第240話 三大流派
「シラーシ流剣術というのは、剣術の三大流派のひとつじゃな。まあその中でも一番使い手が少ないので、余り頻繁に見かけることはないがな」
「おお、なんだなんだ? 剣術の話してんのか? なら大剣を使うオレも話に混ぜろや」
「ちょっとお? 奇跡的大逆転の一手が出ないようなら、私の15連勝にするわよ?」
「今はそんなことしてる場合じゃねえんだ。エイジの話の方が優先だ!」
もう半ばヤケクソ気味に、リバーシの対戦途中だというのにバキルは席を立つ。
負けず嫌いもここに極まれりといった有様だ。
「まあつってもオレはどっちかっつうとドノバン獣剣術だから、シラーシ流剣術はそこまで詳しくねえんだけどな」
「バキルの言ったドノバン獣剣術というのも、三大流派のひとつじゃな。最後のひとつが風剣流という。……儂が知っとるのはこの程度だが、バキルは他に何か情報はあるかの?」
「うぇ!? そ、そうだな……。なんとなくのイメージだけどよ、ドノバン獣剣術はオレみたいなパワーでガッツンガッツン行く奴で、風剣流は……こうすばしっこい感じだな」
「……随分ぼんやりとした説明だが、肝心のシラーシ流剣術はどうなんだよ?」
「む、むむむ……。そりゃあ、そのなんつうか、よく分かんねえ技を使うってえか……」
リバーシの勝負をうっちゃって話に加わってきたくせに、バキルの説明はいまいちハッキリとしない。
そんなバキルの代わりに説明をしてくれたのは、バキルに15連勝して勝利の表情を浮かべるシリアだった。
まずバキルも少々齧っているドノバン獣剣術は、剛剣とも呼ばれるパワーでガッツンガッツン行くタイプの剣術だ。
その特徴から、身体能力に優れる獣人や一部の妖魔などに使い手が多い。
風剣流はスピード勝負の剣術で、速剣とも呼ばれる。
剣を振るう速度や、ステップや移動の速さなど、とにかく速さで手数を増やし、相手の攻撃は素早い身のこなしで躱すことを信条とする。
格下相手だとそれこそ無傷で倒すことも出来るが、激しく動くので瞬発力や敏捷性の他に、スタミナも重要だ。
「それで、最後のシラーシ流剣術なんだけど、私もそこまでは詳しくないのよね。ただドノバン獣剣術が剛剣、風剣流が速剣と呼ばれているように、シラーシ流剣術は技剣って呼ばれてるのよ」
「技剣か。確かにセリアの剣は一番俺の使う剣に近かったな」
「おや? エイジ様、お戻りになっていたのですね」
シラーシ流剣術について話をしていると、リュシェルがラウンジに姿を現す。
ギルドに出かける前には一緒にラウンジにいたのだが、影治が出かけると共にリュシェルも自室へと引き返していたらしい。
「少し前にな。ああ、そうだ。リュシェルはシラーシ流剣術について何か知ってるか?」
リュシェルはこの場にいる面子の中では一番年上であるし、魔術師というのは知識欲が高い者が多い。
自分が習ってる訳でもないのに、三大流派についての概要をシリアが知っていたくらいだ。
それなりの期待を持って尋ねた影治に、リュシェルは応えてくれた。
「ええ、まあ。私もレイピアを使いますしね。少し嗜んでいた時期もありますよ」
「マジか! なんだ、案外身近にいるもんだな。そういやあ、リュシェルとはまだ剣でやりあったことはなかったな」
「あくまで私は魔術メインですからね。シラーシ流剣術の方は、初段になったところで辞めました」
「初段? 将棋みてえな段位があるのか?」
「あ、ショーギのこともご存じなんですね。大陸南部ではショーギよりリバーシの方がプレイヤー多いイメージでしたが、もしかしてエイジ様は大陸北部の出身なのですか?」
「いや、違う。つうか、将棋もあんのか……」
影治は以前セルマから、自分以外の転生者の話について聞いたことがある。
その時の話によると、約1000年も前にサイトゥという日本人と思われる人物がいたという。
またセルマの主であるデグレストによると、転生者というのは昔からその存在が知られていたらしい。
