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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて
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第58話 市街戦


 大通りにいた全ての人間が衛兵の声に反応した訳ではない。

 遠巻きに様子を見ている者もそれなりにいた。

 だが別段戦闘を得意としてる訳でもない住民までもが影治の包囲に加わったのは、影治の見た目のせいもあるだろう。


 この世界の人族の中にはハーフリングという、成長してもヒューマンの子供サイズまでしか成長しない種族がいる。

 帝国内においてはエルフらと同じく人族として認められているので、これだけの規模の都市なら紛れていても不思議ではない。


 ……のだが、ヒューマン以外の人族は帝国に好き好んで定住はしていない上に、ハーフリングは元々数が少ない。

 それに影治についてはそもそも衛兵が「妖魔のガキ」と叫んでいたこともあって、ただの子供だという情報が伝わってしまっている。

 すると子供相手ならどうにかなるだろうという心理も相まって、住民による包囲網が出来上がっていった。


「バケモンがのうのうと人間様の街をうろつくんじゃねえ!」


「そうだそうだ! 消え失せろ!」


 暴徒と化す寸前といった住民たちは、揃いも揃って暴言を吐き、手にしていたものなどを影治に投げつける。

 流石に数が多すぎてそれらを全て躱すのは影治にも不可能だったので、当たるとダメージを受けるものだけを躱していく。

 そうして影治が躱したものは対面側の包囲した者の下に飛んでいくのだが、誰一人気にする様子もなく影治に向かって手当たり次第に物を投げ続ける。


「……そうかそうか。これだけ歓迎してくれると、良心の呵責もなしに好き勝手出来るってもんだ」


 罵声が飛び交う中、影治の台詞は呟くような声だったために誰にも伝わることなく掻き消される。

 初めのうちはただ飛んできたものを避けることに専念していた影治だったが、途中から吹っ切れたかのように、ウィンドカッターなどの魔術による無差別攻撃を仕掛けた。


「ぐあぁ!?」


「俺の……俺の腕があああああ!!」


 周囲は先ほどまでとは違う意味での喧噪に包まれる。

 無差別に、そして遠慮なく行使される影治の魔術は、影治を包囲していた市民だけでなく、宿の正面入り口から駆け寄ってきていた衛兵達も切り裂いていく。


「ば、バカな! 複数の属性を無詠唱で扱うだと!?」


「増援だ! 増援を呼べえええええ!!」


「お前達、積極的に前に出るのではなく相手の消耗を待て! あれだけ魔術を連続して使用していれば、すぐに魔力も限界に達するはずだ!」


 影治が魔術を使い始めたことによって、住民たちもかなり動揺しているようで、無理に襲い掛かってくる者はほとんどいなかった。

 もしこの街の住民が、あの村の住民のように狂信的に自分の命を顧みずに襲い掛かってきていたら、さしもの影治もさっさととんずらこいていたことだろう。


 しかし最初に住民を十人ほど惨殺したのが見せしめになったのか、今は迂闊に近寄ろうとする者はいなかった。

 ……幾人かの例外を除いて。


「はあああああぁぁぁ!」


「あの男に続けえええええ!!」


 影治の魔術を警戒して住民達が距離を取る中、衛兵の一部やハンターらしき者達が拙い連携を組んで影治へと襲い掛かってくる。

 内、ひとりは宿の中で女戦士と一緒に食事を取っていたゴツイ男のようだったが、あちこちから湧いてきた他の連中は、恐らく騒ぎを聞きつけてやってきた者達だろう。


「ちっ、次から次へと……」


 襲い掛かってくる者の中には、身長2メートルを超えるような大柄な者も交じっている。

 それらいかつい戦士達が一人の子供に襲い掛かる様子は、周囲の目からは明らかに過剰に映った。

 しかも相手は直前に魔術を派手に使用していたことから、明らかに近接よりは魔術での戦いを得意とするハズ。

 吶喊していった戦士達は何人か倒れるかもしれないが、すぐに決着はつく……そう思っていた者達の思惑はすぐに覆されることとなった。


「げふっ……」


「ガガガッ!」


