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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて

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第60話 嘆きの穴


「んぐぐぐ……」


 体の麻痺が解けず、ミランダによって謎の黒玉を飲み込まされる影治。

 大きさ的には少し大きい飴玉といったもので、舌に触れた部分から苦い薬のような味が伝わってくる。


「む?」


 影治に黒玉を飲み込ませたミランダは、何かに気付くと咄嗟に踵を返して元来た方向へ走り始める。

 麻痺の影響が抜けてきた影治が、不意を突くようにミランダに攻撃を仕掛けようとするも、様子を察したミランダが先んじて逃げ出したせいで不意打ちは失敗に終わった。


「ミランダ様!」


「ふぅ、危ない危ない。麻痺が解けるのも思ったより早いねこりゃ」


「見ていてハラハラしましたぞ。あのような無茶はお控え下さいますよう……」


「フンッ。アンタらが苦戦してるから手を貸してやったんじゃないのさ。それよりも、魔封丸を飲ませたから魔術は使えなくなってるハズだよ。今のうちにさっさと捕らえな!」


「ハッ、承知致しました。お前達、聞いての通りだ。魔術にはもう警戒する必要がないぞ!」


 ミランダ達のやり取りを聞き、咄嗟に魔術を発動させようとした影治だったが、基礎的なウィンドカッターなどの魔術ですら発動できなくなっていた。


(くっ……。体内の魔力が乱れて魔術を発動する段階まで持っていけん!)


 魔術が飛んでこないと知った兵士達が、この好機に次々と影治へ押し寄せ始める。

 影治はこれまで魔術を随所で活用して数の不利を補っていたが、純粋な体術だけだと影治でもこの数を捌くのは難しい。

 おまけに、ミランダや彼女の周りにいるローブ集団が魔術を放ってくるので、先程より更に立ち回りが厳しくなっている。


「なるほど。魔術だけでなく、体術も相当なようだね。ならこれで……【痺雷(ひらい)】」


 ミランダの放った魔術は、先程の【轟雷】と比べたら威力は格段に劣っているのだが、直に食らってしまった影治は、一時的に体が動かせなくなる。


「今だ! ぶちのめせええ!!」


「ぐっ……」


 【轟雷】による麻痺効果とは違い、そう間をおかずして体を動かせるようになった影治だが、何人もの敵に囲まれた状態での数秒の硬直は命とりだった。

 おしくらまんじゅうのように影治に群がっていった兵士達は、ミランダの命令通り命は奪わないまでも影治の体のあちこちを切り裂き、または槍の石突や剣の樋の部分で殴りつける。


 魔術を封じられた影治は、回復魔術で治癒することもできず小さく呻き声を上げながらも、必死の抵抗を繰り返す。

 しかし全身ズタボロに打ちのめされた影治は、手足をきつくローブで縛られたままミランダの前へと引き出されることとなった。


 引き出された影治の体にはあちこち切り傷や打撲の後が見られ、骨も何本も折れており、呼吸をするだけでも痛みが走っている。

 前世の影治の感覚的には、いつくたばってもおかしくないと言う程のダメージだ。

 しかしながら、見た目のボロボロさとは裏腹に、まだ影治にはこの程度なら死なないという確信があった。


(妙に……この世界の奴らは……タフだと……思ってたが、どうやら……俺も……同じような感じに……なってる……らしい……)


 痛みに意識が割かれる中、ぼんやりと影治はそんなことを考えていた。

 そんな影治の耳に、兵士とミランダが話している声が届く。


「してミランダ様。この妖魔を如何なさるおつもりで?」


「嘆きの穴に奉げるのさ」


「嘆きの穴に……? なるほど、確かにここの所謎の地揺れが続いておりましたな」


「理解出来たならさっさと運びな! これまでの様子からして、魔封丸の効果もそう長くはもたないよ!」


「ハ、ハハァ……。聞いていたな? お前達。早速その妖魔を運び込むぞ」


「了解しました!」







 全身ボロボロの影治は兵士のひとりに抱え上げられ、そのままミランダや指揮官の男らと共に街中を運ばれていく。

 街壁の門を超え、内街に入ってからもその足は止まることはない。

 門の先には南の方へと続く大通りがあり、ミランダ達はそこをまっすぐ進むようだ。


(……何か見えてきたな)


 すでに日も暮れているため、大分近くに寄るまで気付けなかったのだが、この大通りの先には小高い丘があるようだ。

 この丘の麓に移動するのにもそれなりの時間が掛かっていたが、丘そのものも結構な高さと面積がある。


 古代ギリシアの都市国家では、アクロポリスという小高い丘を中心に都市が建設されていたが、どうやらこの街も似たような構造をしているようだ。

 影治が運ばれる先は、どうやらこの丘の上らしい。


(この先に嘆きの穴とやらがあるのか?)


 丘の入り口部分には衛兵の詰め所があり、夜遅い時間だというのに何人もの衛兵が警備をしていた。

 その衛兵達の責任者らしき男にミランダが話を通すと、衛兵のひとりが慌てたように丘の上へと伝令に走る。


 それから少し遅れてミランダ達も丘を登り始める。

 丘部分は途中から大分勾配がきつくなっており、影治の体重が軽いとはいえ担ぎ上げて歩いている兵士は少々息が荒くなってきている。


(なるほど。ここは天然の要塞のようになっているのか)


 小高い丘とはいっても、ミランダ達が通っているルート以外の場所は険しい崖になっており、ロッククライミングのような装備でもなければ登るのは難しいだろう。

 どうやらこの丘の上には領主の館……というよりも砦のような施設があるようで、すっかり暗くなった時間帯だというのに、丘の上にある領主館からは明かりが幾つか漏れていた。


 だが影治が運ばれていったのは丘の上にある領主館ではなかった。

 山に例えて言えば8合目から9合目辺りで、正規ルートを外れていったのだ。

 脇道に逸れた先にあったのは小さな広場のような場所であり、その中央部分には井戸のようなものがあった。


 しかしここまで登ってきた丘の高さからして、井戸を掘ったとしても相当深く掘らないと地下水脈までは届かないだろう。

 もしそこまで掘りぬいたとしても、今度は組み上げるのに並々ならぬ苦労がかかる。

 それに何より井戸にしては内部の穴が大きい。

 井戸の直径は人を数人まとめて投げ込めるくらいの大きさがあった。


(これが嘆きの穴か? こいつに俺を奉げるとか言っていたが、このまんま放り投げられでもするのか?)


 事態の推移を注意深く観察しながら、影治はどうにかこの状況を脱せられないものかと思案する。

 しかし未だに魔術の方は使えず、手足もきっちりロープで縛られているので、黙って観察することくらいしか出来ない。


 だが井戸の前まで辿り着いたミランダ達は、しばしそのまま黙って立ち止まっている。

 どうやらすぐに嘆きの穴とやらに投げ入れられる訳ではなさそうだ。

 しばし様子を窺っていると、丘の上から幾人かの人間が下りてくるのが影治の視界に入る。

 手に持っている明かりは6つほどだが、人数はそれ以上いるようだ。

 やがて小太りの男を先頭に、10名ほどが嘆きの穴がある広場に姿を現した。


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