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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第21章 戦乱の予感

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第777話 戦闘準備


▽△▽△▽△▽△▽



 時間を少し遡り、リュシェル達が扉の奥へと向かったあとのこと。

 重い石扉を開けて中へはいると、背後からは扉が閉まる音が聞こえてくる。

 この先に現れる守護者の事を思うと、自然とリュシェルの体に力が入った。


「どうやらすでに中で待ち受けているパターンではないようです。今の内に各自バフを掛けておいてください」


 影治は現在【中級魔術付与】によって、自身が使える魔術であればクラスⅠ~Ⅵまでの呪符を作ることが出来る。

 またそれ以外にも、これまでダンジョンを探索してきた中で手に入れたものなどを含むと、かなりの数の呪符を所持していた。

 これまではあまり使う機会のなかったそれらを、今回は全力で使い倒す。


 まずは前衛陣にクラスⅥ火魔術【唸る炎の筋肉】を使用し、筋力の底上げをする。

 影治がいれば更に上位の【焼き尽くす炎の力】が使えたのだが、これはクラスⅨの火魔術になるので呪符に出来ないし手に入れてもいない。


 続いて体力を向上させる、【強靭なる土の肉体】を使用する。

 この場合の体力というのは、スタミナの上限を上げるという効果もあるのだが、物理防御力も地味に上がるという効果があった。


 ゲームなどでよく見られる、基本ステータスが攻撃力や防御力に直結するという仕組みである。

 筋力が上がって攻撃力が上がるのならまだしも、現実的には体力が上がって防御力が上がるのが謎だと影治などは思っているのだが、この世界では一般にも体力向上=防御力アップという事は知られていた。


