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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて

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第89話 魔石融合術


「なんといっても、魔物のドロップの中で勿体ないと思うのがこの魔石だ」


 微かな明かりに照らされた迷宮の一室。

 そこで影治は魔石について考えていた。


 影治は転生前の無人島生活時代に、魔物から得た魔石を砕いて粉末状にして摂取していた。

 結局あの頃は魔術を使うことはできなかったが、それでも魔物を倒すと必ずドロップする魔石は、魔物を倒したという達成感を与えてくれた。


 それに最初にこの上にあるシャーゲンの街に辿り着いた時も、魔石はそれなりの値段で売ることが出来た。

 この国は早々に立ち去るつもりであるが、他の国にいった時に魔石を売れば当面の生活費になるだろう。


「結局ろくに調査は出来なかったけど、魔石は魔導具とやらに利用されているらしい。つまり燃料っつう訳なんで、幾らでも需要はあるだろう。そして燃料ということならば、個数に拘る必要もない」


 実際に影治が魔石を買い取ってもらった時にも、そういった話を聞いている。

 たくさん持ち込まれた場合は、簡易的な道具で値段査定される。

 だが小さくとも高純度な魔石の場合は、専用の魔導具を使って値段が付けられるという。


「どうにかして、魔石内の魔力を他の魔石に移せないものか」


 試しに魔石に魔力を流し込もうとしても、反発されて弾かれてしまう。

 左右の手にひとつずつ魔石を持ち、合わせるようにして魔力の流動を促しても、まったく魔石内の魔力を動かすことは出来なかった。


「そもそも魔導具はどうやって魔石から魔力を抜き取っているんだ?」


 生憎と影治は魔導具というものに触れた経験が殆どないので、その辺りの知識は全くなかった。

 ただひたすらに、魔石とにらめっこを続ける影治。


 これまでもそうだったが、影治は何かに熱中し始めると時を忘れてそのことだけに取り組む傾向がある。

 今回もまたその流れが踏襲されることになった。

 この時の影治は知る由もなかったが、背後からセルマが迫ってきているという中、実に5日間もこの場に留まり続けたほどだ。




「だああ! わっかんねええ!!」


 頭が剥げ散らかしそうになるほど試行錯誤していた影治だったが、未だにその成果は現れていない。

 ふたつの魔石を火魔術で溶かして融合させようともしてみたが、今の影治の火魔術では魔石を溶かすことすらできなかった。


 無属性魔術には魔力そのものを扱う魔術も多い。

 グレイスに教わったもの以外にも、影治の使用出来るクラスⅠからⅢまでの間でまだ覚えていない魔術もあるはずだ。

 そしてそれらの魔術を利用することで、どうにか魔石の魔力を操作できないものか。


 影治は無属性魔術の新しい魔術開発まで行おうとしたが、こちらもそうそう上手く行くものでもない。

 途中で方向性を見失っていると気付いた影治が開発を中断するまで、丸1日を無駄に費やしてしまう結果となった。


「……昔読んだ異世界でダンジョンに潜りながら奴隷といちゃこらする作品だと、魔力の籠った結晶をこう……コツンと合わせるだけでひとつにまとまっていたもん……なん……だがああああ!?」


 本当に何気なく、その作品のことを思い出しながら魔石と魔石を打ち合わせた影治。

 すると小さな光が発生すると共に、ふたつの魔石がひとつの魔石へと融合されるではないか。

 自分で為したこととはいえ、何がおこったのか理解できず、言葉尻が乱れた影治が目を(しばたた)かせる。


 ひとつに融合された魔石は元の状態と大きさ的にはそう変わりなく、内包する魔力もそこまで大きな違いはない。

 実験用にこの辺りの雑魚魔物から集めたものなので、ふたつをひとつにした程度ではそれほど違いが出ないのだろう。


 なおふたつの魔石がひとつになった際、減った体積の分は融合されると同時に塵となって消えている。

 それは魔物が倒された時の様子と似ていた。


「ぴぃ!」


「お、おう。なんか出来ちまったけど……再現できんのかあ? これぇ」


 そこから影治のカチカチ生活が始まった。

 既に5日もこの住環境としては最悪な場所に居座っているというのに、それから影治は続けて3日もの間、魔石をカチカチさせる生活を送る。

 その結果は、しっかりと形として現れることとなった。




「っしゃあ! 完全にコツを掴んだぜぇ!」


 そう叫ぶ影治の手には、おどろおどろしいまでの魔力を帯びた魔石が握られている。

 約100個分の魔石を融合したその魔石は、薄い紫色のアメジストのようだった見た目から、色の濃い結晶へと変化していた。


「それなりに魔力は使うが、寝ちまえば回復するしこんくらいの消耗なら全然問題ねえな」


 初日はそれこそ何の成果も得られぬまま、ひたすら石をカチカチとぶつける作業が続いた。

 しかし2日目になって、2度目の融合に成功する。

 以降はその時の感覚を再現しようと途轍もない集中力を見せ、同じ単純作業を続けていた。

 それから徐々にコツを掴んでいった影治の努力は、3日目の今になって結実する。


「ただ魔力の消耗はいいんだけどよお、なんっかそれ以外の力も使ってる感覚あんだよなあ」


 それが何なのかまでは分からなかったが、魔力よりもよっぽど理解の及ばぬ超常的な力……そのように影治には感じられた。

 確かに自分の中に存在しているハズなのだが、魔力と比べてミクロサイズの量しかないようで、力を感じ取ろうとしても、どうもうまくいかない。


「とにかく、この俺の隠された力によって魔石の融合が成功したのは間違いない。だがこいつは魔術とは明らかに別もんだな。……よし、こいつは魔石融合術と名付けよう!」


 とにかくなんでも名前を付けたい症候群の影治は、そのまんまの名付けをすると満足そうに頷く。


「名前も決まったところで、ふたつ目の制作に取り掛かるか」


 魔石融合術をモノにした影治だったが、どうも魔石の方の限界だったのか、今手にしている魔石の純度まで濃度が高まると、それ以上融合が出来なくなってしまっていた。

 そこで今度は大きめの魔石を基にして、融合術を行っていくことにする。

 すると、最初に作ったマックス魔石より多くの数の魔石を融合できることが判明した。

 どうやら大きさによって、蓄えられる魔力量も変化するらしい。


「ふうぅ、すでに150個は融合してるが、まだ融合できそうだな。先に魔石の方のストックが切れちまったぜ」


 ずっと熱中して行っていた魔石融合だが、材料が切れたことでようやく影治の中のフィーバーがひと段落したようだ。

 そろそろ探索を再開しようかという考えが、ようやく脳裏に浮かび上がってくる。


「よおしピー助。そろそろ探索にもどんべ」


「ぴぃ!」


 なんだかんだで1週間以上もかかってしまったが、その代わりに大きな成果を得た影治。

 この魔石融合術があれば、今後魔石を無駄に放棄する必要もないだろう。

 心が軽くなった影治は、意気揚々と簡易自宅と化していた地下迷宮内の一室を後にするのだった。


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