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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第1章 獣人の少女

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第46話 ドナ 4


 スケルトンの巣を潰して拠点に帰ってきてから、私はじゅーりょくを使うしんたいそーさを練習していた。

 近くではエイジがゴブ布から私の服を作ってくれている。

 前にゴブリン狩りに行ったのは、ゴブ布を集める意味もあったみたい。


 そこで私はエイジと昔の話や国の話。異人の話なんかをした。

 エイジは妖魔だけじゃなくて、異人についてもまったく知らないみたいだ。

 確かに異人の方が妖魔よりは少ないけど、両方とも知らないってことは本当にすごい山奥とかに住んでたのかもしれない。


 それからエイジの話になったけど、「髪の色以外におかしいとこはないか?」なんて聞くから、全部おかしいって答えた。

 最初はエイジも冗談だと思って笑ってたけど、すぐに表情がくもる。


「まあ、森を出るならその辺気を付けないといけねえなあ」


 水色の髪のまま、帝国内で人に見つかった時のことを考えたんだと思う。

 そう言うエイジの声は深刻そうだった。

 エイジはいつかこの森を出ようと思ってる。

 その時のことを考えると、私はいてもたってもいられなくなって質問した。


「エイジ、ここ出てくの?」


「ああ。いつまでもここで原始的生活を送る訳にもいかん。というか、どうやらここは帝国内らしいしな。俺達にとっては安住の場所にはならんだろう」


「うー、でもこんなに色々作ってあるのに……」


 エイジに聞いたけど、ここは最初山賊の住処でもなんでもなくて、ただの洞窟だったらしい。

 それを一からここまで人が住めるようにした。

 私には絶対できそうにない。

 エイジはやっぱり凄いと思う。


 私はそんなエイジとふたりで過ごせるなら、ずっとこの洞窟で暮らしてもいいと思ってる。

 でもエイジはそうは思っていないみたい。

 それどころか、私といつか離れることも考えてると思う。

 私に戦い方を教えてくれたり、簡単な料理のやりかたを教えてくれたのも、ひとりでも生きていけるようにってことだと思う。

 一度そのことをエイジに聞いてみたら、


「子供はいつか親元を離れていくんだよ」


 って言ってた。

 これは凄い変だと思う。

 確かに私はまだ子供だけど、エイジも同じくらいの子供だ。

 まったくエイジは意味が分からない。


 ……でもこの先何があるかは分からない。

 今の暮らしだって、村で過ごしていたときはこんなことになるなんて思ってもいなかった。

 もしかしたら、エイジと離れ離れになってしまうこともあるかもしれない。


「うぅぅ……」


 そう考えると涙が出そうになる。

 でも今の私に出来ることなんてそんなにない。

 ご飯採りに行ったり訓練を頑張ったりはしてるけど、それだけじゃ足りない。

 それで必死になって考えたのが、エイジにプレゼントをするってことだった。

 離れた場所にいても、それを見れば私のことを思い出してくれるはず。

 

