ど偏見
今日は木曜日。天気は快晴で真冬なため、空気は冷たく風が体温を奪っていく。自分の家の周りに住んでる同級生は少なく、毎日一人で登校していた。朝ラッシュの通りを挟んだ向こうに国頭洋子を筆頭とした何人かの女子が歩いていた。毎日の事だった。
学校の場所上、次の交差点で洋子たちの方へ渡らなければならない。これが気まずい、というよりかはめんどくさかった。
自分で言うのもなんだが自分はトーク、いわばコミュニケーションがうまかった。だからなのか中一、中二、中三と上がっていくにつれ、男友達はもちろんだが不意にも、女友達もできてしまった。いや、本当に自慢じゃない。周りから見れば陽キャそのものだがそのような「陽キャ」になるつもりはなかった。本当に故意ではないんだ。
今日はタイミングが悪かった。ここの通りはいつも渋滞しているので車列に隠れて、登校している人が見えない。これがとてもネックであり、女子たちと鉢合わせないかの運試しだった。
しかし残念なことに横断歩道を渡り切ったタイミングで洋子たちが横から来て、鉢合わせてしまった。
(ああ~!クソ、今日は運悪ぃ。)
そんな悲痛な心の叫びをあげていると、いつも通りあいつらは話しかけてきた。
「あれ、宮人おはよう。タイミングよくない?合わせてきたでしょ。」
出ましたこれがめんどくさい。いつもあいつらの方から話しかけてくるくせに。そして俺は半ば強制的に一緒に登校するという流れになる。これだけならまだ許容範囲だった。一番の問題は二次被害だった。この時間は生徒がもっとも多く登校している。そのため、(勝手な妄想だが)周りの男子から何か言われないか、何か陰口をしていないかといった周りの目が怖かった。でもそれから逃げていると思われたくない。とかいって登校時間を変えるのも、めんどくさかった。だからどうしようもなかった。
あいつらがめんどくさいのはまだ理由がある。こいつらは「自称陽キャ」たちだ。いつも学校でワチャワチャ喋っている。俺はそういうのは好きじゃなかった。だから友達は幅広くいても「親友」といえるのはあまり陽キャにはいなかった。実は俺は電車が好きだ。だがもしそれを陰キャが言ったとしたら、陽キャたちはそれを、蔑むような目で見るだろう。だが陽キャで同様の場合には、また違う。それはあくまでも一つの趣味として見られるだろう。これが恐ろしい所だ。
「ねえ宮人。室長どう?大変でしょ。」
洋子が言った。こいつはクラス室長で成績がかなりいい。俺の順位はいつもこいつの何番か後ろだ。しかも女子としての魅力を兼ね備えていて、前に出すぎなく、ある程度の理性があるこいつは「自称陽キャ女子」の中でもいろんな意味でマシな方だった。まあそれでも俺から見たら十分陽キャだが。でも好きじゃないわけでもなかった。
「ああ大変だよ。室長会議とか学級活動とか。」 そう…俺は室長だ…。
「またまた~。成績の内申とか上げたいからとかじゃないの~?ねえ。」
「確かに~。でも室長ってなりたいからやる~とかじゃないとキツイもんね。」
だから俺は自分からやりたくてやってるわけじゃねえんだよ。こうなったのは二学期が始まったばかりの日。
室長は前期と後期で入れ替わる。そのため九月に後期の室長を決める。そのとき、最初に立候補したのは洋子だった。洋子は前期でも室長をやっていて、「室長の器」としてふさわしかった。一方俺にとって生徒会というものには無縁だった。正直、勝手にやっていてくれればよかった。俺が友達と話していると陽キャ友達の一人が急に言った。
「宮人がやったらいいんじゃね、な。」
それに便乗したのか次々に周りが俺になれよと促していった。
「宮人ならな。そういうの向いてると思うし。」
「そうそう、お前ならいけるって。」
周りから見れば俺は室長としてふさわしいのだろう。俺はもちろん全力で遠慮した。
「いやいや俺は…。」
だが陽キャという名に溺れているこいつらはもはや、俺の言語を聞きも、理解もしなかった。そして事はさらに厄介なことになってしまった。洋子が近づいてきて、
「宮人ならな~。私もなってほしいと思うんだけどな~。」
洋子の色仕掛け?(本人は故意にやってるわけではないと、信じたいが)には口を出すこともできなかった。
「先生…僕が室長やります。」
先生はしっかり納得しているようだった。
「よし、じゃあ後期の室長は国頭と甲賀で決定だ。いいな。」
もちろん俺にとって悪い意味で、異議はなかった。クラスのみんなは納得してても、俺はまったく納得できなかった。
