底辺な私が新人歌い手グループのプロデューサーになりました
“選択”簡単な事だけど難しい不思議な言葉。こういう経験はないだろうか「私この先どうしたらいいんだろう…」「あのときこうすればなぁ……」理由は人それぞれだけど、大抵の人はそういうものだろう。
私、恵巣 雫華もその一人だ。
中学生のときは…
「え!何も考えてなかったの雫華さん」
「せんせー そうやってテキトーに高校に進学するとかダサくないっすか?」
「その考えはやめなさい!ちゃんと将来を見据えないといけないよ!」
「ケッ 私もう帰るから」
「コラ!待ちなさい!」
何とか行った高校も……
「雫華さんは卒業後はどうするんですか?」
「そうっすね〜バイトとかしながら決めますわ」
「ええと、それはどういう…」
「せんせーには関係ないっしょ?私の人生なんだしさ〜 じゃ、ダチとカラオケ行ってくる〜」
「待ってください雫華さん!!………はぁ…」
そして結果が今の私だ。高校卒業後は実家を追い出され、フリーター生活を始めるも、性格が尖りすぎてまともに接客なんかできず、ダチの家を転々とする日々。流石にマズいと思い、就職活動を始めるも社会の厳しさを知る……
だけど何やかんやあって、この“エライ企画”に就職することができた。こんなふざけた名前の通り、社長は破天荒で意味わかんないし、仕事もよくわかんないけど入社してから1年経ったある日。
「雫華くん!ちょっといいかな?」
「なんすか社長…いや変質者」
「変質者!?ひどいじゃないか〜雫華くん〜 まぁそれは置いといて社長室に来てくれないか?」
「またしょうもないことっすか?もう知ってますからね」
この人は江良井 秋人、一応この会社の社長だ。いつも奇抜なスーツを着ていて、グラサンを光らせているのが気持ち悪い。社長だと気取っているけど、従業員は私一人だけなのだ。
うわっだっる、またクソみたいな事聞かされるのか っと社長室の前に差し掛かる。
コン コン コン
「入ってくれたまえ、雫華くん」
「失礼しま〜す」
ガチャン
するとエヴ○ンゲリ○ン風の姿勢で顎を手に乗せている中年男性がいた。
「何すか 話って」
「話が早いねぇ〜 もっとさぁこうシチュエーションとか大事に…」
「さっさと話してくださいよ」
「仕方ないなぁ じゃあ突然だけど……
歌い手グループのプロデューサーになって欲しいんだ」
………はぁ!?
どっかの鬱アニメみたいなノリで言われて、思わず硬直してしまう。
「冗談はやめてくださいよ」
「プロデューサーにならない?」
「WHY!?」
いやいやいや、こんなのおかしいって。確かにうちの仕事内容とかガチで意味不だったけど、ここに来てクッッッッソmost意味不明な仕事持ってきやがったーー……
え?なに?その自信にまみれた表情と仕草!今自分が言ったこと理解してる?おい、グラサンくいっとすんなよ!
「私はねぇ、最近の若者たちが自分達でグループを作り、歌っている姿に感動してね。応援したい!って思ったんだ」
「それは良いんすけど、うちにノウハウとかあるんすか?」
「ないよ!!!」
「ふっざけんなよこのバカ社長!!」
「まぁまぁまぁ落ち着いてくれ雫華くん。大抵のことはやってから成長するものじゃないか」
「それとコレでは違うでしょ!」
「雫華くんだったら出来るよ。1年間見てきたから間違いない」
「もっと良い説得の方法あるだろ!!」
「あ、ちなみにこの企画、失敗したらうち倒産するから」
「ん!?!?」
こうして、アホ中年社長による無茶な企画がスタートしたのである。
「…っで歌い手グループ作るって、メンバーとかどうするんっすか?」
「そこは任せてくれたまえ!実はつい先日からこんな広告を打っておいたんだ!」
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エライ企画 プレゼンツ!!
新人歌い手グループ⭐︎メンバー募集中♡
あなたの素敵な歌声を響かせておくれ〜⭐︎
応募方法
カラオケで、あなたが歌っている姿と点数が分かるようにビデオを撮って、メールで送信!!
