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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて

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第82話 ラッシュライノス


 あれから一夜が明けた。


 昨晩は十分に山の幸を堪能した影治。

 魔物茸のドロップしたキノコはシイタケに近く、醤油をかけて食べたい欲求を抑えながら塩を振って食べていた。

 タケノコはキノコや肉と一緒に煮て、スープにしている。


「もっと食料を集めてもいいが、余り持ち歩けないからな。今日は採取や魔物を倒しながらまっすぐ森の中心部に向かおう」


 アイテムボックスだとか、マジックバッグだとかいったものがないので、どうしても荷物の持ち運びについては不便になってしまう。

 だが今は仕方ないと割り切り、影治は調査を再開する。


「またあのキノコとタケノコが襲ってこないかな」


 目を皿のようにしながら移動を続ける影治。

 しかしほどなくして植生が変わり、竹がまったく見当たらなくなっていく。

 その間に魔物とは2度戦闘があったが、どちらも望んでいた相手ではなく昆虫系の魔物だった。

 どうやらこの草原と森地帯は、動植物と昆虫系の魔物がメインらしい。

 ゴブリンやコボルトなどの人型の魔物はいないようだ。


「なんかだんだん木がまばらになってきたな」


 しばらく移動を続けていると、徐々に森の密度が薄くなっていき、木洩れ日の量も増えて明るい場所が増えてくる。

 更に進むと、ほどなくして森の切れ目が見えてきた。

 その先は森の外周部に広がっていたような草原地帯になっているらしい。


「広さはそれほどでもなさそうだ」


 元々外周部の草原地帯もそこまで広くはなかったし、森の移動にも時間をかけているので中心部にある草原地帯もそう広くはなかった。

 森を出た影治の視界には、薄っすら遠くに反対側の森が広がっているのが見える。


「ここまでそんなに厄介な魔物はいなかったけど、ここはなんかありそうだ。ピー助も気を付けておけよ?」


「ぴぃ? ぴぃぃ!」


 影治が呼びかけると、一瞬小首を傾げたがすぐにバタバタと手を振って了承の意を伝えてくる。

 影治も背負っていた竹籠をいつでも離せるように手に持ち、中にある草原部の中心へと歩いていく。

 そうして10分ほど歩いていくと、行く先に大きな魔物の姿が確認できた。


「ありゃあサイか? 大きさ的には地球で見たのと同じくらいだとは思うんだが……」


 恐らく中心部であろう場所には、1頭のサイの魔物がいた。

 体長4メートルほどのそのサイの頭部には、凶悪な角が生えている。

 ……と、近づいてきた影治に気付いたのか、のそりとサイの魔物は方向転換をする。


「……なんかヤベー気がする!」


 咄嗟に危機を感じ取った影治は、手に持っていた竹籠を近くへと投げ、戦闘体制に移る。

 まずは距離がある今のうちにと、影治は【炎の矢】を放った。

 そこでサイの魔物は完全に攻撃態勢へと入り、ものすごい勢いで影治の方に向けて突進してくる。


「げぇ! なんだ、あの速度! サイなんて体がクソでけーから一般道レベルしか出ないんじゃねえのかよ。ありゃあ高速道路レベルは出てんぞ!」


 ぶつくさ言いながらも、影治は咄嗟に前方に【土の壁】を展開する。

 厚さ15センチほどで、高さは2メートル強。横幅が5メートルほどの土で出来た壁は、ただ土を積み重ねただけの壁よりは断然強度が高い。

 にもかかわらず、サイの魔物はわずかに速度を緩めただけで壁を強引に突き破って影治へと迫る。


「チッ、これは返すのはキツそうだな」


 四之宮流古武術には流力(りゅうりき)という、攻撃を受けた時の力をそのまま相手へと返す技が存在する。

 これは特に斬撃や刺突ではなく、打撃系に攻撃に対して相性のいい技であり、今回のように突進してくる相手には使いやすい技だ。


 しかし影治は、【土の壁】でも大して勢いを弱められなかったことを鑑みて、力を返すのは厳しいと判断。

 代わりに力流(ちからながし)という、力を別方向へと受け流す技を使用することにした。


