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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて

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第92話 クラスⅣ魔術


 フォウンッ! フォゥンッ!


 影治が剣を振るう音が地下迷宮内に響く。

 手にしているのは、チェスの中に収められていた前のマスターの遺品。恐らくは赤スケからドロップしたであろう剣だ。

 影治は早速この剣をレッドボーンソードと名付け、試しに振ってみている所だった。


「ふむ……、材質がいまいち分からんがやっぱ骨で出来ているのか? そのせいか軽くて振りやすいな」


 手にした剣を()めつ(すが)めつ眺める影治。

 すると、ほとんどこの剣が使用された形跡がないことに気付く。


「他にメインの武器があったのか?」


 疑問に思いながらも、影治はこれまで持ち歩いていたレッドボーンスピアをチェスに収納し、代わりにレッドボーンソードを持ち歩くことにした。

 ただ刀身が剥き出しの為、影治は土魔術で生み出した粘土で刀身を覆い、火魔術で固めて焼き上げ一時しのぎの鞘を作る。


「今の俺の身長だと腰に佩くと少しバランスが悪いな。まあ、その内慣れるだろうが……」


 剣を抜きやすくなるように細々とした微調整を加え、ようやく満足のいく状態に仕上げた影治は、床に腰を下ろす。

 今はチェスを仲間に加えた日の夜。

 就寝前にふと剣のことに思い至った影治が、つい寝るのも忘れて鞘まで作っていたところだった。


「さって、とりあえず鞘も出来たし今日はこの辺で寝るか。ピー助、いつも通り夜の見張りは任せたぞ」


「ぴぃ!」


「グィッ、グイッ」


「ああ、そうだった。チェスも頼んだぞ」


 ピー助もそうなのだが、チェスも睡眠というのを基本的に必要としないらしい。

 チェスは箱だからともかく、ピー助は見た目がちょっと変わったひよこのようなのに、余り生物的な行動を取らない。

 あれだけ飲み食いしてるのに、排泄らしきものもしていないのだ。


 ともあれ、その日の夜は問題なく過ぎていった。

 翌朝になって、影治がチェスに収納していた食材を取り出し、朝食を用意しようとしたところでふと気づく。


「……そういや、お前のその収納って空間魔術が使われてんのかな?」


「グィィ? グィィィ」


「む、自分でもよく分かってないのか。ってか。お前って一体どういう存在なんだ? ダンジョンによって生み出されたのか?」


「グィィ……。グィグィ」


「ふむ、ダンジョンによって作られた訳ではないが、昔のことはよく覚えてない……と」


 結局チェス本人に話を聞いても、謎箱は謎箱のままのようだ。

 そこにロマンがある。


「まあそれは仕方ない。過去よりは未来のことを考えよう。差し当たって俺の場合は、今日から何の魔術を訓練するかだな」


 影治は魔石融合術の研究をしている間も、魔術の訓練は常に行っていた。

 その成果もあってか、火魔術のクラスⅣの修得に成功している。

 これでグレイスから直接教わった魔術の中で、全て使えていないのは闇魔術と無属性魔術。それからまだクラスⅠすら修得していない死霊魔術となる。


 無属性魔術は平行して訓練しているが、闇魔術に関しては適性がそれほどないのか、クラスⅡを覚えるのにも大分苦労していた。

 死霊魔術に関しては、現時点では訓練するにも方法がよく分からないし、恐らく必要となるであろう死体も周囲にはない。


「ってなると、他の属性を……そうだな。光魔術にするか」


「ぴぃ!」


 影治がグレイスから直接教わったのは、彼が使用可能な魔術だけだ。

 だが彼から教わったのはそれだけではなく、魔術に関する話も色々聞いている。

 グレイス本人が使えずとも、周りにはグレイスが使えない属性の使い手もいたのだから、そうした魔術を見る機会はいくらでもあったのだ。


 とはいえ、何故か魔術言語(日本語)は理解が難しいらしく、グレイスも自分が使用出来ない魔術名を発音することはできなかった。

 しかし影治ならば、魔術の属性と効果さえわかれば、それらしい日本語を言っていけば未収得の魔術にヒットする可能性はある。


 それに、今の影治にはピー助という光魔術の師匠的存在もいる。

 ピー助の光魔術は明らかに威力が段違いだったので、少なくとも今の影治より3つか4つくらい高いクラスの光術士なのだろう。


「そうなったら、とにかく光魔術を使って使って使い倒して、クラスⅣが使えるようになる下地を作らんとな!」


