第158話 一時加入
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「はい、これがギルド証よ」
「見た感じ、ハンターギルドのとそう変わんないんだな」
「変わらねえっつうか、元々奴らがパクったんだよ。ちなみに冒険者ギルドじゃあ、ランクと同じ金属のギルド証になっから、今の内から無くさねえように気を付ける癖を付けとけよ」
「確かにエイジならすぐにランクが上がっていきそうじゃの」
唐突に始まったジャンの試験のようなものが終わったあと、影治は受付にて冒険者ギルドについての説明を受け、ギルド証を発行してもらっていた。
既にジャンは仕事に戻っているが、ビッグシールドとはまだ一緒に行動しており、影治に冒険者としてのアドバイスなどをおくっている。
「つかよお、エイジは冒険者になってどうするんだ?」
「この街の近くにはダンジョンがあるんだろ? まずはそこに潜ってみるつもりだぜ」
「まあ、この街に来る連中は大抵がそれが目当てだけどよお。パーティーとか組むのか? それともクランにでも入んのか?」
影治の目的はハンターであった時から変わっていない。
ただ漠然とダンジョンに潜るということしか考えていなかったので、パーティーについては考えたことがなかった。
口は悪いが意外と面倒見がいいのか、バキルは影治にあれこれと今後のことなどについて尋ねてくる。
「お前は俺のオカンか! ダンジョンがどんな感じなのかも詳しくはねえんだ。まずは潜ってみて感触を確かめるつもりだ」
「ぷっ、わはははははっ! うちのバキルがあれこれ煩くてすまないねえ。これでもこいつ、エイジのこと気に入ってるんだよ」
「ハアァァ!? バッカ、ふっざけんな! なに葉も根もないこと抜かしやがる、このクソオークが!」
「ね? 御覧の通りだよ。それよりも、特に決まってないならおいら達と一緒にダンジョンに潜ってみないかい?」
途中から勧誘へと切り替えたサイラークだが、さっきの発言が気に入らないのか、バキルはその後もサイラークに食ってかかっている。
しかしサイラークは慣れた様子で聞き流しており、影治の反応を待っていた。
「分かった。んじゃあ、臨時パーティーということで頼むわ」
バキルに指摘されるまでもなく、元々パーティーを組むつもりはなかった影治。
色々と素性がバレると面倒なことになりそうだ……というのがその理由だったが、そんなこと関係なくすでに命を狙われる事態にはなっているし、長期的に滞在するならいつかどこかで情報は洩れる。
なので影治は考え方を改めることにした。
この辺りは特にこれといった強い信念を持っている訳でもないので、影治は結構柔軟な考え方をする。
それに他にもビッグシールドに一時的に加わる理由はあった。
「一緒に行動するついでに、魔術のことも教えてくれよ」
それは飽くなき魔術への探求心からくるものだった。
また影治は未だにこの世界についての常識に疎い部分もある。
この世界では魔術師の数が少ない上に、基本的にそれを誰かに教えるということなど金でも払わない限り行わないものだ。
実際に魔術師ギルドでは入会者に魔術を教えることもあるのだが、教えてもらうには相応の金銭を支払わないといけなかったりする。
「……今、魔術を教えてくれって……。そう言った?」
影治の言葉に敏感に反応したのは、ヒューマンの女魔術師、シリアであった。
「ああ。あんたらはプラチナ級とダマスカス級の魔術師なんだろ? これまであんま他の魔術師と交流したことねえから、色々と知りてえんだよ」
ダマスカス級冒険者パーティーの『ビッグシールド』は、メンバー全員がダマスカス級という訳ではない。
リーダーのボミオス、オークのサイラーク、エルフのアトリエルはダマスカス級なのだが、他ふたりはプラチナ級だ。
これが比率が逆でダマスカス級がふたりだったら、プラチナ級パーティーとなっただろう。
