第169話 シルバー級昇格
冒険者パーティーのバルバロイと緑の盾、それからひとり逃げ遅れたハンターの男と共に、5日かけてダンジョンを脱出した影治たち。
一緒にダンジョンを脱出してきたそれなりに大人数の集団に対し、正面口広場では注目が集まる。
大人数でのダンジョンアタック自体は時折見かける光景でもあったが、その中にビッグシールドが加わっているとあって、余計周囲の探索者からは注目を集めたようだ。
そんな好奇の視線を受けながら彼らが向かうのは、この辺りで一番立派な建物だった。
獣の牙の正面口付近は森が切り開かれており、ちょっとした建物なども立ち並んでいる。
中でも影治たちが向かっている建物は、領主であるシドニア卿の命令によって派遣された駐在官が詰めている建物だ。
「む? ボミオス殿ではないか。そのような大人数を引き連れてどうなされた?」
このダンジョン前には彼の他にも兵士が派遣されており、駐在官の護衛や正面口付近での問題の解決、ダンジョンの監視などを行っている。
そして派遣されている駐在官であるこの男は、冒険者やハンターに対して偏見の目を持っておらず、相手が礼儀をわきまえている者ならば相応に応じる。
今は建物内での書類業務ではなく、庭部分で剣を振っていたようで、ゾロゾロと大人数で建物入口に向かう影治達の集団に声を掛けた。
「実は17層にて、深層へと通じる死への近道が開いておってな」
「……ほう、もしやそちらの冒険者パーティーを救出したのですかな?」
これまでもビッグシールドは、ダンジョン内で危ない目に遭っている者を何度も救ってきた。
今回もそのケースだろうと判断した駐在官の男。
「うむ、ブラッディウルフに襲われておってな。助けたのには違いないんだが、これには裏があってな……」
そう言ってボミオスはハンターパーティー『クイックダガー』が、バルバロイや緑の盾をターゲットに絞り、死への近道から魔物を連れだして擦り付けようとしていた計画のことを報告する。
周囲には同じように訓練していた兵士もおり、皆一様にひとり捕らえて連れてこられたハンターの男に軽蔑の視線を送っていた。
駐在官の男も表情にはあからさまに出していないが、内心では怒りを覚えている。
「話は分かった。ハンターパーティー『クイックダガー』は指名手配とし、入口を監視している部下にもそのことを伝えておこう。もっとも、生きて戻ってこれるかも分からぬし、ダンジョンの入口は複数あるので、その全てをカバーすることは出来ぬがな」
とはいえ、指名手配された段階で少なくともこの周辺でのハンターとしての活動はもう行えなくなる。
生きて脱出できるかも不明だが、もし脱出していた場合、下手すると野盗に蔵替わりすることもありえるので、こういった場合は出来るだけ早い段階で対処した方がいい。
「それと17層の死への近道についても、すぐに探索者たちに情報を伝えておこう。命の危険を知りながら挑んでおるとはいえ、無闇矢鱈に被害者を出す訳にもいかぬからな」
「迅速な対応、助かるわい」
「なあに、これが私の仕事だからな。にしても、お前達が偶然近くにいてよかった。下手したらもっと被害が拡大していたかもしれん」
メインの報告の他にも少しだけ駐在官と話を交わすボミオス。
その後はハンターの男は駐在官の下に預けられ、残った冒険者たちは解散することとなった。
「今回は本当助かったぜ。俺らじゃあ力不足かもしれねえが、何かあったら言ってくれ!」
「ダンジョンでは何が起こるか分からないとは知りつつも、判断が遅れた結果今回の件に巻き込まれてしまいました。危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます」
バルバロイ、緑の盾のリーダーから改めて感謝の言葉が述べられる。
彼らはこの後一旦それぞれの街に帰るという。
「儂らが好きでやったことじゃ。礼などいらん」
不愛想な感じで言ったボミオスだが、それが照れ隠しだということは付き合いの短いバルバロイや緑の盾のリーダーにも伝わっていた。
「で、オレらはどうすんだ?」
両パーティーと別れた後、身内だけとなったところでバキルが問いを投げかける。