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……え? カラオケ?も、もしかして…
「社長…カラオケの点数が良ければ、歌が上手いって事にしようとしてません?…」
「 ド キ ッ !! 」
「イヤイヤイヤァ…そんな訳ないじゃないかぁ ちゃんと歌声で判断するに決まってるじゃないかぁ〜 ハハハ…」
「じゃあカラオケの点数とか関係ないじゃないですか」
「 ガ ビ ー ー ー ー ン! ! 」
その瞬間、社長は私の肩を揺さぶり、喚き出した。
「だっ だってさぁ〜 素人には歌が上手いとか、技術がどうかとか分かんないじゃん〜」
「気持ちわる!てかその手離せ!!
まず、素人がこんな事おっぱじめるのがおかしいでしょ!!もっと考えてからやって下さいよ!」
「まぁその通りとも言えるかも知れないけど、うちに応募する人なんて多分少ないし良いじゃないかぁ」
「それ言ったらおしまいでしょ!」
と言いつつ、そうだ…マジでその通りだ。そもそもこんな変な事務所から、こんな広告があったところで、怪しすぎてマトモな人なら警戒してしまうだろう。メンバーの選定云々の話以前に応募する人が少なければ意味がないだろう。
「はぁ… まずは大々的に広告を貼るとこからっすね。人が集まらないと意味ないんで」
「そうだねぇ~やっぱり近所に張り紙とかかな?」
「うちは猫探してるんじゃ無いんすよ。やっぱネット広告っすよ最近は」
「お…おじさんにはネットとか分かんないよぉ〜」
「何でそこだけおじさんアピールすんだよ!……まぁいいっすわ自分がやっておきますわ。会社の経費で」
「経費を自分で決める社員って一体…」
「どうせ倒産するんだったら、今使った方が得じゃないっすか」
「倒産が前提!?」
私は、会社からぶん取った……集めた資金を使い、ネット広告を貼ることにした。デザインも文章も私が作成し、それなりにいい感じになったと思う。ネット広告の効果は抜群で、会社のホームページの閲覧数も、日を追うごとに増えていった。
しばらくして…
「社長〜 あれから応募来ました?」
「バッチリだ雫華くん!ほら見てくれよ!!」
社長が見せたスクリーンには、6個のファイルが、映し出されていた。
「全然じゃねぇか!!」
いや、初心者にしては頑張った方なのかもしれない。でも、こういうのは50件来るものと思っていたのが仇になってしまった。
「応募してくれただけでもありがたいと思ってさ!さぁ確認しておくれ」
「そうもそうっすね」
カチャッ
「ふ〜ん 結構みんな上手いっすね。カラオケの点数も高いし」
「あ、そこは変えなかったんだ」
「私も素人っすからね」
こうして無事?メンバーを選抜する作業に入ったのである!
「まず、送られたやつでも聞きます?」
「それがいいね。どんな曲を送ってきたのか気になるよ」
「そうっすね。まぁカラオケの点数が高いなら、素の歌も上手いでしょうしね」
カチャッ
「ふぅ〜 こう見るといろんな人がいるもんだねぇ。一番上は100点だってね」
「100点なんて本当にあるんっすねぇ…ちょっと見てみますか」
「〜〜〜〜〜〜♪ ~~~♫ ~~~♬………」
「うわぁ スゴいねぇ~一回も音程外さなかったよ」
「ん?」
社長が感心している中、私は不審な点を発見した。
「ちょっとこれ、口の形合ってなくないっすか?」
「ん?どう言う事だい?」
スローにして、口の形と曲を確認してみた。すると…
「あ!これ口パクだ」
「っふっざけんなよ!クソガキ!!」
私は、怒りのあまり暴言を叫んでしまった。なんか純数な目ですごいなぁと感心していたのに、これなら上手くいけそうという気がしていたのに、そんな期待を裏切られた気がしたからだ。
「こんな輩がいたらキリがないわ!」
「まぁまぁ落ち着いて雫華くん。他の人はちゃんと自分で歌っている感じだしさ」
「はぁ…はぁ…とりあえず残りの5名の面接をしますか」
そして、面接の日になった。
「………っくそまた電車遅延かよ」
私はその日、不運な事に実家の用で、電車を乗り継いでいた。あまりに急な用だったが、幸いにも午後からの面接のため、社長には言っているものの、遅れるはずはないとたかを括っていたのだ。
「マジで電車の事故とかありえねぇから…」
ピーン ポーン パーン ポーン
「お知らせします。現在、〇〇駅からにて車両が脱線する事故がありました。~~~~~~
はぁ?マジでありえねぇっつうの! こうなったらタクシーでも……
そうしてタクシー乗り場へ向かうと、当然の如く、長蛇の列ができていた。
やべぇもう11時だ。このままじゃあ間に合わない… っそうだ連絡を!
