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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第22章 ラテニア侵攻 前編

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第808話 格の差


「そこの大女! お前の相手はおれっちがしてやる。覚悟しやがれ!」


 威勢だけはいいアルバァであるが、正直今すぐにでもこの場を逃げ出したい心境だった。

 しかし明らかに自分は相手に目を付けられており、逃走を図っても逃げられるビジョンが思い浮かばない。

 それならば、まだこの乱戦状態に勝機を見出すほうがマシというもの。


「ハンッ! 威勢のいい坊やだな。オレを前に逃げずに出てきた事だけは褒めてやるよ。先手は譲ってやるから、そっちからかかってきな!」


「いいぜ。吠え面かかせてやんよ!」


 ローズの申し出に内心で喜びながら、初手から韋駄天を発動して全速で近づき、瞬息の突きを放つ。

 この最初から全速力で仕掛ける戦い方は、ハムサが格上相手に取る戦術とまったく同じだ。

 武器は違うものの同じスピードタイプであり、アルバァが六暴聖に抜擢されて以来サラーサと同じくらい付き合いがあったのがハムサだった。

 当然何度も手合わせを行っているし、同じ戦場で戦った事もある。


 尤もアルバァの場合、これまでこの戦術を取る事は少なかった。

 そこまでの強者と戦った経験が少ないというのもあるし、そこまでこの戦い方が有効的かどうか疑問に思っていたからだ。

 しかし目の前の大女(ローズ)相手に、力を出し惜しみなどしていたら即座にやられてしまうと直感した。


「へぇ、思ったより早いじゃねえか!」


 ローズからは称賛の声が上がったものの、アルバァの攻撃は全て避けるかハルバードで受け止められている。

 アルバァの持つ槍は長槍ではなく短槍なので、圧倒的にリーチが長いという訳でもない。

 しかもローズが手にするハルバードも、2メートル以上の長さがあるので、リーチの差も微々たるものだ。


「クソッ! バケモンが……」


 楽しそうに猛攻を防いでいるローズだが、攻め手のアルバァには余裕の色は一切ない。

 韋駄天と闘気術を駆使し、自身の最高速度で動きまわり、一瞬にして相手の側面に移動して槍を突き出したかと思えば、その次の瞬間には反対の側面に回り込んで鋭い突きを繰り出す。


