第98話 魔術剣シリーズ
「何だかしょっちゅう立ち止まってる気もすっけど、今回もまた有意義な時間を過ごせたな」
地底エリアの探索に戻った影治がしみじみと振り返る。
特に今回は滅神剣だけでなく、それに付随して光魔術のクラスⅣを1つ修得。
更には無属性魔術もクラスⅣを達成し、ついに目標としていた【身体強化】まで使えるようになっている。
「身体強化を使うと、大分人外染みた動きも可能になるな。2メートルくらいの高さの壁なら一足でひょいっと飛び越えられるぞ」
これまで感じたことのない体の感覚に戸惑う影治。
四之宮流古武術を収めている影治は、前世の時の体の感覚が未だに強く残っている。
だからこそ、明らかに筋肉量に比例しない今の状態……それも【身体強化】で強化されている状態だと、余計違和感を感じてしまう。
「とりあえずこれからは常時身体強化を発動させて、この状態の感覚を掴まないとな」
そう誓う影治だが、他にもまだまだ課題は多い。
クラスⅣの光魔術である【光剣】は使用可能になったが、他の光魔術についてはまだ使えていない。
グレイスの話によると、クラスⅣの光魔術には光の槍を飛ばして攻撃する中級攻撃魔術。広範囲を光らせてダメージを与え、更に盲目の異常状態にさせる状態異常系魔術などがあるらしい。
「つうか、光魔術に関してはクラスⅢ以下のも自力で覚えた奴しか使えないんだよな」
村にいた奴隷商人も、光魔術は一般的には治癒系魔術が有名だと言っていた。
しかし影治には回復魔術があるので、そっち関係は全く練習していない。
「場合によっちゃあ必要になる時があるかもしれんから、ちょこちょこその辺も練習していくか」
魔術は使えば使うほどより高いクラスの魔術が使えるようにはなるが、魔術名を知らずに試行錯誤しても、そうそう上手く魔術が発動できる訳ではない。
誰かに教わるか、或いは実際に使っている所を見るなどしない限り、実際に魔術を使うことが出来ないのだ。
「つうかピー助は光魔術をどうやって覚えたんだ?」
「ぴぃ? ぴぃぃぃ……」
ヒントをもらおうとピー助に尋ねてみるも、余り要領を得られるような解答は返ってこなかった。
なんでもピー助はあの場所にかなり長い間いたらしく、その間に自然と覚えていったのだそうだ。
「そっか。まあ今度お前の使える光魔術を色々見せてくれよ。参考にすっからさ」
「ぴぃーぃ!」
ピー助は無詠唱で発動するので、目の前で光魔術を使われても魔術名までは分からない。
ただ見た目と効果が分かれば、元日本人である影治には魔術名の予測はつく。
「あんがとな。光魔術はこれでとりあえずいいが、他の属性の魔術は、ひとまずグレイスから聞いた情報を基に推察するしかないか」
火魔術に続き、光魔術と無属性魔術のクラスⅣを修得し終えた影治。
グレイスから直接魔術名を教えてもらったのは、あとは無属性のクラスⅤに闇魔術と死霊魔術だけだ。
今は移動中に無属性魔術と風魔術を使いながら移動している。
とりあえずは火水風土の4属性をクラスⅣにするのが目標だ。
「む、魔物か。しっかし、ここはどうにも昆虫系の魔物が多い」
魔術の訓練を行いながら地底エリアを探索していた影治の前に、全高2メートル以上の大きさのカマキリの魔物が2体現れた。
両腕部分には鋭い鎌があり、影治を威嚇するように構えている。
シクルマンティスという名のこの魔物とは、すでに影治は何度か戦っている。
アーマードビートルが防御にステを振っているのに対し、シクルマンティスは攻撃にガン振りしてるタイプだ。
影治は直感的にあの両腕の鎌をまともにもらったらマズイと判断しているので、完全に回避する方向で戦わないといけないのが厄介だ。
しかも体が大きく、やや前傾姿勢を取っているので、リーチの面でも影治の方がかなり不利になる。
レッドボーンスピアを使えばリーチの不利も多少は解消されるが、影治は剣による撃破に拘ってこれまで倒してきた。
「流石にこいつら相手に滅神剣は勿体ないが、光剣ならいいだろう」
以前戦った時は、レッドボーンソードの刃が欠けることを恐れ、攻撃を剣で受けることもできなかった。
しかし魔術で生み出した剣なら、刃が欠ける心配をしなくて済む。
「ッ! フンッ!」
「ギチギチギチッ!」
とはいえ、シクルマンティスの振り下ろす腕はムチのようにしなり、回避を難しくさせている。
一歩間違えれば腕ごと切断されてしまいそうな斬撃。
それをキッチリ合わせて光の剣で受けたところ、攻撃した側のシクルマンティスが苦痛の声を上げる。
人間のみたいに武器を使うのではなく、自分の体を使って攻撃しているので、影治が今手にしているような魔術の光剣相手だと、攻撃の勢いの分だけ自分へのダメージも大きかったようだ。
「ハッハァーー! いいね、使えるじゃあねえか!」
左右から襲い来るシクルマンティスの鎌を、時には避け、時には【光剣】で受け止めていく内に、徐々に魔物のダメージが蓄積されていく。
「全然使えないってこともねえな。グレイスはなんでこの魔術のことを知らなかったんだ?」
グレイスは周囲に魔術の使い手などが多くいた影響で、それなりに色々な魔術について知っていた。
しかし元々魔術師は遠距離から攻撃できるので、わざわざ危険を冒して近接戦を挑む必要はない。
そのせいでグレイスは【光剣】の魔術について知らなかった。
「ん、待てよ? 光剣があるってこたぁ、他の属性もいけんのか?」
バトル中でありながら、思いついてしまったことを試さずにはいられない影治。
まずは一旦【光剣】を解除し、次は火属性の剣を試してみる。
「ええと火属性だと『火剣』! ……ではないようだな。となると、【炎剣】!」
影治が炎で出来た剣をイメージしつつ推測した魔術名を唱えると、見事にイメージ通りの剣が現れた。
どうやら火属性の場合は【炎剣】というらしい。
「おお、おお! いけるじゃねえか!」
しかもこの【炎剣】は昆虫タイプのシクルマンティスには有効だったようで、これまでの【光剣】以上にダメージが入っているようだった。
元々かなりダメージを与えていた影響もあって、影治が【炎剣】を編み出してからすぐに戦闘は終了する。
「やったぜベイビー!」
思い付きで新たな魔術を修得したことを喜ぶ影治。
更にその後無属性魔術でも【魔力剣】という、無属性の魔力をそのまま剣状にして具現化する魔術も修得。
どうやらこの属性剣シリーズはクラスⅣらしく、まだクラスⅢまでしか使えない風属性などでは発動出来なかった。
「~の壁シリーズみたいに、1つの属性の魔術が分かれば他の属性のも判明する奴は楽でいいな」
影治の中では、同じ系統の分かりやすいシリーズの魔術は最早ボーナス魔術のように映っていた。
そんなこんなで地底エリアを先へと進む影治は、やがて巨大な吹き抜けのある部屋に辿り着いた。