「もしもし社長?」
「雫華くん そっちのニュースは知ってるよ。かなりマズそうだね」
「面接はどうします社長?」
「こうなったら私一人でやるしかないね」
「え、マジすか」
「大丈夫 大丈夫 私に任せなさい!!」
「すっごく心配!」
普段なら、意地でも面接を延期させるが、あまりに突然の事で気が動転していたのかも知れない。この重要な面接を、このゴミ社長に任せる事にしたのである。
翌日
「って事で全員採用する事にしたよ!」
「はぁ…もうそれで良いんじゃないっすか…」
もうどうにでもなっちまえ。連日の疲れがここに来てどっと来た。どうせそこまでいい感じの人はいないだろう、そんな期待の薄い事を思っていた。
「じゃあこの5人連れてきたから、紹介するね!」
「え?何その仕事の速さ!!」
予言していたのか、社長室へ例の5人を連れてきた。
???「失礼します」
………何だこれは……
見た目からして、明らかにデコボコな人々が私の眼に映ってしまった。
「こちらが、君たちのプロデューサーとなる人だ。早速自己紹介をしておくれ!」
私は、社長の椅子へ座り、渡されたプロフィール見る。さながら社長のように、厳しい目で5人を睨んだ。
???「じゃあ私から行くね!」
元気な赤髪の女の子が、前に出た。
「私、鹿時 咲良16歳! 明るさが武器です!よろしくお願いします!!」
ピカーーーーーーーーーー
私の前に、巨大な光が差す。眩しい……眩しすぎるっ!だ、ダメだ、このまま見てたら灰になる!!そ、そうだ!ええと、プロフィールでも見ますか…
鹿時 咲良 16歳
尾羽華高校 2年
:
誕生日:9月23日
:
趣味: 歌うこと!!
特技:持ち前の明るさで、みんなを笑顔に出来ること!
夢 :スターアイドル!!!
「…ええと夢は“スターアイドル”って書いてあるけど…」
「はい!!スターアイドルになりたいです!!」
「うちが募集してるの歌い手だよ」
「え!?歌い手とアイドルってどう違うんですか?」
バンッ!
コソコソコソ
私は、社長を部屋の外に連れ込んだ。
「ちょっとあの人大丈夫なんっすかね?区別がまるで付いてないんですけど」
「良いじゃないか!似たようなものだろう?」
「それ現役アイドルに言ったらブチ切れますって!!」
はぁ…大丈夫かなこの人たち…
気を取り直して部屋に戻った。
「っで次の下向いてる君!自己紹介して貰おうか」
「……はい」
監督さながらの圧に怯えたのか、ちょっとビビってる感じもする青髪の男は、髪をバサっとしながらと話した。
「……冷月 水流18歳どうぞお見知り置きを」
うっわ、ナルシストタイプだよこの人…もういい!プロフィール見たら全部分かるし!
冷月 水流 18歳
フリーター
:
誕生日:7月12日
:
趣味: 秘密
特技:秘密
夢 :秘密
「あのぉ~ この趣味、特技、夢が“秘密”って書いてるんだけど」
「ボクは簡単な人じゃないからね」
「じゃあ休日とか何してんの」
「私生活を露わにさせるなんて大胆だねプロデューサーさん!」
ガタッ
「ちょ、ちょっと感情を抑えてくれ雫華くん!」
「あーすいません つい手が出ちまいそうでしたよ」
)こ、こわー
あの卑屈だった頃のように手を出してしまいそうになったが、間一髪で社長が止めてくれた。
「雫華くん落ち着いて次の人行ってみようか」
すると、ゴスロリを着て、目が隠れるほど前髪を伸ばしたヤツがそこにいた。
「私は、平良 音萌花。へへ…いっぱいファンを増やしたいです…へへっ」
部屋に入ったときから妙な空気があったが、この人のせいだ。こんな時にゴスロリとか意味分かんないし、…てか陰の気がヤベェ!
