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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて
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第110話 新たなる謎の力


 嘆きの穴に落ちる前、派手に市街戦を演じた時に感じたことが影治にはあった。

 それは、このような原始的な武器を振るうのが当たり前の世界のはずなのに、技術的に未熟な連中が多かったということ。


 純粋な武力としてなら、魔物を倒しまくって身体能力が強化されているのか、技術が多少未熟でもパワーやスピードである程度代用が効く。

 影治が戦った街の連中も、大抵はそういった力任せの連中だった。


 しかし今目の前にいるゾフタフという騎士は、影治からすればまだまだ未熟ではあるものの、基本的な技術は使えている。

 その上前世(地球)基準ではありえない程の身体能力を伴っているので、前世の自分であってもそれなり(・・・・)に苦戦はしただろう。


「だが、まだまだ甘ぇな」


 元々影治の方が小柄で小回りが利くとはいえ、ゾフタフの攻撃はするりと空振りするか、剣で受け流されるだけで、まったく影治に通用していない。

 逆に影治の【炎剣】は何度もゾフタフの鎧をなぞる。

 だが先ほどの騎士のように、熱さにのたうちまわることがなかった。


「チッ、魔導鎧の効果か」


 影治はそう判断していたが、これは魔導鎧による特殊効果ではなく、ゾフタフが身に着けていた金属の性質に寄るところが多い。

 ゾフタフの鎧に用いられているシュトライルという金属は、水属性と相性が良く熱伝導率が低い。


 その性質から、物理的現象の炎による熱は勿論のこと、火属性による攻撃もそれなりに軽減することが出来る。

 炎というのは戦闘ではよく用いられるものであるので、鉄や鋼などよりひとつ上のランクの金属として、シュトライルは人気があった。


「こっちでいくか」


 まったく効果が無い訳でもなかったが、【炎剣】を解除して再びレッドボーンソードを手に取る影治。

 対するゾフタフは、若干の疲労を感じさせる顔で言った。


「まさかこれを使わされるとはな」


 思わせ振りなその発言に警戒心を強めた影治は、すぐにゾフタフの身に起きた異変に気付く。

 といっても、第二形態になったとか身体的な変化が起きた訳ではない。

 魔力とも違う、何らかの力の波動を敏感に感じ取っていたのだ。


「むんっ!」


「ぬ…………っ!!」


 その謎の力の影響なのか、ダッシュで近づいてくるゾフタフの移動速度はこれまでにない早さだった。

 そして打ち付けられた剣の重さも、これまで以上に重く、力を完全に流しきれなかった影治は自ら後ろに飛んで衝撃をいなす。


「身体強化……じゃあねえよなあ。神力って感じでもなかったし、また新たな謎の力かよ」


 ブツブツ言っている影治に、ゾフタフは更に攻撃を継続する。

 初めの一撃こそ想定外の力の強さで受けきれなかったが、それと分かれば受け流すことは可能だ。

 これは影治も前世とは比較にならないほどの、身体能力を手に入れているからでもある。


「まさか、闘気術を持ってしても攻撃を受け流されるとは……」


 一通りの連続攻撃を仕掛けたゾフタフは、一旦距離を取ると驚愕混じりに言った。

 影治が攻撃を捌いていた時間は数分程度であったが、ゾフタフは多少息が上がっているようであり、これまでになく疲労しているようだ。


「闘気術だあ? よく分からねえが、消耗がきつそうだなあそいつは」


 影治も【身体強化】を常時発動しているが、こちらは完全に魔力由来であるので、無尽蔵の魔力を持つ影治なら1日中発動していられる。

 ただ強化の割合でいったら、ゾフタフの使っている闘気術とやらの方が高いかもしれないと影治は感じていた。


「この程度、大した消耗では……ない!」


