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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて
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第75話 神聖石


 結局行き止まり部分にある部屋に辿り着くまで、影治は1体たりとも魔物と遭遇することはなかった。

 その理由もここまで来ると納得できてしまう。

 この場所にだけ、清らかで厳かな空気が漂っているのだ。


「なんっか、ここだけ空気が違うな。まるで教会の中にいるような……」


 神聖な雰囲気だからと魔物がそれを苦手とするかどうかは、影治にも分からない。

 ただ神聖魔術はアンデッド以外の魔物にも通用することは確かだ。

 それにここにはピー助もいたようだし、魔物が近寄ることもなかったんだろう。

 他の地下空間とは明らかに異なるこの空間に、影治の足は一度止まっていた。

 だが入口付近を観察すると再び歩き出す。


「……これは石碑っつうか、墓のような感じだな」


 中央部にある石碑の下まで辿り着いた影治。

 そこには60センチほどの真っ白な石碑が建てられており、少し手前部分には台座のようなものが設置されている。

 こちらも白い石で出来ており、中央には小さな窪みがあった。

 その窪みには石碑や台座よりも更に白い、純白の玉が嵌めこまれている。

 少し大きめのビー玉サイズだ。


「石碑部分には文字も彫られているが、生憎とそっちは勉強してねえんだよな。そんでもって、グレイスが言ってた取って来てほしいものってのは、恐らくこの白い玉だろうな」


 台座に嵌めこんである白い玉からは、魔力と共に微かに白い光が発せられていた。

 魔力だけで言えば魔石からも発せられているのだが、この白い玉が発しているのはただの魔力ではない。

 その見た目に相応しい、神聖属性の魔力が発せられていた。


「こんなアンデッドが一杯いるような地下空間だと、逆に神聖属性ってのが異質だな。ピー助はこれが何か分かるか?」


「ぴぃぴぃ!」


「え? 元? 生まれ? ……ううん、何か伝えようとしているのは分かるんだが、いまいちよく分からんな。ピー助にとって大事なものだというのは分かるんだが」


 そう言いながら、影治は台座に嵌っている白い玉を手に取る。

 どうやらこの白い玉はピー助にとっても大事なもののようだが、影治がそれを手に取るのを邪魔する様子はない。

 玉はしっかり固定されていた訳ではなく、少し力を入れると台座から外れる。


「こいつは一体何なん――――っ!」


 白い玉を手に取った影治は、突如異変を感じ取る。

 それは最初にピー助と繋がった時の感覚と似ていたが、それとは少し違った感覚だ。

 あの時は魔力的な繋がりだけを感じたのだが、今回は神聖属性の魔力を通じて影治の心臓付近が反応を起こしていた。


 白い玉自体にも変化は起こっており、不定期に明滅しはじめていた。

 影治はその明滅の周期が、自分の心臓の鼓動とリンクしていることに気付く。

 そしてまた、心臓付近からも同じリズムで何かが脈動するような感覚を覚えていた。


「神聖属性の魔力……がキーなのか?」


 影治は先ほどから何も意識していないというのに、心臓付近から神聖属性の魔力が勝手に溢れてくるのを感じていた。

 その魔力を通じて、この白い玉とラインが構築されているような感覚もある。

 そこで影治は、意図的に体内の魔力を神聖属性へと変換し、心臓付近へと送り込む。

 すると神聖属性で構成されたラインを通じ、まるで白い玉と一体化するような感覚と共に、何かが影治の中に送り込まれてくる。


「うっ、くっ……」


 膨大な情報を、直接脳に送り込まれたような感覚を味わう影治。

 最初はその情報量に頭が痛くなったが、徐々にそれも落ち着いていく。


 白い玉から送られてきたのは何らかの情報には違いなかったが、その大半が影治には理解出来なかった。

 ……というより、情報の重要な部分があちこち欠けていたり並びがバラバラになっていたりしており、情報が劣化しているようにも感じられる。

 だが中には影治にも読み取れる情報が存在した。


「そう……か。この白い玉は……」


 白い玉から流れ込んできた情報によって、影治はこの玉の正体が分かった。

