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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第1章 獣人の少女

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第29話 体式鍛錬


 ドナとの生活が始まって10日ほどが経過した。

 拠点の改良も終わり、ドナとのコミュニケーションという名の言語習得に取り組んでいた影治。

 流石に何もない所からの10日では限度もあったが、それでも影治の言葉を覚える速さや記憶力にドナは驚いていた。


 とにかくただ単語を覚えるだけではなく、これまで覚えた単語などから言葉を推測して、まるで言語学者のようなアプローチで足りない部分を補足したりしているのだ。

 実際の発音は確かめようもないが、日本でも縄文時代の言葉の再現をしてる人がいて、影治もそうした動画を見たことがあった。

 そういった経験も、多少はプラスに働いているのかもしれない。



『エイジ、それは何?』


「ん? ああ、これは四之宮流古武術の鍛錬法の1つ……ああ鍛錬って何ていうんだ?」


 身振り手振りで説明して、訓練に値する単語をドナから引き出す影治。

 影治が今行っていたのは、本人が言っていたように四之宮流古武術に幾つか伝わる鍛錬法の1つだ。


 『体式』と呼ばれるその鍛錬法は、武術をやっていない人にも馴染みのある鍛錬法で、要するに筋トレだったりランニングだったりといった体を作る鍛錬である。

 実は四之宮流古武術の鍛錬法では一番重視されていない鍛錬法ではあるのだが、それでもまずはこの鍛錬から始めて体を作っていく必要があった。


 影治の場合、勿論前世の時はしっかりとこの鍛錬法で整えられていたのだが、この新しい肉体は基礎能力は凄まじいものの、まだ磨かれていないダイヤの原石のような状態だ。

 ここから磨いて絞って削って、体を作り上げていく。


『タイシキ鍛錬? エイジ! ドナ、それやる!』


 体式はド素人のドナが見ても、体を鍛えていることが一目瞭然な鍛錬法だ。

 これも獣人の性なのか分からないが、ドナは体を動かすことが好きらしい。

 影治も体を鍛えるのは悪くないだろうと、ドナに基本的な動きをレクチャーしていく。


『はっはっはぁっ……。んぐぐぐぐ…………』


 額に汗しながらも、教えられたことをこなしていくドナ。

 それは同じ年ごろの人間の女の子と比べたら、かなり激しい運動量であった。

 だが弱音を吐くこともなく、息を荒くしながらドナは鍛錬メニューをこなしていく。


「おー、たいしたもんだ。これは俺も負けてられんな」


 ここしばらくは魔術の練習に励んでいた影治であったが、基本的な魔術を覚え、今ではそれなりに生活環境も整ってきた。

 ここらで本格的に肉体的な鍛錬を行い、魔術なしでも戦えるように調整しておきたいと思っていた。


 午前に鍛錬を行い、午後は言語習得や拠点内で出来る軽作業を行う。

 ラタンで作ったバスケットも村に置いてきてしまったので、ドナに教えながら影治は新しいバスケットを作っていた。


『エイジ、作る、とても、上手い』


「こんなん慣れだよ慣れ」


『ナレ? それは、何?』


 軽作業中にもこうして言葉の勉強は出来る。

 とにかく言葉が通じないからといって恐れずに、口を開いて話しかけ、分からないことがあったら身振り手振りで伝え、徐々に徐々に影治の言葉のレパートリーを増やしていく。


 幸い、物に溢れていた地球での生活とは違い、ここ(洞窟周辺)には物があまりない。

 なので、物の名称については身近にあるものくらいなら数も少なく、覚えやすい環境だ。

 動詞やら形容詞になると参考になるテキストなどが欲しくなる所だが、ジェスチャーだけでなく粘土板に絵を描くなどして、足りない部分を補う。


 またそうした基本的な言語の習得をしつつも、この世界に関する基本的な情報もドナから少しずつ聞き出していた。






「……ふうむ。つまり1年の日数は地球とそう変わらず、北に向かう程寒くなる。ということは、ここは北半球のどこかということか?」