 これまでの経験上、属性ごとに異なる熟練度のようなものが存在し、それが足りていないと魔術名を唱えても魔術が発動できないことが分かっている。

 上位のクラスの魔術を使用するには、グレイスも言っていたがとにかくその属性の魔術を使いまくるのが良い。


 チェスの収納に用いられているであろう空間魔術のことも気になる影治だが、今は戦闘に直接役立つ系統がいいだろうと、そのことは忘れることにした。

 だがその内落ち着ける時がきたら、そういった魔術に挑戦してみるのもいいだろう。





「じゃあ飯も食い終わったし、出発すんぞ」


 今回もピー助は必要がないというわりに、しっかり影治と一緒に食事を取っていた。

 ちなみにチェスは人間の取るような食事は必要ない。

 代わりに魔石を収納しておけば、そっから魔力を引き出してエネルギーにする。

 もちろん、影治が手動で宝石部分から注入するのもありだ。


 さて地下迷宮の探索に戻った影治だが、これまで移動してきた場所は大体把握している。

 しかしあの時穴に落ちて以降、まったく見覚えがある道と出くわさない。


「……それでいて階層は少しずつ上に上がっていってるとなると、本当にあの穴は落ちるのが必須だったのか? 或いはショートカットって可能性もあるか」


 ぶつぶつ喋りながら話している影治の前に、オークが3体とゴブリンが5体現れる。

 それぞれが何かしらの武器を装備しており、ゴブリンの中には杖持ち……魔術を使ってくる奴も交じっていた。


「撃たれる前に撃て。まずはクラスⅣ魔術の実戦テストと行こうじゃないか。【火球】」


 早速影治は覚えたばかりのクラスⅣ火魔術を放つ。

 以前使えるかどうか確認した時は何もない場所に撃っただけなので、実戦で使うのはこれが初めてだ。


「BG)RJK!!」


 同時詠唱で2回分の【火球】を使用したことで、ふたつの火の球が空中に生成される。

 そしてオーク集団とゴブリン集団の方に分かれて飛んでいったかと思うと、着弾と同時に爆発と炎によるダメージを齎した。


 【火球】は範囲攻撃魔術ではなく、中級の攻撃魔術に分類されてはいるのだが、その性質上着弾した場所の周囲にも多少のダメージが入る。

 たった2発の【火球】によって、ゴブリンは盾を構えていたゴブリン以外は全滅。

 オークも一体は仕留めることに成功し、残り2体にも多少のダメージが入ったようだ。


「おおう! クラスⅣになると威力も大分変わりやがるな。チッ、道理であん時の雷がクソ痛かった訳だぜ」


 以前ミランダに落とされた雷のことを思い出す影治。

 あのクラスの魔術は、民間人が食らえばまず即死する程の威力だ。


「んじゃあ、次は……。【舐める火炎】」


 次に影治がこれまた同時にふたつ放ったのは、直接的なダメージ目的のものではなく、相手を状態異常にする系統の攻撃魔術だ。

 クラスⅣの魔術にはどうやらそういった種類の攻撃魔術が系統化されているようで、土魔術だと相手の足を鈍くする魔術が。闇魔術だと相手の喉にダメージを与えて沈黙状態にさせる魔術があるらしい。


 そして火属性の【舐める火炎】は、鞭のように伸びる炎で対象を絡めとり、しばらくの間炎上させ続けるという、ゲーム的にいうところのスリップダメージを与える効果がある。

 これを残ったオーク2体へと使い、影治自身はレッドボーンソードを手に盾持ちの生き残ったゴブリンへと向かう。


「あらよっと」


 まるで魚でも捌くかのように、影治の手にする剣はいともたやすくゴブリンを切り裂く。

 その際、ゴブリンが手にしていた盾は一切役に立っていなかった。

 ゴブリンを瞬殺した影治は、炎上して苦しがっているオークへと向かい、これまた大して時間を掛けずに切り裂いていく。


 素手による戦闘だと打撃攻撃になるので、この世界のタフな連中を相手にすると、始末するのに時間がかかってしまう。

 だが流石に剣で首を刎ねれば、じきに死ぬ。


「っつっても、結構抵抗があったな。剣の性能もあるのかもしれんが、首を一発で切り落とすのは結構難しいかもしれん」


 今はまだ相手が弱いからいい。

 しかしこれがもっと上位の魔物となると、即殺狙いが通用しなくなる可能性がある。



「おっ、豚肉ゲットラッキー!」


 オークの内の1体がドロップした肉を見て喜ぶ影治。

 今はチェスがいるので、ドロップの収納もバッチコイだ。

 ホクホク顔でチェスにオークドロップの肉を突っ込むと、意気揚々と残りのドロップの回収に移るのだった。


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