元々今回のダンジョン探索は、獣の牙に潜るのが初めてだという影治を案内する目的だった。
事件に巻き込まれはしたが、すでに目的は達成していると言える。
「エイジはどうしたい?」
「んー、そうだな。今からまたダンジョンに戻って下層まで行くって気にはなんねえな」
「そうだな。じゃあ、儂らもピュアストールまで帰るとするか」
特に強い目的意識もないのに、帰ってきたばかりの場所にまた戻るというのはなかなか億劫だ。
結局ダンジョンに潜っていたのは10日くらいの期間だったが、ひとまずどんなものかは知れたので、影治はそれなりに満足していた。
ちなみにチェス内部に収納していた鉱石は、すでに換金を終えている。
正面口前には簡易的なギルド出張所もあり、そこで鉱石を買い取ってくれるのだ。
もちろんドロップや魔石などの買取もしているが、基本的に輸送費がかかるので街で売るよりは安くなってしまう。
なので、鉱石など嵩張るものはここで売り、ドロップなどは街に戻った時に一緒に売るという者が多い。
中には多少安くてもいいからとここでドロップも売り払い、割高料金で食料などを買い込んで、再度ダンジョンに潜るツワモノもいるようだ。
ともあれ、影治も帰還の意を示したことで、一行はまた3日かけてピュアストールの街へと戻ることになった。
「あ、ボミオスさん。サブマスターがお呼びです。それとエイジという方も一緒に来てくれと……」
「分かった。では査定は任せたぞ」
影治たちはピュアストールの街へと戻ると、まずは冒険者ギルドへと向かった。
ドロップや魔石などを売りさばくためだ。
そこで買取査定をしていると、ギルド職員から声が掛けられる。
「今回の死への近道での件かしら?」
「じゃろうな。儂らもすぐに発ったが、連絡はすでに届いておるのだろう」
その予想は半分当たりで半分ハズレだった。
まず呼び出された先の一室にいたのは、以前影治も会ったことがあるジャンという熊人族のサブマスターだった。
そこで最初はダンジョン内でのクイックダガーの件や、死への近道についての話は確かにされたのだが、ボミオスも言っていたようにすでに報告は受けているらしく、簡単な確認作業だけにとどまった。
次にジャンが別の話題に移ったのだが、どうやらそれが今回呼び寄せた本題だったようだ。
「うむうむ、その件についてはもう結構だ! それで本題なんだがな。エイジ、お前さんをシルバー級に昇格させようと思う。それに関して、実際に近くで一緒に行動していたビッグシールドに意見をもらいたいと思ってね」
「俺をシルバー級に?」
影治は最初からアイアン級として登録されたが、冒険者としての活動は今回が初だ。
どういう基準になっているのか分からないが、随分あっさり昇格の話が出るのだなと少し影治は驚く。
「なるほど、そういうことか。儂は問題ないと思うぞ」
「寧ろあの実力でアイアン級ってのがおかしいのよ」
ジャンの言葉に、ビッグシールドからも反対の声は一切上がらない。
影治としてはランクというものにそこまでの拘りはないのだが、それでも一応尋ねてみることにした。
「そんなあっさり昇格出来るもんなのか? 冒険者になってから、ろくな実績もないんだぞ」
「それなら今回の件は十分実績になってるぞ!」
「そうだぜ。大体よお、脅威度Ⅶの魔物をひとりで倒せるってこたあ、強さの基準で言えば最低でもダマスカス級はあるってこった」
「おいらやバキルだと、倒しきるってところまでは持っていけなかったからねい。それだけ見ても、十分資格はあると思うよ」
「寧ろ、シルバー級でも低すぎるくらいじゃ」
「ふーん……。まあ別に上げてくれるっていうならいっか」
「よおし! ではすでに話は通してあるから、エイジはこれを持って受付で昇格手続きをしてきてくれ! あ、お前達はここに残ってくれ。まだ少し話があるんでな!」
影治が受け取ったのは、この者をシルバー級に昇格させるようにと書かれた、指示書のようなものだった。
このようなものを手渡す位なら、サブマス権限でこの場で昇格させてもいいだろうにと思いつつも、特に何もいうことなく紙を受け取って部屋を退出する。
こうして影治は、あっさりとシルバー級冒険者に昇格するのだった。




