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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて
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第66話 人生設計


「この先の空間は更に天井が高くなっていてね。中央部には大きな塔のような建造物が天井まで伸びてるんだよ。多分地上付近まで伸びてるんじゃないかな?」


「そいつは随分と巨大な建造物だな」


「うん、大きすぎて一見しただけだと塔にはみえないほどだよ。周囲をぐるりと1周するだけでも、結構時間がかかるくらいにね」


 グレイスの話によると、中央部にある巨大な塔を中心として周囲には環状の大空洞が広がっているらしい。

 そこから更に外側へ向かって幾つかの通路のような空洞が伸びており、今いる場所もそうした空洞の1つだということだった。


「なるほど。状況はある程度把握できた。他の通路からの脱出ルートはないんだな?」


「私の調べた限りではなかったよ」


「となると、やはりその塔とやらが一番の有力候補ということか」


 そう言うと、影治は塔がある方角へ意識を向ける。

 影治のその様子から、すぐにでもここを発とうという意志を感じ取ったグレイスは、慌てたように呼び止める。


「そうだけど、すぐに向かうつもりなのかい?」


「そのつもりだ。見ての通り、ろくに道具も食べ物もない状態なんでね」


「確かにここはアンデッドが多いけど、場所によっては食用になるキノコや地鼠なんかもいる。そう焦って出発しなくても大丈夫だと思うよ」


「……俺を引き留めてどうするつもりだ?」


「いやあ……、こんな場所にずっと一人だったからさ。久々に話し相手が出来たから、もう少し話してみたいなと思ってね」


 そう言われて改めて影治は周囲を見渡す。

 この何もないアンデッドが徘徊する地底空間で、グレイスは魔物としてではなく人の意識を残したまま過ごしてきたんだろうか。

 そう思うと、影治としてももう少し会話をしていこうかという気分にもなる。

 ふと、前世でひとり無人島で暮らしていた時の思い出がよみがえった。


「久々にって、どんくらいここにいるんだ?」


「そうだねえ……。ここだと太陽の光もないから、時間間隔なんてすぐおかしくなるんだよ。でも少なくとも数百年……くらいは経ってるんじゃないかな」


「数百年だと!? そんな昔からここはあるのか?」


「確かに長い時間だと思うけど、天使のエイジからすればそう長くもないんじゃないかな?」


「……なんだと?」


「その水色の髪に神聖魔術。天使だと思ったんだけど、違うのかい?」


「いや、違くもなくもない……が、天使というのはそんなに一般に知られてるものなのか?」


「さあ、どうなんだろう。私はエイジの姿を見てすぐにそれと分かったけど。……記憶を失う前の私の身近には、天使がいたのかもしれないね」


「そうか……。っていうか、ちょっと待て。さっきのあんたの台詞から察するに、天使ってのは長命種なのか?」


「うん。天使といっても、上位種とかいろいろあるみたいだから一概には言えないだろうけど、総じてヒューマンなんかよりは長生きなはずだよ」


「……それは重大な情報だな」


 確かに影治としても、天使が寿命で死ぬというイメージは余りない。

 にしても、それだけ寿命が長いとなると、人生設計を見直す必要もありそうだ。

 遮二無二(しゃにむに)生き急いでも、後でやることや生きがいがなくなって日々を怠惰に過ごすことになるかもしれない。


「ふうん、どうやら事情がありそうだね。なら猶更ここで私ともう少し話をしていった方がいいんじゃないかい?」


 自分の種族に関する情報すら知らない様子の影治に、グレイスは何か特殊な事情を感じ取ったようだ。

 親身になって影治に話しかけてくる。


「そうだな。少なくとも()の連中よりは話が通じそうだ。もう少しここで話をしていくとしよう」


「それは良かった。ここでジッとしてるのはとても退屈でね。このようなアンデッドの成りそこないになっていなければ、とっくの昔に発狂してたところだよ」


「あ、そういやあ、さっきからホーリーライト……神聖魔術の明かりを出したままだが、あんたには影響ないのか?」


「うん、実はちょっと体が億劫でね。ダメージを負ってるってほどではないんだけど」


「む、では少し離れたところに移動させよう」


 そう言って影治はホーリーライトの白い光球を自分の近くへと引き寄せる。


「ん、少しは楽になったけど、エイジは光魔術は使えないのかい?」


「ここに落とされる前までは使えてたんだけどな。魂環の書を使われてからは使え――」


 そこで影治は言葉を止める。

 魂環の書という単語を発した後、グレイスがこれまでにないほどの強い反応を示していたからだ。

 アンデッドに感情というものが備わっているかは不明だが、少なくともグレイスにはまだ感情が残されているらしい。

 思わず発言を止めるほどのグレイスの感情は、影治には怒りや憎しみといったもののように映った。


「……どうした?」


「ああ……、いや……。ちょっとその魂環の書という言葉を聞いて、昔のことを思い出しそうになってね」


「生前の記憶ということか?」


「多分そうだろう」


「……そうか」


 影治はそれ以上追及することはしなかった。

 明らかに何か隠していると確信していたが、恐らくそれはこの場で問い詰めても答えてくれないだろうとも感じたからだ。


「結局昔の記憶は曖昧なままなんだけど、魂環の書については思い出したよ。エイジはそれを使用されたのか」


「ああ、実は今この穴蔵の上にある街ではな……」


 ここで影治は穴に落とされるまでの事情をグレイスに語っていく。

 もちろん転生した云々の話は避け、秘境のような山奥で生まれ育ったから世情には疎いという設定で通した。

 一通り事情を説明し終わると、グレイスは渋面を浮かべながら口を開く。







「……今、上ではそのような国が台頭してるのか」


 影治が見たところ、グレイスに嘘を付いている様子は見られず、本当に外の事情については知らないようだった。

 話を一通り聞いたグレイスは、困惑や憤りなど様々な感情が入り混じった表情を浮かべている。


「ま、そんな訳で、落ちる前までは光魔術も使えていたんだが、今では神聖魔術しか使えなくなっちまったんだよ」


 本当は他に回復魔術も使えるのだが、そのことは伏せる影治。

 そんな影治に、グレイスから耳寄りな情報が伝えられる。


「うん? 以前は光魔術を使えていたんだろう? それなら魂環の書を使われたとしても、まったく魔術が使えなくなるなんてことはないんじゃないか?」


「いや……実際に使えなくなってるんだよ。光魔術だけでなく、火魔術とかもな」


 改めて魔術を発動させようとする影治だが、やはり何の効果も現れなかった。


「さっき魂環の書のことを聞いた時に思い出したんだけどね。魂環の書は確かに使用者の適性を奪って魔力量を拡張させるけど、まったく使えなくなるなんてことはないはずだよ」


「む? ……そういえば、俺に魂環の書を使った奴も『魔術がろくに使えなくなる』とは言っていたが、全く使えなくなるとは言っていなかったな」


「うん、そのはずだよ。あの悪魔の書が妙な力を隠し持っていない限りはね」


「どれ、ちょっと練習してみるか」


 グレイスからの耳よりな情報を聞き、影治は改めて魔術の練習をはじめた。



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