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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第22章 ラテニア侵攻 前編

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第806話 謎の強者集団


「はぁぁぁっ!? またエントが出ただああ?」


「何なんだよこの森は! エントの群生地でもあるってのかよ!!」


「おいおい、この調子で何体も出てこられたら厄介だぞ」


 せっかく倒したと思った所にまた同じ構成のエントが現れたことで、一般傭兵の部隊だけでなく、荒くれ者揃いの聖なる暴虐団の団員からも戸惑いの声が上がる。


「……常に最新の情報を手に入れてる訳ではないが、この森にこんなにエントが出現するなどという話は聞いとらん。そもそも、若干支道から外れているとはいえ、こんな場所にエントが出るようでは人の行き来も出来ぬ。これはもしや……」


 ただ不満や不安を喚き散らす他の傭兵や団員とは違い、指揮官の適性がそれほど高くないハムサであっても、このエントの襲撃の不自然さには気づくことが出来た。


「お前達! これはただの魔物の襲撃などではない。あきらかに――」


 その不自然さに気づいたハムサが味方にその事を伝えようとするも、それより一歩速く事態が推移した。


「ぎゃあああっっ!」


「ぐぼっ……」


 突如エントが現れた方角から、明らかに人為的な遠距離攻撃が飛んでくる。

 それは弓矢であったり、投擲であったり、魔術であったりと様々だ。

 周囲に木々が生い茂っている状態なので、魔術といっても範囲攻撃魔術ではなく単体向けの攻撃魔術が多い。


「て、敵襲だ! 西側から敵兵が襲ってきやがった!!」


「ぐ、やはりか! 敵にはかなり高位の植物魔術師か、魔植術の使い手がいるぞ! 各々気を付けろ!!」


 ハムサもお目にかかった事はないが、高位の植物魔術の使い手はエントをも生成出来るという。

 また魔植術の使い手も、植物系の魔物を使役可能だ。

 魔植術というのは魔物使いが扱うスキルの一種で、魔物使いはそれぞれが持つスキルによって、使役できる魔物の種類が異なる。


 最も一般的で所持者の多い魔獣術では、動物系の魔物をテイム(手懐ける)することが出来る。

 他にも魔魚術や魔鳥術などもあり、これらを更に細分化したスキルもあって、種類が非常に多い。

 猿系だけに効果のある魔猿術だとか、イノシシ系にだけ効果がある魔猪術だとかといったものだ。


 より専門的に分類された魔物使いのスキルは、テイム出来る種類が限られてはしまうが、その分より強い魔物をテイムすることが出来る。

 魔植術の中でも、樹木系に特化した魔樹術の使い手であれば、エントの使役も可能かもしれない。

 それがハムサが導き出した結論だった。


「クソッ! エントが邪魔で、襲ってきた妖魔どもにろくに攻撃できねえ! しかもこのエント、さっきよりつええぞ!!」


 森の中での襲撃のせいもあって、敵兵の数が把握できない。

 恐らく1000は超えていないと思われるが、少なくとも200位はいると思われる。

 数としては左翼には3000近い兵が配置されているが、最初のエントの襲撃で200ほど戦力が失われている上、地形的にまともに正面からぶつかりあう戦いでもないので、大軍の利が活かせていなかった。


「ぬう、あのエントが敵の使役しているものなのであれば、最初のエントは恐らく何もせずに送り出されたのじゃろう。今回のエントが強く感じるのは、恐らく補助魔術が掛けられておるからじゃ」


