真相
一応完結しました。
フェルトベルク領滞在の六日目になった。
五日目はそれなりに大変で、
前日の領主邸でのパーティの後に、メイ達は仮眠を取った。
徹夜覚悟になったからだ。
◇
メイはカインの【あの病】の理解を示して、エルヴィラ夫人の信頼を勝ち取った。
驚異の早さに予定が狂いっぱなしだったが、その後もトントン拍子に進んでいった。
エルヴィラ夫人が、ローゼッタ次期当主に大公領への招待をしたのは偶然だった。
カインは大公領に戻ってから、家督の相続と領主の世襲の手続きに加え
自ら、大公領の名物祭のテコ入れを行い、慌ただしい一年目を過ごした。
秋祭の夜の部で…その、カインの変貌ぶりに驚きはしたが、
『あの魔法陣はなんにも出ないファッション魔法陣ですよ』と
点火式を用意した職員に教えてもらい、一応、外部から招いて鑑定もした。
手がかからないと気を抜いて、カインと向き合えていなかったのかと
相談した領民やエルヴィラが招待した学友達は、口を揃えて『カイン様も息抜きは必要ですよ』と
慰めてくれたが、様子見に肯定的だった人々とは。
「そういえば、殆どが男性だったわね……」
首を捻るエルヴィラ夫人に『だろうな!』とメイは思った。
カインに恋をした時と変貌を遂げた現在を比べた場合、
悲しいかな、今のカインを受け入れる事が出来なくて
素早く次の標的へ向かった女性が多かったのだろう。
閑話休題
そして『呪われた大公殿下』の噂。
エルヴィラは、カインの学友としてローゼッタ侯爵子息に会ってみたいと思った。
まだ夫が存命中の頃、ローゼッタ侯爵親子と親交があった。
子息は司法省に入省したと聞いているが、一個人として会えたらいいな。
顧問契約をしていない法律家へ連絡を取ったところで、期待をしてはいけないが。
辞退を予想して送った招待状の返答は、思わぬものだった。
ローゼッタ候は子息の代わりに令嬢を寄越すと。
就学前で気楽な身分だから、大公家で色々と勉強をさせたいと言う。
返書の結びに
───娘もローゼッタ家の一員です。───と、あった。
◇
トーマの魔法で【コピペ】した証券の写しは、やはり証拠にならない。
【詐欺事件で騙し取られた物があった】事が分かっただけだ。
だから、隠した誰かを炙り出せばよい。
例えば、隠し場所が発見されるような問題が発生したとか。
メイは大公家に、ローゼッタ家が今回の招待に応じた経緯を明かした。
◇
メイはエルヴィラ夫人に協力を請うて、ハースト邸でのパーティで、静的破砕の派手なデモンストレーションをした。
この世界では新しい技術だし、話題性は高いからパーティの参加者でなくとも伝聞するだろう。
見慣れぬモノへの恐怖で犯人が炙り出さればいい。
『明日、現場で調査する』と、プレッシャーもかけた。
まさか、あの【告発状】が、王都で起こった詐欺事件が関係していたとは予測出来なかったが
丁度、時効間際で犯人と目された人物の逮捕があり、首謀者も焦ったのだろう。
ようやく、手に入る資産が爆破されるかもしれないのだ。
「爆破オチはキツイですよ。」
「爆破オチ?」
「パァーンっ!!行ったらキツイでしょう?」
『ん?あ、あぁ??』と、爆破オチへの理解度は低かったが、カインはメイ達の犯人炙り出し作戦は理解した。
◇
「で。 馬車で徹夜待機だったから、捕り物は見物出来なかった、と。」
事前に仮眠をしたが、メイとトーマはまだ子供だから、
深夜の森の廃墟の捕り物劇は参加出来なかった。
カインは現場へ同行も許可しなかったから、二人は勝手に馬車で待機していた。
一応、トーマのクリアリング範囲まで近づいて待機していたのだ。
トーマが小声で『あっ!…終わりました。』で終了だった。
御者のジョセフと護衛のヴェリーは仕方が無いので馬車まで同行していたが、
興味が無かった侍女のロレインは、ハースト邸で就寝していた。
詐欺事件や大公家の告発文の犯人は、かつて森の管理者一族の男だった。
大山鳴動して鼠一匹。
大公領の五日目は、ぐっすり寝た。
◇
そしてフェルトベルク領滞在の六日目。
最近、実用化された無線通信でメイの父が連絡をしてきた。
これは魔道具ではないので、通信だけでも非常に高価な物だ。
「すぐ帰ってきなさい。」
メイは父の言葉が信じられなかった。
「何を仰っていますか?
これから面白くなるのに……」
「お前の言う、面白いはダメだ。
トーマ君もお前を止められんから一緒にしたらイカン。」
『また、お前から変な影響を受けたら辺境伯に申し訳が立たん』と父は言う。
『そんな、諸悪の根源みたいに』と、メイは反論した。
「お前、違うと言えるのか?」
父の言葉にメイは沈黙した。
◇
トーマはメイと一緒にフェルトベルクを去った。
トーマがカインの視察に同行した二日間、いろんな話をした。
シュヴァーベン牛の普及の為に、フェルトベルクの荒野に雄牛のモニュメント
【グリーンブル】を造ろうとか。
そこをフェルトベルク・リンクと名付けて、馬車ラリー開催はどうかとか。
絶対にタイヤを開発するから、カインに買って欲しいとか。
カインはモニュメントに喰いついていたから
いつかグリーンブルに相まみえるかもしれないし、
トーマの夢【王都~コルティナラリー】を開催出来るかもしれない。
とりあえずメイがノリと勢いで言った
『秋祭をエルヴィラ・コンバットに改名してほしい』は
大公家は忘れてくれたらいいなと思った。
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