こうして室長としての二学期が始まってしまった。そしてまあ色々と大変だった。学年レクや集会の打ち合わせをしたり、生徒会に出たりと忙しかった。同時に洋子と二人で行動する時間も増えた。室長会で遅くなり、クラスメートが全員帰ってたときはそのまま二人で帰ったり(不本意)した。
何気ない会話をする内に自分と洋子は同じような考えじゃないかと思ってきた。でもそれを直接言うことはなかった。
「まあ大変だぜ、室長なんて。好きでやってるわけないだろう。」
「まあ私も正直言うと、そうだね~。」
洋子は同意した。平日の朝、そんなことを喋っていると学校に着いた。今日は学年レクの日だった。二月に入り冬の寒さや雪も、ピークを迎えるなか六時間目。レクが始まった。外は雪が積もっているからレクは体育館の中で行う。中とはいってもまるで冷蔵庫の中だ。そんな中で室長は声をあげなければならない。
「みんな~~!元気~~~!!」
「元気~~!」
とみんなが返す。これが俺にとって恥ずいこと極まりない。もし将来の自分から見たら、黒歴史確定だ。このように羞恥心を捨て、プライドを捨て、ハイテンションにならなければいけない。それはほかの室長も、同じことだ。
だが残念な事に俺以外は完全体の「陽キャ」だ。俺が恥ずかしいと心の中で思っていることも普通にする。さすがだわ~。(他人事)
その後も声を出し続けた。そしてやっと終わった。だがまた残念な事に今日は室長会がある。だがレクで声を出しすぎたせいか、まったく声が出なかった。
室長会で俺が必死に声を出そうとすると周りがどうしたとこっちを向いた。俺は紙に書いた。
「声が出なくなった。だから今日はこの紙に書いて喋る。」
隣組の室長はおもしろいのか笑っていた。今回はよりによって生徒集会の時に話す所を録画しなければいけない。どうしても俺がやらなければならなかったので急遽、紙に話し言葉を書き喋る?という風にした。もはやこれは伝説回になってしまった。皮肉なことに今日は声が出る。こういうので周りからあざといとみられそうで嫌だった。
ところで明日は毎年恒例のバレンタインデーだ。正直俺には関係あるようでそんなになかった。
去年はまあまあチョコをもらってしまった。女子は大抵、俺が一人のときに渡しにくるのだが、ある日はそれが多すぎてチョコをしまう間もなく、女子が渡しにきてしまうという現象が起きていた。両手に持つぐらいになった小袋が(誇張表現)あるということがあった。家に帰ると家族が驚いていた。さすがにすべてを食べれる程の甘党ではないので家族総出で味比べしながら食べた。
今年も同じだった。二月十四日、まずもらったのは登校中。いつも横断歩道で会う女子二人からだ。洋子からはなく、少し違和感があった。渡そうとする素振りがあったのを俺は見逃さなかった。だがチョコが入ったと思われる袋が一瞬見えたものの、すぐに隠してしまった。俺は洋子に問いかけた。
「あれ、洋子はくれないのかよ~。」
洋子はギクッとした。でもすぐに、
「あ、ごめんごめん忘れてた!持ってきてないの。ごめ~ん。」
まあ別にどうでもいいか。
「ああいや別に欲しいとかじゃねえぞ。」
まあ別にいいかと思ったがやっぱり心残りだった。女子二人も何か察して俺の方を向いたが、俺たち三人はあえて何も言わないことにした。そして学校に着いた。
学校では二年前にバレンタインデーに限り、チョコを渡すことができるようになった。友達関係の広い陽キャ達にとっては嬉しいだろうがそれ「以外」の生徒にとってはイヤな日だと思う。それは自分にとって、分かりきったことだった。
教室に着くとあるクラスメートは女子からチョコをもらい、あるクラスメートはそれをじっと、あるいは羨ましそうに見ていた。まるできな臭かった。勝ち組と負け組、自分の目にはそう見えた。
自分と同じように感じている友達はいないのか。洋子は他の陽キャ達にチョコを渡していた。あっちから一瞬こっちを見てきたが俺はすぐに、目線をそらしてしまった。なぜ俺にはくれないのだろうか。
「宮人。はい、バレンタインデーだからね!」
「おお、ありがとな。また家で食べさせてもらうわ。」
「うん、感想聞かせてね~。」
女子がチョコをくれた。去年は別に何とも思わなかったが、今年は嬉しかった。朝の会だと室長が行うので洋子とは少し気まずかった。
授業中もそんなことを考えていた。その後の放課中にも何人かの女子からチョコをもらった。ある陽キャ達はチョコを何個もらっていたか、数比べをしていた。自分はすでに六個ぐらいもらっていたが、あんなくだらないことに参加するするつもりはなかった。