「――よくぞ言ってくれたわ! 魔術師ギルドの連中は守銭奴や古いタイプの魔術師ばかりで、飽き飽きしてたのよ! 元々魔術師の数は少ないけど、あんな閉鎖的な連中が多ければそれも納得よね。本来ならそうした状況をどうにかする為に魔術師ギルドが設立されたというのに、今度は金に目がくらんだしょうもない魔術師ばっかり増えちゃって、一介の魔術師や魔術を学ぼうとしている人が、魔術の知識を得る機会がどんどん…………ぐへっ」
「すとっぷ~」
急に饒舌になって喋り出したシリアの頭部に、アトリエルのチョップが振り下ろされる。
それは思いの外強打だったのか、ゴツンッという痛そうな音を響かせていた。
「ちょ、ちょっとアル……。そういうのは先に口で言ってからにしてくれない?」
強引にシリアの暴走を止めたアトリエルだが、ストップと言う前に先に手が出ていた。
そのことを窘めるシリア。
「今度からそうする~」
「アトリエルもよろしくな。あん時使ってたのは、植物魔術だろう? そういう特殊魔術にも興味あんだよ」
「へぇ、珍しいねえ? 植物魔術はエルフの間では喜ばれるけど、普通の魔術師からはあまり注目されない魔術だから~」
「俺は魔術なら何でも貪欲に吸収したいんだよ。……例えば死霊魔術なんかは一般にはどういう扱いになってるんだ?」
「……これまた意外なものが飛び出してきたわね」
天使という種族である影治だが、実は密かに裏では死霊魔術についても練習していた。
最後にグレイスが教えてくれた死霊魔術によると、クラスⅠの死霊魔術は【不死者感知】や【感受する不死なる声】というもので、いきなり最初からアンデッドを生み出すものではない。
なのでどこでも練習は出来るのだが、未だに影治は死霊魔術を修得出来ていなかった。
「やっぱ嫌悪されてたりすんのか?」
「そうね……。魔術を使えない平民たちなんかは、無駄に恐れたり嫌悪感を抱く人もいるかな」
そう言って死霊魔術について語り出すシリア。
影治のイメージとしては、暗黒魔術同様に悪いイメージのある死霊魔術。
確かにこの世界でも、一部の人はそういうイメージを持っているようだが、話を聞いた感じだと少し影治の思っていたものとは違うようだった。
それこそ人里離れた研究所で何か企んでいたり、アンデッドを使って村々を襲ったりなどと、そういったことは基本的にないらしい。
寧ろ、国としては重宝して死霊魔術士を扱っているところもあるようだ。
特に妖魔や異人の間では嫌悪感も少ないかほとんど無いらしく、積極的に研究をしたり軍に配備したりなどしている。
人族の間でも、国としてとなるとその有用性から認める国もそれなりに多い。
ただ一部の人族の国や、獣人たちの間では忌避感が強く、そういった場所では排斥対象になることもあるという。
「ふうん、なるほどな」
「もしかして……エイジって死霊魔術を使えるの?」
「いんや。時折練習はしてんだけど、天使って種族のせいかまだ使えねえんだ」
「練習って……どんなことしてんのよ?」
基本的に、魔術を自分以外の人間に積極的に伝えようとする人が少ない上、死霊魔術という特殊な魔術はそれこそ国の研究機関などでないと、そうそうお目にかかれるものではない。
シリアの妄想の中では、死体をこねくりまわしている影治の姿が浮かんでいた。
「どんなって……、クラスⅠの死霊魔術は死者を感知したりするような奴だからな。やろうと思えばいつでもどこでも練習できんだよ」
「えっ! それってもしかして私にも死霊魔術が使えるってこと!?」
「使えるかどうかまでは適性次第だろうけどな」
「わあああ! ちょっと、後でその練習方法教えてよ!」
死霊魔術を練習しているといって最初は引いていたとは思えないほど、満面の笑顔でシリアが懇願する。
「いいぜ。そんかわり、最初に言ったように俺にも色々教えてくれよな」
「それなら任せて! 私だけでなくアルもいるしね!」
「よーろーしーくー」
ひとりで話を進めていくシリアに、一本気な口調ながらも承諾の意志を伝えるアトリエル。
魔術師組で話がとんとんと進んでいったが、結局冒険者になってすぐに影治はビッグシールドに一時加入することが決まったのだった。