 まだ分からない言葉も多いが、ドナと話していく内にドナの身の上話を聞く機会もあった。

 それによると、ドナは元々別の国にある村で家族と過ごしていたらしいのだが、ある日森の中に食料を取りに行った際に、人攫いの連中に攫われてしまったという。


 そこからしばらく馬車に乗せられて移動させられたようだったが、移動中に魔物に襲われたらしく、人攫い達がそれに対処している間に隙を見て逃げ出したようだ。

 だが助けを求めた村が、影治も訪れて酷い目に遭ったあの村であり、そこからは結局奴隷のような生活を送っていたとのことだ。


 そんなドナだが、元々は普通の村の少女だったのでそれほど深い知識を持っていなかった。

 1年がおおよそ地球と同じだというのも、まだ定かではない。

 ざっくりと360日くらいみたいな話を聞けただけだ。


 ドナも村人も大体の感覚で「1年」だとか「春・夏・秋・冬」だとかの季節の違いは理解しているが、それが実際何日あるのかだとかは詳しくなかった。

 ただ町で暮らしてるような人や商人などはそういった知識もあるらしい。

 なんでも春夏秋冬の4つの季節を、更にそれぞれ3つずつ区分しているようだ。

 地球での「月」のようなものだろう。

 「週」のような区分があるかどうかは、ドナからの聞き取りではハッキリとしなかった。


「つか、村って位だから農業を主体でやってそうなもんだが、それなのに暦に対してそこまでの知識が農民にないのか」


 農業と暦というものは密接に関係してくるものだ。

 もちろんドナ達もある程度は経験則などで把握しているのだろうし、村の大人なら実はもう少し詳しい知識を持つ人もいるのかもしれない。

 ドナひとりからだけの話では、そこら辺がハッキリと見えてこなかった。


「でも何も知らない俺よりは遥かにマシだ。ドナ、『もっと』、『教えて』」


『分かった。何、聞く?』


「んーそうだな……。魔術のことについて何か知ってるか? 魔術……これのことな」


 そう言って魔術と言いながら、ライトスフィアやブローイングエアーなどを使っていく影治。

 幾つかの種類の魔術を使ったのは、その魔術単体の名前を聞きたいからではなく、「魔術」という単語そのものを聞きたかったからだ。


『うーー、マージ?』


 何度か紆余曲折しながら突き止めたのは、恐らく『マージ』というのが魔術のことを意味していると思われることだった。


「そう、その『マージ』な。『それは』、『何?』」


『ううう……分からない』


 考えるのが苦手なのが、その後もウーウー唸りながら色々な質問に答えてくれたが、結局要領は掴めなかった。

 恐らく一般的な現代人に「宇宙って何?」と問われても、漠然としたことしか分からないのと同じようなものだろう。

 だが幾つか判明したこともある。


 しきりにドナは影治の魔術のことを『凄い』と言っていた。

 影治としては、恐らく基本的だと思われる魔術を使用しているつもりだけのつもりだったのだが、それにしてはドナの反応は強かった。

 思えば最初洞窟へと帰還する途中も、魔術を使った時に大きく騒いでいた。


「魔術の使い手が少ない……少なくとも村レベルだと使い手は余りいない……ってことか?」


 ただ考慮すべきはドナが獣人だという点だ。

 影治のイメージする獣人は、魔法とかそういったものが苦手という印象がある。

 それも規模の小さな村レベルとなると、更に使い手が珍しいのではないか、と。


 あと考えられるのは、呪文の詠唱などを行っていない点。

 これは最初からそういう風に使ってきたのでこれが普通だと思っていたが、もしかしたらそうではない可能性もある。

 ひょっとしたら、一般的には呪文の詠唱の他にも魔法の杖みたいなのが必要だ! って可能性もあるかもしれない。


「ま、結局はドナひとりから得られる情報には限度があるか」


『う? エイジ、何?』


「いいや、何でもない。さ、『食事』、『始める』ぞ」


『肉! 肉、欲しい!』


「あー、はいはい。ちゃんと『野菜』も『食べろ』よ?」


 余りドナから得られた情報だけを鵜呑みにするのもよくはないだろう。

 そう思い直し、影治は夕食の準備に取り掛かるのだった。


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