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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて

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第53話 物価


「あ、こら!」


 衛兵の男は慌てた様子で駆け出すが、スリの少年の動きはすばしっこく、上手いこと人影に隠れながらすぐに姿を消してしまった。


「ほいっ! ほれ、お前さんのじゃろ」


 隣にいたドワーフは影治の被っていた帽子を空中でキャッチし、影治に手渡してくる。

 衛兵の男も早々に少年を追うのを諦めたのか、影治の方へと振り返った。

 帽子を外した影治を見て、しかしふたり共これといった反応は見せていない。


「ああ」


 影治は短く答えながらも、身バレしなかったことに胸を撫で下ろす。

 実は影治は麦わら帽子を被るだけでなく、インクを使って髪の毛を黒く染めていた。

 村にあったその辺の民家には読み書きできる者がいないのか、ペンやインクなどは見当たらなかったのだが、流石に村長宅には筆記セットがあったのだ。

 旅に出る前から影治はそのインクで髪を染めており、まだ旅立ってから2日しか経過していないことから、髪の根本の方もまだ黒く染まったままだった。


「ところでここは初めて訪れたんだが、お勧めの宿はあるか?」


 疑われていないことを確信した影治は、ついでに宿の場所を尋ねる。

 衛兵の男はすっかり影治のことを田舎から出て来た村人とでも思ったのか、気軽に影治の質問に答えてくれた。


「うーん、そうだな。基本的に内街(うちまち)ならどこもそれなり以上なんだが、外街(そとまち)だとこの大通りをまっすぐ進んで、北門広場の少し手前にある『水浴び停』がお勧めだ。外街の宿にしては珍しく水浴び場があるからな」


「水浴び……名前の通りって訳か」


「ああ。見たところお前さん遠くから旅してきたんだろ? なら水浴びでスッキリするといい」


 衛兵の男の話によると、この街は近くにある川から水を取り込んでいるようで、それなりに水資源が豊富なのだという。

 気候も熱帯地方で年中温かいので、お湯を沸かさずに水をそのまま浴びる習慣がそれなりに根付いているらしい。


「参考になった」


「いいってことよ。ただまあ、外街はさっきのような悪ガキどもも多いからな。金があるなら入街料を払って内街に入った方がいいぞ」


「……考えてみるとしよう」


 これまでドナ以外だとあの村の人間しか知らなかった影治にとって、変装しているとはいえ普通に応対する衛兵の男の存在に少しだけ複雑な心境になる。


「あの衛兵の男も、俺の正体を知ればあの村人たちのような反応になる。決して気を許してはいけない……」


 そう何度も呟きながら、影治は衛兵とドワーフの二人と別れた。







 「この辺りは露店や店舗が並んでいるな。商店街といったところか」


 影治は衛兵の男に勧められた宿には向かわず、大通りを進んだ先にある商店街をぶらついていた。

 なにもお勧めだという話を信用していない訳ではなく、街の様子も見て回りたかったからだ。


 普通なら先に宿を探して、そこに荷物を置いて出かけるのかもしれないが、影治は宿の防犯やモラル意識について信用していなかった。

 前世でも海外のホテルなんかは、備え付けの金庫に入れていたものを従業員が盗むなんてこともよくあったし、この世界の宿もよっぽどの高級宿以外はそのような認識で間違いないだろう。


「んぐんぐ……。この串焼きが1本10ダンってことは、おおよそ1ダンが10円くらいって感じか?」


 露店で買った串焼きにかぶりつきつつ、影治は物価について考える。

 なお露店には値段表記がされた木札があったが、当然のごとく影治にはそれが読めなかった。

 しかし店の人に数字についてだけは教わったので、値段だけならすでに判別可能だ。


 どうやらこの世界……少なくともこの地域では10進法が用いられているようで、覚える数字は0~9の10個で済んでいた。

 これがかつてのフランスのように、20進法だったりしたら少し覚えるのが大変だっただろう。


「銅貨は……特に小銅貨は多すぎて全部回収していないが、それにしても村中から集めても1万ダン(10万円)にしかならんのか。まあ店舗もなかったし、金はあんま使われてなかったのかもしれん」


