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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて
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第80話 不思議空間


「ピーーピピピピ……」


「ぴぴぴぴい!」


 鳴きながら近くを飛んでいた鳥に、返事をするかのようにピー助も鳴いている。

 コミュニケーションは取れていないようだが、仲間っぽい奴らがいることにピー助は喜んでいるようだ。


 ここはとても塔の中とは思えない程、地上のどこかにありそうな場所だった。

 そこいらに生えてる草は映像などの偽物ではなく、刈り取れば採取も出来る。

 遠くには森も見えるのだが、塔の中だということを考えると距離的にはあの森に辿り着く前に反対側の見えない壁にぶつかるだろう。


「ううむ、心地よい風といい気温といい、上より過ごしやすい気候だな」


 影治が転生した辺りは赤道に近いのか、1年を通して気温が高い。

 というかぶっちゃけ暑い。

 それに比べると、日本でいう春や秋くらいの気温のこの場所は丁度いい塩梅だ。


 ただ気候的には日本の春や秋といっても、やはりここは異世界。

 塔の中だというのに、魔物は存在しているようだ。


「ずいぶんでけえトンボだな。地球でも古代にはこんくらいのトンボがいたらしいが……」


 影治に襲い掛かってきたのは、羽を広げた時の長さが70センチほどという大きなトンボの魔物だった。

 数は6匹ほどで多くはないが、初めてみるサイズのトンボの集団に若干戸惑う。


「レッドボーンスピアも使っていくか」


 魔物を前に、手荷物を地面へと置き、赤い骨で出来た光沢のある槍を構える影治。

 ちなみに手荷物というのは、調査開始前にブラックボーンシールドを底面として簡易的に作ったバッグのようなもののことだ。


 まずはブラックボーンシールドの縁の部分に、【粘土作成】で生み出した粘土を壺を造る要領で重ねていく。

 形が成形できたら【水分摘出】で水分を取り除き、【固まる土】で強度を上げた後に、【燃焼】で焼き上げる。


 上部には持ち手の部分も用意し、それなりの強度があるので軽く叩いたくらいでは割れない。

 難点は少々重いことだが、これならこの草原で採取できたものを持ち運ぶこともできる。


「SHIIIIII!」


 特に連携することもなく、飛び掛かってくる巨大トンボたち。

 まっすぐに飛び掛かってくる巨大トンボには、肉も噛みちぎれそうなほど鋭い牙が生えている。

 その形状は最早昆虫というよりは肉食獣に近い。

 更に前足のうち何本かには鋭い鎌のような部分があって、その部分で影治を切り裂こうと四方八方から襲い掛かる。


「ピー助は手出し無用だぞお!」


 影治は巨大トンボの攻撃をヒラヒラと躱しながら、槍を突いたりまたは切り払ったりしてトドメを刺していく。

 四之宮流古武術は口伝によると1000年以上伝承されてきた古武術であり、刀剣術、槍術、棒術、弓術、鎖鎌術などの武器術が存在していた。

 だが影治の父の代には、刀剣術、槍術、棒術、弓術しか伝わっていない。


 そして影治はそれらの武器術を、最低でも極伝レベルで扱うことが出来た。

 極伝とは四之宮流における伝位のひとつであり、7つある伝位のうち上から3番目に位置し、皆伝の1つ上の伝位となる。


 まるで舞っているかのように優雅に、それでいて無駄なく体を動かしながら、影治は巨大トンボを捌いていく。

 どうやらこの巨大トンボは大きくなり過ぎた弊害なのか、普通のトンボのようにその場でのホバリング飛行が出来ないらしく、鳥などのように真っすぐの軌道で突っ込んでくるので軌道が読みやすい。


「これで終わりっと」


 最期に残った巨大トンボの軌道を完全に読み切った影治は、僅かにステップを踏んでギリギリの位置に移動しつつ、巨大トンボの軌道上にレッドボーンスピアの穂の部分にある刃先を置く(・・)

 すると自ら切り裂かれに行った巨大トンボが、真っ二つに体を分かたれた。


「これぞ蜻蛉切(とんぼきり)ってね」


 難無く巨大トンボを倒した影治は、早速ドロップを回収していく。

 今回は魔石の他に1つだけ翅がドロップしていたのだが、流石に食料にするにもアレだし用途もないので回収は控える。


「森で生活してた時のように、角兎や牙イノシシがいると助かるんだが……」


 環境的にはいてもおかしくなさそうなので、今のところ影治に焦りは見られない。

 最悪そこらに生えてる草を食べることも考慮しつつ、影治は調査へと戻る。


「おっ! 良いのいるじゃん!」


 20分程歩きまわって発見したのは、森で暮らしている時に見たのとは少し違う種類の兎系の魔物だ。

 森で見た角兎よりは、体つきがシュッとしている。

 その分動きも多少機敏なようで、自分より何倍も大きい影治相手に果敢に襲い掛かっていく。


「肉よこせええ!」


 影治も影治で食料確保のために鬼のような形相で、草原兎へと槍を突き入れる。

 人間だけに限らず、この世界の生物はやたらとタフなのが多い。

 だが角兎同様に、草原兎も最低レベルの魔物なのか、影治の槍の一突きで沈んでいく。


「くかああ! 肉が出ねえ!!」


 襲い掛かってきたのが4匹と少なめだったこともあるが、その内の1匹が肉ではなく皮をドロップしたので、影治は余計にハズレを引いた感覚になっていた。

 実際には肉の方がドロップしやすいので、皮の方が若干レア率は高い。


「でもま、食料には困らなそうってのは分かったな」


 まだ一度も現物を確認していないというのに、影治の中ではそういう結論になったらしい。

 とはいえその後何度か草原兎や、これまた森で見た牙イノシシとは別種のイノシシの魔物などを狩っていった結果、無事に肉をゲットすることには成功した。






「ここにも夜が来るんだな」


 調査を進めていくうちに、徐々に日は暮れていった。

 この地上を再現したような場所には、しっかり朝と夜の区別があるようだ。

 それと同時に、この場所が明らかに異常だということも明らかになっている。


「確かに塔の外周部分はかなり長かった。正確な距離までは分からねえけど、数キロくらいはあるだろう。でもそーなると直系は約3分の1になるから、とっくに端から端まで辿り着いてもおかしくはねえ。ってのに、まっすぐ歩いていたのにまだまだ奥まで続いてやがる」


 影治はしっかりとスタート地点をはじめとして、道中に一里塚のような目印を土魔術で造りながら、一直線に森の方へと向かって歩いていた。

 しかしいつまで経っても反対側の見えない壁に触れることもなく、今では森まであとわずかという距離にまで迫っている。


「俺の感覚がおかしくなって、同じところをぐるぐると歩かされてる……って訳でもねえと思うんだよな。となると、塔の内部の空間がおかしいことになってる感じか」


 明らかに異常な事態でも、この世界では魔術の一言で片付いてしまう。

 特に影治は空間魔術というものが存在することを知っているので、恐らくはこの場所もそうした不思議な何かの力が働いているのだと納得する。


「ううん……だとすると、上に行くにはどーすりゃいいんだ?」


 影治がこの塔に入った目的は、地上へと通じる唯一の道だとグレイスに聞いていたからだ。

 だが見渡す限り、空へと続く階段などは見当たらない。


「とりあえず今日はこの辺で野宿して、明日からはもっと本格的に調査してみるか」


「ぴぃ!」


 初日の調査を止め、いつも通り陣地を構築していく影治。

 何度も行ってきた作業なので、すっかり慣れたものだ。

 そして雲ひとつない満天の夜空の下で、影治は眠りに就くのだった。


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