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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第3章 ハンターギルド
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第135話 罠シリーズ


「やはり敵が潜んでいるんですか?」


「ああ。少なくとも森に10人以上は隠れてる」


 影治が待ち伏せされていることを告げると、ダッドが小声で質問してくる。


「いいか? 合図したら馬の周りに集まれ。そこで防御魔術を張る」


 街道から森までは若干の距離が開いている。

 それなりの弓とそれなりの使い手ならば矢が届く範囲であるが、有効射程距離には及ばないくらいの距離だ。


 一行は緊張感を保ちつつ、街道を進む。

 すでに森が左方に見える位置にまで達しており、この先は右に緩やかに下るカーブになっている。

 街道の右側には事前に聞いていたとおり藪が広がっており、五感を強化している影治はその藪にも人が潜んでいることを捉えていた。


「来たぞ! 集まれ!」


 警戒態勢に入っていた影治は、潜んでいた盗賊が動き出したのを即座に捉えて指示を出す。

 直後に盗賊たちは姿を現したが、まだ弓の有効射程にも入っていないので攻撃は飛んでこない。

 今の内に影治は、【風の壁】を皆が集まっている辺りに幾つも展開していく。


 盗賊たちは幾つかの小集団に別れ、弓の有効射程距離に達するとバラバラに矢を撃ち始めた。

 しかし有効射程距離ギリギリから放たれる矢は命中率が悪く、例え真っすぐ飛んで行ったとしても影治の張った【風の壁】によって防がれる。


 その間に、影治は長距離発動した【落石】で盗賊をひとりずつ沈めていく。

 こちらは発動した相手の頭上から石が落とされるので、矢による攻撃よりは断然命中率が高い。

 しかし以前の戦闘で手札を見せてしまったせいか、盗賊たちはしきりに頭上を気にしながら動き回っていたせいで、何度か外してしまっていた。


「エイジさん! そんなに魔術を連発して魔力の方は大丈夫なんですか!?」


「ん? ああ……なるほどな」


 ジョアンは影治が使用している【落石】がどのクラスの魔術かは知らなかったが、少なくとも自分がまだ使えないクラスの土魔術だということは理解していた。

 魔術はクラスが高いほど威力が上がるが、同時に魔力の消費も増える。

 ポンポンと【落石】を放っているのを見て心配に思ったんだろう。

 しかし影治はジョアンの叫び声を聞いて、敵の狙いがどこにあるのかを見抜いた。


「魔力のことなら問題ない。それより俺はこのまま落石を続けるが、少ししたら攻撃を取りやめる。そしたら魔力切れだと思って敵も近づいてくるだろう」


「ねえ、ちょっと! 確かに魔術で何人かは倒せてるけど、まだ一杯残ってるじゃない! 近づいてきたらどーすんのよ!?」


「落ち着いてこの場で待機だ。決して前に出るなよ? 前に出て死んでも知らんからな」


 焦った様子のシャルムに明確に答えず、影治は引き続き【落石】を放ち続ける。

 敵の中には盗賊らしくなく盾を持ち出している者も何名かいて、【落石】を警戒してから盾を頭上に構えている者もいた。


 予めジョアンから聞いた話では、この世界では複数の属性を高レベルで使いこなす魔術師は少ないと言う。

 そして影治はこれまで盗賊相手に【落石】しか見せていない。


 クラスⅣ土魔術の【落石】は決してハイクラスとは言えないが、それでも盗賊たちはターゲット(影治たち)が使えるのは土魔術のみか、他の属性はロークラスしか使えないものと思っていることだろう。

