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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第6章 ヴォーギルからの客人

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第247話 植物魔術修得


「うぅぅ、もういっちょおおおおおお!」


「気合入ってんなあ。んじゃ行くぞ? 【風の槌】」


 影治の放った【風の槌】をまともに受けるティア。

 多重ではなく単発で放たれたものだったが、影治は基本的にどの魔術も普通の人より威力が高い。


 基本8属性の適性は魂環の書によって大分失われてしまったが、各魔術適正が高い影治の魔術は強力だ。

 ティアは先ほどからそんな影治の【風の槌】を何度も受けていた。


「次は、あたしの番! 【風の槌】!」


 そしてお返しとばかりに、影治にも【風の槌】が見舞われる。

 何をしているのかといえば、傍目からは狂気の沙汰としか思えない、魔術の訓練であった。

 依頼を終えて帰ってきたのが昨日のことだというのに、翌日にはこのようなキツイ訓練を行う影治とティア。

 これも昨日のティアの発言を受けてのものだ。


 訓練場所として、領主の館内の訓練場を借りてのこの荒行は、周囲の騎士たちの注目も大きく集めている。

 また訓練を行っているのは、影治とティアだけではなかった。


「エイジ様、行きます! 【樹柱挟撃】!」


「ぴぃ! ぴぴぴ!」


「い、行きますわよ!」


 リュシェルからはクラスⅦの強力な植物魔術を撃ってもらう。

 未だ植物魔術は覚えていない影治だが、リュシェルからの強力な植物魔術を受ける度に、自分自身の内に植物属性の力というか、魔力的感覚というものの理解が進んでいた。

 この調子だと、植物属性への魔力変換と、クラスⅠの植物魔術の修得の日は近いだろう。


 ピー助からは、流石にクラスⅨの光魔術を食らいまくるのは影治でも危険なので、クラスⅦの【光の柱】を撃ち込んでもらっている。

 つい先日にクラスⅨの領域に達したばかりだというのに、ピー助はそこで止まらず、更なる上を目指していた。


 ちなみに影治もピー助に対して光魔術を撃ち返しているが、流石光の上位精霊だけあってか、ピー助にはほとんどダメージが入っていない。

 しかもただ効いていないだけでなく、光属性の魔力の一部を吸収していた。


 といっても、それによってピー助の魔力が回復する訳ではない。

 リュシェルによると、精霊は大気中の微量な魔力を取り込んで力を増していくらしいのだが、精霊術士は同じ属性の魔術を精霊に使用することで、成長を促進させることがあるとのことだった。

 尤も通常は、態々ダメージを与えるような魔術は使わないということだが。


 最後のカレンは他の3人に比べるとまだまだ未熟だが、水魔術と土魔術を影治に向けて放っている。

 そして影治も領主の娘だということを全く気にしていないかのように、お返しに水魔術と土魔術を返す。



 この鬼のような訓練法は、一部の魔術師の間では知られているものの、それを実行しようとする者は皆無だ。

 だが影治はこれまでの経験から、普通に魔術をその辺に無造作に無対象に使用しまくるよりは、こちらの方が経験を積めている感覚を得ている。

 それは、無尽蔵な魔力で魔術を使用しまくることが出来た影治だからこそ、感覚として実感出来たといえよう。


 これまで影治が得た知見を総じると、魔物相手……それも脅威度の高い魔物相手に魔術を使用するのが一番熟練度の上がりが早く、次点で自分で使った攻撃魔術を自分で食らうというドMチックな訓練法。


