第781話 アステリオス戦、リザルト
「ただいま……もどりました」
長時間の死闘の果て、見事守護者を打ち倒したリュシェル達が、入り口の扉を開いて出てきた。
守護者の部屋も道中にあった中ボス部屋同様に、1度守護者を倒せばその後は入り口や奥にある最深部に通じる扉は解放される。
咄嗟に全員を見回し、無事であることを確認した影治は、ホッとため息をつく。
リュシェル達の様子を見れば、中で激闘が繰り広げられていた事に疑う余地はない。
いつもなら調子よく勝鬨をあげるティアですら、今回はヘロヘロとした様子だった。
「よくやったな! さあ、こっちにきてゆっくり休め。それとも飯でも食うか?」
「うー、ごはんたべたい……けど、あと……で……」
そう言うと頽れるようにして、シャウラが意識を手放す。
その様子から、生命力を限界まで駆使した事が窺える。
魔力を使い過ぎても意識を失う事はあるが、生命力を大量に消費した場合は身体的にもかなり疲労が蓄積している状態だ。
食事に関しては、一応戦闘中に携帯食を口にしてもいたので、最低限のカロリーは摂取出来ている。
今のシャウラには、食べ物より睡眠と休息が必要だと体が求めているのだろう。
「……師匠。未熟を晒した場面もあったが、牛魔窟の守護者『アステリオス』。討伐成功したぞ!」
「ああ、またひとつ成長出来たみてえだな!」
激戦から戻ってきた仲間たちに、ひとりずつ答えていく影治。
それからは影治直々の回復魔術の施術が行われ、ゆっくりと休憩を取った後にアステリオスとの戦いについて話を聞くことになった。
「最初出てきた時から気づいてはいたが、そうか。エンジェルに進化したのか」
話の中で一番話題になったのが、最初に咆哮を使われて危機に陥った場面と、カレンがエンジェルへと進化した場面だ。
影治は同族だけあってその違いにすぐに気づいたが、一緒に待っていたヨイチやエカテリーナはすぐには気づかなかった。
それくらい妖魔以外の種族の進化というのは、見た目に大きな変化が現れるものではない。
「はい……。あの神聖石がなければ、こんなに早く進化することはなかったと思いますわ」
「いや、ハーフエンジェルになったのは比較的最近とはいえ、まだ俺達と旅に出る前の話だ。あれから冒険者になってカレンも大きく成長した。例え神聖石がなくても、近い内に進化はしてたと思うぜ」
「ねえ、リュシェル。進化したカレンの魔力ってどーなってんの?」
ティアも休息を挟んで大分元気を取り戻しており、話にも参加している。
戦闘中はそれどころではなく、気に掛ける余裕なんかなかったが、ティアとしてはメンバーの魔力量の推移が気になる所だった。
ドラゴンアヴェンジャーには魔力量ソムリエのリュシェルがいるので、すぐ比較してみたくなるのだろう。
「うーーん、これは凄いですね。ピー助よりも若干高いくらいになっていますよ」
「ぴぴぃ!?」
「えっ、ピー助様より上……ですか?」
妖魔系種族でもない限り、そうそう進化などすることがないので、パーティーメンバー内で魔力量の順位が変わる事はそう滅多にない。
しかしドラゴンアヴェンジャーではその滅多にない進化が何度も起こっている為、その都度順位が入れ替わったりしている。
「ええ。進化前は私より若干低い程度だったのですが、今や上位精霊となったチャッピー以上の魔力量ですよ」
「ちゃーーっぷ」
先ほど自分の魔力を追い抜いたと言われ、ショックを覚えた様子のピー助とは違い、チャッピーの方は自分の主が成長したことを素直に喜んでいる様子だ。
「天使は魔力量が多い種族ですからね。ま、それでもアークデーモンである私には遠く及ばないでしょうけど」
「うぬぬ……」
「ははは……、それは仕方ないでしょうね。私達の中だとエイジ様は別格として、セルマとウルザミィ様も普通の人間の及ぶレベルではありませんから」
元々魔力量が増えた事をひけらかすつもりのなかったカレンだが、あからさまにセルマにその事を指摘されると悔しい気持ちが沸き上がってくる。
その様子を見て、リュシェルがやんわりと間に入った。
この流れに乗って、影治も気になった事を尋ねる。
「魔力量も良いんだけど、魔術の熟練度の方はどうなんだ? 高潔なる心って魔術を使えるようになったのは聞いたが、それはクラスⅦだから元々扱えるクラスのもんだろ?」