 まるで4トントラックが突っ込んでくるかのような、サイの魔物による突進。

 だが影治は冷静に魔物の動きと力の流れを観察する。

 そして目の前にサイの魔物が迫った瞬間、後方へとステップしつつ突き出た頭部の角を側方から撫でるようにして押す。


 その際僅かに下方へと押し下げたせいか、突進の力のベクトルは斜め下へと変化。

 結果として頭部が下方へと落ちていき、おそよ10mくらい先でバランスを崩して頭から地面に衝突していった。


「やったか!?」


 なにせあの重量が、あのスピードで、頭部から地面に突っ込んでいったのだ。

 首の骨が折れていてもおかしくない衝撃があっただろう。

 影治の方も完全に力の流れを読み切っていたにも拘らず、思っていた以上の衝撃を受けていたほどだ。


 だが影治はすっかり忘れていた。

 この世界の生物は、場合によっては恐ろしくタフであることを。

 砂埃が舞う中、影治はすぐに仕留めきれていないことを悟る。


「ああ、もうしぶといぜえ全く。【泥沼】!」


 文句を言いながらも、頭は冷静に次の行動へと走らせていた。

 最初に使用した【泥沼】はクラスⅢの土魔術である。

 このサイの魔物――ラッシュライノスは、厚い皮膚による強靭な防御力に加え、地属性への耐性を持っていた。

 しかし一定範囲の地面を泥沼へと変化させる魔術に、地属性耐性は関係ない。


 そしてこの巨体で時速80キロほども出せるラッシュライノスも、地面がぬかるんでいては速度を出しようもない。

 沼の深さ自体は20センチほどしかないが、それでも足止めには十分だった。


「ぴぃ!」


 そこへピー助の光魔術が撃ち込まれる。

 ピー助にはやばそうな奴以外は手出ししないでくれと、予め伝えてあった。

 ここで攻撃に加わったということは、ピー助もラッシュライノスを危険と判断したということだろう。


 影治も無属性魔術の【魔力連弾】を放ちつつ、並行して【闇の囁き】を連発していく。

 【魔力連弾】はクラスⅡの無属性魔術であるが、内容はクラスⅠの【魔力弾】を連発するものなので、1つ1つの威力は微妙だ。


 だが影治は威力不足を数で補うようにして、ひたすら魔力の弾をぶつけていく。

 無属性魔術は魔力の消費が多めになるが、体内で魔力の変換をしないでいいので発動速度は速い。


「ブオオォォォォン!」


 遠距離からの魔術攻撃に、体をジタバタ動かしているラッシュライノス。

 影治の【魔力連弾】は地味にダメージを与えてはいたが、何よりハイクラスなピー助の光魔術がかなり利いているようだ。


 しかしラッシュライノスもいつまでもその状態でとどまらず、泥沼地帯を脱したかと思うと再び影治向けて突進を開始する。


「甘いぜえ、甘々なんだよおお! 【泥沼】」


 地面を泥沼にするこの魔術は多少は範囲を調整できるが、効果範囲を細長く延ばしたりはできない。

 そして勢いよく突進してくるラッシュライノスを、数メートル程度の泥沼だけで完全に止めるのは難しいだろう。

 しかし影治は同時詠唱によって、一度に【泥沼】を2つ分発動させていた。


 同時詠唱にも種類が幾つかあるが、1つの魔術言語の詠唱で複数回分魔術を発動させるのは、同時詠唱の中では簡単な部類になる。

 とはいえ難しいことに代わりはなく、日頃から訓練している影治でも、今のところはふたつ同時に発動するのが関の山だ。

 しかしそれでもふたつ分の泥沼は、僅かな距離でトップスピード近くまで加速していたラッシュライノスを見事食い止めてくれた。

 更に影治は先ほどのように逃げられないように、周辺を泥沼状態に変えていく。


「ブモオオオオオッ!!」


 哀れラッシュライノスは、手足をわちゃわちゃさせながら必死に泥沼からの脱出を試みるが、移動した先を更に泥沼にされては抜け出すことも出来ない。

 体重が重いというのは突進時の威力を大きく上げてくれるが、この場合は泥沼脱出を阻む枷となっていた。

 その間にも、ピー助や隙を見て放った影治の攻撃魔術がラッシュライノスに向けられる。


「ぶもおぉぉ……」


 結局最後に悲し気な鳴き声を上げたかと思うと、ラッシュライノスは塵となって消えていくのだった。


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