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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第1章 獣人の少女
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第32話 ドナの初戦闘


「ゴブリン狩り?」


「そうだ。ドナも少しは戦えるようになっただろ? 今のドナなら一緒に来てもいいし、ここに残っても安心だ」


 ドナとの生活も2か月以上が経過し、影治は大分言葉を話せるようになっていた。

 特にここ2週間ほどはブレイクスルーが起きたような感じで、急激に理解度が深まっている。

 片言レベルではあるが、日常会話が普通に行えるレベルにまで上達しているのだ。


「ドナはどうする? ゴブリン狩り、一緒に行くか?」


「行く!」


 ドナも少しは戦えるようになっているのだが、それを試す相手が影治しかいないので、いまいち自分の強さがどれくらいなのか理解出来ていない。

 無理強いするつもりはなかったが、影治としても一緒にゴブリン狩りをする方がいいなと思っていた。


「じゃあ、集めておいた食料を持ってお出かけだ!」


「お出かけだ!」


 元気よく答えるドナ。

 出会った頃の生気のない顔とは大違いだ。

 その事に気をよくしながら、影治はドナと一緒に川沿いを上流へと遡り始めた。







「エイジ、ゴブリン見つけた」


「え? どこだ?」


 川沿いをしばらく歩いていると、ドナが突然そんなことを言い出す。

 慌てて辺りを見回す影治だが、ゴブリンらしき姿は見当たらない。


「臭いする。左の方……川に向かってる」


「おお、流石犬の獣人は鼻が利くんだな」


「犬じゃない! ドナ、狼の獣人!」


 犬扱いされたことに強く反発するドナ。

 最初言葉があまり理解出来ていなかった頃は、その辺りで軽く揉めたこともあった。

 影治が犬呼ばわりしていることに感付いたドナが、必死になって否定したことがあったのだ。


 影治からすると、犬と狼は豚とイノシシみたいな近縁種のような感覚なのだが、どうもドナ達狼系獣人種からすると、犬系と間違われるのは嫌らしい。

 逆に犬系獣人種が狼系と間違われても、犬系獣人種は余り気にしないのだとか。


 その説明を聞いた際、正直影治は面倒だなと思いつつも、一応普段は気を付けるようにしている。

 ただ時折こうしてポロッと零れちゃうこともあるのだが。


「そうだった、狼だったな。で、数は分かるか?」


「うーー、多分、3体?」


「なら俺が2体抑えておくから、ドナは向かって左の1体を頼む」


「っ、分かった!」


 それから二人はドナの案内で、ゴブリンのいる方へと忍び寄っていく。

 するとほどなくしてドナの言う通り3体のゴブリンが歩いている所を発見する。

 風下を意識して音を立てないように移動したせいか、まだ影治たちには気づいていない様子だ。

 内訳はノーマル2に石斧持ちが1。

 ドナは傍目から見ても分かる程に緊張しているのが分かる。


「ドナ、大丈夫か?」


「魔物のゴブリン見るの初めてだけど、大丈夫」


「そうか、なら任せたぞ」


「うん!」


「……魔物のゴブリン?」


 ドナの返事を確認し、ゴブリンに近寄っていく段階でふとドナの口にした台詞が気になった影治だが、今は目の前の敵に集中する場面だ。

 すぐにそのことを意識の外に追いやると、事前の打ち合わせ通りに影治は中央と右のゴブリンに向かっていく。


「B(HJ”DNKA!」


 影治たちに気付いたゴブリンが、今更ながらに慌てて二人の襲撃者に対応しはじめる。

 しかし影治はゴブリン2体を完全に手玉に取っており、石斧を持っていたゴブリンのその手の中に斧は既にない。

 そして影治はその状態を維持しながら、ドナの戦う様子を観察している。


「やぁっ!」


 ドナのいい感じのパンチが、ゴブリンの鳩尾(みぞおち)へと突き刺さる。

 ゴブリンやオークなど人型の魔物も、やはり人間と同じくその部位は弱点になるようで、ドナの一撃で大きく体をくの字に曲げるゴブリン。

 そこへドナが追撃で頸部や耳など、影治との急所打ち訓練で鍛えた箇所を連打していく。


「PUGABEJ!!」


 ドナの打撃にしばらくの間耐えていたゴブリンだったが、最後に首の骨を折りそうな攻撃をくらい、ようやく息の根が止まった。


「っっ! やった! エイジ、やった!!」


「ほいほい。じゃあ、追加のもう1体な」


 そう言って影治は相手にしていたゴブリンの内、元から武器を持っていなかったノーマルゴブリンの方を突き飛ばす。

 普通にパンチをするのと同じようなフォームでありながら、ゴブリンはまるで車にでもはねられたかのように吹き飛んだ。

 これは四之宮流古武術の送拳(そうけん)と呼ばれる技であり、威力よりも相手を突き飛ばして距離を稼ぐなどの目的で用いられる。


「う! がんばる!」


 師匠(影治)からの追加ゴブリンに一瞬拒否反応が出そうになるも、ぐっと飲みこんで2体目との戦闘に入るドナ。

 影治がさっさと処理せずにいたのは、このためであった。

 更にドナはその後、最後に残しておいた元石斧持ちの少し身体能力が高いゴブリンにも勝利し、今は影治の傍で息を荒くしながら深呼吸をして呼吸を整えている。



「ご苦労さん。魔術で回復させるのもいいんだが、その感覚にも少し慣れた方がいいだろう。呼吸法の練習にもなるしな」


 四之宮流古武術には四大原則というものが存在する。

 それ(すなわ)ち、「呼吸」、「脱力」、「軸」、「調気」の4つである。

 基本的にこの並び順だと、後の方の軸や調気になるほど会得が難しい。

 つまり呼吸はこの4つの中では最も修得がしやすいものと言える。


「すぅぅぅ……はぁぁぁぁぁ……」


 深呼吸といっても一息で深く吸い過ぎない感じの、少し変則的な呼吸法を繰り返すドナ。

 これは疲労を抜くときの呼吸法であり、影治から教わっていた基本的な呼吸法の1つだ。


「ところでドナ。戦う前に魔物のゴブリンとか言ってたが、あれはどういう意味だ?」


「……?」


 思い出したように影治が戦闘前の会話のことを話題に出すと、ドナはきょとんとした表情を浮かべる。

 言葉自体は通じているが、お前は何を言っているんだ? というような反応だ。


「もしかして、魔物以外のゴブリンというのもいるのか?」


 この質問をする時、影治の脳裏に過ったのはかつてのゴブリン村にあったゴブ村殺人事件のガイシャの二人だった。


「エイジ、『妖魔』見たことない?」


「よう……ま……?」


 言葉としては初めて聞くものだったが、これまでの言語データベースから凡その言葉の意味を掴むことは出来る。

 しかしその言葉が具体的にどういった意味を表しているのかは、一度聞いただけでは分からない。


「ようまとは何だ?」


「よくわかんない……けど、獣から獣人が生まれたみたいに、魔物から生まれたのが妖魔って聞いた」


「魔物から生まれる……」


 その話を聞いて、ますますあの時の死体が残されたままだったゴブリンのことを思い出す影治。


「もしかして、その妖魔ってのは体内に魔石を持っていないゴブリンか?」


「うん。妖魔も色々いるけど、みんな魔石持ってない」


「それで倒しても魔物みたいに消えないし、ドロップも落とさないんだな?」


「そう」


「やはりか……。それなら一度だけ会ったことがある」


 謎の未解決事件のまま、時効になるかと思われたゴブリン村殺人事件。

 その解決の糸口がふとした拍子に影治の下に転がり込んできた。


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