 冒険者が頑健なのも、魔物を倒しまくってステータスが強化された影響が強い。

 【強靭なる土の肉体】の後には、影治謹製の【健やかなる肉体】の呪符も使う。

 こちらはクラスⅥ神聖魔術の体力強化の魔術で、属性が異なるので体力強化の土魔術とは効果が重複する。


 それから敏捷強化の【体弾む風】と、【清らかなる素足】。

 攻撃力を直接強化する【熱血】と【撃攻雷】。

 防御力を直接強化する【氷による防護膜】の呪符を使う。

 なお【氷による防護膜】は、影治がまだクラスⅥの氷魔術を使えないので、ダンジョンなどで仕入れたものを使用している。


 ちなみに今回の相手は、恐らく物理系のミノタウロス上位の魔物、アステリオスだと思われるので、魔術抵抗や属性耐性の強化などは行っていない。

 ただし、精神系の状態異常を高める【光の慰め】は使用している。


 そうして最後に使用するのは、一時的に最大HPを向上させる【聖なる肉体】の呪符だ。

 先ほど使用した【健やかなる肉体】などもそうだが、神聖魔術の呪符というのは非常にレアであり、一般にはほとんど出回っていない。

 だがドラゴンアヴェンジャーでは、影治が付与魔術と神聖魔術を両方使えるので、呪符も作り放題だ。


「では最後にセルマ。魂魄強化をお願いします」


「ええ、分かりました。【魂魄強化】」


 最後に使用されたのは呪符ではなく、セルマによる高位の暗黒魔術だ。

 【魂魄強化】は一時的に最大MPを大きく向上させる。

 【聖なる肉体】と同様に、戦闘中にしょっちゅう切れては困る類の魔術であるせいか、効果時間はかなり長めなのでしょっちゅうかけ直す必要がない。

 これを後衛のリュシェル達に対して使用していく。


「どうやら時間経過ではなく、奥に進まないとでてこないタイプのようですね。準備も整いましたし、先に進みましょうか」


 石扉を潜った先は、これまでと同じような洞窟の通路になっていた。

 少し先には光が見えるのだが、光の広がり方からして広い空間になっているように見える。

 警戒しながら奥へと進んでいくと、そこには洞窟内とは思えないほど広大な空間が広がっていた。


「この部屋の明るさは、壁際の松明だけでは説明できませんね。獣の牙の深層のように、空間自体が光っているのでしょう」


 わざわざ自前で明かりを用意しなくて済むのは、挑戦する側としては非常に助かる。

 ただ妙に広い空間はそれだけ不安を呼び起こすものでもあった。


「あの真ん中のでっかいの。闘技場みたいね」


 この広い空間の中央部には、石畳で出来た簡易的な舞台のようなものがあった。

 現在その上には誰もおらず、周囲に観客席などもない。

 無駄に広い舞台は、まるで挑戦者を待ち受けているかのようでもある。


「ここまで姿を見せなんだからには、あの上に立つと守護者が現れるんじゃろう」


「……行きましょう」


 緊張を孕んだ声で指示を出すと、リュシェル達は誰もいないすっからかんの舞台に上がる。

 するとやはりそれがスイッチとなっていたようで、舞台の中央からは魔法陣による光が煌めき、一瞬後にはそこに巨大な牛の姿をした魔物が姿を現していた。


 その魔物のいで立ちは、まさに威風堂々としたものであった。

 牛頭をした4メートルほどの図体をしたその魔物は、まるで俺の体こそが最大の鎧だ! と言わんばかりに、上半身には何も纏っていない。


 その鍛え抜かれた肉体は、遠目に見るだけでも並大抵の攻撃では通じそうにないように見える。

 下は粗末な腰蓑だけを身に付けており、こちらも普通の人の腰以上に太い両足がよく見えた。


 ここまでだと一見して粗末な装備しか身に付けていないように見えるが、そんな感想は魔物が手にしていたものを見れば吹き飛ぶ。


「……あれは流石にまともに受けたらマズイな」


 思わずガンテツがそう口にしてしまうほどのソレは、両側に刃のついた巨大な戦斧であった。

 4メートルもの背丈の魔物が持っているので、バランス的にそこまで大きいようには見えないのだが、その半分以下の背丈のリュシェル達からすれば、ポールの部分だけで2メートル以上はある、とてつもない巨大武器である。

 それを明らかにパワータイプであるこの魔物が振るえばどうなることか。

 戦いに疎い者にでもその結果は分かるだろう。


「じゃが避けては通れん。師匠がいない今、某が奴を食い止める!」


「シャウラは純粋なアタッカータイプですからね、抑えるのはガンテツにお任せします」


 魔法陣によって呼び出された魔物は、辺りをキョロキョロと見回す。

 その仕草からは知性のようなものが感じられたが、リュシェル達の姿を確認するや否や、雄叫びを上げる。

 そして魔物特有の赤い目をギラリと光らせ、戦闘態勢に入った。


「あの姿、間違いないでしょう。話にあったとおり、ミノタウロス上位種のアステリオスに違いありません! であれば予定通り、まずはガンテツに抑えてもらいつつデバフを掛けていきます!」


 まったく別の魔物が出た場合の作戦も考えていたが、敵がアステリオスであればここに来るまでに散々対策について話し合ってきた。

 影治がいればまた話は変わったであろうが、このまま普通に戦うとまず圧倒的な身体能力の差が厳しいと思われるので、まずは弱体化から行う。

 これは他の冒険者パーティーでも定番の手である。


「まずは力を頂きます。【力奪いし闇】」


 トップバッターはセルマからだ。

 クラスⅥ闇魔術の【力奪いし闇】は、対象の筋力を下げる。

 当然強者相手では成功率も下がるので、はじめからMP度外視にセルマの最大発動数である5つ同時発動で仕掛けた。


「グモオオオオオォ!」


 5重発動だったとはいえ、これは幸いにも一発でデバフを掛けることに成功した。

 自身のデバフに気づいたアステリオスが、怒りの声を上げる。


「まずは厄介な攻撃力を抑えます! セルマの闇魔術は効いたようですので、あとは効くまで戦意の冷却の呪符を!」


 攻撃力を直接上げる魔術として雷魔術の攻雷系があるが、攻撃力を下げる魔術が氷魔術にはある。

 それがクラスⅤ氷魔術の【戦意の冷却】だ。

 生憎影治もまだ氷魔術はクラスⅣまでしか使えないので、この魔術を呪符にすることは出来ていない。

 なのでそれ以外に手に入れたものしかなく、在庫はあまりなかった。


「っ! 行けたわ! 効果あったわよ!」


 だが運よくティアの使用した呪符が効果を発揮した。

 ティアは身長が50センチほどしかないので、普通の人族用の装備や道具などは使えない事も多い。

 だが呪符程度であれば、ティアにも使用することは出来る。


「ティア、ナイスです! でしたら次は敏捷を下げるとしましょう」


 敏捷の低下はデバフ専門の呪詛魔術以外だと、クラスⅡ闇魔術の【覆いかぶさる闇】と、クラスⅢ暗黒魔術の【まとわりつく暗黒】がある。

 どちらもクラスの低い魔術であるが、ダメージ量や範囲が重要な攻撃魔術とは異なり、これらのデバフは確率次第だ。


 相手が強大なほど確率も下がりはするが、まったく効かないということはない。

 そしてこれらの魔術は、天使でありながら闇魔術も暗黒魔術も使える影治によって、大量に呪符が作られている。


 最初に調子よく2つもデバフが効いた事で、リュシェルの心に微かに慢心が生まれる。

 とはいえ、リュシェル自身は今回後衛として立ち回るので、直接何かの被害に遭う事はない。

 被害を受けたのは、最前線にいたガンテツであった。


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