 筋力や体力などを強化する補助魔術は、割合で強化されるものが多い。

 それはつまり、素の能力が高いもの程バフ(強化)の効果も強くなるという事だ。

 バフで強化された脅威度Ⅷのエントは、先ほど以上の馬鹿力と体力の高さからくる物理防御力の増強によって、森の中を大暴れしている。


「ハムサの旦那! あそこにいるドワーフや獣人の集団がヤバすぎる!! 旦那の力を貸してくれ!」


「……分かった。たしかにあれはお前らでは止められんじゃろう」


 ハムサも当然その小集団の事には気づいていた。

 素手で次々傭兵達を殴り殺す狼人族の少女に、炎を纏った妙な形状の剣を手にするドワーフの剣士。

 そして一度に複数の矢を放ち、その一射で複数人の命を纏めて奪っていく、凄腕の弓使いの翼人族の男。

 他にもそれら3人には劣るが、風の魔剣を扱うエルフや素早い動きで傭兵達の間を飛び回る猫人族の少女もかなりの腕をしている。


「じじい、つぎ死ぬのはおまえか?」


 その集団の周囲には、常に空間が空いていた。

 傭兵達が近づくとまるで熱せられたバターが溶けるように、あっというまに殺されていくのだ。


 聖光教の教えが広まっている帝国でも、傭兵の間だとそれほど熱心な信者は少ない方だ。

 日々の戦いの中で、無意識ながらも神の教えとは別の真理を見出しているのかもしれない。

 神兵ならば、このような状況でも神を妄信したまま突っ込んでいくのだが、傭兵達は迂闊に近寄らず、遠距離からの攻撃中心に切り替えていた。


「まあ待つのじゃシャウラ。相手は某と同じ剣の使い手で、同じ爺同士。ここは某にやらせてくれ。お主は敵陣に突っ込んで、存分に暴れてこい」


「……わかった」


 傭兵達が集団を取り囲んでチクチクと攻撃を仕掛けていたが、その集団からも猫人族の少女が傭兵の間を縫う様に移動しながら、傭兵達を次々に仕留めていた。

 そこに狼人族の少女が加わったことで、途端に阿鼻叫喚の血が舞い散る惨殺場へと変貌する。


「という訳でじゃ。お主の相手は某が務めさせてもらおう」


「……貴様も只者ではなさそうじゃな。やれやれ、アルバァの予感が当たるとはな」


 熟練の戦士だけあって、相手が自分と同等かそれ以上の実力者である事を認めながらも、ハムサには浮足立った様子はない。

 ドワーフの剣士に相対したハムサは、腰の曲刀を引き抜く。


 奇しくも同じ反りのある剣同士だが、シャムシールに近い見た目のハムサの曲刀と日本刀とでは、反り具合や形状なども大きく異なる。

 共通しているのは、どちらも"斬る"事に特化した剣であるということだ。


「お主には某の剣の糧となってもらおう」


 互いに剣を向けあった2人は、そのまま自然と闘気術を発動させる。

 明らかに格下な相手ならともかく、両者共に相手の力量をある程度見切っているので、出し惜しみなどはしない。


「っ!」


 決して目を離した訳ではなかった。

 ハムサほどの力量があれば、相手の体のどこに力が入っているのか見抜くことも出来る。

 そうすれば自然と次の動作も読めるというものなのだが、ドワーフの戦士はまるっきり予備動作もなく、いつの間にかハムサの近くに接近しており、気づいた時には反りのある剣身が振り下ろされている所だった。


「ふぬんっ!」


 意識外からの攻撃に、しかしこれまで刻んできた戦闘の経験から、無意識の内に体が動き、自身の体との間に曲刀を差し込む事に成功する。

 間一髪で攻撃を防いだハムサは、額から汗が滲み出るのを感じていた。


「ふむ、今のを防ぐか。某の無拍子もまだまだじゃな」


 無拍子というのは、何も四宮流古武術のみに伝わる秘伝の技という訳でもない。

 無駄な動きを排し、体各所の筋肉ではなく自重などを利用して動くことで、予備動作をなくすという技術だ。

 それに加え、四宮流古武術の技を併用したのが先ほどの攻撃で、予備動作がないだけでなく瞬時に接近されたように感じられたのは、その技のせいである。


「チィッ、ダヴィッドソン流……ではないが、技術中心の剣術か。やり辛い事この上ないわい」


 ハベイシア帝国内では、剣術といえば力のデュカティ流と技のダヴィッドソン流が2大流派となっている。

 しかしハムサの長所は素早い動きであり、スピードを重視した少数派の流派の剣をベースに、戦場で鍛え上げたもはやオリジナルと言っていい戦場の剣を使う。


 あらゆる戦場で戦い抜いてきた、ハムサの剣の応用力はかなりのものである。

 パワーで押し切ろうとする相手の対処もお手の物だし、同じスピードタイプだと韋駄天持ちのアルバァのような相手でもない限り、後れを取る事はなかった。

 しかし技をメインにしている相手というのは、ほぼ自己流でやってきたハムサとは相性が悪い。


「じゃが、どうにかするしかあるまい」


 左手で額の汗を拭い落としたハムサは、強敵を前に覚悟を決める。

 そして短くも長くも感じられる、剣戟の演奏会が始まった。


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