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真昼の実験

話が動き出します。


補足

筆者の科学の知識は浅いです。

小説のご都合主義でお願い致します。

フェルトベルク領滞在も四日目になった。

この日は七日に一度の安息日となっており、

ハースト邸もお昼のガーデンパーティを開いていた。


「素晴らしいですわ。」


メイが感嘆するのも無理はない。

ハースト邸はヘルツォーゲン山を含むアルザル山系を一望出来る立地だ。

フェルトベルク家が治める前の領主ハースト卿が、そこに贅を凝らした邸宅を建てた。


雪を頂く山脈の麓から大公領にかけて、今は間に王家直轄地(オクシタニア)を挟んでいる。

たとえ山の向こう側から魔獣が超えてきても、まずは直轄領に駐屯する討伐軍が対応する為だ。


魔獣がコルティナを超える事が出来ればの話だが。



そんなハースト邸で、春の収穫祭を前に有力領民や農民達を招いた、

いわば決起集会が開かれたのだ。






 ◇





昨日、陳情に来た一団と談笑していたカインはエルヴィラに呼び止められた。


「ねぇカイン。

 そちらは、廃墟になった森の炭鉱跡地の話で来た方達かしら?」

「ええ、そうですよ。母上」


前日、ロレインのエステマッサージで潤いと弾力を取り戻したエルヴィラ夫人は

近年にないほどのご機嫌だ。

ついでにメイへの信頼度もMaX状態だった。


「あなた達、エッカー河の近くにある危険な廃墟を無くしたいのよね?」

「えっ!?あ、へぇ……はい、そうです。」


割り込んできたエルヴィラ夫人に驚きながらも答える農民達。


「カイン、それについてローゼッタ家から教えて頂いた話を聞いて欲しいわ。」


エルヴィラ夫人は後ろに控える男をカインに紹介した。


『なんだ?』と会話の許可をしたカインに、男はローゼッタ家の食客と自己紹介した。


「それだけでは申し訳ないので、こちらには御者で伺っていましたが

 私の本職は研究者です。」

「研究者?」

「ええ。今、カイン様が受けている件で助力できるかもしれません。」



ジョセフと名乗った男が、今回の廃墟撤去は

自分が開発した方法が条件に合うのではないかと言うのだ。


エルヴィラの手前、話を促したカインにジョセフは実験を見てほしいと言った。





 ◇





周囲を人払いしたテーブルにポツンと一つ、木のコップが置かれた。


「コップには私が開発した粉末が入っています。」


コップの中に水を注ぎながら、ジョセフは説明を続ける。


「よく掻き混ぜて……と。

 ここからお時間を頂くので申し訳ないのですが」


苦笑しながらジョセフはテーブルから距離を取る。


「最も必要なのは、粉末の原料になる大量の生石灰と水なんです。」


ジョセフも異世界転生者だ。

前世の知識を生かして身を立てる為、この世界の物質を把握しようと研究を進めた過程で

応用出来る技術の一つに、今回の静的破砕剤があったらしい。


粉末にした石灰に、モルタルの基になるセメント等を少量ずつ加えて

水に溶かし、膨張させて対象物を爆砕するのだ。


「もし、どちらも現地で入手できるなら、かなり経費削減になるかと思いますよ。

 ……あぁ、もうすぐです。」


ミシミシと小さい音が鳴り始め、最後に少し大きくピシリと鳴った後に


パンっ!!!と木のコップが弾けた。


「今日は実験なので、皆様への安全を配慮して木にしましたが

 石造りの廃墟でも、こんな感じで砕けるんです。」


滞在中に調査をして、条件が合えばやってみたいとジョセフは訴えた。

どのみち、撤去するなら調査が必要だからカインも興味を持ったようだ。

それに新しい技術である。


ローゼッタ家の食客であるジョセフを調査に動員させても、

まだ撤去の契約を交わしていない大公家とジョセフには金銭は発生しない。

ジョセフをどう扱うか、大公家とローゼッタ家の関係性の問題だけだ。


エルヴィラ夫人に話を通したという事は、

この件に関して、メイは大公家にジョセフを任したのだ。


カインは明日にでもジョセフを伴い、廃墟へ再調査を約束した。


真昼の太陽を左顔面で照り返しながら、ハースト邸の家令がテーブルを片付けさせて

収穫祭の決起集会は盛り上がって行った。




 ◇





「カッコつけてたわねぇ…パーティの前は

 『パァ───ンっ!!してやりますよ─!』って言ってたのに」


クスクス笑うメイにジョセフは『イェァ─』と満足気だった。


「これで、大公家が貴方達のスポンサーになってくれるかしら?」

「そうなったら良いですねー

 こちらの方々はノリが良いので好きですよ」


メイがスカウトした転生者達は、面白い事が一番好きだ。

フェルトベルク領に来るまでは、ここまで喰いつきが良い大公家と思わなかったので

やっぱり人生は何があるか分からない。


「ホント、これで引っ掛かってくれればいいけど。」


メイの言葉に転生者達が頷く。




 ◇





夜はエッカー河の水音が良く聞こえる。

もうすぐ収穫祭で、それだけでも面倒なのに、なぜなんだ。


「クソっ!もうちょっとなんだよ!!!」


もうすぐ、あの事件は時効になるのに。


今は森の廃墟の中で、男は悪態を吐き続けた。


閲覧頂きありがとうございました。

楽しんで頂けたら幸いです。

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