その転生者が全て現代日本からの転生者かどうかは不明だが、100年だとか200年だとかの長いスパンでそうした転生者は現れるという。
もっとも、全ての転生者が表で活躍したり名が知られる訳でもないので、実際にはどの程度の割合で転生者が転生しているのかは不明だ。
ただ彼らが残したと思われるナニカは、リバーシやショーギとして今も伝わっている。
「ショーギに段位があるかは知りませんが、シラーシ流剣術では5級から始まって1級まで上がると、次は初段に上がります。そこからまた2段、3段と上がっていく仕組みですね」
「ハンッ、いちいちそんなんがあんのかよ。かたっ苦しいぜ」
それは型に嵌められるのを良しとしない、バキルらしい感想だ。
実際、ドノバン獣剣術や風剣流では、段位制など設けていない。
「その段位は何段まであるんだ?」
「私の師匠は3段でしたけど、もっと上はいますね。シラーシ流剣術は北のシルディア幕府国に総本山があるのですが、確か今はそこにいる剣聖と呼ばれている者が8段で最高位だったかと」
「剣聖とはまた大層な呼び名じゃねえか」
「なんでもシラーシ流の開祖が8段だったらしく、未だそれを超える段位はいないのだとか。その記録を剣聖が更新できるかどうかという話で、一時期話題になってました」
「……最高位なんだから、自分が9段だって言えば9段扱いになっちゃうんじゃないの?」
シリアの質問はもっともと言える。
この世界では、今のところステータスのようなものを影治は確認出来ていない。
内部データ的に存在するのかもしれないが、ステータスに「シラーシ流剣術9段」とでも表記されない限り、言ったもん勝ちのように思える。
「そう単純な話でもないようですよ。他の高段者から認められる必要もあるでしょうし、何より剣聖本人がまだ自分はその域に達していないと思っているのか、9段を名乗ったりはしてないようです」
「そいつぁ良い心構えだな。剣聖ってのにいつか会ってみてえもんだ」
「剣聖は総本山から動くことはほとんどないようですから、会うなら直接シルディア幕府国に向かわないとならないでしょう」
「リュシェルは大陸北部のことについても詳しいのか?」
「そうですね。帝国の白の学院で学ぶのを諦めた後は、北に向かいましたから」
大陸北部のことについて尋ねるボミオスは、これまで100年近く冒険者を続けてきたが、活動領域は大陸南部が中心で、北部の事情には詳しくない。
それはこの場にいるメンバーの大半が同じであり、興味深そうにリュシェルの話に耳を傾ける。
「北部は……年中温暖な気候のこことは違い、冬になると息も凍るような寒さになります。そういった天候の違いもありますし、文化だって様々です。魔物も地域色が出たりしますし、興味があったら訪ねてみるのもいいんじゃないでしょうか」
「ううむ、ドワーフは寒さには強い方だと言われとるが、あまり積極的に寒い場所に行きたいとは思わんのお」
「そうかあ? オレぁ、北にあるっていう獣人の国に興味あるぜ」
「私も大陸最北部のフロウヴィウム魔術王国には興味あるわ。なんせ、魔術師の聖地とも言われている国だし。リュシェルもそこを目指したんでしょ?」
「はい。冬の寒さは南国の森生まれの私には堪えましたが、あそこは魔術を学ぶ者なら一度は訪れるべき国ですね」
話題がシラーシ流剣術の話から、大陸北部の話へと変わっていく。
それは影治の興味を引く内容でもあったが、恐らく当分の間は北に向かうことはないだろう。
だが情報は情報として、影治はしっかり話の内容を記憶していく。
この日はそうして館内のラウンジで雑談やボードゲームなどをしながら、ゆっくりと過ごす。
翌日以降も特に問題は起こらず、各人が思い思いの時間を過ごしながら時は過ぎていった。
そしてルクトリアとの話し合いも終わり、任務を達成したカレン一行は、ピュアストールへの帰路につくのだった。




