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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第6章 ヴォーギルからの客人

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第249話 役割


「ん、ううん……。ここは……」


 魔力酔いによって気を失ったティアが目を覚ます。

 ぼやけた様子で眼前の光景を見ていたティアだが、すぐに意識を失う前の光景とは別の場所であることに気付く。


「ここって……宿の中?」


「ようやく起きたか」


「うひゃい!」


 ティアは部屋の中に配置されているテーブルの上に寝かされており、そのテーブルの近くにはベッドが置かれている。

 影治はそのベッドの上で座禅を組んでおり、互いの距離はそれなりに近かった。

 そのため目覚めたばかりのティアは、急に近くから聞こえてきた声に背筋をビクンとさせて驚く。


「エイジ……。なんであたしここにいんの?」


「覚えてないのか? マジックポーションの飲みすぎで魔力酔いになって、そのまま気を失ったんだよ」


「魔力酔い……。う……、そうだった……わね」


 目が覚めて状況も把握出来てきたようだが、顔色は余り良いとはいえない。

 気を失うという形で強制的に休息を取らされることになったものの、まだ復調したとは言えないようだ。


「魔力酔いの症状は個人差があるらしいが、気を失うことはそうそう無いってリュシェルが言ってた。お前は無理しすぎたんだよ」


「ッ! そりゃあ無理だってするわよ! あたしだけ……あたしだけ役立たずなのは嫌なのよ!」


「ええぇぇっ? いや、別にティアのことを役立たずだなんて思ってねえんだけどな……」


「何でよ! オーク襲撃の時、あたしを置いていったじゃない!」


「そりゃまあ、あん時は危険だったからな」


 悲痛な色を浮かべながら叫ぶティアに、影治は至極当然といった様子で答える。

 それがますますティアの心をざわつかせた。


「それが役立たずってことじゃない!」


「お前の言う『役』ってのは、そもそも何のことを指してるんだ?」


「何って……、勿論敵を倒したりとか仲間の危ないところを助けたりとか……そういうことよ!」


「なるほど。お前はそういう役割を演じている訳だな?」


「……どういう意味よ?」


 確認するような影治の言葉を受けたティアは、一瞬何を言われたか理解出来ないまま真意を問い返す。

 大分暖まっているティアとは真逆に、平素と変わらない様子の影治がその問いに答える。


「俺はお前に一緒に戦ってくれと頼んだ記憶はない。だからお前もああいった場面で無茶して前に出る必要はないんだぜ」


「――――ッ!!」


「これまで潜ってたダンジョンの魔物くらいならいいんだけどな。あん時は少なくともオークキングっていう強力な魔物がいることは分かってた。だから前に出るなと言ったんだ」