 その言葉が真実だと証明するかのように、再びゾフタフが剣を手に影治に斬りかかっていく。

 フェイントなども混ぜたゾフタフの攻撃は、しかし影治によって完全に見極められ、攻撃は空を切り裂くのみ。


 ゾフタフの攻撃をそうして回避するなりして捌いている影治だが、今のところ金属製の魔導鎧を装備しているゾフタフに、大きなダメージは与えていない。

 しかし四之宮流古武術には、相手が鎧を身に着けていることを想定した攻撃方法が幾つも存在している。


「別に他にも方法はあんだけどよお。今回はこいつを試させてもらうぜ」


 中でも『突貫裂傷(とっかんれっしょう)』は武器を用いた突き技の1つであり、相手の鎧を貫通して直接体へとダメージを通すことを可能とする技だ。

 鎧にはまったくダメージを通さず、完全に体へと力を通すことによって、鎧に守られているはずなのに体の表面から穿たれたような裂傷を与えることが出来る。


「ぐっ! なんだ、今のは!?」


 完全に鎧で受け止めたはずなのに、右肩部分を強く穿たれた感覚を覚えたゾフタフ。

 慌てて視線を移すが、鎧自体が貫通されているといった様子はない。

 しかし自分の体のことくらい、直接見なくとも理解出来る。

 ゾフタフは先ほどの攻撃によって、肩を数センチほど貫かれたことを認識した。


「そらそら! まだまだ行くぜえ」


 意味不明の攻撃を受け動揺するゾフタフに、お構いなく突貫裂傷を見舞う影治。

 四之宮流古武術においても、鎧を通し衝撃ではなく裂傷を齎すこの突貫裂傷は、理合いの領域を超えた秘技として真伝に位置づけられている。


 元々体格が大きく、攻撃は回避するより受け止めるタイプの防御法だったゾフタフにとって、鎧の存在を無効化する影治の攻撃は何より相性が悪かった。

 連続して放たれる突貫裂傷は、鎧を貫通して体のあちこちを穿つ。

 ゾフタフの体からは、鎧の内側から垂れてきた血が滴り落ちており、足元に血だまりを作っていく。


「お、闘気術とやらが解除されたな? 力を消耗する以外にも、相応のダメージを与えれば無効化出来るって訳か」


 先ほどまでゾフタフから感じられていた、謎の力の消失を知覚する影治。

 それは魔力とも神力とも異なるのだが、その双方を感じ取ることが出来る影治だからこそ、初めて見た謎の力ですら知覚出来たのかもしれない。


 何にせよ、闘気術が解除されて更に動きが鈍ったゾフタフは、最早影治にとって技の練習台でしかなかった。

 突貫裂傷以外の技も実戦テストを兼ねて順に放っていったのだが、数種類技を放った段階で完全にゾフタフの息の根が止まってしまう。


「この世界の連中はやったらタフだが、俺の方も能力が大分向上したせいか以前ほどしぶとさは感じなかったな。……にしても」


 影治は戦場となった周囲を見渡す。

 これまでにない強さのゾフタフを相手に夢中になっていたせいか、グルグとその周りにいた騎士達を逃がしてしまっていた。


「ま、仕方ないか。何やら魔物が街中に溢れているというし、今の内に街を脱出しよう。それと……チェス!」


「グィィィ……」


 ピー助とチェスは、戦闘が終了した時点で廊下から出て影治の下に集まってきていた。

 そこで影治はチェスに命じて、ゾフタフの遺体ごと収納するよう指示を出す。

 目的はゾフタフの装備している武具だ。

 金属鎧は取り外すのにも時間がかかるので、今はとりあえず死体ごと回収させる。


「さあて、外はどうなってるかな」


 回収が終わり、影治は玄関ホールの正面にある扉を押し開く。

 小高い丘の上に建つこの館周辺からは、周囲の街の様子が一望できる。

 どうやら魔物が溢れているというのは事実のようで、丘の下部分からは人々の悲痛な声が届く。


 そんな中最初に影治の目についたのは、下り坂が始まる地点で魔物達との戦いを繰り広げている兵士達の姿だった。



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