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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第6章 ヴォーギルからの客人

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第251話 心眼


「ぴぃ!」


「あ、あの……ただ……いま?」


 ピー助に連行されて部屋へと戻ったティア。

 そこでは最初にティアが目覚めた時と同じように、ベッドの上で座禅を組んで瞑想している影治がいる。


「あの、エイジ?」


 最初の呼びかけに反応がなかったので、再度呼びかけてみるティア。

 しかしそれでも反応が何も返ってこない。

 自前の羽でクルリと影治の正面に回り込んでみると、瞳をしっかりと閉じて集中している様子が窺える。


「ぴぃーぃ?」


 ピー助も様子のおかしい影治に「どーしたの?」と疑問の声を上げるが、やはり反応はない。

 ここまで来ると、単に無視しているとかではなく、本当に気付いていないのだと二人も気付く。


「エイジ……、まさかその体勢で寝てんの?」


 影治の周りをあてどなく旋回しながら、疑問の声を上げるティア。

 だが見た目には寝ているというよりかは、強く集中しているだけのように見える。

 声が届いていないのも、よっぽど集中しているからだろう。

 しかし、幾ら影治が強固な集中力を持っていようと、その状態が永遠に続く訳はない。


「――――ッッ!?」


 影治を主星として、ティアが10週ほど影治の衛星軌道上を旋回した時、集中が解けたのか劇的な反応を影治は見せた。

 肝が据わっているのか、咄嗟の出来事に驚いたり動揺したりすることがない影治が、珍しく目が合ったティアを見て驚きの余り硬直する。


「あっ、起きたー?」


「……う、うむ」


 最初部屋に戻ってきた時は緊張していたティアだったが、影治の周りをぐるぐる飛んでいるうちに、段々気持ちも落ち着いてきていた。

 それに比べ、影治は珍しく動揺状態をすぐに立て直すことが出来ず、短くティアに答える。


「あの……さ。あたし、気付いたの」


「む、そうか。気付いたか」


「うん。あたし、エイジの役に立つんだって躍起になってたけど、本当の望みは違ってた。そのことに、気付いた」


 珍しく後を引くくらいに動揺していた影治だったが、話をしていくにつれ徐々に落ち着きを取り戻していく。


「エイジが言ってくれたように、あたしはエイジの傍にいたい。でも、ただそれだけだと嫌なの。だから明日からも魔術の練習は続ける」


「それはいいんだが、今日みたいな無茶は……」


「分かってる。もうあんな風に無茶はしないわ。……もしかしたら、別の場面で無茶しちゃうことはあるかもしれないけどね」


「俺からすると無茶はしないで欲しいんだがな。でもまあ、そん時は俺の目の届く範囲でしてくれ」


「うん……。そーするわ」


 影治が仲間の無茶に過剰なまでに反応するのは、ドナの件が大きく関係している。

 それは心の内に刻まれた抜けることのない楔だ。

 きっとこの先、聖光教や帝国の連中を皆殺しにしたとしても、それは変わらないだろう。


「ところで、さっきは何してたの? なんか呼びかけても全っ然反応しなかったけど」


「ぬ……。それは、色々考えていく内に、段々頭の中が空っぽになっていってな。瞑想してるみてえな状態になって……」


「になって?」


「奥義を開眼した」


「ふんふん、奥義を開眼……って、何よそれ!? 何でそういう流れになる訳ぇ?」


「いや、俺もまさかここで来るとは思わなかったんだけどな」


 ティアが最初に目覚める前に影治が行っていたのも、その奥義を掴むためのものだった。

 直前のティアとの話で色々考え込んでしまった影治は、中々結論の出ない脳内会議の果てに、思考がポロポロとひとつずつ剥がれ落ちてしまっていた。

 それが結果として、奥義の会得に繋がった。


「奥義ってどんな奥義なのよ?」


「んー、まあ厳密に言うと元々奥義そのものは会得していた。今のは、その奥義に闘気術を掛け合わせた感じだ」


「だーかーらー! その奥義ってのがどんなもんなのよ? 闘気術を使うってことは、なんかすごそーってのは分かるんだけど」


「元の奥義の名前は心眼と言ってな。目や耳に頼らずに、気配だけを察知して周囲の状況を掴むという技だ。真伝のひとつであるこの技は、生物だけでなく周囲の地形状況なども察知することが出来んだよ」


