第238話 プラチナ級昇格
「ぐもおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!」
野獣のような雄叫びを上げながら、影治に向けて大剣を振り下ろすゾネス。
力任せのその一撃は、まともに食らえば真っ二つに切り裂かれてしまいそうなほどの威力でもって、影治に迫る。
「すんげえ声だなあ、おい」
だが影治は猛烈な気迫と共に振り下ろされた剣を、やれやれといった様子で、大きさが二回り以上も小さい刃引きされた剣で受ける。
まともに受けたら剣ごと折られそうな攻撃でも、重心移動などの力の流れを完全にコントロールすることで、完全に攻撃を逸らす。
オークエンペラーほどの力があれば話は別だが、ゾネスが闘気術で身体強化して切りかかった程度では、影治の流し受けを力で強引に突破することはできない。
「なんの、まだまだあ!」
渾身の一撃を流された割には、ゾネスに動揺は見られない。
それどころか、初めからそうなることを予想して動いており、ひたすら大剣を振り回し続ける。
それは技で戦う相手に、パワーで立ち向かうということに慣れた動きだった。
力任せに振り回した攻撃は全て流されてしまうのだが、それに釣られて体ごとバランスを崩すなどということはなく、とにかく手数とパワーでどうにか絡みつこうという剣捌きをしている。
その目論見が功を奏したのか、連続して打ち込まれる攻撃のひとつが完全に弾かれることなく、剣同士ぶつかりあう力比べのような状態が発生した。
「力比べなら……こっちのもんさ!」
「フンッ! そんな無駄な力の使い方しちゃあ、いくら力があってももったいないぜ」
「な……なあにいいいいいいいっ!」
剣を打ち合った状態から力で押しつぶそうとするゾネスに、それ以上の力でもって強引に剣を振るう影治。
地面から蹴り上げる力と自身の力を余す事なく剣へと伝え、その力はゾネスの手にする大剣へと流れていき、最終的にはゾネスの体の中心軸へ衝撃となって伝わる。
その衝撃によって、まるで前方から猛スピードで迫る鉄塊を食らったかのように、ゾネスは後方へと吹っ飛んだ。
「っとお」
ダメージはないだろうが、ひとまずゾネスを離脱させた影治に、気配を殺して迫っていたエルフのセリアが攻撃を仕掛ける。
ただしその気配の消し方は、暗殺者などが使用する技術というよりも、四之宮流古武術にも存在するような、武術者としての気配の消し方に近い。
力任せの剣を振るうゾネスの次は、技巧派のセリアとの剣術争いが始まる。
「へぇ……。こっちに来て初めてまともな剣術の使い手と出会ったな」
「……やはり只者ではない」
思わず口に出してしまうほど、セリアの剣はこれまで戦ってきた者達とは違っていた。
ただ無暗に剣を振るったり、手先を動かしたり体を動かしたりするだけ……といった簡単なフェイントを使用するだけではない。
上下左右に重心を動かしたり、相手の丹田の位置を動かそうとしてくる相手はセリアが初めてだった。
「でもま、まだまだ未熟だな」
「くぅぅっ!」
セリアの仕掛けるフェイントは全て見切られ、先読みした動きはまるで後出しじゃんけんのように、逆にセリアの方が後に動かされる。
完全にやることなすこと裏目に出続けたセリアは、刃引きされた剣を何度も体に打ち付けられる。
そして最終的に、先程のゾネスほどではないが数メートル離れた場所まで弾き飛ばされた。
「……で、今度はお前か」
連携が苦手なのか、或いはひとりひとり力を確かめようというのか。
ゾネスが吹き飛ばされ、続いてセリアが吹き飛ばされた後に仕掛けてきたのは、軽い口調で話していたロルンだった。
彼女は鞭を手にしており、それを目にもとまらぬ速さでビュンビュンと振り回している。
それはまるで自分の周囲を守る鞭の結界のようだ。
「そーゆーこと。あーしの鞭で、ひーひー言わせちゃうよん」
ロルンは常に鞭を振り回しており、地面に当たった鞭が砂埃を立てている。
鞭というのは、普通に前世地球の使い手でも先端部の速度が音速を超す。
その超スピードの攻撃を躱すのは困難だ。
ビュンビュンと振り回されている鞭は、長さがどれくらいあるのかも掴みにくい。
長ければ長いほど扱いは難しくなるが、メイン武器として鞭を使っている以上は、それなりの射程があると見ていい。
じわりじわりと接近するロルンは、徐々に自分の周囲だけでなく、時折影治の近くへと振るう鞭を混ぜ始めた。
パチンッパチンッ! という鞭が地面を打ち付ける音が、前方から、左斜め前方から……と、徐々に影治に迫る。
