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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第3章 ハンターギルド
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第118話 幼女救出


 男たちの数は4人。

 全員が剣なり短剣なりで武装している。

 だが専門の戦士という風にも見えず、見た目から一番相応しい言葉で表すとならず者そのものだった。


 男のひとりに抱えられている幼女は男に何かされたのか、ぐったりとして意識を失っている。

 恐らくは先ほどの助けを呼ぶ声を上げた後に、意識を奪われたのだろう。


「こんな森の中でひとりってこたぁ、駆け出しのハンターか何かかあ? んならとっとと失せろ。ああ、俺達のことは誰にも言うんじゃねえぞ」


 影治の見た目は一般的の成人女性と比べると少し背が低めであり、顔も幼さが残っている少年だ。

 男の言うように、田舎から町へと飛び出していってハンターになったばかりの駆け出しに見えなくもない。


「……ちなみにその抱えてるのは何だ?」


「おい。俺の言ってることが聞こえなかったのか? とっとと失せろっつってるんだ」


「そうか……。なら【暗闇】」


「っ! なんだ!?」


 クラスⅡ闇魔術の【暗闇】は、一定範囲を闇に閉ざすだけの魔術だ。

 同じクラスⅡの闇魔術である【見通せぬ闇】とは違い、相手にダメージを与えることもない。


 【暗闇】を発動させた影治は、瞬歩で幼女を抱えていた男へと近寄り、男から幼女を奪い取った後に、一旦距離を取る。

 そして【暗闇】を解除してから改めて問いかける。


「この子供のことはとりあえず置いておこう。別の質問なんだが、お前達は聖光教の信者か?」


「おい、気を付けろ! こいつ、見た目はガキだが魔術を使いやがるぞ!」


「しかもせっかく攫ってきたガキを奪われちまいやがった!」


「距離を取れ! 4人で一斉にかかるぞ!」


 しかし男達は影治の質問に一切耳を貸さず、戦いの算段を整えている。


「……とりあえずは生かしたまま捕えるか」


 街道を移動中の影治であったが、森に入ったということは目指す村までは大分近いはず。

 男達が攫った幼女も、恐らくはその村の住人なのだろう。

 であれば、生かしたまま捕えて後の処分はその村に任せればいい。

 ――そう判断した影治は、剣ではなく久々に徒手空拳で立ち回り、男達をあっという間に無力化させていく。


「ま、こんなもんか。で、このガキんちょは大丈夫か?」


「ぴぃ」


「ん、そうか。少しケガをしてたからピー助が治してくれたのか。ありがとな」


 幼女の近くには遅れて到着したピー助とチェスが控えていた。

 ピー助は影治が契約する以前は必要がなかったせいか、治癒系の光魔術を覚えていなかった。

 しかし今では万が一影治が負傷して、なおかつ影治自身では治せない時のために、練習を重ねて治癒魔術を修得している。


「ルーーーーーミイィィィィ! どこだああ!!」


 男達を縄で拘束し、幼女の目覚めを待っていた影治は、叫び声と共に近づいてくる者達の気配を感じ取る。

 ほどなくして木々の向こうから現れたのは、狩人といった装いのふたり組の男だった。


「ルーミー!」


「ガッソン、前は任せた」


「うぃっす!」


 30代半ばくらいと思われる中年男が、20代と思われる若い青年に指示を飛ばす。

 するとガッソンと呼ばれた青年は腰に提げていた剣を引き抜き、指示を出した男の方は背負っていた弓を手に取り、躊躇することなく影治へと矢を放つ。


「おおっと……」


「何!? 俺の放った矢を手掴みだと?」


「おい、お前ら待て。状況を良く見……」


「死ねぇぇっす!」


「ちぃっ」


 まったく聞く耳を持たない新たなふたり組に対し、影治はこれまた徒手空拳での無力化を図る。

 状況的に恐らくこのふたりは幼女の関係者であろうから、人攫いの連中よりはソフトな対応で無力化させ、あっという間にふたりは縄で拘束された。





「くそっ! せっかく人攫いを仕留められると思ったのに!」


 きっちり縛られ身動きの取れない中年男が、悔しそうに叫ぶ。

 後から来たふたりについては口を塞いではいないので、影治が縛り付けたあともしばらくのあいだ悪態をついていた。


「そろそろいいか?」


「ふんっ! 俺達を殺すつもりか?」


「はぁぁ、こりゃあこいつはまだダメそうだな。お前……ガッソンとか呼ばれてたな。お前の方はもう話が通じるんじゃないか?」


「あ……っと、そっすね。よく見てみれば状況が見えてきたっす」


「何を言ってるガッソン! こいつはルーミーを……」


「いいから、お前は黙ってろ。な?」


 余程頭に血が上っているのか、未だにまともに会話できそうにもなかったので、仕方なく影治は中年男に猿轡を噛ませた上に、やたら暴れまわるので更にきつく縄で動きを縛り付ける。


