第64話 ドロップ吟味
「ふぅ、こんなものか」
影治は周囲を歩き回って拾い集めたものを1か所に纏める。
流石に魔石は多すぎて全て集めていないが、恐らくは赤スケや黒スケ産と思われる大き目なものについては回収していた。
それが出来たのも、黒スケからドロップした黒いカイトシールドのお陰だ。
中央に向かって窪みのあるこの盾を容器代わりにして、影治は魔石やその他のドロップ品を集めていた。
背負い袋は、宿の天井裏に置いてきたままだったからだ。
「まずスケルトン産と思われるのが、この黒いカイトシールドの他に白スケ産の短剣に骨製の兜。ああ、この斧も白スケ産か」
短剣は以前手に入れたレッドボーンナイフの下位互換といった感じだが、それなりに切れ味は良いので攻撃用ではなく日常使い程度なら問題なさそうだ。
斧の方は一応拾ってはみたが、使いどころはないだろう。
何故なら武器は赤スケもドロップしていたからだ。
「赤スケからは槍が2本で、黒スケからはカイトシールドのみ……。槍が2本もだぶっちまったな。両手に持って二槍流……なんて真似はやめたほうがいいか」
赤スケからドロップした槍は、少々造形に違いはあるものの、基本的にはほぼ同じ槍だ。
柄の部分が赤くツルッとした手触りをしており、穂は少し赤色が落ちて金属めいた光沢になっていて、穂先は鋭く尖っていた。
形状としては枝刃が張り出しておらず、まっすぐ穂の部分を伸ばした素槍と呼ばれる形状をしている。
長さは影治の背丈よりは上だが、2メートルとまではいかない。
……目測でおおよそ1メートル60センチほどだろうか。
種別としては短槍に分類されそうな長さだが、今の影治からすれば普通の槍と同じような感覚で扱えるだろう。
「こいつはレッドボーンスピアー。そんでもって盾をブラックボーンシールドと名付けよう」
武器マニアの影治としては、もう一本の槍だけでなく白スケの斧も持ち帰りたい所であったが、今は持ち運ぶ術もないので泣く泣く持ち運ぶ武器を絞る。
白スケからドロップした兜も、サイズが合わなかったので置いていくことになった。
「そんでもって、ゾンビ共のドロップはこの小汚ねえ布に、陶器の小瓶か」
今回初遭遇したゾンビ達は、ゴブリンがゴブ布を落とすように布切れを幾つもドロップしていた。
ゾンビドロップの布は、汚さという意味ではゴブ布と同じくらい汚い。
しかもどうにも妙な臭いというか、気配のようなものが染みついている。
魔物の発する瘴気とも似ているようだが、それともまた違う。
どちらかというと魔力に近い何かが、それらの布からは微かに漂っていた。
「光魔術が使えなくなったから、クリーンライトも使えないんだよなあ。とりあえず聖水で清めてみるか」
思い付きの行動ではあったが、布から漂う気配がなんとなくアンデッド特有な感じがしたので、影治は試しにクリエイトホーリーウォーターで布を洗ってみる。
すると、明らかに先ほどまで漂っていた気配が消えていることに気付く。
「これで布の方は一応使えるようにはなったか」
このような状況では布だけあっても……という感じではあるが、武器を持ち歩くなら手入れ用に使ったり探せば用途はいろいろと見つかるものだ。
「で……この小瓶だが、もしかしてポーションとかいう奴か?」
あれだけ倒した割に見つかった小瓶の数は多くないが、ポーションであるならそうホイホイとドロップするものではないのだろう。
ただ影治の場合は光魔術がなくとも回復魔術で治癒出来るので、ポーションの活躍する場面は少ない。
「でもまあ試しに一本いっとくか」
そう言って影治は適当に小瓶を1つ手に取る。
大きさ的に内容量はおちょこ1杯分といったところだろう。
「どれどれ、ぐびっぐびっ…………ぶほぁ!?」
小瓶にはコルク栓のようなものが嵌っており、それを取り外して勢いよく中身を口に運ぶ影治。