 もしかしたらどこか分かりにくい所に金を隠してたりしたのかもしれないが、そこまで探す余裕は影治にはなかった。

 壊滅状態の村でひとり民家を漁ってる姿を誰かに見られたら、ひと騒動起こっていたことだろう。


「あとは魔石なんだが……取り扱ってる店がないな」


 資産としては金の他に魔石があるのだが、値段を参照しようにもそこいらの露店では取り扱っていない。

 そこでこれまた露店の人に話を聞くと、どうやら魔石は専門の店やギルドで買い取りを行っているとのことだった。


「ギルド? 商人の組合組織のことか?」


「商人ギルドで魔石の取引なんざ、よほど大口の取引じゃないと相手してくんねえよ。そうじゃなくて、専門店以外にハンターギルドでも魔石の買い取りはやってるってこった」


「ハンターギルド……。冒険者ギルドではないのか」


「小僧、他の国の出身か? 帝国にゃあ冒険者ギルドなんざねえよ。代わりにハンターギルドが各地にあるんだ。ま、やってることは大して変わんねえんだけどな」


 そう言って店の親父は、ハンターギルドの簡単な業務内容を挙げていく。


「そうなのか。で、そこでは魔石も買い取ってると」


「ああ。専門店だと足元見られる恐れがあるが、ギルドなら一定額で買い取ってくれるぜ。ついでに魔物のドロップも買い取ってくれるしな」


「それってギルドに加入しなくても買い取りしてもらえるのか?」


「買い取りだけなら関係ないはずだぜ。もっとも、加入してると買い取り価格に色をつけてもらえるみてえだから、少しでも高く買い取って欲しいなら加入した方が良いだろうけどな」


 露店のおっちゃんの話によると、ギルドに所属していると多少高く買い取ってくれるらしい。

 更にハンターにはランクというものがあって、ハンターランクが高ければ高いほど、買い取り価格の査定ボーナスも高くなるようだ。

 それって未加入者の買い取りはぼった食ってるんじゃねえの? と思わないでもなかったが、会員サービスのようなものだと考えれば納得も出来る。



「分かった。近くにハンターギルドはあるのか?」


「ああ、この近くにも1軒あるぞ。この道をもうちょい進んで、右に曲がった通りを進めば見えてくるぜ」


 そう言いながらも露店の親父はニコニコとした顔で影治を見ている。

 これは話し始めた当初からこんな感じだったのだが、その笑顔の裏には「何か買ってけよコノヤロー!」という意志が垣間見えたので、影治は親父の店に売っていたナプルという果物を1つだけ買って店をあとにする。


 ナプルの見た目は少し色の薄いリンゴで、味も少し薄いリンゴの味だった。

 どこか微妙な感じのナプルだが、代わりに普通のリンゴより水分が多いので、喉の渇きが少し潤せるかもしれない。


 1つ12ダンで売っていたのだが、果たしてこれが安いのか高いのかはよく分からない。

 こういった果物系は輸送のコストなどもかかるだろうが、この地域ならそこらの木に成っていそうでもある。




「多分この近くだと思うんだが……あれか」


 露店の親父に教えられたハンターギルドは、周りの建物に比べると少し大きめの建物だった。

 扉は開けっ放しになっており、中にはそれなりに人がいるようだ。

 親父の言い方からするとこの場所以外にもギルドはありそうだったので、街全体で見れば結構ハンターの数は多いのかもしれない。


 魔石の相場は分からないままだったが、RPGのようにお店で何でも買い取ってくれる訳ではない。

 基本的には買い取りをしている店でも、武具を取り扱う店だと買い取りしているのは武具だけだ。


 まず帝国領内から抜け出す必要があるが、魔石やドロップが買い取ってもらえるなら、それで生活費を稼ぐことが出来る。

 そのためにも、影治はハンターギルドへと足を踏み入れるのだった。



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