 武器を持って襲い掛かる戦士達相手に、影治は素手と魔術で的確にひとりずつ討ち取っていく。

 しかも時折隙を見計らっては周囲を取り囲んでいる住民達にも魔術が浴びせられるので、迂闊に包囲網を狭めることもできない。






「シャーゲン防衛隊第2中隊所属、56名到着!」


 影治が大通りで暴れ始めてから30分程が経過した。

 この頃になって、ようやく要請されていた応援が現場へと駆けつけてくる。

 先ほど聞こえてきた報告はどうやらこの国の正規の兵士のようであり、ちらと影治が視線を送ると、明らかにそこには100名以上の兵がいた。


 だがその内似たような装備を付けた兵は半数ほどであり、残りはバラバラな装備を身に着けている。

 中にはかなり草臥(くたび)れた装備の者もいるので、あの人数の内訳は兵士だけでなく、民兵や志願者なども交じっているのだろう。


「状況はどうなっている?」


「ハッ、それがすでに戦闘開始から30分程経ちましたが、未だに魔術を飛ばしてきております」


「なに? 妖魔のガキだという報告を受けてきたが、ただの妖魔ではないのか?」


「見た目に惑わされてはなりません。ああ見えて、複数の属性魔術を無詠唱で発動し続けておるのです。それだけでなく、近接戦も並大抵の実力ではないようで、一兵卒程度では歯が立ちません」


「なんとっ!」


 駆けつけてきた兵士達の指揮官が、衛兵達を指揮していた男から事情を聴取している間にも、影治には休む暇なく攻撃が加えられている。

  どうやらハンターギルドでは臨時に影治に賞金がかけられたらしく、先程から駆けつけてきたハンター達の猛攻が続いていた。


「クソが! お前らいちいちタフすぎんだよ!」


 村人相手ではさして苦戦することなく百人以上を相手に無双した影治だったが、最初に取り囲んだ住民を除けば、今襲い掛かって来ているのは元々戦いを生業にしている者達だ。

 しかも彼らの身体能力は地球人のそれとは異なる。


 目にも見えない早さで攻防が繰り広げられるといった、明らかな人外的能力というほどでもないのだが、繰り出される攻撃は重く、そして影治の攻撃はそう簡単にトドメを刺すことが出来ない。

 首の骨を折られても少しの間動いていた女戦士のように、生命力というかなんというか、まるで昆虫のようにタフなのだ。


 それでも頸部やら心臓部など、急所攻撃が有効なのは確かなようだ。

 元々影治の四之宮流古武術において、攻撃をする時は急所攻撃が基本であったので、素手で鎧を装備した相手にしてもそれなりに戦えてはいる。


 魔術の方も、思ったほどに効果が現れない者も結構いた。

 どうも人によって多少効果に違いがあるようで、恐らくは魔法防御力――この世界では魔法ではなく魔術と呼んでいるようだが――のようなものがあって、それが人によって異なるのだろう。


 そして厄介なのは、敵方にも僅かながら魔術を使う者がいることだ。

 まっすぐ飛んでくるような投擲武器や矢ならともかく、どんな効果か分からない攻撃魔術は、影治に地味にダメージを与えていく。

 収まることのない喧噪の中、敵魔術師が呪文らしきものを詠唱している声が微かに耳に届く。


 聖徳太子ならぬ影治は、戦いに集中する余りに余計な喧噪はシャットアウトし、近くにいる敵だけを機械的に屠っていた。

 そうして襲い掛かってきたハンターの戦士を、幾人も仕留める影治。

 その結果として攻撃の波が一旦途切れたのだが、その時にふと聞きなれた言葉が影治の耳に飛び込んでくる。

 その言葉を聞いて、思わず影治の動きが一瞬止まった。


「えっ?」


 思わずそう呟く影治。

 その隙を見逃さず、建物の上に移動して弓を構えていたひとりのハンターが、影治に向かって矢を放つ。

 影治は適宜そうした狙撃手を魔術で撃ち落としていたのだが、隙を突かれたことによって肩の部分に矢を受けてしまう。


「それ! 今だ!」


「手傷を負った今こそ好機! 邪悪なる魔物は打ち滅ぼせ!」


 それに乗じて更に矢が何本か打ち込まれ、その内の1本が影治の左膝に命中する。

 思わず地に膝をつく影治。

 そんな影治の下へ、今が好機と見た兵士やハンター達が幾人も駆け寄るのだった。


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