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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第1章 獣人の少女

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第31話 脱力


「よし、模擬戦やろうか」


『モギセン! やるやる!』


 体式鍛錬から始まり、基本的な当身などの攻撃方法を学んだドナ。

 急所打ち訓練で実際に打ち込む感覚を覚えると、次は影治と立ち会う模擬戦を訓練の一環として取り込むこととなった。


 すでにドナが体式鍛錬を始めてから1か月以上が経過しており、体つきも食事をしっかり取るようになったせいか、大分肉が付いてきている。

 もちろん贅肉などでなく、しっかりと引き締まった筋肉だ。


 また獣人としての基礎能力は子供とて侮れず、一般の人族の大人くらいの力は既にあるかもしれない。

 もっとも獣人といっても種族によって、その辺は大分異なるらしい。

 ただ基本的にはドナのように、肉体的に優れた特徴を持つ者が多いらしい。


『じゃあ、始めるぞ』


『今日こそ、イッポン、取る!』


『まだまだ、ドナには、早い』


『ぬぐぐ、行く!』


 影治の鼻を明かしてやろうとドナが真正面から突っ込んでいく。

 ちなみにこれまでもドナと影治は何度も模擬戦をやっており、影治が事あるごとに一本取ったとか今のは一本だぞなどと言っている内に、ドナも一本という言葉は覚えている。

 明確なニュアンスが伝わっているかは微妙だが、とにかくドナは影治から「イッポン」を取ることが最近の目標になっていた。


『ほらほら、そんな真っすぐ、分かりやすいぞ』


 体を半身にして構える影治、ドナは直線的に真っすぐ向かって拳を打ち込んでくるので、影治はそれを右手で軽く払って簡単に受け流す。


『まだまだ!』


 しかしドナは諦めずにそこから高速で何度もパンチを繰り出してくる。

 だが影治はそのどれもを躱すなり払うなりして、完全に体に届かせるようには持って行かせない。

 ドナからしたら、まるでよく滑るコンニャクのようなものを殴ってる感覚だろう。

 それほど影治の受けは滑らかだった。


 しばらくの間影治は自分から攻めに行くことをせず、ひたすらドナの攻撃を受け続けた。

 ドナの動きは全体的に野性的であり、無駄な動きが多い。

 そのせいか少女にしてはそれなりにある体力も、すぐに尽きてしまう。


『はあ……はああ……』


『どうした? もう、終わりか?』


『ぬぐぐぐ……、まだ……行ける!』


 そう強がるドナだが、すでに足元もおぼつかない状態だ。

 体に力も入らず、よろよろとした足取りで影治に近づき、ひょろっとした突きを放つ。


 パシィィンッ!


 しかしその突きは思いの他乾いた音を響かせる。

 そしてこれまでは完全に受け流されていたドナの攻撃が、この一撃だけは受け流されておらず、これまでとは違う感覚をドナに与えていた。


『お、今の、なかなか、良いぞ』


『ほん……と? イッポン……?』


『うーん、まだまだ、イッポン、じゃないな』


『うぅぅーーー!』


 息を切らしながら尋ねるドナに、影治は正直に答える。

 すると唸り声を上げたドナは、疲れからかその場で突っ伏してしまった。


「ドナにはもっと脱力が必要だな」


『だつりょく?』


『力を、入れない。これが、脱力だ』


『力、入れない? でも、それ、痛くない』


『そんなこと、ない。ドナ、腕、出して』


『うん……こう?』


『そう。それで、俺の腕を、落とす』


 右手だけを大きく上に挙げた影治はそう言うと、そのまま自身の腕をドナの肘裏部分に落とす。


『痛い!』


『今の、力、入れた奴。次、力、入れない奴』


 力を入れて腕を振り下ろしただけでも、少女の細い腕にぶつければ結構な威力になる。

 しかし次に影治が力を入れないといって振り降ろした腕の衝撃は、ドナの予想を完全に裏切った。


『~~~~~っっ!!』


 痛みの余り声が出ない程ドナはその場でのたうち回る。

 その様子を見て、かなり幼いころに父に同じことをされた日の時を思い出す影治。


『今の、力、入れてない。だから、疲れない』


『嘘! 今の、凄い、痛かった!!』


『嘘、じゃない。これが、脱力』


 はじめは疑っていたドナだったが、その後も他の方法で実践を交えて教えていくと、なんとなく脱力というものがどんなものなのか理解出来たらしい。


『ダツリョク、凄い! これ、覚えたい!』


『脱力は、難しいぞ?』


『覚えたい! エイジ、お願い!』


『ふぅぅ。まあ、練習、するか』


『やった!』


 脱力は簡単なように見えて難しい。

 力を抜いているように見えても、どこかしらで体に力が入ってしまう。

 更にそれを攻撃へと転化させようとすると、緻密な体内のコントロール技術が必要になってくる。

 特にドナのように、これまで筋力で体を動かしてきた者からすると、最初は力を抜くだけの段階でも躓いてしまう。


『……こう?』


『ダメだ。力、入ってる』


『うーーー、分からない! 力、抜く、難しい!!』


 粘土で食器を作ってた時もそうだったが、ドナは何か一つの物事にのめりこむ時の集中力が高い。

 影治も魔術の開発をしている時はそうだったが、単純な動作の繰り返しでも、飽きずに繰り返し続けることが出来る。


(この様子だと、脱力の入口部分に足を踏み入れるのはそう遠くはないか)


 教えている影治もそのような感想を抱くほどだった。

 そもそも影治が武術を教え始めたのは、最初にドナが体式鍛錬に興味を覚えたからということもあったのだが、戦う力を身に着けてほしいと思ったからでもある。


 実は影治は少し遠出をして、ゴブリン狩りをしようという計画を立てていた。

 この辺りのゴブリンは狩りつくしたのか、近場で出会うことが余りなくなっていたからだ。


 だが遠出するとなると、ドナがネックとなる。

 一緒に連れていくにしても、洞窟で留守番を頼むにしても、不安が残ってしまう。

 そこでどちらの選択を取るにせよ、ドナ自身が強くなれるよう――少なくともゴブリンと1対1で勝てる位には持っていきたいと思っていた。


(まあ、案外今の状態でもゴブリン1体程度ならどうにかなりそうだけどな)


 ただゴブリンといっても、武器を持っていないノーマルと武器持ちとでは強さが異なる。

 影治レベルになると微細な違い程度にしか感じないが、確実に力や敏捷性などに違いはあるのだ。



 ドナはこの日から体式鍛錬や模擬戦の他に、脱力の練習も始めるようになった。

 感覚的なことであるし、言葉で説明しようにもまだ簡単な単語でしか伝えることが出来ない。

 そもそも同じ日本人を相手に言葉で説明しても、なかなか上手く伝わらないようなものなのだ。


 最初に感覚を掴めさえすれば、そこからは奥に入り込んでいけるのだが、その最初の一歩が難しい。

 これは影治が新しい属性の魔術に挑戦した時の感覚に近いだろう。


 だがそれから更に1か月ほどが経った頃には、ドナはその1番最初の感覚を身に着けることに成功していた。

 まだまだそれを攻撃に完全に活かせる段階には至っていないが、一度感覚を掴めれば後はドナひとりの時でも練習は可能だ。


 影治もドナにつきっきりという訳にはいかず、食料採取や魔術の練習など他のことにも時間を取られている。

 そしてその中で幾つかの魔術を新規修得しており、それもゴブリン狩りの時に試してみるつもりでいた。

 そうして準備が整ったある日、影治は宣言する。


「という訳で、ゴブリン狩りに行くぞ!」


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