 この白い玉状の石の正体とは、神聖石(しんせいせき)という特殊な石の一種。

 その名の通り神聖属性の魔力を放っている訳だが、ただの鉱物などではない。

 魔物がその身の内に魔石を持つように、天使種族の体内にはこの神聖石が存在している。


 何故影治にそのような知識があるのかというと、この神聖石の持ち主から記憶として受け取っていたからだ。

 すなわち、先程白い玉から送られてきた情報というのは、恐らくこの神聖石の持ち主である天使のものなのだろう。


「俺ん中にもこいつ(神聖石)があるってことか」


 心臓付近を手で触れて意識を向けてみると、確かにそこには何かがあるように感じられる。

 明らかに普通の人間にはない器官だ。

 そして本能的に、この神聖石は天使にとって重要な器官であることを直感する。

 恐らくこれが破壊された場合、自分は死ぬのだろうなと影治は思った。


「なるほどな。グレイスがどうして俺に頼み事をしたのかも、ある程度は理解出来た」


 この神聖石の持ち主はマリアという女天使だったらしい。

 断片的な記憶からは読み取れない部分も多いが、グレイスとは近しい関係にあったようだ。


「だがマリアの神聖石を持ってきて欲しいというのは、一体どういう理由からだ?」


 ある程度の事情は掴めたものの、現在のグレイスの思惑までは完全には掴めていない。


「ぴぃ?」


「うむ、そうだな。分からないなら本人に聞けばいいな」


 神聖石からも、グレイスと会いたいという想いが伝わってきている。

 ただ念のため、影治はこの部屋をざっと調べてみることにした。

 部屋の隅の方には湧き水のように小さな水たまりがあり、その水からは【聖水作成】で生み出したような神聖属性が僅かに感じられる。

 といっても流石に聖水よりは弱い。

 恐らくはこの部屋の雰囲気も、この水たまりの水も、マリアの神聖石によって齎されたものなのだろう。


「……じゃ、グレイスんところに戻るか」


「ぴぃ」





 目的を遂げた影治は、来た道をまた戻っていく。

 最初は先ほどの奥の部屋で夜営するつもりだったのだが、色々と想定外のことがあって影治はそのことを忘れ、普通に来た道を引き返し始めていた。


 すでに一度通ってきた道のせいか、魔物の数は少ない。

 それでも何度か魔物に襲われたのだが、ピー助の光魔術は思いのほか強力で、影治が何発も魔術を撃ちこんでようやく倒せる魔物を、一撃で仕留めたりしていた。


「やるじゃねえか」


「ぴぴぃ!」


「やっぱ幾ら魔力量があっても、低いクラスの魔術だとそれを活かせんな」


 影治は帰り道の道中もずっと魔術を発動し続けており、そのおかげで無属性魔術のクラスⅡが使えるようになっている。

 クラスⅠやⅡあたりだと比較的修得しやすいとはいえ、これはかなり修得が早い方だ。

 

 今の影治の知るところではないが、幾ら初歩的な魔術とはいえ、クラスⅠからクラスⅡが使えるようになるのに数か月かかるなんていうケースもあるのだ。

 影治の場合、とにかくその膨大な魔力によって延々と魔術を発動し続けられるということが、大きな強みとなっていた。


 クラスⅡの無属性魔術では、【魔力弾】を同時に複数放つ【魔力連弾】に、五感を強化する【五感強化】。

 自分とその周辺の臭いを消す【消臭】と、対象の魔術防御力を強化する【活性化する魔力】を使えるようになった。

 【活性化する魔力】によって強化される魔術防御力とは、攻撃魔術に対する防御力を意味する。



「さあて、ようやくここまで戻ってきたが、今日は一旦この辺で休むとするか」


 塔の外縁部を元来た方向へと戻っていき、グレイスがいる脇道の分岐まで戻ってきた影治。

 すでに時間感覚も曖昧なので、前回のキャンプから1日経ったかどうかも分からない。

 だがグレイスに会いに行く前に、しっかりと休みを取ったほうがいいと思い影治は簡易陣地を築く。


「ぴぃぴぃ!」


「おう、スマンが夜の見張りを頼んだぞ」


 今回はピー助がいるので、幾分安心して寝ることも出来るだろう。

 そうしてしっかりと休みを取り、グレイスの下へと戻っていった影治。

 そこで影治は、グレイスの身に起こった異変に気付くのだった。


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