第37話 神聖属性
神聖属性。
それが具体的にどんな性質なのかは取得してみないと分からないが、明らかにアンデッドに効果がありそうな属性だ。
「しんせいぞくせー?」
「そうだ。ドナは聞いたことないか? こう聖なる感じで、アンデッドによく効く魔術の話とかさ」
「うー、ドナ魔術のこと、よくわかんない」
「む、そうだったな」
影治は以前にも魔術に関する話をドナに尋ねたことがあったが、どうやら100人程度が暮らしていたドナの生まれた村では、一人か二人程度しか魔術の使い手がいなかったらしい。
なんとなくの魔術に対するイメージや、火や水などの属性に分かれてる位はドナも知っていたのだが、細かいことまでは知らないとのことだった。
影治がその場でスケルトンの巣を放置して一旦拠点まで戻ってきたのも、この神聖魔術を試そうと思い立ったからだ。
アンデッドにしか効果がない魔術なら、ゴブリンなどに試し撃ちをしても効果が分からないかもしれない。
スケルトンを発見した今なら、丁度いい試し撃ちの相手になる。
また影治は最初に天使系の種族を選んでいる。
天使といえば神聖なイメージがあったので、自分なら神聖属性も使えるんじゃないか? という当て推量もあった。
「まあ、それだけじゃなくて作業も並行してやらんとな」
今回の遠征には、ゴブリンのドロップを集めるという目的もあった。
それなりの数のゴブリンを狩ることが出来たので、ゴブ布やゴブ糸なんかも目標量以上に確保出来ている。
それらの素材で影治が作ろうとしていたのは、ドナの衣服だった。
ドナは未だに出会った当初と同じ服を着ているのだが、これがまたゴブ布服を着ている影治より更にぼろっちい。
元の布は一応麻か何かが使われているようなのだが、何十年も着古したかのようにあちこちほつれたり破れたりしているので、地肌がチラチラ見えてしまっているのだ。
本人は余り気にしていないのだが、これから先成長もしていくだろうし、影治としてはここで一旦服を新調したかった。
「って訳で、また何日か拠点に籠った後に、あのスケルトンの巣に向かうぞ」
「おー!」
元気のいいドナの声が返ってくる。
それから影治達は一週間程、拠点での生活を送った。
影治はドナの服作りや、神聖魔術の練習を中心に。
ドナは遠征の時の反省点を指摘されながら、より実戦的な戦闘訓練や趣味の粘土細工。それと最近はまりはじめた木工などをしながら日々を過ごす。
「……という訳で準備も整ったから、スケルトンの巣穴に行くぞ!」
「ほねほねー!」
ノリがいいのか、底抜けに明るいだけなのか。
影治がテンション高く何かを叫ぶと、ドナもそれに乗ってきてくれるので、密かに影治はそのことに気分を良くしていた。
「うむ! 今日もドナは元気がいいな!」
「ドナ、元気!」
「元気なのは良いことだ! さて、ドナの服はまだ出来てないが、俺の神聖属性の魔術修得は成った! 後はこいつをあの白い不健康そうなツラした奴にお見舞いしてやるぞ」
「エイジ、スケルトン不健康違う。もう死んでる」
「はっはっは!」
笑いながらも準備はしっかり整えていく影治。
そして拠点を出てから数日後。前回引き返したスケルトンの巣穴近くにまで戻ってくることが出来た。
「で、魔物の巣には何かソレっぽいものがあるんだったな?」
「うん。村の近くに出たコボルトの巣。中にコボルトの毛皮で出来た、丸っこいのあったって聞いた」
「丸っこいの? なんじゃそりゃあ」
「ドナも話聞いただけ、よく分かんない。でも、それ壊すと魔物出なくなる」
「……それって例えば、このスケルトンの巣にあるソレっぽいのをあの村まで持ってけば、あの村はホネホネフィーバーになるってことか?」
「ほねほねふぃいばあ? はよく分かんないけど、シンボルは移動出来ないって聞いた」
「ふうん、シンボルねえ。まあまずは周りに沸いてる骨達をどげんかせんといかんな」
「どげんかするー!」
ドナは影治が時折言葉に混ぜる日本語を、連呼して覚えたりすることがある。
