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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第2章 深き地の底にて
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第105話 セルマの魔術講座


 戦闘をしていた時にも十分にセルマの力は感じ取っていたが、実際に話を聞いてみるとグレイスやミランダをも凌ぐ魔術の使い手であることが判明した。


「マジか! クラスⅩの魔術まで使えんのかよ……」


「ええ。私の得意とするクラスⅩの無属性魔術、魔力の堅陣は並大抵の魔術では破ることは出来ません。……ですが、貴方には火球による物量にも破られましたし、滅神剣ではまるで紙を切り裂くかのようにあっさり破られてしまいました」


「ああ、あのクソ硬い結界がそうだったのか」


「はい。それとあの時貴方に使用した攻撃魔術は、クラスⅦの闇の柱という闇魔術を3つ同時に発動させたものです。……今思うと、天使である貴方があれによく耐えられましたね」


「その言い方だと、天使は闇属性に弱いのか? まだ闇魔術自体を食らった経験が少なくて、判断がつかねえとこなんだが」


「そうですね。属性魔術に対する耐性は、そのままその属性の適性に比例しています。天使は光魔術と神聖魔術が得意ですが、代わりに闇魔術と暗黒魔術が苦手です。悪魔の場合はその逆なのですが、貴方達天使は闇魔術の適性が低いことが多いので、闇魔術によるダメージはどうしても高くなりがちです」


「ああ、やっぱそういうのあるんだな。道理で闇魔術を幾ら練習しても伸びが悪い訳だ」


 セルマの説明を聞き納得の表情を浮かべる影治。

 しかし逆に説明した側のセルマは、驚きの表情を浮かべている。


「え? あの、貴方は天使であるのに闇魔術が使えるのですか?」


「あー、セルマ……だったな。そろそろその『貴方』って言い方止めてくんねえか。俺のことは影治と呼んでくれ」


 つい先ほどまで殺し合いの戦闘を行っていたというのに、影治の中ではすっかりその(わだかま)りは解けているようだ。

 セルマの従順な態度も関係しているが、どうやら影治はセルマのことを認めたらしい。


「エイジ様……ですね」


「様もいらん。呼び捨てでいい」


 デグレストという主に仕えているせいか、セルマは丁寧な言葉遣いをしている。

 しかし影治からすると、それはどこかまどろっこしく感じていた。

 なので言葉遣いはともかくとして、呼び方だけは訂正させる。


「……分かりました。それでエイジは闇魔術が使えるのですか?」


「使えるって言ってもクラスⅡまでだけどな」


「それでも大したものです。私達悪魔や天使の本質は暗黒属性か神聖属性ですので、確かに天使であっても暗黒魔術よりは闇魔術の方が覚えやすいかと思います。ですが、私や私の知る悪魔に光魔術を使える者はおりません。それだけ珍しいことなのです」


「薄々感じてはいたが、改めてそう言われるとな。せっかく闇魔術はクラスⅦまで教わってたんだがな」


「そう悲観することもないと思います。本来適性がほとんどないはずの闇魔術を現時点でそこまで使えるのなら、今後更に伸ばせる可能性はあります。天使も悪魔も寿命がかなり長いですから」


「ああ、そうらしいな。ちなみにセルマはどこまで魔術が使えるんだ?」


「私は闇と暗黒と無属性をクラスⅩまで扱えます。他には火水土風の基本4属性に、空間魔術を少々……」


「おう、そいつぁいい! 是非ともその辺のを色々教えてくれ!」


 空間魔術が使えることは分かっていたことだが、他にもセルマの引き出しは多いようで、影治は喜色をあらわにする。


「承知致しました。ではまずは火魔術から……」


 グレイスから魔術のことを教わってから日が余り開かない内に、新たなる魔術の知見を得る影治。

 すでに覚えていたクラスⅠ~Ⅲの魔術でも、セルマが教える魔術には影治の知らないものが混じっていたりして、現時点でも既に大きな成果が得られている。

 もちろんまだ使えない魔術も多いのだが、影治はしっかりと魔術名や効果を頭に刻んでいった。






「――これで私の使える魔術は大体伝えたかと思います。ですが、一度にこれだけの内容を伝えて覚えていられるのですか? よろしければ、紙と筆記用具をお渡ししますが……」


「んー、そうだな。俺は記憶力には自信があるんだが、一応メモしておいたほうがいいか」


「では……」


 記憶力に自信があるという言葉に間違いはなく、影治はセルマに確認することもなくすらすらと紙に魔術名と簡単な効果などについて書き連ねていく。

 紙といっても植物由来のものではなく、生物由来の羊皮紙のようだ。

 ペンの方もボールペンに慣れた影治には使いづらいものだったが、器用にペンを走らせる。

 ちなみにこれらの筆記用具は、セルマの空間魔術によって異空間から取り出されたものだ。


「――よし。こんなものか」


 作業中、他にすることがなかったセルマは影治が作業しているところを興味深そうに眺めている。

 そして影治が作業を終えるのを見て話しかけた。


「……見たことのない文字ですけど、どこで使われている文字なのですか?」


「ん、ああ。こいつは俺の故郷で使われてたもんだ」


「故郷……」


 影治がそう言うと、どこか思案気にセルマが呟く。


「上の街に立ち寄った時に、筆記用具は買い忘れていたからな。お陰で助かったぜ。これで後はより高いクラスの魔術が使えるよう、訓練するだけだな」


「それと実際に魔術が発動できるかどうかですね。お願いされた通り、一通り魔術名の発音の見本はお聞かせしましたが、魔術言語は1度聞いただけで使えるようなものではありません」


「ああ、その点は問題ない。そうだな……、【風歩き】とついでに【軽やかなる風】」


「ッ!? それはさっき聞いて覚えたばかりのものですよね? それにしてはなんて綺麗な発音でしょう」


 【風歩き】と【軽やかなる風】は、どちらもクラスⅡの風魔術に分類されている。

 クラス的には既に使用可能であったのだが、これらの魔術の存在を影治は知らなかったので、今しがたセルマに教わることによって初めて発動することが出来た。


 こうしたセルマに教えてもらった今すぐにでも使える初出の魔術は他にもあったが、影治が特に気になったのがこの2つの魔術だった。

 【風歩き】は、移動の際に後ろから僅かに風で押してもらうことによって、少ない労力で移動することが可能になる。


 そして【軽やかなる風】は、クラスⅡの初級強化魔術に分類される魔術だ。

 この系統には火属性の【滾る火の力】、土属性の【生命溢れる土】が存在しており、前者は筋力を高め、後者は体力を高める効果がある。

 先程発動させた【軽やかなる風】は、対象の敏捷を高める効果があった。


 この系統は魔術名に統一性がなく、1つの属性を覚えたからといって他属性の魔術名が予測できない。

 そのためクラスⅡという低いクラスでありながら、今まで影治は【軽やかなる風】を覚えていなかった。


「まあ、魔術言語には少々自信があってな」


 元日本人としては、魔術言語(日本語)がお上手ですねと言われても、喜ぶことはできない。

 ただそのこと説明しても通用しないだろうと、影治は曖昧に言葉を濁す。

 だが次にセルマが返してきた言葉を聞き、影治は自分の考えが間違っていたかもしれないという思いと、驚愕によって目が開かれる。


「それは、エイジがニポンの生まれだから……でしょうか」



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