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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第3章 ハンターギルド
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第124話 研究の成果


「わしぁ、もうずっと長いこと腰が痛うてな。長年誤魔化しながら暮らしとったが、もう農作業が辛くてなあ」


「ウチの子に発疹が出ちゃって、それから熱も出て寝込んでいるのよ。どうにかなるかしら?」


「俺も昔はお前みたいな冒険者だったんだが、膝に矢を受けてしまってな……。古傷だが治せるか?」


 無料で治療するという話を聞いて、多くの村人が影治の下を訪ねる。

 診療所としてバーバの家を借り、そこで順番に村人達の治療が行われていく。

 もっとも、影治の回復魔術レパートリーにまだ対応していない症状も多い。

 そういった相手にも【按摩】だったり【体力回復】などを使用すると、症状自体は改善できずとも大層喜ばれた。


「ふうむ、大したものじゃな。あれだけ魔術を使用したというのに、まったく疲れた様子もないとは」


「魔力量には自信があるんでね。それよりばーさんにちょっと頼みがあるんだが……」


「なんじゃ? お主には既に大分お世話になっとる。ワシに出来ることなら何でもするぞ」


「回復魔術の練習台になってくれるような若いもんはいねえか?」


「なんぞ物騒なことを言いよるの。何をするつもりなんじゃ?」


 これまでの言動からそれなり以上に信用された影治だったが、その言葉の意味するところを想像して少しだけ渋面になるバーバ。


「あーっと……、俺が以前倒した魔物のドロップに、毒と混乱の効果を持つアイテムがあんだよ。俺は毒の治癒なら出来るんだが、混乱状態を治す奴はまだ覚えてなくてな」


「つまり誰かにそいつを使って混乱状態にし、それから治すということか」


「そういうこった。病気治療ん時もそうだったが、やっぱ実際に症状を患ってる奴相手の方がやりやすいんだ」


「ふむ……。その実験台はワシではダメなのか?」


「いや、ばーさん結構やるだろ? アンタが混乱して暴れたら面倒だし、そもそもアイテムの効きも悪いかもしんねえ」


 詳しい話は聞いていないが、影治はバーバの身のこなしからしてただの老婆ではないことを見抜いていた。

 ほとんど足音を立てずに歩いているのに、不自然さがまるでない。

 長年続けているせいで、音を殺して歩くのが日常的に身についている証だ。


「そうなるとダナル辺りに頼むのがいいんじゃないかい?」


「あー、そうだな。昼食終わったら一旦治療を休んで頼みに行くとしよう。それと、ばーさん。魔封丸って村にねえか?」


「魔封丸? そんなもん何に使うつもりじゃ」


「それも同じだよ。魔封丸で魔術を封じられた相手を治す魔術の練習と、自分でも服用して、どうにか封印状態から魔術を使えるようにならないか練習してみたい」


「それはまた妙なことを考えよるのお。魔封丸なら多少持っておったと思うが、ババジんとこにもあったかもしれん」


 ババジというのはこの村で暮らしているバーバよりも更に年上の老婆であり、今でこそ現役を引退しているが、長年薬師としてこの村を支えてきた人物だ。


「じゃあ先にそっちに寄ってくとすっか」


 そして影治はババジから魔風丸だけでなく、他の薬も入手することに成功した。

 服用すると一時的な盲目状態に陥るメチルブライン。

 同じく服用することで、生気を減退させ、衰弱させるガングシャー。

 催眠効果のある催眠薬に、多量に吸い込むと口が利けなくなる黙香(もっこう)というお香。

 それと影治が巨大花の魔物からゲットした、毒と混乱の効果がある花粉。

 物騒なそれらの薬を手にダナル宅へと向かった影治は、ダナルからの了承の返事を受けて、午後は新たな回復魔術の研究に勤しむこととなった。








「大分捗ったようじゃの」


「ああ、おかげさんでな」


 あれから数日が過ぎていった。

 その間、影治は村人の治療と並行して新たな回復魔術の研究を続けている。

 結果として、影治は更に幾つもの回復魔術を修得するに至った。


 混乱状態を治す【平静】。

 状態異常としての盲目状態を治す【盲目治癒】に、衰弱した者に活力を与える【生命力回復】。

 他にも村人の治療を続けていく中で、使用後3日間病気への耐性が上がる【病気予防】や、寄生虫を取り除く【寄生虫駆除】。