 常人の目には追えない程の早さで、全方位から攻撃を繰り出しているというのに、ローズには一切通用しなかった。

 それどころか、一瞬で背後に回り込んだと思ったら、目の前にいるはずのローズの姿が消え、逆にアルバァの背後に回りこまれるなどといった動きも見せる。


 その動きの早さは、アルバァが絞り出している全力の早さと同じ位だった。

 しかもアルバァは知る由もないが、まだまだこれでもローズは全力を出してはいない。

 ローズもまた闘装術を使用可能であり、それを発動すればあっという間に勝負は決まっている。


「ほらほら、どうしたあ? 動きが鈍ってきてんぞ?」


「……行くしかないか。支槍(しそう)八点突(はってんづき)!!」


 ローズと戦い始めてまだ10分ほどしか経過していないが、格上相手に全力で戦い続けているアルバァは、すっかり息が上がり始めていた。

 自分と同程度かそれ以下の相手であれば、余りスタミナがある方でないアルバァと言えど、ここまで早くへばったりはしない。


 ローズ相手の場合、一瞬たりとも気が抜ける瞬間がなく、ちょっとした戦闘の合間に息を整える暇すら取れなかった。

 それは強制的に無酸素運動を続けさせられているようなもので、動きに精細を欠いてきた事を自覚しているアルバァは、ここで賭けに出る。


「お、おおおおおおおおおおっっ!?」


 アルバァの全身全霊を懸けた闘気技を食らい、アシカの鳴き声のような声を上げるローズ。

 支槍・八点突は、アルバァのスキルである韋駄天をフルに活かした闘気技である。

 スキルを組み込んで発動されるこの闘気技は、同時に8か所を穿つ神速の突きだ。

 分身などではなく、何倍にも早送りしたかのように一瞬で8か所を同時に穿つこの技は、捌き切るのが困難であるだけでなく威力も十分なものだった。


「ウヘヘヘッ、やるじゃねえか。オレの体に傷をつけるたあ、たいしたもんだぜ!」


 しかしそんな渾身のアルバァの闘気技(切り札)も、本物の化け物相手には手負いとも呼べない程度のダメージを与える事しかできなかった。

 8か所同時攻撃のうち、半数以上が回避行動や身にまとっている赤い金属部分鎧で防がれてしまったが、2、3か所は直接当たっていたはずである。

 だがローズは咄嗟に硬気術を発動し、該当箇所をガードしていた。


 この辺りはガルダに比べるとまだまだとはいえ、300年以上戦いの中で生きてきた経験の賜物だ。

 技術を重んじるタイプではないが、アルバァの10倍以上長く生きているだけあって、ローズの戦闘技術は単なる熟練者の枠を超えている。


「よおし、お前のターンは終わりだな。今度はオレから行かせてもらうぜ! ジアアァァッ!!」


 喜々とした様子で、歯をむき出しにして迫るローズ。

 それは全力状態のアルバァより早く、パワータイプだったサラーサの斧の攻撃を何倍にも重くさせたような一振りだった。


「かはっ!」


「うん? なんだ、おい。もう終わりかよ」


 つい力が入りすぎたというのもあるが、ローズのハルバードの一振りはアルバァの左の肩口から腹部の右側まで抜けていく。

 それはまるで体を傾けた状態で、ギロチンを落とされたかのような切り口だった。


「おうい、終わったのかああ?」


「ああ! 最初は思ったよりやるなって思ったんだけどよお。そこまでの相手でもなかったわ」


「そりゃあお前ぇ、ナンバーズ相手にまともに戦えるのは同じナンバーズ位しかいねえだろ」


 周囲の敵兵を倒しながら近くまで寄ってきたガルダが、呆れた口調で言う。

 ローズにはおよばないものの、ガルダも相当な実力者であり、すでに何十人もの敵兵を切り伏せている。


 当初ヴェリアスやレイミーが、ゾボロの増援として精鋭1000だけしか送らなかったのは、全体的に兵力不足だったことも関係しているが、この2人の強さをよく知っていたからでもある。


「はぁぁ。またエイジとバトりてえなあ……」


「今はそんな事言ってる時じゃねえだろ。まずはこいつらを潰さねえとな」


 合流したリュシェルと再会した時は興奮していたローズだったが、影治が別行動中だと聞いてあからさまにテンションがダダ下がりしていた。

 それでも1万の帝国兵相手に暴れ回れると、どうにかやる気を上げていたローズなのだが、戦闘中に見つけた少々手応えありそうな相手(アルバァ)に肩透かしされ、またもやテンションが下がりつつある。


「チッ、しゃあねえ。こうなったら、さっさとこいつらを蹴散らしてやる!」


 ローズは鬱憤を晴らすかのように、ハルバードを持った両手を天に掲げ、ブンブンと振り回す。

 その行動自体に意味はないが、気合を入れ直したバトルジャンキーが再び戦場で大暴れする。


 つい先ほどまでは、アルバァ相手にかろうじて格闘ゲームで戦っていたという感じだったのに、今では無双系のアクションゲームのように、次から次へと敵をぶった切っていく。


 魔術において、より高いクラスの魔術の使い手は、集団戦では範囲攻撃魔術を用いて夥しい戦果を挙げることがある。

 それに比べると、前衛の物理で戦う戦士はどうしても派手さに劣るし、キル数も余り稼げるものではない。


 そんな戦場の常識を打ち破るかの如く暴れ回るローズは、まるで人間台風のようであった。

 近寄る者は弾き飛ばされ、それでいて自らも活発に敵を求めて動き回る。


「ふうむ、大分減らせたみてえだな。後は他の奴らに任せて、おれらは中央に向かおう」


「いいぜ! 確か中央にもそこそこやりそうな奴が混じってたんだよな!」


 動く災害の如く暴れ回ったローズとガルダは、すっかり集団として機能しなくなっている敵右翼を抜け、中央部を目指す。

 そこでは支道周りに布陣したラテニアの部隊が、必死に帝国の猛攻を防いでいた。


 当初はかなり押し込まれつつあったラテニア中央部隊ではあるが、少し前から戦況が変化しつつある。

 それは早々に帝国左翼部隊を壊滅させたリュシェル達が、挟撃を加えていたからであった。


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