第244話 魔導具ショッピング
店に入ってまず影治たちを出迎えたのは、いかにもといった厳つい風体をした男だった。
その男は店で買い物をするでもなく、入口のすぐ近くに突っ立っている。
影治達が店内に入ってくると、一行はまずその男の無遠慮な視線に晒された。
「…………」
しかし視線を差し向けるだけで、何か話しかけてきたり動きを見せたりすることはない。
影治たちを一通り観察すると、再び入口の方に視線を戻し、直立不動の状態に戻る。
「まさに番人って感じだな」
「ここは魔導具を取り扱う店ですからね。警備体制もしっかりしているんですよ」
「ふむ……。だが魔導具以外の品も取り扱ってるようだな」
店内には幾つもの棚が並び、そこには多種多様な商品が並んでいる。
それなりの広さがある店だが、壁際に置かれている以外の棚は成人男性の腰から胸の高さくらいなので、リュシェルなら店内を一望することも可能だ。
そこには影治の言うように、魔導具以外の品も雑多に並べられていた。
まず目についたのは各種ポーションの瓶であり、種類と等級によって区分けされて陳列している。
だが見たところ等級の高いポーションは置いてないようだ。
単に在庫がないのではなく、客からすぐ手の届くところにはおいていないだけなのかもしれない。
その他にも何らかの植物だったり、ポーションとはまた違う謎の液体が詰められた瓶。
液体の代わりに薬のような粉末が詰められているものや、魔物素材と思しきものも無造作に置かれている。
「手前の方はポーションとか素材とかが中心よ。魔導具は奥の方ね」
「これはこれはようこそシリア様。それにリュシェル様もご一緒とは珍しいですね」
入口付近で周囲を物色していた影治に、先に奥に進んでいたシリアが声を掛ける。
すると、店の奥のカウンターにいた男がその声に反応し、声を掛けながらシリアのいる方に近づいていく。
頭部が大分Uの字型に禿げ上がった男は、老境の域に達している。
背はそれほど高くなく、気弱そうな顔と口調をしていたが、シリアへと近づく足取りはしっかりとしたものだ。
「そちらはおふたりの連れでございましょうか?」
「そうよ。魔導具が欲しいっていうから案内してきたのよ。エイジ、こちらは店主のグルガンさんよ」
「これはどうもどうも初めまして。こうしてお会いするのは初めてですが、エイジさんのことは一方的に存じておりました。それこそ街中でお見掛けしたこともあったのですよ」
「何故俺のことを?」
どうやら店の常連っぽいシリアとリュシェルは、この男――店主のグルガンとは知り合いのようだ。
だがグルガンはどうやら前から影治のことを知っていたらしい。
「うちの店は冒険者の方もよく利用されますからね。それもただのゴールド級冒険者というだけでなく、フェアリーを供にし、謎の魔物を飼いならし、謎の箱を連れ歩いておられると専らの評判ですよ」
「ピー助のことは謎の魔物扱いなのかよ……」
「ぴぃーーーー!」
心外だとばかりにピー助が抗議の鳴き声を上げる。
「近くで見るのは初めてですが、私の目には魔物などには見えませんねえ。こんなに可愛らしい姿をしておるというのに」
「ぴぃ? ぴっぴっぴ」
グルガンに褒められたピー助は、あっさりと態度を翻す。
その様子を見てお前は単純だなあと思いつつ、影治は話を続ける。
「それよりも、俺は魔導具を探しにきたんだ。ちょっと見せてもらうぞ」
「それでしたら、私がご案内致します。どういった品をお求めでしょうか?」
「どういった品があるのかよく分からんから、品揃えが豊富だっていうこの店に来たんだ」
「なるほど。それでしたら、並んでいる品の説明をしていきましょう」
そう言ってグルガンは、自ら陳列された魔導具の説明をしていく。
広い店内に他の客の姿がない訳ではないが、混雑しているというほどではない。
それに奥のカウンターには別の店員が控えていることもあって、グルガンは完全に影治たちに付きっ切りだ。
「――こちらの品は、発動させますと周囲の音を遮る見えない壁を生み出します。範囲が及ぶ距離は半径1メートルから10メートルほどまで調整が可能です。壁自体は触れることは出来ませんが、音だけは完全に遮断することができます」
「お? そいつはこれまでとは毛色が違うな」
「こちらはブルックナー商会が抱える付与魔術師の中でも、特殊な魔導具をいくつも生み出している『ヴァン』の作品でございます」
「音を遮るってえと音魔術……いや。さっきの説明からすると、結界魔術か?」
「……これはこれは流石でございます。その通り、こちらの品は結界魔術を付与した品になります」
店に向かう道中でも魔導具の話を聞いた影治だが、グルガンに説明を受ける際にも追加で魔導具に関する説明を受けている。
それによると、魔導具には通常の魔導具と迷宮遺物の2つに分類できるが、通常の魔導具もさらに付与魔術師が付与した物と、魔具師が作り出したものの2つに分類できるらしい。
付与魔術には、筋力を強化するなどのバフ系魔術が豊富に存在するのだが、それとは別に物品に魔術を付与するという魔術が存在する。
魔術が付与された品には魔法陣が刻まれ、使用回数の制限があるものの、魔力を込めることで付与した魔術を発動させることが可能だ。
だが付与できる魔術は、付与魔術師自身が使える魔術しか付与出来ない。
その上、どうしても付与出来ない魔術というのも存在している。
付与魔術そのものを付与することは出来ないし、無属性魔術も付与出来ないようだ。
また【癒しの光】などの、治癒系魔術も付与できないと言われている。
迷宮遺物の中には、回復効果のある杖などがあるようなのだが、人工的に魔導具を生み出す付与魔術師や魔具師では、未だに実現できていない領域だ。
「結界魔術なんてそれ自体がかなりレアだというのに、その上付与魔術まで使える奴がいるのか……」
影治が修得している回復魔術や神聖魔術も同じくらいレアな属性なのだが、本人は余りそのことを実感していないようで、結界魔術と付与魔術の使い手に感心した様子だ。
「先ほど音魔術という発言がございましたが、実はヴァンは音魔術も修得しておりまして……。こちらには並べておりませんが、遠距離通話が可能な魔導具を300万ダンにて販売しております」
「……それってひとつだけ買っても、通話相手が所持していないと意味なかったりするじゃねえか?」
「ですので、当店では2つご購入いただいた場合には500万ダンと大サービス価格でご提供しております」
「600ダンが500ダンに割り引きなら分かるが、そこまで額がでかいと割引額もパネエな……」
これはおおよそのレートだが、500万ダンといえば5000万円相当になる。
日本とこの世界に国々とでは、経済規模からしてまったく規模が異なるので、一概には言い表せられないのだが、とにかく高額だということに間違いはない。
しかも迷宮遺物ではない魔導具である以上、使用可能回数に限度も存在する。
使用料が別途かかるとはいえ、一時期は0円で携帯が投げ売りされていた現代日本と比べると、相当な高級品だった。
「さっきの音を遮断する魔導具はいくらなんだ?」
「遮音の香炉は25万ダンとなっております」
「じゃあそれをひとつくれ。あと虫除けの小瓶を5つ。それから……収納系の魔導具は売ってないか?」
購入するものを決めたのか、グルガンに買いたいものを告げる影治。
それに対しグルガンは、一瞬何かを思い出したような顔を見せる。
どうやら収納系の魔導具について、心当たりがあるらしい。
だがそれを影治に告げる前に、ちょっとした騒動が巻き起こった。




