第35話 スケルトン
「ふぅっ……たおしたあ!」
続いてドナも可愛らしい声を上げて勝利を喜ぶ。
だが勝利こそ出来たが、ドナは何度か攻撃を食らってしまっていた。
特に杖持ちゴブリンの放った【炎の矢】が左腕をかすっており、火傷したような状態になっている。
「ああ、ちょっと待て。ケガを治してからだ」
見た目にケガを負っているように見えるドナだが、戦闘後の高揚感からかそのことを意に介さずドロップの回収に向かおうとするので、影治が慌てて止める。
「ヒール、ヒール……」
「エイジ、もうだいじょうぶ」
「いや、だが火傷の後がなぁ……。ううん、ちょっと待ってくれ」
影治の【治癒】によってダメージの回復は出来ていたが、腕の火傷跡は少しよくなった程度であり、それ以上はヒールでは治らなかった。
そこで影治は火傷を治すだけの回復魔術を模索する。
「ええと……こうか?」
何度かの試行錯誤しながら、割と短時間で軽度の火傷を治す【軽度火傷治癒】の魔術を修得する影治。
この魔術によって、ドナの腕の火傷を綺麗に治すことに成功した。
「わ、火傷なくなった」
「うむ、またもや新しい魔術を覚えたぞ! 名付けてバーントリートメントだ!」
新たな回復魔術を覚えてご機嫌な様子の影治。
火傷を治した後は、二人してゴブリンのドロップを集めていく。
「ゴブ布、いっぱい」
「うむ。こんだけあれば、十分だろう。拠点に帰るぞ!」
「帰る!」
今回の目的であったゴブ布集めや攻撃魔術のテストなども終えたので、洞窟へと引き返すことにした二人。
帰りは来た道ではなく、少し違う道を通りながら川を目指す。
その道中での出来事だった。
「エイジ、なんか……いる」
「ん? ゴブリンか角兎かあ?」
「わかんない……。臭い、あんましない」
「ってことは新種の魔物か? 分かった、ドナは俺の少し後ろをついてこい」
「わかった」
敢えて自分から近寄ることはなかったかもしれないが、好奇心に負けて影治はドナが感じた謎の気配の下へと進んでいく。
程なくすると、二人はドナの感じた気配の主を発見する。
それは、動き回る骨格標本だった。
「骨……だな」
「ほね……だね」
その骨格標本は標本にされて晒し者にされるのが嫌だったのか、呪縛から解放されたかのように動き回っていた。
「っていうか、あれはスケルトン……だな?」
「そうだと思う」
以前ドナと魔物について話した時に、影治はアンデッドについて尋ねたことがあった。
どうやらこの世界にはアンデッドが存在するようで、有名なのが腐った死体のようなゾンビと、肉が削げ落ちて骨だけとなったスケルトンだ。
「何してるんだろうな?」
「わかんない……けど、踊ってる?」
スケルトンは何やら激しく動き回っているのだが、一体何をしているのかが分からない。
他にはスケルトンの姿は見当たらず、ぼっちになってしまったスケルトンが寂しさの余りに踊っているのだろうか。
「カタッ!」
だが不意にその激しい動きを止めると、じっと一か所を――影治達のいる方を見つめるスケルトン。
「なんか……気付かれてないか?」
「そう……かも?」
「カタカタカタカタカタッ!」
呑気に話している二人の言っていることが正しかったようで、スケルトンはまっすぐに二人の下へと骨を鳴らしながら走ってくる。
「どうもやる気らしい。ちょっと相手してみるから、ドナはここで待機だ」
「エイジ、がんばって!」
「おうよ!」
ドナの声援に力強く答えながら前に出る影治。
しかし前に出ながらもどうしたもんかと思っていた。
「人型は人型なんだが、こうもスッカスカの体してると、ゴブリンなんかにも通じた急所攻撃は効かなそうだな……」
前世でもスケルトンとは戦ったことがなかった為、どう戦うべきか逡巡する影治。
発見したスケルトンは、武器らしきものは手にしておらず、完全に動く白骨化死体といった様相だ。
見た目通りならばそれほど力もなさそうに見えるのだが、ゴブリンなんかも子供と同じくらいの背丈の割に結構な力がある。
見た目で判断してはいけないなと、影治はまず相手の出方を窺うことにした。
「カタカタッ!」
顎の部分をカタカタ言わせながらのスケルトンの攻撃は、所謂普通の格闘攻撃だった。
相手に肉が付いていないだけで、影治はこうした攻撃には慣れている。
なのででスケルトンが放つ骨パンチを、次々と弾いていった。
「む、こんな見た目をしてるがやっぱ力はそれなりに強いな。普通の人がまともに受けたらあばらが逝きそうだ」
力の程はノーマルゴブリンよりは上、武器持ちゴブリンより少し上といった程度なので、これだけならドナにも相手出来るレベルだ。
「それにこんだけ骨が剥き出しだと……ヨッ!」
そう言いながら、影治はスケルトンの肘関節部分に『破拳』を放つ。
破拳は四之宮流古武術の当て身技の一つで、打ち込んだ部分から内部に力を浸透させ、破裂するような打撃を与える。
これを連続して両肘の関節に受けたスケルトンは、肘の部分からすっぽりと先が取れてしまう。
「まあスケルトンってそんな強いイメージもないし、こんなもんか」
それを見て早々に判断する影治だが、両腕を外されたスケルトンは顎骨をカタカタ言わせながら、慌てたように飛ばされた腕の骨の下まで移動する。
そして地面に落ちていた肘より先にある骨と肘の部分を合わせると、ほんのわずかな時間で元通りにくっついて動かせるようになっていた。
「おお……。なんかスケルトンっぽいなあ、それ。でも、それって左腕じゃないか?」
「カタ?」
影治に指摘されたからなのか、たまたまなのか。
スケルトンが自分の右腕を見てみると、確かに指の並びからして肘から先の部分だけ左腕になっていた。
「カタカタカタカタカタ!」
それを見てショックを受けたのか、やたらと骨を鳴らすスケルトン。
そんなスケルトンを興味深そうに見ていた影治だったが、いい加減トドメを刺すことに決めたようだ。
「まあ、どっちみちお前はもうおしまいだけど……な!」
そう言って今度は破拳を頭蓋骨に向けて放つ影治。
その一撃は見事にスケルトンの頭蓋骨を粉砕し、頭蓋内部にあった魔石を弾き飛ばす。
すると、まるで電池でも失ったかのようにスケルトンはその場で崩れ落ち、そのまま塵となって消えていった。
「やっぱ魔石は頭部にあったか。そんでもってドロップはなし……と」
「エイジ!」
影治がスケルトンを倒し終えると、すぐさまドナが駆け寄ってくる。
「思ってたよりは力が強かったが、これならドナでもいけるだろうな」
「スケルトン、ドナでもいける?」
「ああ、いけるいける」
「じゃあ、試してみる!」
「え?」
「スケルトン、まだあっちにいる」
ドナの思わぬ返しに思わず聞き返す影治。
するとまだ他にもスケルトンがいるという。
一度臭いを覚えたので、遠くから漂ってくる臭いも同じスケルトンだと判断出来たらしい。
「そっか。なら、そっちの骨の方まで案内たのむ」
「たのまれた!」
そして二人はスケルトンの魔石を回収した後に、別のスケルトンのいる方へと歩いていくのだった。