「ンンーーーッ! ンンンンーーー!!」


 それでも芋虫のようにのたうち回って抵抗する中年男だが、影治はそれを無視してガッソンと話を進める。


「まあ見てのとおり、俺はただの旅人だ。ブランチネスト村に移動中、助けを求める声が聞こえてきてな。森に分け入ったら、そこに転がってる連中が子供を抱えて逃走してたんだよ」


「君ひとりで4人を捕えたんっすか?」


「そうだ。村も近いだろうから、ひっ捕らえて連れていこうと思ってな」


「なるほど。……ということみたいっすよ。ジェネスさん」


「むうううぅ!! むぅぅぅぅぅ!!」


「あの……。申し訳ないんすけど、僕とジェネスさんの縄を解いてもらえないっすかね? 僕達はブランチネスト村の狩人なんっすよ」


 体全体をくねらせ、必死にむうむう言っているジェネスという中年男は、やたらと顔を紅潮させながらもがいている。

 そんな様子を少し気持ち悪そうに見ながら、ガッソンが影治に懇願する。


「お前は別にいいんだが……。そっちのは拘束を解いて大丈夫なのか? なんか様子がおかしい気がするんだが」


「ああ、えっと、大丈夫っす。これはジェネスさんの病気みたいなもんなんで……」


「ああん? ……まあ、お前がそう言うなら縄を外してやるか。いいか? もう暴れるなよ?」


 もし拘束を解除した彼らが何かしようにも、影治には幾らでも対処のしようがある。

 それにこれまでの流れから、ふたりが村の狩人という話も嘘ではなかろうと、影治はふたりの拘束を解く。


「ふぅぅ……。どもっす!」


「フ、フンッ! どうやら俺の勘違いだったみたいだな!」


「ジェネスさん。ここは素直に謝った方がいいっすよ」


「ぐっ……。す、すまなかった。ルーミーが攫われちまって大分パニくっちまってたみてえだ」


 拘束を解かれたジェネスは、バツが悪そうに影治に謝罪する。

 それは反省していないといった謝罪ではなく、自分の行動がマズかったことを認識しているからこその、身の入った謝罪だった。


「冷静になってくれたなら別にいいぜ。ちなみにルーミーってのは、そこで寝ている子のことだな?」


「ああ。俺達の村には獣人がそれなりにいてよお。時折人攫いにかっさらわれちまうんだ」


「そうか。途中であいつらに気絶させられはしたが、大きなケガもなく無事だ。あと少しすれば目も覚めるだろうよ」


「なら俺が担いで村まで運ぼう。ここから村まではそう遠くないんだ」


「じゃあ僕はこいつらを引っ張ってくっす」


 人攫いの男達は、縄で後ろ手に拘束された挙句、全員が胴体部に巻かれた縄によってひと繋ぎになっている。

 手が使えないので若干不安定にはなるだろうが、足の方までは縛っていないので歩かせる程度なら問題はない。

 ガッソンが数珠つなぎになってる縄の先頭部分を引っ張って、連行を始める。


「じゃあ俺も……って、そういやこいつらは何なんだ? なんっか……箱が動いてっけどよ」


「気にするな。そういう魔導具だ」


「グィィィ」


「そ、そうか。んで、こっちは……なんだ? 狩人の俺が今まで見たこともねえ鳥なんだが……」


「ぴぃ!」


「そいつは鳥のような見た目をしてるが、鳥じゃあない。まあ、そっちも気にすんな。それより早くお前達の村まで案内してくれ」


「お、おう」


 戸惑いながらも、ルーミーと呼ばれていた幼女を肩に担ぎあげるジェネス。

 ようやく騒動は収まり、村への移動が再開される。


「な、なあところでよお」


「ん、なんだ?」


 移動が始まってすぐに、少し顔を赤らめたジェネスが影治の傍に寄っていく。

 そして少し前を進んでいるガッソンと、彼が率いている人攫い達には聞こえないような小声でささやいた。


「お前の縛り……中々良かったぜ」


 そう言うと小走りに前に走り去っていくジェネス。

 頬を紅潮させていたジェネスとは真逆に、その言葉を聞いた影治の顔は一瞬にして青ざめていくのであった。



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