第17話 窯作り
影治が火魔術と水魔術を覚えた翌日。
その日は昨日の大雨が嘘だったような、よく晴れた良い天気だった。
「さあて、今日も最低限の生活を送る為に生活レベルを上げていくとしよう!」
寝るだけの住環境は出来たが、まだまだ最初にやっておきたいことは山ほどある。
その一つとして窯を作りたいなと影治は思っていた。
洞窟入口付近は影治によって固められた土壁に覆われているが、この空間はそれなりに広く取られている。
というのも、洞窟の部屋内で火を焚くのは空気穴を設けても不安だったので、火を使う設備はこの入口前に作ろうと思っていたのだ。
「一応原料はそこらにあるが、土壁内の領域をほじくり返すのもなあ……。土もクリエイトウォーターのように、魔術で作り出せんものかな」
なんだかんだで、今日も結局魔術の練習をすることになりそうだ。
影治は朝食を取ると、魔術のイメージに入る。
土属性への魔力の変質は既にライジングアースの時に修得しているし、アースダンスも散々使ってきたので今のところ回復魔術以上に土魔術を使いこなせていた。
更に言えば、別属性ではあるがクリエイトウォーターを使って魔術で水を作ることも成功している。
「となれば、そう難しくもないって訳よ」
基礎が出来ていたせいもあってか、影治は新たに【土生成】の魔術を覚えることに成功する。
それも時間にして小一時間ほどしかかかっていない。
この【土生成】もクリエイトウォーターと同じく消費魔力が少し多めだ。
もしかしたら一から生成する系は魔力が多めに必要なのかもしれない。
「さて、クリエイトソイルはさくっと上手くいったが、どうもこいつは応用が効きそうだな」
これまでのクリエイトウォーターであったら、生み出せるのは水だけだ。
しかし今回のクリエイトソイルは土を生み出すといっても、土の組成は単一の分子だけではない。
試しに粘土質な土をイメージしてみると、段々とそれらしいものを生成できるようになり、明らかに粘土っぽいものを生み出せた段階で、新たな魔術【粘土生成】を修得した。
「む? 粘土も分類としては土に含まれると思うが、別の魔術として存在しているのか。こいつはそのまんまクリエイトクレイでいいな」
クリエイトソイルに可能性を見出した影治は、ガラスの原料となる珪砂を作り出そうとしたのだが上手く行かなかった。
というより、土ではなく砂を生み出そうと幾らイメージしても、どうも上手くいかないのだ。
「何故だ? 土も砂も似たようなもんだし、土の方が有機物を含んでいる分難度が上がりそうなもんだが……」
うんうん唸りながら考えていると、影治はふとあることを思い出す。
「あ……。そういやメイキング画面の特殊属性魔術の所に、砂属性ってのもあった気がするな……」
つまり似たような属性だが、「土」と「砂」とでは別の属性扱いになるということだ。
今から砂属性への魔力の変質練習をするという手もあるが、そもそも今はそこまでして砂魔術を覚えたい訳ではない。
影治は一旦砂魔術については諦め、覚えたばかりのクリエイトクレイの魔術で窯を作っていくことにした。
「にしても、クリエイトウォーター同様に一度に生み出せる量の制限が面倒だな」
クリエイトソイルもクリエイトクレイも、一度に生み出せる量はおよそレンガ一つ分といった大きさである。
これはこれでそのままレンガとして使う分には良さそうだが、今はとりあえずレンガを焼くために使用する窯を作っている最中だ。
「まずはこのゴブリンからゲットした石のシャベルで、溝を掘って……」
大まかな完成図を頭に描いてから、影治は作業を始める。
最初に掘る溝は後に薪をくべる為の小さなもので、敢えてここは魔術ではなくシャベルで掘り進めた。
目測で横に25センチ、縦に80センチ程。深さはそれほど深くは取らない。
この溝は奥に行くにつれ底が深くなる斜面になっており、手前側の浅い方が薪を投げ入れる場所で、一番深い奥側で火を焚くことになる。
そして掘り進めた溝の中間地点近くに、溝を跨ぐようにして棒状にした木の枝を並べていく。
蓋をするように並べた木の棒の上に、今度はクリエイトクレイで生み出した粘土ブロックを乗せて隙間なく詰める。
次に火を焚く奥側に向かって、棒で橋を掛けた箇所を含めて円状に縁を囲うように粘土を乗せていく。
この時点での見た目は、料理用のかまどのような構造になっていた。
中央に鍋をかける大きな穴があき、周囲が少し盛り上がったような形状だ。
とここで、影治はあることを思い出す。
「……窯の底部分が必要だったな。だがクリエイトクレイでは一気に作れんから、別途用意するか」
自分の腕を使って底部分となる長さを測定し、円形の粘土の塊をこねていく。
出来上がったものは少し厚いマンホールの蓋のような形をしており、これに木の棒で火を通すための穴をまだらに開けていく。
「こいつをここに被せて……」
最初に作っていたかまどの土台部分。
鍋を入れられる位に開いた穴の部分に、作ったばかりの穴の開いたマンホール状の蓋をきっりち嵌めて、すっぽりと蓋をする。
この部分は窯が完成した際には底部分となり、まだらに開けた穴の下に炊かれた火によって、上に置いた粘土などを焼くという仕組みになる。
だが今のままだとかまどに蓋をしただけの状態なので、煙突のように蓋の外周部分に粘土ブロックを積んでいく。
一度に全てを生成できないので、ある程度粘土ブロックを積み上げては水で濡らした手で表面をなぞり、隙間を丁寧に塞いでいく。
それなりに手間はかかるが、影治が見た動画に比べるとその場で粘土ブロックを生み出せるので非常に効率が良い。
こうして影治の胸の高さほどのある窯が完成した。
「あとは実際に火をくべてみないとな。……にしても、なんかこの窯からうっすら魔力のようなものを感じるな。クリエイトクレイの粘土だけで作ったからか?」
一度のクリエイトクレイで作れるのはレンガサイズなので、この窯を作るのに軽く100回以上はクリエイトクレイを使用していた。
影治が微かに感じる魔力はそのせいかもしれない。
「それと今思い出したんだが、なんか動画で見た奴では粘土を作る際に灰やらヤシの葉などの繊維を混ぜていたな……。ひび割れを防いだり頑丈にする効果があるらしいが……」
思わず自分で作り上げたものをジッと見てしまう影治。
クリエイトクレイが便利すぎたので、今回はそういった作業を行っていない。
ただ魔術で粘土を生み出す際のイメージで、焼成しても丈夫で固く、それでいて割れにくい粘土をイメージして魔術を発動させていた。
そのせいなのかは不明だが、生み出した粘土は赤っぽい色ではなく灰色をしている。
これを焼成しても、赤いレンガにはならなそうだ。
「ま、とりあえずやってみてダメだったら作り直そう。失敗は成功の母ってね」
そう言うと影治は集めてきた薪となる木の枝を下の溝部分に並べ、ティンダーで火をつける。
昨日の雨で落ちていた枝も少し水分を吸収してしまったのか、いつもより煙の量は多い。
だが火そのものはちゃんとついたので、しばらくその火が維持できるように追加で枯れ枝などを集め回る影治。
3時間ほどそうして火を入れた窯だが、どこかにヒビが入ったり煙が漏れたりすることもなく、無事完成していたようだった。
「これでようやく焼き物が作れるな」
ニヤリとした表情を浮かべる影治は満足そうだ
しかしすぐに焼き物を作り始めるのではなく、影治は先に別の準備を始める。
そのために影治が取った行動とは、やはり魔術の練習であった。




