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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第21章 戦乱の予感

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第785話 グルシャスからの報告


「帝国中部や南部では大きな動きはありませんが、帝国の命運を懸けての軍事行動と言えるでしょう。すでに前線では戦闘に入っていると思われます」


「そりゃあ規模を聞けば頷ける話だけど、どうも急すぎる感じがするな。そんだけの人数が攻めてきてるにしては、急にポンッと沸いて出たような感じだぜ」


「先ほども申しました通り、今回の帝国の力の入れようは尋常ではありません。帝国にも当然裏の組織は存在しておりますが、今回はそれらを総動員して情報が流出しないように暗躍しておりました」


 グルシャスの報告によると、レイノルズにも結構被害が及んでいるとの事だった。

 捕らわれずに無事でいる者達も、容易に外部に連絡が取れない状態になっているらしい。

 当然そうした防諜体制はレイノルズだけでなく、対ハベイシア同盟が放った間諜も被害を被っている。


「おまけに、帝国の北部ではいつの日か訪れる聖戦の為に、何百年も昔から備えを続けていました。軍需物資の備蓄から、神兵が召集された際の指揮系統。それから移動経路の選定など、いつ暴発してもおかしくない下地がかの地にはありました」


 日ごろから訓練をしている常備軍の兵士であれば、きつい行軍にもついていけるし指揮にもしっかり従うことが出来る。

 だが普段街や村で生活してる平民たちは、基本的にそういったノウハウがない。


 だがどっぷりと聖光教に浸かっている信者達は、消耗の激しい行軍であろうと配給される食料が少なかろうと、文句を言わず狂信的に従う。

 熱心な信者の中には、日ごろの労働の合間に鍛えている者もいる。


 普通は数の膨れた民兵など、統率も何もあったもんではないのだが、神兵となれば話は別だ。

 信仰の為なら容赦なく女子供も殺すし、私欲で動いていないので略奪などを行う者も少ない。

 士気だって驚くほど高いし、死地にすら自ら飛び込んでいける。


 影治達がラテニア国内を回っていた時の様子からは、そんな帝国の大戦力が迫っているという危機感は感じられなかった。

 途中影治達はヴェリアスらとも接触しているが、その時もそこまで深刻な態度は感じていない。


 古くから存在する優秀な諜報組織であるレイノルズでも、今回の件ではかなりの被害を受けた挙句、情報収集がいまいち上手くいっていないという。

 ヴェリアス達も、割と直前まで帝国軍の規模について知らなかった可能性がある。


「そのせいで、ラテニアの対応が遅れているって訳か」


「はい、今回の一連の動きで羽を幾つも折られてしまいました。未だに連絡が取れなくなったままの者も多いのです。ですので、急遽天翼を派遣することが決定し、現在は最前線に向かっている最中です」


 グルシャスの言う「羽」とは、レイノルズに所属する諜報員の事を指す。

 初列風切、次列風切、尾羽など、組織内の階級に羽の部位を用いている事から、そう呼ぶようになっている。

 そしてそれら諜報員の最上位が、グルシャスやネゼなど天使のみで構成されている天翼だ。


「ううん、なら本格的に動くのはその報告を待ってからにしよう」


「……ついに動かれるのですか?」


「動かざるを得ないだろうよ。このまま放っておいたら、ラテニアがボロボロになっちまうぜ」


「久々の天屍兵団の出番ですね」


「いや、今回は奴らを使うつもりはねえ」


 前回大暴れしたのがデュレイスでの決戦時の事なので、すでにあれから2年以上が経過したことになる。

 その間、国境警備やら街の警備やらには携わっていたものの、大規模な軍事行動は行っていなかった。

 今回はそんな天屍兵団が暴れる良い舞台だとグルシャスは思ったのだが、影治にはそのつもりがないと言う。


「腐った教義を掲げる畜生共が崇めるクソ女神ではあるが、あれでも一応聖光神と呼ばれている存在だ。奴の使徒や降臨した分霊と戦った事があるが、光魔術を使う連中とうちの天屍兵団では相性が悪すぎる。戦場でいくらでも補填が効くからといって、無駄に戦力を消耗させるつもりはねえ」


「なるほど……確かにそうですね。生憎と情報は挙がってきていませんが、あれだけの規模の軍事行動です。方面軍や神兵だけでなく、光の使徒共が戦列に加わっている可能性は大いにありえますね」


