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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第1章 獣人の少女
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第49話 元凶の排除


「それでマルティネというのは一体どういう存在なんだ?」


「へ、へえ。マルティネとは聖光神(せいこうしん)マルティネのことを指しやす。マルティネについては、元は教国から帝国に伝わったって聞いてやす」


「教国……元締めの連中がいる訳か」


「ええ、帝国でも人族以外の扱いはキツイでやすが、教国では更に徹底してるとか……」


 男の言葉を聞いて眉を顰める影治。

 ただ冷静になって地球の歴史を思い返せば、魔女裁判など中世のヨーロッパも似たような事例があったことを思い出す。


「それだけ人族以外の種族を排斥しているのに、他の種族は反抗したりしないのか?」


「それは勿論してやすよ。帝国の北には獣人の国があってやりあってやすし、東には妖魔の国もありやす。ですが、一番広い版図と国力を持ってるのは帝国だって聞きますね」


「それは厄介だな」


 すでに影治の中では滅ぼすべき敵リストに名を連ねている帝国。

 更に話を聞くと、帝国内では聖光神マルティネを信仰する聖光教という宗教組織が大きな力を持っているらしい。


「ええ、厄介でやすよ。なんせ、帝国には聖光教の神官がわんさかいやすからね」


「神官のどこが厄介なんだ?」


 影治がそう尋ねると、男は一瞬驚いたような顔を見せたがすぐに質問に答えはじめる。


「全員が全員でないでやすが、神官は奇跡を使いやすからね」


「奇跡……だと?」


「その様子だと知らないようでやすね。神官連中は奇跡によってケガを治したり、毒を取り除いたり出来るんでやすよ」


「なるほど、回復魔術の使い手を多く抱えてるということか」


「回復魔術? なんでやす、それは」


「ああ? 奇跡などと大仰な言い回しをしているが、ケガを治すってんなら回復魔術を使ってるんだろ?」


「ええ、確かに魔術は使ってやすが回復魔術? とかいう奴じゃないですぜ」


「なに?」


「連中が崇めるのは聖光神マルティネ。となりゃあ、使うのは当然光魔術に決まってやすよ」


 男の言葉を聞いて軽くショックを覚える影治。

 そもそも影治がメイキング場面で回復魔術を選んだのも、名前がそのものズバリだったからだ。

 他の属性にも治癒系の魔術があるなら、そこまで回復魔術だけに拘らなかっただろう。


「……光魔術にケガを治すものがあるのか?」


「そうでやす。もっともあっしらみたいな貧乏人は、滅多に神官に光魔術をかけてもらうこともないでやすがね」


「そうか……。ん? 貧乏人とはいうが、お前は商人じゃなかったのか?」


「え、あ、ああ……。商人といっても別に全員がお金を持ってるって訳じゃないですぜ」


 それは確かに男の言う通りでもあったのだが、影治は男の態度に不審なものを感じ取った。

 そこで更に男に質問を重ねていく。


「お前はこの村で店を開いていたのか?」


「あー、いえ……。あっしは町や村を渡り歩く……行商人みたいなことをしてやして」


「行商人? ひとりでか?」


「それが他にも人はいたんでやすが、この村に来る途中で魔物に襲われちまいやしてね」


「魔物……。この辺は魔物が多いのか?」


 影治の感覚としては、森の奥に比べると村の近くではゴブリンとの遭遇率が極端に減っている。

 人里が近いのだからそれも当然かもしれないが、この村から他の場所に移動する際に魔物がよく出現するようなら、予めその情報は得ておきたい。


「いや、普通は街道近くにまで魔物が出るのは少ないハズなんでやすがね……。運が悪いことに、グレイウルフの集団に襲われやしてね。森の中をひとり必死にさまよいながら、命からがらこの村に逃げてこれたんでさあ」


「狼の魔物……」


「ええ。積み荷も何も全て投げ捨てて逃げてきたところを、この村の連中に拾われやしてね。それ以来この村で雑用をしてるって訳でやす」


「……それは何時の話だ?」


「そうでやすね……。あれは春の序月を迎えてすぐのときでしたから、もう4か月くらい前の話になりやす」


「序月?」


 影治が気になった単語を聞くと、男が暦について簡単に説明する。

 以前にドナにも聞いたことはあったが、詳細は知らなかったのでここで影治は暦についての知識をアップグレートした。


 ドナからの情報では、1年は春夏秋冬に分けられ、それらを3分割して12の月に分けているということが分かっている。

 男から聞いた情報によると、3つに分割した月はそれぞれ「序月(じょげつ)中月(ちゅうげつ)終月(しゅうげつ)」と呼ばれるらしい。


 つまり、春の序月から1年がはじまり、冬の終月でもって1年が終わる。

 そして春の序月から夏の中月までの月は全て31日で、残りは全て30日となるようだ。

 またうるう年のようなものもあるようで、たまに夏の終月が31日まである年もあるようだが、男はその辺の理屈までは詳しく知らなかった。

 商業ギルドなどではしっかり把握してるようなので、気になるならそういった場所で尋ねれば教えてくれるとのことだ。



「……なるほど。暦についての話は理解した。それで1つ気になることがあるんだが」


「へぇ、なんでやす? あっしの知ってることなら何でも答えてみせやすよ!」


「ほお、そうか。なら尋ねるが、魔物に襲われる前はどんな品を取り扱っていたんだ?」


「それは色々とありやすぜ。あっしらは帝国とガンダルシア王国をまたいで活動してやしたからね」


「帝国とガンダルシア王国を……。そうなると、亜人(・・)なんかも取り扱っていたのか?」


「流石坊ちゃんでやすね。その年でそんなことまで知ってるとは」


「お世辞はいい。で、どうなんだ?」


「へっへっへ、勿論取り扱ってやしたぜ。なんせ帝国の上の連中はあんだけ獣人や妖魔を排斥してるってのに、いざ売りにいくと高値で引き取ってくれるんでさあ。これがまたぼろい商売でしてね」


「そうか」


「この村に向かってる時も、狼人族のガキをとらえ……運んでやしてね。亜人を売るにしてもいろいろと需要ってもんがあるんでやすが、中でも女でしかもガキとなるとそりゃあもう良い値が――」


 ザンッ。


 男が全て言い終える前にそのような音がしたかと思うと、次の瞬間には男の右腕が肩口から切り離されていた。


「ギャアアアアアッッ!!」


 男は腕を切られた痛みというよりは、右腕が一瞬で切り落とされたことに衝撃を受けて悲鳴を上げる。


 ザンッ。


 しかし容赦なく影治は男の左腕もウィンドカッターで切り落とす。


「な、なんっ――」


「あの広場で邪教徒どもが磔にして燃やそうとしていた獣人が、その時お前達が攫った狼人族だ」


 影治はこれまでの話を聞いて、最初にドナを攫ったのがこの男とその一派であると確信していた。

 これまでの証言もそうだが、以前ドナに1度だけ聞いた攫われた時の話の中で、目の前の男と一致する風貌の男がいたのだ。

 ドナには辛いことを思い出させてしまったが、影治はいつか出会った際に復讐してやろうと、しっかりドナが見た亜人狩りの連中の特徴を聞いて覚えていた。


「そして俺が村人を皆殺しにしたのは、連中があの獣人を――ドナをあんな目に遭わせたからだ」


 その言葉を聞いて、男は自分の末路を悟った。

 そのままでも助かっていたかどうかは不明だったのに、完全に虎の尾を踏んでしまったのだ。


「死ね」


 今度はウィンドカッターを男の頸部に向けて放つと、影治は頸椎ごと男の首をたたっ斬った。


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