なんかいい感じ?」
一応飲む前に見た目を確かめる為に、数滴床に垂らして調べてある。
その時の色は赤色をしていたが、血のような赤ではなく、もう少し明るい感じの赤色だ。
そしてその効果だが、影治は飲み干した時に爽やかな感覚を覚えていた。
それはこれまで何度も感じたことのある感覚。
「治癒を使った時と似てるな……。ってことは、これは普通のヒールポーションってことか」
元々ケガをしていなかったので、治ったかどうかを見た目で確認出来なかったのだが、不思議とポーションの回復効果や【治癒】された時の効果は、それと分かる。
癒されているという感覚が……イメージが脳に伝わってくるのだ。
「で、こっちは青色か……。どれ」
続いてもう1種類の小瓶の中身を服用した影治は、ハテナ顔を浮かべる。
「こっちは何の効果も……いや、この感覚。ちょっと覚えがあるぞ」
初めこそこれといった実感もなかった青いポーションだが、時間が経つにつれ体内の変化に気付く影治。
「これは魔脈調整を使用した時の感覚に似てるな。ってことは、こっちはマジックポーションか!」
【魔脈調整】とは、クラスⅢの無属性魔術のことだ。
この魔術はMPを消費して発動するが、その後およそ10分の間MPの自然回復量が上昇する効果がある。
これは特に元々の魔力量が多い者ほど恩恵を受けやすい。
といっても回復上昇量にも限度はあるので、鬼のような魔力量を持つ影治とて、回復量が際限なく向上したりはしない。
そして影治が今服用したのは【魔脈調整】と似たような効果を持つ、マジックポーションと呼ばれるポーションだ。
ただこちらは自然回復力を強化するのではなく、ポーションそのものに魔力が含まれており、服用後5分ほどの時間をかけてその魔力を体に取り込むことで、MPを回復させることができる。
「ふむ、効果時間は魔脈調整よりは短いのか。それに、回復量も魔脈調整よりは低いようだな」
これは影治の魔力量が膨大で、【魔脈調整】による回復量が限度一杯になっていること。
それから手に入れたマジックポーションの等級が低く、回復量が少ないことが原因だった。
「俺が使うのはあんま意味ねえかもしれんが、こいつは売らずにとっておこう」
あれだけの数のゴブリンを倒して、手に入れたポーションはマジックポーションが4本に、ヒールポーションが3本のみ。
どちらも1本ずつ試しに服用しているので、今は両方合わせて5本しかない。
確かに回復ポーションは貴重なのだとは思うが、ここまでドロップ数が少ない原因に影治は心あたりがあった。
それは、さんざっぱら倒した雑魚ゴブリンからはポーションがドロップしていないという単純な理由だ。
今回ドロップしたポーションは、全部後衛のゴブリンジェネラルがいた周囲に落ちていたのだ。
「ぴぴぴっ!」
「いーや。こいつは数が少ないからやらんぞ」
「ぴっ!?」
影治がポーションをテイスティングしている傍では、ピー助が涎を垂らしてその様子を見ていた。
だがポーションの数が少ないので、スライムの核のように気軽にやる訳にもいかない。
「おら、ドロップの回収も終わったし、さっさと次いくぞ!」
「ぴぃぃぃ~」
残念そうに鳴きながら、定位置のチェスの上に飛び乗るピー助。
ちなみにグレードソードやポーションやゴブ布以外にも、ゴブリンジェネラルの近くにいたゴブリンナイトなどから武器や防具をゲットしている。
それらはグレードソードと同じ金属で出来ているようなのだが、やはり影治にはそれが何の金属なのかは分からなかった。
「草原、山、地下迷宮ときて、次はどんな場所が来やがるんだあ?」
ゴブリン軍団と戦った部屋の奥には、次の部屋に通じる扉があった。
そして扉を抜けた先は、少々広い視聴覚室といった程度の広さの部屋が広がっており、中央部には最早お馴染みの転移装置が設置されていた。
すでに転移装置の床面は光を放っており、いつでも転移OKな状態になっている。
以前と比べメンバーが増えているが、転移装置は全員が中に入ってもまだ余裕がある。
しっかり中に入ったのを確認した影治は、上向きの三角ボタンをタップして次なる階層へと転移していった。