「それって目隠しされた状態でも、ふつーに動けるってこと?」


「簡単に言えばそうだな。だが通常の心眼だと、地面の僅かな出っ張りなどには気づきにくい。視力が低い人のように、ぼんやりとしたものになっちまう」


 理を1歩踏み出した先の領域である真伝では、それが精一杯だった。

 それでも影治の心眼はかなり精度が高く、前世でも目隠しイヤホン鼻栓の状態で、四方八方から投げ込まれるボールを躱し続けることが出来た程だ。


「ふううん? あたしは武術とかはよく分かんないけど、強い人って気配を感じ取ったりするんでしょ? それのことよね」


 前世では真伝の領域にあった心眼だが、この世界では闘気を使った似たような技術が存在していた。

 闘気術の扱いを日に日にマスターしている影治は、最近闘気術と四之宮流古武術のミックス作業を試み続けている。


 四之宮流古武術は、まるで最初から闘気術の存在ありきで考えられたのではと思わせるほど、闘気術との相性がいい。

 ……というよりは、純粋に闘気術の特性が四之宮流古武術だけに留まらず、あらゆる流派の武術と相性がいいだけかもしれない。

 ただ剣を振るだけの技術でも、そこに闘気術を加えることで、鉄をも切断する剣となるのだ。

 それは何も攻撃のための技だけでなく、心眼のような気配を察知するだけの技にも大きな影響を与える。


「そうだな。それを心眼と組み合わせた技を会得した。……あれは中々得られない体験だったぜ」


 心眼の発動中に、周波数の違う闘気術という異物が心眼と一体となった瞬間。

 影治は世界の真理の一旦を垣間見た気分を味わっていた。

 意識を向ければ、空中を舞う小さなホコリひとつですら感じ取れるほどの、超精密な空間把握能力。


 それだけでも心眼を超えたと言えるのだが、更にこの超知覚力は範囲内の者の感情までをも読み取ることが出来た。

 尤も精細に何を考えているのか分かる訳ではない。

 怒りだとか喜びだとか、そういった大まかな感情とその強さを感じ取るに留まる。


 先ほど影治が珍しく動揺を見せたのも、奥義を会得した時の壮絶な体験と、発動した奥義によってティアの感情を強く感じ取ってしまったからだった。


「あんな驚いたエイジ、初めてみたわ。よっぽど凄かったのね」


「ああ。もっと闘気術を磨いて行こうって思ったぜ」


「ぴー、ぴぃ!」


「ん、ああ。ピー助がティアを連れ戻してくれたのか。ありがとな」


「ぴぃ~」


 影治に頭を撫でられたピー助は嬉しそうな鳴き声を上げる。

 その様子を見たティアは、思わずといった調子で口を開く。


「あ、あたしもたまには撫で撫でしてよ!」


「んん? ティアもか?」


「う……、えっと……」


 思っていたことをそのまま口に出してしまい、顔を真っ赤に染めるティア。

 そのまま消え入りそうな声でしどろもどろしているティアに、手を差し出して優しく頭を撫でる影治。


「あ……」


 それは絵面だけ切り取ると、少年がお人形遊びをしているような光景だった。

 影治としては、小さな体のティアに迂闊に触れてしまうことで、傷つけてしまうのではないかという思いもあって、これまでこういったことはしたことがない。


 優しく頭を撫でる指先からは、思いのほか高いティアの体温が伝わってくる。

 その温かさを心地よく思いながら、しばし影治は頭を撫で続けるのだった。








「えへっ、えへへへへへ……」


「エイジ様。ティアの様子がおかしいのですが、どうしたんです?」


「……放っっておけ。それより、明日もまた領主の館で魔術訓練すんぞ」


 あの後、夕食の為に向かった食堂でリュシェルと合流した影治。

 時折影治から料理を教わっているゼゼーナンは、影治がこの宿に滞在するようになってから更に料理の腕を上げている。


 影治が米料理を好むことから、チャンパ(米っぽいの)を安定的に購入できる商会に話をつけ、教わった料理から自分なりにアレンジを加えた料理が今もテーブルに並んでいた。


 その席での話題は、明日の予定についてだ。

 影治とティアとの諍いについては、幸せそうな表情のティアと一緒に降りてきた影治の様子を見て、リュシェルももう解決したのだろうと、そのことを話題に出したりはしない。

 代わりに明日も今日と同じ予定だということが、影治の口から伝えられる。


「分かりました。私も思う事がありますので、植物魔術を更に鍛えてみようと思います」


 リュシェルが影治の決定に異を挟む訳もなく、明日の予定は決まった。

 そして夕食後もずっと浮ついた状態のティアを、面倒臭そうに扱いながら次の日を迎える。


 本日も魔術の訓練という名目で、領主の館に通される影治たち。

 だが影治の狙いは、魔術の訓練だけではなかった。

 後もうひとつの狙い。それはとある人物と出会うことであり、その目論見は果たされることとなる。



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