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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて

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第86話 シャーゲンの悪夢、再び 前編


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて、ご主人様の力を取り戻す方法を模索せよとのことですが……」


 主の命で地上へと降り立ったセルマであったが、辺りの風景を見て途方に暮れた顔をする。


「そもそもここはどこなのでしょう? 土地勘のあるシャルネイア大陸ならいいのですが、ご主人様のポンコ……不注意っぷりを見ると適当にゲートを開いた可能性もありますね」


 辺りは草や低木がまばらに生えており、南の方角には雄大な山脈が聳えている。

 もしここが土地勘のあるシャルネイア大陸だとしても、特徴的な地形でもない限り一目見ただけでは現在地は掴めない。


「仕方ありませんね。ご主人様と連絡を取ってみることにしましょう」


 セルマと主は契約によって結ばれており、遠く離れていても念話で話すことができる。

 ただしそれには主の持つ神力が必要であり、大きく力を失った今では余り頻繁に取れる手段ではない。


 だがこのまま何もない平原にいても仕方ないので、セルマは仕方なくペンダントに嵌めこまれている黒真珠に触れる。

 このペンダントは魔導具の一種で、魔力を籠めると指定した相手に合図を送ることが可能だ。


 単純な効果だけに遠く離れた場所にいる相手にも届く優れもので、これによってセルマは主からの念話を待つ。

 近くにいる場合ならともかく、遠く離れた場所にいる場合は主の神力を使った念話でないと、意思疎通が出来ないのだ。


『……どう……した? まだゲートをくぐったばかりではないか』


『お手を煩わせてしまい申し訳ありません。ですが、勢いのままに開かれたゲートをくぐってしまいましたので、現在位置が分からず難儀しております。ここはどこなのでしょうか?』