 あの時待機を命じたのは配慮であったと、心配していたのだと語る影治。

 しかしその言葉はティアには逆に作用する。

 ティアは心配をしてもらいたかったのではない。

 一緒に戦おうと言って欲しかったのだ。


「じゃあ……、エイジにとってのあたしの役割って何なのよ?」


「それは……」


 そう尋ねられて影治は言葉が詰まる。

 元はといえば、押しかけ女房的に仲間に加わったティアだ。

 だが影治が強く拒絶すれば、仲間に加わらないまま妖精の里を後にする未来もあったかもしれない。


 何故そこで自分はティアを拒まなかったのか。

 今まで深く考えてこなかった点を問われ、ジッとその答えを内から見出そうとする。

 だがここでの沈黙はますますティアの態度を硬化させた。


「もう、いい! どーせエイジにとってあたしなんて、いてもいなくても同じなんでしょ!」


「んなことはねえ! お前は……お前はただ傍にいてくれればいい。あれをしろ、これをしろなんてのは求めてねえんだよ!」


 ある種プロポーズのような言葉も、今の頑なに心を閉ざしたティアには届かない。

 先程のティアの質問に即答できなかった影治だが、傍にいてくれればいいというのは偽らざる気持ちだった。


「そーなんでしょうね! 何でも出来ちゃうエイジには、あたしなんかの手助けなんてただの邪魔でしかないんでしょ! もういい! 出てく!」


 そう言うなり、ティアは開けたままになっていた窓から外に飛び出していく。

 窓の大きさは影治の体格なら十分通れる余裕があったが、ベッドに腰掛けたまま影治はただティアが飛び去っていった窓を見つめる。


「……はぁぁぁ。どうしたもんかな」


 前世も含めると、数十年の時を生きている影治。

 だがその大半が無人島での生活であり、そこに至るまでの暮らしでも人付き合いというのが苦手……というか、相手の方から離れていくことが多かった。


『一般的な武道や格闘技にも学ぶべき点は多い。特にお前にはこういったやり方は打ってつけだろう』


 そう父に言われ、柔道や合気道。

 空手やボクシングジムなど、様々な武術に通じる習い事に通わされた、幼い頃の影治。


 それは確かに影治の武術の幅を広げることにはなった。

 しかし順風満帆だった訳ではない。

 驚異的な速度で物事を吸収する影治は、習いに行った先にいた練習生たちの心を、片っ端からへし折りまくった。


 無論意図的にそのようなことをしたのではない。

 純粋な才能の差によって、同じ教えを受けても習熟度合いに天と地ほどの差が生まれてしまったのだ。

 それは同時期に入門した者だけでなく、1~2年辺りの先輩ならわずか数日の練習で飛び越えていく。


 あるボクシングジムでは、上達の早い影治を気に食わなかった練習生たちが、コーチのいない時を狙って影治とスパーリングをしたことがあった。

 本来コーチのいない場所でのスパーリングは禁止されていたのだが、影治を気にくわないと思っていた者達が共謀して、その場を整えたのだ。


 しかも10人の相手と3Rずつ戦うという明らかに無茶なルールを、「これはこのジムの恒例行事だ」と言って、拒否権すら与えない。

 だが影治は平然とこれを受け、その態度がますます先輩の練習生たちをイラつかせた。


 そして行われた地獄のスパーリング。

 本来その地獄を見るのは影治ひとりであったハズだが、結果として地獄を見たのはスパーリングに参加した先輩たちだった。


 まだ小学生だった影治を相手に、中学生だけでなく高校生まで加わったスパーリング。

 だというのに、影治はほとんど息も切らさず、1Rで相手を次々と沈めていった。

 初めは息巻いていた先輩たちも、途中からはすっかり戦意を喪失してしまっていた。

 だが影治は相手の棄権を許さず、リング外まで追いかけて参加者を地獄に落とす。

 自分から問題を起こそうとはしなかったが、このような「特別扱い」を受ければ相応の仕返しはする。

 結果として、次の日にはその「恒例行事」に参加していた全員がジムを辞めた挙句、影治もジムを辞めさせられることになった。


 そうした影治の幼少時代。

 人との接触が少なかった中、よく言われた言葉があった。


『お前みたいな何でも出来るやつに、出来ない奴の気持ちは分かんねえんだろうな』


『才能のある奴に何言っても通じねえだろうぜ』


『ちっ、バケモノが』


 言い方は様々だったが、皆が皆、影治のことを同じ人間として見てはくれなかった。

 それは家族であるはずの父親ですら同じだ。


『お前なら死んでも死なない。もっと厳しい訓練に移るぞ』


 悲願である神伝の領域。

 その頂きに己では辿り着けないと痛感していた父は、息子に希望を見出した。

 それがしごきというのが生易しく聞こえるほどの、狂気すら孕む指導を行わせる。



『そーなんでしょうね! 何でも出来ちゃうエイジには、あたしなんかの手助けなんてただの邪魔でしかないんでしょ! もういい! 出てく!』



「この世界でも同じ言葉を聞くことになるとはな」


 別に影治は今世でも前世でも、そういった言葉自体に傷ついたりはしていない。

 肉体だけでなく精神的にもタフな影治は、ただただ言葉どおりに受け止めるだけだった。


 ただ、ティアには傍にいてほしいだけ。


 最初仲間になった頃は、ただやかましい同行者が増えたな程度の認識だった。

 だがあれから数か月以上一緒に過ごし、影治の中でのティアの扱いは変わっている。

 家族を抜かせば、これほど長期間一緒に過ごした相手はほとんどいない。

 チェスやピー助は別枠として、それこそドナくらいであろう。


「グィィィ……」


「ぴぃぃ」


 ベッドに腰掛けた影治の膝部分に前脚を乗せ、慰めるようにポンポンと膝を軽く叩くチェス。

 そんなやたら人間臭いチェスに対し、いまいち普段何を考えてるのか分からないピー助。

 だが今日ばかりはピー助も、神妙な様子で小さな鳴き声を上げる。


「ピー助。ちょっとアイツの様子を見てきてやってくれ」


「ぴぃ!」


 影治に命じられ、先程ティアが出て行った窓から外に飛んでいくピー助。

 チェスと共に部屋に残った影治は、らしくなく「はぁ……」とため息を吐くと、ゴロンとベッドに横たわるのだった。


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