 少なくとも、影治が伏せている手札を正確には読み取られていないハズだ。


「今だッ! 魔術師はもう大分へばっている。包囲しながら近づけ! ひとりも逃がすなよ!」


 やがて影治が【落石】の発動を止めると、盗賊のリーダーらしき男が号令を掛けて、360度取り囲むようにして影治達に迫る。

 当初40人以上いた盗賊は、6人ほどを【落石】で仕留めた結果として40を切っている。

 しかし依然として彼我の兵力差は大きい。


「ゲヘヘ、獣人だが女もいるじゃねえか」


「おい、命令は皆殺しだろ?」


「お楽しみの後に殺せばいいだろうが」


 盗賊たちはすでに勝利を確信しているのか、戦利品がどーだなどと言いながら包囲を狭めていく。

 中には仲間がやられたことに怒り狂っているような者もいたが、それ以外の反応をしている者もいた。


「確かに"らしくない"奴が混じってるみてえだな」


 先ほど号令を出した男もそうだが、影治が感じた盗賊らしくない者達は、大体が盾を持って【落石】を凌いでいた奴らだった。

 そいつらは浮足立つこともなく、これだけ有利だと思える状況においても警戒を怠っていない。


「あの辺は出来るだけ生かして捕らえるか」


「あ、あの……もう敵がすぐ目の先まで迫って……るんですが……」


 盗賊たちは弓矢による攻撃をやめ、徐々に包囲を狭めている。

 少し前なら全員で一か所に突撃すれば、包囲を抜けられたかもしれない。

 それでも何も行動を起こすことのない影治に、流石にダッドは不安が隠し切れなかった。


 だが影治は何も黙って様子を見ていた訳ではない。

 ダッドや護衛達から少し距離を取っていた影治は、小声で他の魔術も発動していたのだ。


「よし、一斉にかかれ!」


 完全に距離を詰めた盗賊たちに、最後の命令が下される。

 だがそれは影治達にとっての最期ではなく、盗賊たちにとっての最期であった。


「ぐああああぁぁぁっ!!」


「のわぁぁぁっっ!?」


「ギヤアアアアアッッ!!」


 一斉にかかろうとした盗賊たちの、阿鼻叫喚の声があちこちから上がる。

 辺りを見回すと、ある者は火柱に焼かれており、またある者は突如出現した深さ5メートルほどもある落とし穴に落ちていた。

 他にも無数の風の刃に切り裂かれている者や、立ち上がる光をその身に浴びて悲鳴を浴びている者もいる。


「なっ!? エイジさん! 一体何をしたんですか?」


「なあに、ちょいと罠を仕掛けただけだ」


 クラスⅣの魔術には、【炎の罠】【風の罠】などの罠シリーズの魔術が存在する。

 影治はこれをセルマから教わっていたが、現代では一般的に使用されている魔術ではなく、一部の魔術師の間でのみ伝わっているマイナー魔術だ。


 というのも、地面に触れることで発動する罠を仕掛けるこの魔術なのだが、仕掛けてから10分ほどで罠が解除されてしまうという特徴があった。

 場面によっては有効な時もあるだろうが、相手がきっちり罠を踏んでくれるかも分からない魔術を使うより、普通に攻撃魔術を使用した方がいいという結論になってしまい、忘れられていったのだ。


「お前達はまだ動くなよ? 【火球】」


 念のため、茫然と辺りを見回しているジョアン達に警告を発する。

 影治は自分達の周囲に、これでもかというほど罠を仕掛けていた。

 3重同時詠唱と豊富な魔力を持つ影治だからこその、即席の地雷原設置だ。

 更に影治は罠にかかっていない者達を仕留めるため、魔術を追加でばら撒いていく。


「ああっと、逃がさねえよ。【土腕拘束】」


 影治の仕掛けた魔術の罠と追撃の魔術によって、あっという間に盗賊たちは数を減らしていく。

 慌てふためく盗賊たち。

 だがリーダー格の盗賊や盾持ちの盗賊は混乱から立ち直ると、手にしていた盾を投げ捨てて全力でその場を離脱し始めた。


 そこへ影治が発動させた【土腕拘束】が襲い掛かる。

 これは攻撃用の魔術ではなく、相手を拘束する為の魔術だ。

 それもクラスⅣの土魔術なだけあって、最初に発動した時点で避けきれなかった場合、魔術によって生み出された土の腕でがっしりと体を拘束されてしまう。


「残敵を掃討してくるから、お前達はここで様子を見ててくれ」


 連続で放たれる魔術は、盗賊たちの逃亡を許さない。

 影治は襲撃開始時点から、長距離発動した【魔力感知】を使用していた。

 クラスⅠの魔術なので遠くまでは届かないが、長距離発動によっておよそ100メートル範囲までは届く。


 襲撃に加わらず、包囲の外から様子を見ている盗賊がいた場合は反応を捉えることは出来ないが、少なくとも襲撃開始から制圧段階に入っている今に至るまで、取りこぼした盗賊はいない。


 生き残った盗賊の息の根を止め、らしくない盗賊を縄で縛り上げる。

 10分後には、40名以上いた盗賊は死亡ないしは捕えられ、無事盗賊たちの襲撃を切り抜けることに成功した。


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