だがすぐに口にしたものを吹き出してしまう。
それは気管に入ったなどの原因ではなく、口に含んだ液体そのものに問題があったからだった。
「ぐげげええぇぇぇ……。なんじゃこりゃあああ!!」
叫び声を上げながらも、影治は頭の中の冷静な部分でアンチドートの回復魔術を発動させる。
すると、影治を襲っていた痛みや調子の悪さが嘘のように治っていく。
「ポーションじゃなくて毒薬じゃねえか!」
腹いせに手にしていた小瓶を地面に投げつける影治。
パリンッという陶器が割れる音が辺りに響く。
「もしかして他のも全部同じか?」
影治が今回拾い集めてきた小瓶は13本。
先ほどその内の1本をアホ面で飲んだばかりなので、残るは12本。
今度は慎重に1本ずつ調べていく影治。
だが詳しく調べるまでもなく、影治は小瓶の共通点を見出した。
単純な話だが、瓶の形状が明らかに違うものが混じっていたのである。
次に中身を調べてみた影治だが、最初の毒薬の方は紫色っぽい液体をしていた。
そして形の違う小瓶に入っていた方は、少し青味がある濃い緑色をしていた。
青味がなければお茶に見えなくもないが、食欲を減退させるという青味がそれを台無しにしている。
試しに垂らした液体に指で軽く触れてみると、指先に軽い痺れを感じた。
どうやらこちらは麻痺効果のある毒らしい。
念のため、本当に小瓶の形状によって種類が分かれてるのか検証するために、各小瓶から数滴ずつ垂らして見て色を調べてみる。
その結果、少なくとも見た目の色はちゃんと種類ごとに分かれていることが判明した。
「12本中3本が麻痺毒で、9本が普通の毒か……。えらい目にあったが、この麻痺毒はちょっとすぐにでも試したいことがある」
そう言って影治が始めたのは、回復魔術の練習だった。
毒薬をドロップしたということは、あのゾンビの中に毒や麻痺を使ってくる種類が混じっていたのかもしれない。
それに影治は街中で暴れた時にミランダから受けた【轟雷】によって、体が麻痺して動けなくなることがあった。
その時に麻痺状態を治す魔術が使えていれば、状況は変わっていたかもしれない。
「おあつらえ向きに麻痺毒があるんだ。こいつがあれば、早期取得もいけるハズ」
突然の影治の行動であるが、さっきのような大量の魔物を相手にしている時に麻痺で動けなくなるのは、致命的な事態と言える。
といっても、最初から麻痺毒を摂取するのではなく、まずはイメージトレーニングからだ。
小一時間ほどそうしてイメージトレーニングを続けると、今度は実際に麻痺になった状態で、それを取り除くようなイメージを浮かべていく。
回復魔術を得意としているだけあって、影治は麻痺毒の小瓶を1本飲み切ったところで無事【麻痺治癒】の回復魔術を使えるようになっていた。
感覚的には、クリエイトホーリーウォーターなどと同じくらいの難度だ。
「よし……。これで麻痺状態になっても心配いらないな。となると、いい加減この場所の探索を開始するか」
どうやらこの広い地下空間は、地底湖のあった方向とは反対側に広がっているようだ。
一先ずはそちらへ進んでみようと、影治は準備を整えていく。
結局はポーションではなく毒薬が入っていた小瓶も、ゾンビ布でくるんで割れないようにして持ち運ぶ。
背負い袋は宿の屋根裏に隠したままだが、腰には村で見つけた皮製のベルトポーチと袋があるので、そこに小瓶と厳選して拾ってきた魔石を詰める。
「いざ出発!」
準備を整えた影治は、地底湖とは反対方向へと歩き出す。
少し進んだところで再びアンデッドに襲われるも、数は少なかったのですぐに撃退することに成功。
それからもホーリーライトの明かりを頼りに先へと進み続ける影治。
そこで影治は、行く先に人影らしきものを発見した。




