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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて

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第65話 番人※


「あれは……誰だ?」


 ホーリーライトの光で微かに照らされた先には、ひとりの男の姿があった。

 影治が今いる位置からだと距離があって、詳細は窺えない。

 だがそれでも互いに認識できる距離であるはずなのに、影治の方に襲い掛かってくる様子がなかった。


「……」


 これだけ距離が離れているというのに、ただならぬ気配を感じ取った影治。

 ゆっくりと様子を窺いながら男の方へと近づいていく。

 男はこの広大な地下空間に幾つか生えている、天井まで伸びる柱のような岩に寄りかかっているようだった。

 横向きに柱へと寄りかかりながらうつむいているので、顔までは確認出来ない。

 だが微かに動きは見られるので、ただの死体という訳でもなさそうだ。


「おい! お前は何者だ?」


 ある程度の距離まで近づいたところで、影治はホーリーライトを男に近づけながら声を掛けた。

 男はそこいらの農民や町民が着ているような服ではなく、まるで貴族が着ているかのようなしっかりとした服を着ている。


「君……は……」


 影治の呼びかけに反応して振り向く男。

 その顔色はかなり青白く、生気というものがまったく感じられない。

 絞り出すような声も、がさがさにかすれていて大分聞き取りづらかった。

 1つだけハッキリしているのは、影治を見て明らかに表情を変化させたことだ。

 だが影治としては、その表情の変化が何に対しての反応なのかが分からない。

 ただ相手の顔を正面から見据えたことで、分かったことはあった。

 

 魔物判別法の1つに、瞳の色というのがある。

 魔物は総じて赤い目をしており、この男も赤系の瞳の色をしているのだが、魔物達のような光沢のあるような赤ではない。

 それにこの男からは、瘴気のようなものを影治は感じ取っていなかった。


 しかしこのような場にひとり佇んでるという点だけで、男がただものではないのは明らかだ。

 影治が男の言葉の続きを待っていると、男は何度かアー、アーと喉の調子を整えるかのように声を上げ、咳払いをしてから再び話しだす。


「すまない、なにしろ言葉を話すのが久々でね。まだちょっと聞き取りづらいかもしれないが、これで勘弁してくれるかい?」


「……それは構わねえ。で、最初の質問に答えてもらおうか?」


「私は……そうだな。この深き地の獄の番人のようなものだ」


「深き地の獄? 大層な名前だが、この場所の名称ってことか」


「もしかして、この名称は外では伝わっていないのかい?」


「どうだろうな。俺が落とされた穴は嘆きの穴とか呼ばれてたみてえだが」


「嘆きの穴……。その呼び方は知らないけど、相変わらずろくでもない名称がついてるようだね」


 どうやら話が通じる相手だということで、影治の警戒も僅かに下がる。

 とはいえ、まだまだビンビンに男に対して警戒を向けており、それは男にもしっかり伝わっていた。


「他にはこんな話も聞いたぞ。なんでもここには昏き闇の主というのが封印されてるってなあ」


「なるほど、それでそこまで私のことを警戒しているという訳か」


 別に影治が警戒していたのはその情報があったからというよりは、アンデッドがうようよといるような場所に一人佇んでいたという理由が大きい。

 だが男はその辺の発想はないようで、自称番人というだけあって、この地にいることがさぞ当然とでも思っているようだ。


「……それは本気で言ってんのか? こんなアンデッドの渦巻く場所にポツンと佇んでたら、奴ら(アンデッド)の仲間と判断するのも当然だろ」


「ああ、そういうことか。はははっ、確かにそれもそうだったね」


 影治の指摘の何が面白かったのか、男は楽しそうに笑いながら答える。

 そんな男の様子を見て調子を崩された影治は、再び男へと質問をぶつけた。


「で、どーなんだ? お前は昏き闇の主とやらなのか?」


「んー、正直に答えたいところなんだけど、ぶっちゃけよく分からないんだよね。私はずっとここに囚われているから、外で何と呼ばれているかなんて分からないんだ」


 男の目を見ながら話を聞いていた影治だったが、男が真実を言ってるのかどうか判別がつかなかった。

 ただ赤系の瞳をしている割には、その瞳には知性や理性の光が感じ取れる。

 そこで影治は単刀直入に尋ねることにした。


「そうか、では質問を変えよう。お前は……魔物なのか?」


 影治がそう尋ねると、男は困ったような表情を浮かべる。

 その反応は影治としても予想外であり、訝し気な視線を男へと向けた。


「ええと、自分でも疑わしい発言になるけど、私は多分アンデッドの成りそこない……のような存在なんだと思う」


「それはどういうことだ?」


「どうも記憶が途切れていてね。気付いたらこの場所にいたんだけど、食事も必要としないし周囲のアンデッド達も襲ってこない。それにこの場所で長い間過ごしているけど、老いて死ぬなんてこともない。……状況的にみて中途半端なアンデッドになっちゃったんだろうなって思ったんだ」


 今のところ男のいうことを否定する要素が影治にはない。

 もちろん鵜呑みにする訳ではないが、少なくとも敵意のようなものはないようだ。

 そこで影治は腰を据えて男と話をすることを決めた。


「なるほど。とりあえずお前の言い分は分かった。俺と敵対するつもりはないんだな?」


「そうだね。君が攻撃を加えてこない限りはね」


「よし、いいだろう。ならまずは今更だが自己紹介をしておこう。俺の名は影治だ」


「エイジ……ね。私の名はグレイス。生前のことはほとんど覚えてないんだけど、この名前だけは憶えていたんだ」


「そうか。それで、グレイス。自己紹介が済んだところで尋ねたいことがあるんだが」


「なんだい?」


「ここから脱出する方法はあるのか?」


「うーーん、それらしき道はあるよ」


 影治のその質問に、グレイスはなんとも曖昧な物言いで返す。


「それらしき……ってなんだよ」


「私はここに囚われているからね。確認することができないんだ」


「囚われ……なるほど。それでその道ってのはどこにあるんだ? あの地底湖の底に隠し水路でもあるのか? それとも落ちてきたあの穴を伝って戻るのか?」


「あの湖の底にそんな隠し水路はないよ。それに、あの穴を戻るのもお勧めしないね」


「何故だ?」


 疑問に思った影治が問い返す。

 いざとなればあの穴をよじ登って戻ろうという考えが、影治の頭の中にあったからだ。


「これまで何人かが同じことを試してたけど、穴の出口部分から少し登っていった後、断末魔の声と共にバラバラになった体が降ってきたんだよ」


「あの穴は一方通行ってことか」


「うん。だから興味本位で試すのはやめておいた方がいいよ」


「ってなると、他に当てがあるんだな?」


「そういうこと。えっと、こっちの方角……エイジが着た方向とは逆だね。この方角に進んでいくと、大きな建造物にぶつかるんだ」


「建造物? こんな地下深くにか?」


 影治はあのような状態で嘆きの穴に落とされながらも、冷静に落ちている時間を数えていた。

 この異世界の重力が地球と同じと仮定するなら、恐らくは1000メートル近くは落ちた計算になる。

 尤も正確に秒数を計れた訳でもないので、あくまで(おおよ)その距離でしかないが。


「うん。この先には大きな塔が建っているんだ」


「マジか……」


 グレイスの話を聞き、驚きながらも流石ファンタジー世界だと好奇心を刺激される影治。

 その好奇心をぶつけるように、影治は更に詳しい話を聞きこんでいった。



グレイス、イメージ


挿絵(By みてみん)

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