影治は以前クリスティア島で、マリアの父ジャレッドと会った際に神聖魔術について教わっている。
その中には影治が知らなかった魔術や、災厄級の神聖魔術も含まれていたのだが、【高潔なる心】は含まれていなかった。
だがカレンから守護者との戦いの話を聞いた影治は、すぐさまそれを修得している。
影治は魔術の効果内容の把握と、詠唱を1度聞く事さえ出来ていれば、後は熟練度があればすぐに使用可能であった。
「ええっと……そうですわね。少し試してみますわ」
カレンも戦闘終了後はかなりバテていたので、自分の変化をしっかり確認する余裕は取れなかった。
改めて身体能力から始めて魔術能力も確認していく。
すると、身体能力は以前より気持ち強化されたかな? という変化だったのに対し、魔術の方はリュシェルが言う様に魔力量が激増した他、水魔術がクラスⅨ。
土魔術がクラスⅥまで使えるようになっていることが明らかになった。
なお神聖石を吸収した際に、神聖魔術の熟練度がクラスⅧに達していたので、こちらの方は更に伸びてはいない。
「素晴らしいですね、カレン。これで水魔術に関しては私を追い抜いてしまいましたね」
「そんな、先生……」
「カレンが進化して魔術が強化されたなら、後衛専門でも十分やれそうだね」
「まあ今後はそういう戦い方もありだな。何にせよ話は大体聞けたし、いい加減シャウラのお腹と背中がくっつきそうだから、飯にしよう。んで、食い終わったらさっさとダンジョンを出るぞ」
シャウラも意識を取り戻してジッと話を聞いていたが、まるで待てをしている犬のような状態がさっきから続いていた。
影治としてはもう少し話したい事もあったのだが、そんなシャウラの態度に圧されるようにして話を締める。
そうして食事の時間が始まるのだが、ここは牛魔窟の最深層。
これまで得た肉はまだまだ在庫があるし、干し肉や燻製などの加工を施した肉もたっぷりある。
豪勢な肉料理を頬張り、消費したカロリー分以上に摂取していくシャウラは、とても幸せそうであった。
なおアステリオスはミノタウロス系だけあって、こちらも肉をドロップしている。
これは素直に味を楽しむ為に、単純な味付けの串焼きにして振る舞われたのだが、これがまた絶品であった。
これまで散々肉を食い倒し、食傷気味であった影治やリュシェルですら言葉も忘れて頬張るほどである。
また人型で武装している魔物は、稀に装備をドロップすることもある。
今回のアステリオスも装備をドロップしており、それは当然といえば当然なのだが巨大な戦斧であった。
「うむ……。無骨でいて、破壊のみを追求したこのフォルム。冷たい金属の感触が、死を想起させる。見た目から叩き潰すのを主としているように見えるが、決してなまくらという訳でははなく、一定基準の切れ味も持ち合わせている。通好みの逸品だな……」
などと影治が評していたが、誰も使い手がいないことからバベル内の影治のコレクションルームに保管される事が決まった。
あとは戦闘中に使用したユニーク級のヒールポーションが、倒した後に出現した宝箱の中から5本も入手出来たので、収支としてはプラスになっている。
ボス部屋の先にはダンジョンコアの置かれた部屋があり、部屋の入り口部には転移碑が設置されていたので、影治達はその転移碑でダンジョンを脱出した。
というのも、ゲートキーの登録ポイント箇所に余裕がなく、アーカースの街にポイントを設置出来ていなかったからだ。
なのでダンジョンから脱出した後も、そのまま徒歩でアーカースにまで戻る事になった。
人通りが多いのと距離も近い為、行き同様にドラゴンベースは出さない。
「ちょっくら寄り道しちまったが、美味い肉と乳も手に入ったし、カレンは進化したしで行ってよかったな!」
アーカースへの帰路の途中、今回のダンジョン探索を振り返って影治が感想を述べる。
結局なんだかんだで牛魔窟にはひと月近く潜っていた。
影治だけは途中ゲートキーで、ピュアストールに寄ったりもしていたが、他のメンバーはひと月ぶりの地上だ。
牛魔窟は通路部分が広いのであまり狭苦しさは感じないのだが、それでも洞窟タイプなので閉塞感はある。
久々の地上の太陽は、アーカースを目指す影治達の心を晴れやかにさせた。
しかしアーカースへと戻ってきた影治は、早々にその晴れやかな気分を壊される事になる。