「ねえ、エイジ」


「なんだ? ドナ」


「ナイフ貸してほしい」


「ナイフ? 何に使うんだ? 格闘スタイルじゃなくて短剣スタイルに変えるのか?」


「ちょっと作りたいもの、ある」


 そう言って私はエイジからナイフを借りて、一生懸命エイジにあげるプレゼントを作り始めた。

 エイジには内緒で作ってるので、きっとエイジも自分へのプレゼントを作ってるなんて思いもしないはず。


 初めて作るものだったから何度も何度も作り直した。

 前に作ったハシより全然難しい、ふくざつな形。

 でも少しずつ出来上がっていくのを見て、私は思わずニヤッとしてしまう。

 ふたつ(・・・)も作ってるから時間がかかってるけど、そろそろ完成も近い。






 その日、私はひとり木材倉庫で仕上げ作業を行っていた。

 この倉庫は洞窟の入口から近い場所にあるから、入ってすぐの場所には少し外の光が届く。

 でも奥の方までは届かないので、壁に掛けた松明で中を照らしている。

 エイジがいれば魔術を使ってくれるけど、ひとりでいる時でも大丈夫なように、拠点にはこうした松明も置いてあった。


 揺らめく明かりの中、ふと私は洞窟の外から漂ってくる臭いに気付く。

 これまで作業に集中していたせいか、臭いに気付くのが大分遅かったらしい。

 気付けば拠点を取り囲むように幾つもの臭いがする。


「これ……ゴブリンとか魔物の臭いじゃない。人間の……臭いだ」


 耳を澄ませると、薄っすらと彼らの声が聞こえてくる。

 細かい部分までは聞き取れなかったけど、多分ここに乗り込んでこようとしてるっぽい。

 この前はスケルトンの集団を相手に戦ったけど、それはエイジがいたからこそどうにかなった。

 私だけだとどうにもならない。


「逃げ……るにしても、もう周りが囲まれちゃってるっぽい……」


 今は先ほどまでの声が聞こえなくなって、代わりに木を切り倒す音が聞こえてくる。

 多分橋を架けて渡ろうとしているんだと思う。

 もう時間はあまり無さそうだったけど、一度だけ注意しながら洞窟を出て様子を見に行ってみる。


「あれはあの村の人たち……。ハンスもいる……」


 どうしよう、どうしよう。

 土壁の内側は高いところに通路が作られていて、歩いて渡れるようになってる。

 そこまで登って土壁から外を覗いてみたら、あの村にいた人達が10……20……。とにかくたくさんの人がいた。


「そろそろ切り倒せそうか?」


「ああ。もうちょいだ」


「しっかし、ここまでしても何の反応も返ってこないな?」


「気を付けろよ。もしかしたら外に獲物でも探しに行ってるのかもしれねーが、中に何人か賊が残って待ち構えてるかもしれねえ」


 これ、私達の拠点が山賊の住処か何かだと思われてる?

 確かに私も最初に見た時はそう思ったけど……、だからあんなにたくさんの人でこんな森の奥まで来てるんだ。

 村人たちは剣や槍だけじゃなくて、ピッチフォークなんかの農具を持ってる人もいる。

 他にもハンターなのか弓を持ってる人も数人。


「こんなの逃げられっこない……。どうしよう……」


 私はゆっくり音を立てないようにして、洞窟前広場まで戻る。

 でもここでゆっくり考えてる暇もない。

 木を切る大きな音が必死に考えている私の耳にも届く。


「よーし! 後はこいつを向こう岸まで渡すぞ!」


 その声を聞いた私は、慌てて洞窟の中に……さっきまで作業していた倉庫に戻る。

 そこはさっきまで私が作業していた時のまま、変わった様子はない。

 でも私の気持ちは大きく変わっている。

 どうしようって気持ちが一杯になった時、ふとエイジの言葉を思い出した。



『これは換気口だ。松明程度なら多分大丈夫だと思うんだけど、一応外に繋がってて煙を出す』


『かんきこー?』


『そうだ。煙を吸う入口部分は広めに取ってるから、俺達なら中に入ることも出来るぞ』


『ふーん。そこから外に出れるの?』


『換気口は斜め上に伸びてるし、段々狭くなってるからそれは無理だ。でも、入り口付近に隠れることは出来るかもな』





「かんきこーの……中……」


 私は積んであった木を踏み台にして、天井付近に開けられた小さな穴に入っていく。

 そこは狭かったけど、奥に詰めれば私とエイジがふたり入っても大丈夫な位はあった。

 かんきこーに隠れるのとほとんど同じくらいのときに、洞窟のすぐ外あたりから声が聞こえてくる。


「なんだあ、こりゃ」


「竈とかも作ってあるみてーだ。山賊にしちゃあ随分凝ってんな」


「にしても、やっぱここにも誰もいねえみてえだぞ?」


 私はバクバクする心臓に押しつぶされそうになりながら、必死に気配を消そうと努力する。

 けど当然彼らは洞窟の中にまで入ってきた。

 そうなると最初に目に入るのがこの倉庫。


「ハァハァ……」


 どうしても息が荒くなるのを止められない。

 とうとう彼らが倉庫にまで足を踏み入れる。

 私は彼らに気付いてからずっと焦ってたみたいで、エイジにあげるプレゼントを手にしたままだったことにいまさら気付く。

 そのプレゼントを強く握りしめながら、祈るように様子を見守る。


「……ここは倉庫かあ?」


「割と作りがしっかりしてるんだよなあ。その割に誰もいねえってのはどういうことだあ?」


「まだまだ奥に続いてるみてーだし、そっちで待ち構えてる可能性もあんぞ」


「それもそうか。……ん? なんだこれ」


 中に誰もいないのを確認した村人たちが倉庫から出ようとした時、何かに気付いたような声を上げる。

 気になった私は天井付近に開けられた換気口の穴から、少しだけ顔を覗かせて様子を見てみる。


「どうしたあ?」


「いや、妙なもんが落ちててよ」


「気になるなら持ってったらどうだ?」


「んー、金目のもんにはみえねえが、一応持ってくか」


 倉庫に入って来た3人の村人の内、ふたりがそんな会話をしていた。

 でも私はそれよりも何よりも、その内のひとりが手にしていたものが、エイジのために作っていたもうひとつのプレゼントだと気付く。

 それと同時に、


「だめええええええっ!!」


 そう声を張り上げて、隠れていたかんきこーから私は飛び出していった。


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