「いずれにしろ、大軍を相手にするのは間違いねえ。ここは土魔術を更に仕上げておくべきだな」


 ここ最近の影治は、空間魔術を集中して鍛えていた。

 おかげでクラスⅣの空間魔術を修得している。

 クラスⅢでは【箱収納】という、数十センチの大きさのボックス程度の収納しかできなかったが、クラスⅣの【小部屋収納】ともなれば8立方メートルもの体積の収納が可能だ。


 これ単体でも十分有益な魔術ではあるのだが、高位の付与魔術を修めている影治が使用可能という点が、更にその有益性を何十倍にも何百倍にも膨らませていた。


 付与魔術で付与された収納魔導具(アイテムボックス)は、他の魔導具と同様に使用限度がある。

 もし限度を超えて使用すると、刻まれた魔法陣は消え去って中に収納していた品も取り出せなくなってしまう。


 ただ限度が間近に迫っている場合、魔法陣から発せられる光が弱まってくるので、意図せずある日突然取り出せなくなる事態は避けることが出来る。

 また光が弱くなってきたら、付与修復系の魔術でリペアすればまたしばらくは使用可能だ。

 そんな便利な収納魔導具(アイテムボックス)を作れるようになったというのは、大きな意味を持つ。


「土魔術ですか。既にエイジ様はクラスⅩまで修めておられるので、目指すは災厄級魔術でしょうか?」


 空間魔術の有益性はかなりのものではあるが、今はそれよりも帝国への対処の方が重要だ。

 収納魔導具(アイテムボックス)を量産するにしても、更に1つ上のクラスⅤまで上げれば、更に大容量の収納魔導具(アイテムボックス)が作れるので、我武者羅に今量産する必要を影治は感じていなかった。


 それよりも、今欲しいのは広範囲に攻撃できる魔術だ。

 魔法の天照(あまてらす)は範囲も広いが、神力を消費してしまう点と今回の相手が帝国という点がネックとなる。

 すでに帝国軍相手に1度見せてもいるし、帝国には光魔術の使い手も多いので、耐性魔術で抵抗されやすい。


 それ以外の魔術となると、死霊魔術は今も大量にアンデッドを使役している事もあって、日々熟練度は蓄積されている。

 ただ直接攻撃に向いた魔術ではない。

 また先日クラスⅩに到達した無属性魔術も、威力的には他属性に劣る。

 そうなると、現時点の影治の使用可能な魔術の中で、一番手っ取り早く使えそうなのは土魔術だ。


「そうだ。ドローズグで暴走した魔物相手に使用した際に、可能性を感じたからな」


 ここ最近影治は空間魔術を中心に訓練していたが、その次に鍛えていたのが土魔術である。

 これはこれまで魔術の訓練を続けてきた影治の感覚なのだが、ひたすらに同じ属性の魔術だけを使い続けていても、段々効率が落ちてきているように感じていた。


 普通の魔術師はその違いを感じられるほど、魔術を使い続ける魔力がない。

 しかし影治は7重とか8重にした魔術を、休みなく何時間も使用し続けられる。

 そうなると、その違いというのも体感しやすい。

 影治の場合は扱える属性も多いので、1つの属性に集中するのではなく、他の属性も一緒に訓練するという方式は合っていた。


「だけどまだまだ手応えがねえんだよなあ。既に戦闘は始まってるだろうから、土の災厄級魔術の開発が間に合うかはわかんねえ」


 魔術修得度が異常に早い影治であっても、災厄級魔術というのはそう簡単に覚えられるようなものではないようだった。

 あくまで死霊魔術が例外だったという事だろう。


「エイジ様でしたらいずれ修得も叶いましょう。それで帝国に関しましては、派遣された天翼からの報告を待つとして、次の報告に移らせて頂きます」


「そういや幾つか報告があるつってたな」


「はい。次の報告はブラベルジアに関するものとなります。エイジ様のご指示通り、暗号化の魔導具グラプトンを全て返却し、治癒魔導具の輸出量も元に戻したのですが、その件でブラベルジアの使者から面会を求められておりまして……」


「んん? ああ、あの件か。そうか、もうあれから3か月過ぎたのか」


 3か月というのは、それなりに短くもありそれなりに長い期間と言える。

 その間に影治はラテニアで色々と活動していたので、気分的にはもうそんなに? という感覚が強かった。


「今も使者は滞在中ですので、呼びつける事も可能ですが如何致しますか?」


「そうだな。明日にでも呼び出してくれ」


 ここ数か月の出来事を思い出していた影治は、グルシャスの言葉で我に返って返答する。

 ブラベルジアの件に関しては、翌日に使者を呼んで話し合いをすることが決まり、その後幾つかグルシャスからの報告を受けた影治は、それからようやく自室へと戻った。


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