 その他にも日常的に喜ばれそうな魔術まで、色々と修得することが出来た。

 特に寄生虫に関しては、大部分の農民が腹に一物(寄生虫)を抱えている状態だったので、ブランチネスト村の健康事情は大きく改善されている。


「まさか魔封丸を飲んだ状態で魔術が使えるようになるとはねえ」


「つっても、めっちゃ集中して魔術を1つ発動出来る程度だけどな」


 影治はバーバとババジのふたりから譲ってもらった魔封丸を自ら服用し、体内の魔力の流れを故意に乱した状態で、魔術が使えるよう訓練を行った。

 その結果、かろうじて魔術を発動することに成功する。

 しかし半ば無理やり発動させるため極度の集中力を必要とするし、成功確率もそれほど高いとは言えない。


「じゃが、一緒に覚えた魔力安定を使えば問題ないじゃろう」


 【魔力安定】とは、魔封丸の服用などによって乱れた体内の魔力を、元通り安定させる効果のある魔術だ。

 自分で服用する前にダナルに先立って魔封状態になってもらい、影治はこの魔術を修得している。

 なお【魔力安定】は回復魔術ではなく、クラスⅢの無属性魔術だった。


「まあな。他にどんな状態異常があるか知らんが、おかげである程度対処出来るようにはなった。それについにクラスⅣの回復魔術も使えるようになったしな!」


 元々それなりに熟練を積んでいたのだろう。

 ここ数日の集中的な回復魔術の使用で、影治はクラスⅣの回復魔術を使えるようになっていた。

 それもすでに現段階で複数の魔術を修得している。


 1つは当初の目的であった【軽度体質改善】だ。

 まだルーナには試していないが、これで少しは今の状態より良くなることだろう。

 その他に沈黙状態を治す【沈黙治癒】と、【身体異常治癒】を使えるようになった。

 【身体異常治癒】とは、効果を1つに特定せずに身体系の状態異常を治癒出来る魔術だ。


 これは普通にクラスⅣでどのような回復魔術が使えるようになったか色々試している時に、たまたま発見した魔術だった。

 軽く試したところ、毒や麻痺なんかもこれ1つでいけることが判明している。



「あとはルーナに試すだけじゃな」


「ああ。早速明日にでも試すつもりだ」


 そして影治はブランチネスト村滞在での集大成として、最後にルーナの病弱体質の治療を行った。

 だが生まれつき病弱であったルーナの体質は、完全には治すことが出来なかった。

 それでも1日中付き添って【軽度体質改善】を掛けまくった結果、以前とは比べものにならないほどの健康体にすることに成功する。


「こんな……もうとっくの昔に諦めていたのに……」


「今の俺にはそれで手一杯だ。完全には治せなかったが、それでも日常生活程度ならもう問題ないと思うぜ」


「そんな! ここまでして頂いただけでとても感謝してますわ! 本当にありがとうございました!」


「そうだぜ! こんなに元気なルーナの姿は初めて見た。本当にありがとうな! エイジ!」


 純粋に喜んでいるふたりをの顔を見て、どこか心がスーッとするのを感じる影治。

 それは影治の記憶に深く刻み込まれ、新たな影治をかたどっていく。


「……この村に来たのは偶然だったが、来てよかったな」


「ぴぃ」


 分かっているのか、いないのか。

 小さく呟く影治にピー助が返事する。


「グィィィ……」


「ああ、そうだな。そろそろ先へ進むとするか」


「もう行っちまうのか? たいしたもてなしは出来ないけどよお、もっとこの村でゆっくりしてってもいいんだぜ?」


「別に先を急ぐ旅でもねえんだけどな。今は先進んどくわ」


「そうか。また近くに寄ったら来てくれよな! いつでも歓迎するぜ!」


「おう。じゃあな!」


 元気よく挨拶して影治はダナル宅を後にする。

 最後にバーバに別れの挨拶を済ませると、影治は当初目指していたフレイシャーグの町に向けて、ブランチネスト村を出発するのだった。


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どこかで見たような異世界物語

― 新着の感想 ―
かなり過去の話数なので今更指摘をされたくはないかもしれませんが、気になってしまったのでさせてください。 第1章の第42話で【麻痺治癒】の修得をなかったことに修正していますが、混乱状態を治す【平静】も同…
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