『ふむ、そうであったな。そこはシャルネイア大陸の南部だ。そこから南に山脈が見えないか? その山脈はグロウスウェル山脈だ』


『南に見えるのがグロウスウェル山脈……。となるとここは……』


 現在地の情報を聞いたセルマは、途端に険しい顔をして考え事を始める。


『セルマよ。今は我の力を取り戻すことが先決だ。余計な騒ぎは起こさぬようにな』


『……ハッ、仰せのままに。して、具体的にどう動けばよいでしょうか?』


『とりあえず我は魂環の書の反応の近くにゲートを開いた。確かそこから東に行った場所には街があったはず。そこで情報を探るといいだろう』


『承知致しました。それではまた何かありましたら、連絡したいと思います』


『うむ。頼んだぞ』


 主との念話を終え、現在地と目的地を得たセルマ。

 他に手がかりも何もないまま、まずは目的地へと向かって東に歩き始めるのだった。








 主の言っていた街――シャーゲンの街へと辿り着き、大通りを歩いて街の中心部へと向かっていたセルマ。

 街の住人はそんなセルマを遠目に注目しながらも、誰も近寄ることなく逆に彼女から離れていく。


 確かにセルマは妖艶であり胸も大きい。

 普通のヒューマンだったとしても、街の人から大きな注目を浴びるのは間違いない。

 しかしただのヒューマンの女なら、わざわざ彼女から距離を取るような真似はしないだろう。


 住人が誰も近寄らないのは、何より彼女の髪の色が原因だった。

 特徴的な紫色のロングの髪は、風に靡いて煌めいている。

 それは他の地域でならともかく、この国では災厄の象徴ともいえる髪色だった。


「そこの女、その場に止まれ!」


 しばらくのあいだ、誰に邪魔されるともなく大通りを進み続けることが出来たセルマ。

 だがここにきてようやく招集がかけられたのか、衛兵の集団が街の奥からやってきて、セルマに誰何の声を掛ける。


「……そんな集団でやってきて、何の用かしら?」


「貴様、見たところ奴隷の首輪も付けておらんようだが、奴隷の身分を証明するものは持っているか?」


 その衛兵の発言は、最初(ハナ)からセルマを奴隷であると決めつけてのものだった。

 高圧的なその物言いにセルマの眉が一瞬ピクリと動くが、すぐに表情を打ち消して衛兵へと言い放つ。


「奴隷ですって? 何か勘違いしているようね」


「勘違いだと?」


「ええ。奴隷なのは私ではなく貴方達でしょう? あの気の狂った女神の信者たちなんて、どうみても奴隷じゃない」


「き、さまああああああああ!!」


 セルマの発言は、聖光教の教えが蔓延るハベイシア帝国では禁句も禁句。

 冗談でもそのような発言をしたら、本人だけでなくその家族まで処刑されかねないほどの暴言だった。

 これまで遠目で見ていた街の住人達も、今のセルマの発言を聞くやいなや眼の色を変えてセルマを睨みつける。


「いいか、お前達! あの背教者をずたぼろに引き裂いて我らが神に奉げる! だが相手は悪魔の女だ。油断せずに数で押していくぞ!」


 紫の髪の色。

 それは悪魔の特徴として、民間人にも知れ渡っている大きな特徴のひとつだ。

 天使と比べ悪魔の方が数が多く、また帝国はこれまで悪魔討伐に力を入れていることもあって、一般にもその存在はそれなりに知られている。

 一斉に武器を構えて周囲を取り囲もうとする衛兵達を見て、しかしセルマは余裕の笑みを崩さない。


「ご主人様には余計な騒ぎは起こすなと言われたけれど、向こうから絡んできたのでは仕方ありませんね」


 仕方ないなどと言いながらも、嬉しそうな表情を隠しきれないセルマ。

 衛兵たちはまっすぐにセルマの下に向かうのではなく、包囲せんとして左右から囲い込むように散会する動きを取る。


 しかし次の瞬間には、散会しはじめた衛兵たちを覆いつくすように闇の霧が展開された。

 真っ先に包囲せんと動き出していた者は範囲から逃れることができたが、機先を制して無詠唱で放たれたセルマの闇魔術は、たった一度の行使で大半の衛兵を地に伏せさせる。


 しかしセルマが放ったのは小手調べのための魔術であり、半数以上を戦闘不能状態に陥らせることに成功したが、絶命まで持っていけたのは2割ほどだった。

 それを承知しているセルマは、いつの間にか取り出した剣を手に、衛兵の集団へと飛び込んでいく。


「来るぞ!」


「囲め、囲めえええ!!」


 慌てて対応する衛兵たちだが、最初の魔術の一撃によって戦闘可能な者が大幅に削られた上に、倒れた衛兵達が邪魔で集合もおぼつかない。

 そこを狙ったようにセルマは剣で切り込んでいき、倒れている衛兵達にトドメを刺していく。


「この悪魔があああ!!」


「援軍を……駐屯兵やミランダ様にも援護を要請しろお!」


「ガリンペイロが! ……おのれ、よくも俺の親友を!!」


 怒りに満ちた瞳でドワーフが斧を振りかぶって攻撃するも、セルマはひらひらと躱して逆にドワーフの心臓を剣で貫く。

 幾らこの世界の一部の生物がタフであっても、心臓を貫かれてはそう長いこと生き延びることは出来ない。


 影治ほどの魔力量を持たないセルマは、斯様に魔術だけでなく剣による物理戦闘でもって衛兵達を惨殺していく。

 悪魔も天使も基本的に魔術が得意で魔力量が多い種族だが、身体能力に関しても並のヒューマン以上の能力を持っている。

 【身体強化】を用いて暴れまわるセルマは、意図的に息の根を止めなかった者を除き、第一陣の衛兵達を完全に殲滅することに成功する。




「誰が……悪魔などに……言うものか! 貴様は……偉大なるマルティネ様の……光の浄化によって……滅ぼされるうんめ――」


 衛兵は最後まで言葉を発する前に、セルマによって首をかっきられて死亡した。

 言葉が途絶え途絶えだったのは、その前に手足の指を全て切り落とされ、体中も同じように斬りつけられていたせいだ。


「はぁ……。どうやらこの男はハズレ(狂信者)だったみたいね。次は当たりだといいけれど」


 敢えて息の根を止めずに残していた衛兵達は、セルマの簡易的な拷問を前に口を閉ざす。

 しかし5人目になってようやく当たりをひいたようで、求めていた情報の一部を入手することに成功した。


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