 これは攻撃魔術を使用するのと受けるのとで、一石二鳥の効果が得られるからだと思われる。

 ただ自分に対して攻撃魔術を使用するのは、他者から使用されるより恐怖を感じるし、度胸も必要だ。


 そして他者に攻撃魔術を掛けてもらうだけでも、その属性の熟練度というべきものが僅かに向上する。

 といっても、なん十発ともらっても実感出来ないほどの僅かなものだ。


 これは先ほどリュシェルから植物魔術を撃ちこんでもらっていたように、自分の使用出来ない属性魔術を修得するのに、かなり有効な手段ではないかと影治は感じている。

 その属性を使用できる術者が必要にはなるが、何もない状態から新しい属性を覚えるよりは、かなり修得の手助けになるだろう、と。




「エイジ様。大分魔力も消費しましたので、最後に私の使える最大クラスの魔術を使用したいと思います。周囲の皆さんはエイジ様から離れてください」


「おう! ドンと来やがれ!」


 しばらく魔術の撃ち合いを続けていた影治たち。

 リュシェルもかなり魔力は多い方なのだが、ハイクラスの魔術を連続使用していたので、大分魔力を消費していた。


「では……参ります。【荒れ狂う不可視の茨】」


 オークとの集団戦の際にも使用していた【荒れ狂う不可視の茨】。

 クラスⅧの魔術としては地味……というか、その性質から全く何が起こっているのか見えないが、効果範囲内ではその名の通りの不可視の茨が幾つも暴れ回っている。


 しかも本来は集団に対して使用するものなので、茨の数は相当多い。

 だというのに、影治はその無数の不可視の茨をどのような手段を持ってしてか、躱し続けていた。

 だが周囲の者からすると、茨が見えている訳ではないので、ただ影治がひとりで派手に動き回っているだけのように見える。


「あの……エイジ様。まさか不可視の茨をそこまで回避できるとは思ってませんでしたが、それでは目的が変わってしまうのでは?」


「む、そうだった。これはこれで無数の敵に囲まれた際の訓練にもってこいだが、今は攻撃を食らうのがメインだったな」


 激しく体を動かしながらリュシェルの発言に返答する余裕まであった影治だが、本来の目的を思い出し、その場で足を止める。

 すると、途端に影治の全身に不可視の茨の鞭が遅いかかり、あちこちに傷が生まれていく。


 範囲魔術の上、一発の威力よりも手数を重視した魔術故に、ひとつひとつのダメージはそこまで強力ではない。

 それでも金属の鎧を抉り取るくらいの威力があり、影治の全身を痛めつける。


「ぬ、これは……」


 茨の鞭に晒されながら、瞳を閉じて集中する影治。

 全身を鞭打たれながら、体の内から発せられたような熱を感じ取る。


「キタアアアアアアアア!」


 鞭の存在が見えぬとはいえ、次々に傷が生まれては治癒魔術で癒されていく様子を見ていた周囲の者たちは、その状態で歓喜の声を上げる影治のことをドン引きした目で見ている。

 だがそんなのは知ったことかと、ようやく【荒れ狂う不可視の茨】の効果時間が切れて静かになった中、先程までより更に深く集中する影治。

 そして、


「よし、行けそうだ! そうだな、まずは……【草操作】!」


 影治が詠唱を行うと、訓練場の地面に生えていた草のひとつがウネウネと動き出す。

 それは風に揺られてのものではなく、影治の植物魔術によって動かされたものだった。


「おおお! 流石はエイジ様! 植物魔術も無事修得なされたのですね!」


「ああ。今の鞭打ちが決め手になったぜ! なんか鞭を受けてたら体が熱くなってな……」


 新たな魔術を修得したことに喜びの声を上げる影治だが、言ってる内容がアレだったので、周囲の視線は更に険しくなる。

 それはあれだけの攻撃を自ら受け続ける影治のへん――魔術修得への向上心の強さへの畏敬と、実際にそれで新たな属性を修得してしまったことに対する、畏れのようなものが入り混じった視線だった。


「む、むむむ! エイジ、次はあたしの風魔術の番よ!」


 そんな中ティアだけは、特に成果を得られていない現状に焦りを隠しきれないまま訓練の続きを求める。

 すでにカレンは魔力切れに陥り、休憩しながら訓練を眺めている。リュシェルも今のでほとんど魔力を使い切ってダウン。

 ピー助は流石上位精霊だけあってまだ魔力の余裕はあるが、途中から影治への治癒魔術を担当し始めたので、今は攻撃魔術の撃ち合いはしていない。


 そんな中、ティアが未だに魔力に余裕があったのは、昨日購入した魔晶石やマジックポーションのお陰だった。

 しかしマジックポーションは小さな小瓶に入っているとはいえ、元々の体の小さいティアからすると、普通の人間換算だと一升瓶を飲み干すようなスケールになってしまう。


 店に並んでいたマジックポーションはほとんど買い占める勢いで買ったが、それを活用できなければ意味がない。

 だがここで、妖精族の余り一般的には知られていない特性が明らかになった。


 それは、マジックポーションの小瓶をひとつ丸々飲まなくても、ティアには十分魔力回復の効果があったという事だ。

 ステータスは数値として見れないし、本人の感覚的な問題もあるので具体的な違いは不明だが、明らかに同じ量のマジックポーションを服用した際に、ティアの魔力回復量は数倍くらい上だった。


「そう言えば、パパから昔そんな話聞いたことあるよーな気がするわ」


 とティアも言っていたので、これは上位種であるフェアリープリンセスだけでなく、通常のフェアリーにも共通の、体の小さい妖精族向けの特性なのだろう。

 ともあれ、大量購入したマジックポーションを、これ以上ないほどに活用できることを知ったティアは、必死になって魔術の訓練を行う。


 しかし、ティアの必死さとは裏腹に、魔術訓練は途中で打ち切られることとなった。


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