今もどげんかするって何? と影治に尋ねていた。
「ああ、もう。そんな余計な言葉は覚えんでいい! まずは俺の修行の成果を見せてやるぜ」
例の巣穴の入口には、歩哨のつもりなのかスケルトンが2体突っ立っている。
どちらも錆びた槍を手にしているので、無手のスケルトンよりは強い。
「まずはこれだな。食らえい! ホーリーアロー!」
影治が初手に放ったのは、白い光で出来た矢状のエネルギー的な何かを放つ単体攻撃魔術、【白光矢】だった。
見た目にも攻撃用魔術だと分かりやすいこの魔術だが、影治は試しに自分自身にこの魔術を撃ってみたが、見た目ほどの威力は出なかった。
その様子を見ていたドナが、自分にも使ってみてというので恐る恐る試してみたが、ドナも「少しだけ辛かった」という程度で、やはりダメージはそれほど出ていない。
しかしこのスケルトンの巣穴に来る道中で、ゴブリン相手に試してみたら結構なダメージを与えられることを発見している。
攻撃した箇所に穴が開くとかそういったことはないのだが、ウィンドカッターと同じかそれ以上のダメージをゴブリンに与えることが出来ていた。
であれば、アンデッドたるスケルトンなら更なる効果を期待出来る筈。
そしてその推測はどうやら正しかったらしい。
「ぬ? 流石に一発では沈まんか。ならもう一発だ! ホーリーアロー!」
影治のホーリーアローを食らった槍スケルトン――槍スケは2発で沈んでいく。
自分達やゴブリンに放った時とは違い、スケルトンの場合は着弾箇所が蒸発するように煙を上げて破損していた。
「これは効いてるっぽいか?」
「エイジ、ドナも戦いたい!」
「あー、ちょっと待ってくれ。まだ試したいことがある」
影治はそう言って、近づいてきたもう一体の槍スケからの攻撃を躱しながら、ウィンドカッターを放っていく。
「3……4……、4発も撃たないと倒せないか。これはホーリーアローが弱点だったせいか、或いは風属性に耐性があったのか。はたまたその両方が重なった結果なのか」
態々属性なんてのが存在する位だから、魔物ごとに弱点や耐性などがあるのではないか? と影治は睨んでいるが、試す対象が少ないので未だに仮説でしかない。
「っと、騒ぎを聞きつけたのか団体さんがお出ましだ。ドナ、出来るだけ武器を持ってない奴を中心に無理せず戦ってくれ。囲まれたら逃げるんだぞ?」
「わかった!」
入口付近で騒がしくしていたせいか、洞穴の中から追加で8体のスケルトンが出て来る。
その内、無手スケが2で剣スケが3。
槍スケが2に斧スケが1という構成だった。
剣スケの2体と、槍スケの1体は武器だけでなく、錆びた盾も装備している。
「ふむ、団体さんでお出ましとなると、こいつを試してみるか。ホーリーライト!」
影治が魔術を発動させると、ライトスフィアとは色合いの違う光球が生み出される。
光属性のライトスフィアは黄色味を帯びた色をしているのだが、【白灯】――影治が今しがたホーリーライトといって発動させたものは、白いLEDライトのような色をしていた。
このホーリーライトは、元々は攻撃用に生み出したものではない。
最初にホーリーアローを覚えた影治が、「この白い光で明かりとか出せねーかな?」という思い付きで発見した魔術だ。
拠点で試した時は、明るさの点ではライトスフィアより強く感じる程度の照明魔術でしかなかったが、アンデッドにならもしかして効果あるかも? と思い影治は試していた。
「カタカタカタ……」
「ふむ? ダメージがあるかどうかは分からないが、若干動きが鈍った気がするな」
「たしかに!」
1体だけならともかく、8体もいると動きの若干の変化であっても気づきやすい。
ドナも既に無手スケと戦闘を始めていたが、ホーリーライトの効果を実感しているようだ。
「となると、こいつも効果ありそうだ」
そう言って影治は無手スケ以外のスケのターゲットを自分に集め、ヒラヒラと攻撃を躱しながら次なる神聖魔術を放った。