果たしてその打ち付けられた位置が射程の限界なのか。
或いは本当はとっくに射程距離に入っているのに、敢えて影治の前方を打ち付けて、射程を誤認識させようとしているのか。
「ほらほら! 行くよお? 行っちゃうよおお?」
軽口を叩くロルン。
普通の相手であれば、いつ鞭が迫ってくるのか緊張する場面であるが、影治は自然体のままただジッと構えている。
そしてロルンが軽口を叩き終わった直後。
会話の終わり際の虚を突くように、一条の鞭が影治へと迫る。
「ふんっ! むんっ!」
しかし何と影治は、咄嗟に剣を左手に持ち換え、空いた右手で音速で迫る鞭をつかみ取る。
と同時に、相手が反応する前に掴んだ鞭を振り回し、これまたゾネスやセリアのように遠くへと振り回して飛ばす。
遠心力がかかったせいもあり、かなり勢いよくすっとんでいったロルンは、そのまま訓練場の壁にぶつけて「ふぎゅ!」という悲鳴を上げた。
「ほらほらどうした! 今度はバラバラじゃなくて、同時にかかってこいよ!」
「ぐ……ぬう、セリア! 行くよ!」
「承知」
その後レディソードは連携しながら影治に挑んだが、まともにダメージを与えられるのはシャーリーによる攻撃魔術くらいで、剣や鞭による攻撃はそのほとんどが受けられるか返されるかという結末になった。
周囲で観戦していた冒険者たちには、目の前の光景が信じられなかった。
あの力自慢のゾネスを力で負かし、技巧派のセリアが軽くあしらわれる。
ロルンの鞭の攻撃は完全に見切られ、唯一ダメージが通っているシャーリーの魔術だが、何発撃ちこんでも影治にはまるで効いている様子が無い。
最後のは単純に、影治が無詠唱で回復魔術を発動してるだけなのだが、観戦してる冒険者たちの多くはそのことにすら気付いていない。
そして、最初に影治に暴言を吐いていたものの中には、影治の強さを見てこっそり訓練場を逃げ出してる者たちもいた。
やがて、
「ふぅ、参った! あたいらの負けだ!」
戦闘時間は20分にも満たなかったが、激闘のせいか荒い息を吐きながら、ゾネスが降参する。
戦い始める前は野次を飛ばしていた冒険者たちも、今では置物のように静かになっていた。
「……まさか、ここまでとはな。勝負あり! この戦いでエイジは十分な力を見せつけた! よって、エイジをゴールド級からプラチナ級へと昇格させるものとする!」
審判をしていたギルマスのバンディも、ここまで影治が戦えるとは思っていなかったのだろう。
ゾネスが降参の声を上げてから少しの間、驚いた様子で固まっていた。
だがすぐに我に返ると、影治の昇格を宣言する。
「もうプラチナか……。割とあっさり上がってくな」
「それだけの強さの持ち主なら当然だ。というか、ダマスカス級を複数相手にしてこれなんだから、本当は飛び級させたいところなんだがな。決まりがあるので、俺の一存ではひとつ上げることしかできねえ」
「なあに、エイジならすぐにダマスカス級にも上がってくだろうさ。いやあ、参ったね。確かにこんだけ強けりゃあ、あたいら4人を同時に相手するってのも頷ける」
「そうは言っても、お前らだって全力って訳でもねえだろ? そんくらいの実力者なら、闘気技の1つや2つ使えただろうに、まったく使ってくる気配がなかった」
「そりゃあ、魔物相手ならともかく昇格試験でそこまではしないさ。もっとも、アンタならそれでも平然と受け止められそうな気もすんけどね」
戦い始める前は、影治の傲岸不遜な態度に腹をたてていたゾネスだったが、ガッツリやりあって影治の実力を知った今は、ライバルのような存在として認めていた。
それは他のレディソードの3人も同様だ。
昇格試験を終え、「ちょっくらギルド証を更新してくっから待っててくれや」と去っていくバンディを見送る影治。
引き返してきたギルド内の一角で、レディソードの4人と雑談の続きをしていた。
「まさかあたいの剣を真正面から受け止めるだけじゃなく、力比べであんなに派手に吹っ飛ばされるなんて思いもしなかったよ! わっはっはっは!」
「最初に発動していたのは中級の強化魔術、或いは防御魔術と見たが、あれは何の魔術だったんじゃ? というか中級魔術を無詠唱で発動するには、よほどの適性が必要なハズ。或いはあれは魔術ではなく、何らかの魔導具を使ったのかの?」
「ちょっとお! あーしの鞭の動きを捉えるって、どんな目ぇしてる訳ぇ? マジ信じられんすけなんですけどお!」
各人、影治との戦いはかなり刺激的……というかショックがあったようで、容疑者に尋問するかのような勢いで詰め寄る。
そんな中、ひとり静かな佇まいのセリアが影治に尋ねた。