あっという間に下校時間になった。同級生たちがぞくぞくと帰っていくなか、今日俺は室長会がある。友達が今日遊ばないかと誘ってきたが室長会があるからと言って断った。まあそうじゃなくても断るが。そして俺にとって気まずい室長会が始まった。卒業前に遠足をしようとか、またレクをしようとか、そんなことを話し合った。
室長会が終わり、また洋子と二人きりになり、とても気まずかった。すると洋子が突然、話しかけてきた。
「今日、何の日か知ってる?」
分かりきった質問だ。俺は即答した。
「バレンタインデーに決まってるだろww」
すると洋子は、俺が朝見たあの小袋を差し出してきた。
「ちゃんと分かってるんだ。今朝…渡せなかったからさ。」
チョコだった。洋子は俺の反応にクスクスと笑った。
「あ、ありがとな。家で頂くわ。」
正直めちゃくちゃ嬉しかった。すると洋子が、俺の腕を掴んだ。そしてこう言った。
「家じゃない…宮人。ここで食べて。感想、聞かせて。」
わざわざここで食べるのかよ。校内での飲食は禁止だ。だが洋子の頼みは、断れなかった。小袋の中には箱があり、それを開けると自作のチョコがあった。
「おーうまそうじゃん。」
洋子は少し下を向いていた。恥ずいのか?箱は何かの菓子箱を、再利用しているのだろう。洋子は器用だからかチョコはとても手がこんでいた。
「カリッ」チョコをかじった。ミルクと砂糖のほど良い甘みが、カカオの風味を際立てとてもうまかった。(食リポ風)さすが洋子だ。
「うまいな~このチョコ。甘くてうめ~。」
洋子はいつの間にか俺を見ていた。
「それだけ?」
え、ほかになんかあるか?何が足りなかったのか?俺はかなり焦った。せっかく洋子が作ってくれたんだ。ここで関係をこじらせるわけにはいかない。
「宮人、ちゃんと見て。」
もう一回、俺は箱に目を向けた。空になった箱の底に目を向けた。そこには何か書かれていた。そこには最高のバレンタインがあった。
「すき」この二文字で俺は最高潮に達した。一瞬夢かと疑った。
「これ、本当か?」
洋子はこっちを向いた。
「本気に決まってるじゃん。好きだよ。」
俺たちはなんだかおもしろくなり、笑った。今日も二人で帰ることにした。いつ頃から好きだったのか、どうしてなのかとか。どうやら中三の一学期ぐらいから好きだったらしい。
「ねえ宮人。宮人がいいならさ、付き合おうよ。」
俺の体が熱くなった。こんなことになるなんて、思わなかった。俺がうなずくと、
「嬉しい。あのバカたちとは限界だったもんね~。分かってくれるよね?」
バカたち??だったもんね~!?は、どゆ事。自分の体から熱が出ていき、一瞬で冷えた。
「バカって…。」
洋子は冗談で言ったのか?
「え、宮人もそう思ってたんでしょ?私と同じでしょ?」
どうしてそれが分かるのか?
「なんで分かるん?ていうか…。」
言葉がまったく出てこなかった。
「宮人と喋っている内にね、私と同じなんだって気づいたの。やっぱりああいう陽キャたちは嫌いなんだな~って。自分と同じような人がいてすごい嬉しかった!大変だよね、室長って大変だよね。あのバカたちをまとめなきゃいけないもんね。」
洋子はさらに話し続けた。
「宮人が室長に選ばれた時も、かわいそうだったけどさ。あのバカ頭じゃなにも聞いてくれないからねw」
「あいつらのことか?」
「そう!陽キャという名に溺れておいる奴らのこと!さっすが宮人。」
洋子との思考回路が同じすぎて、若干引いた。洋子は嬉しそうな顔をしていた。自分の好きだった人が自分と同じだったというのは、確かにすごいことだ。洋子の言うことは、まさにその通りだった。だが俺よりもあいつらを「バカ扱い」してることには、なんともいえなかった。というか皮肉だった。さすがに想定外だった。洋子はどう見ても、「あっち側」の方かと思っていた。逆に、洋子は俺が自分と同じだと見抜いていた。あの性格は、すべて洋子の表に過ぎなかった。そのことに、俺は驚きを隠せなかった。体が震えていた。
「だからさ、宮人。改めて言うけれど私と付き合おう。バカたちにはもう邪魔されないからね。まさにストレスフリー!」
同級生を笑顔で罵る洋子に俺はさらに引いた。というかすごい残念だった。しかし、容姿端麗で勉強もできるいいやつだというのは変わらない。俺はあやふやに答えた。
「んだな…よし付き合おう!」
この答えも俺の表面上に近かった。洋子はとても嬉しそうにしていた。
「ふふ、大好き♡」
俺は何を信じればいいか分らなかった。だけどまあ、それは付き合っていきながら考えればいい。バカ=リア充と定義はしない。俺と洋子は自然と、手をつなぎながら下校した。