平良 音萌花
酢塔化高校 3年 17歳
:
誕生日:6月30日
:
趣味:カラオケ、ツ○ッター
特技:料理、歌うこと
夢 :ファンサ
先手を取ったのは奴の方だった。
「ちなみに、恋愛とかって入っても出来ます?」
「いやぁ~トラブルを避けたいから控えてもらいたいな」
社長が珍しくは真っ当な事を言う。
「じゃあファンサとか…出来ないって事?……」
「「どういうファンサだよ!!」」
もう分かった!、奴のオーラからは、明らかにメンヘラ臭がする!なんか話している間も横に揺れて、不気味な表情してるし! 絶対トラブルになるやつじゃん……
ってかもう後2人か、そろそろマシなやつが来てほしい所だ。
「じゃあ次、俺っすか?」
「あ、はいどうぞ」
「俺、来先 英二!16歳の高校2年生で、趣味と特技はもちろん歌うこと!!目指すぜトップ歌い手!!」
「あぁ全部言ってくれたね。ってか金髪に染めてるけど校則とか大丈夫なの?」
「ウチ校則緩いんで~ あ、一応”天沙井“高校っす」
とっとんでもない進学校じゃねぇか!!え?将来をここに投げに来たの!?ちょっと頑張れば塔大とか余裕なとこなのに勿体ねぇ… でも、一番なんかマトモそうだし安心したわ。
「でも本気で目指している感じ?」
「もちろんっすよ!余裕!余裕!」
自信過剰だが、上を目指すならこれ位が丁度いいのかも知れない。少し心配な感じはあるが、さっきのガキどもに比べればマシな方である。
「じゃあ最後行くか!」
「あ、はい。僕、武藤 陽向…描彩高校一年生です。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
か、かわええ!めっちゃいい感じ!綺麗な黒髪で顔立ちも良い!!しかもこういう、落ち着いた感じの人いなかったから新鮮だわ。じゃあ早速プロフィールを…
武藤 陽向 15歳
:
性別:男
誕生日:3月20日
:
趣味:歌
特技:料理、歌うこと
夢 :みんなが憧れる歌い手さん
………ん?性別:男!?
「ええと、男っていうのは」
「あ、すいません…僕、こんな見た目なんでよく間違われるんです」
うぉぉぉぉぉぉ!!!いや、いっそそれで良い!!それが正解!!へへへへ、これが男の娘ってやつかぁ
「フフ フフフ……ジュルッ」
「プロデューサーなんか怖いです…」
無意識のうちに、不気味な声を出しながら、プロフィールの書類に唾を垂らしていた。
「は!私は何を!」
ビショビショになった書類を見て、正気を取り戻した。
「雫華くん、今のは怖かったよ…」
全員がドン引きしているも、話を進めた。
「こんな感じなんすけど、グループ名とかどうします?」
「じゃあ、”人生ラブレター“とかどうだい」
「センスが完全におっさんなんだよ!中年社長!……ったくマジでどうしよ」
すると、咲良が元気よく前に出てきた。
「“デコボコペンタゴン“とかどうですか!?だって社長さんとプロデューサーさん込みで、皆んな個性いっぱいじゃないですか!」
「あ、それ良いかも咲良ちゃん」
「へへ、“デコボコ”って響きがいいかも…」
「良いじゃないか♪」
「ぼ、僕も咲良さんの名前で賛成です!」
メンバー達は乗り気なようだ。
「うんうん、素晴らしいよ!おじさんなんか感動してきちゃった」
「「「「「「涙を流すのが早い!」」」」」」
「全部カタカナだと読みにくいから、“凸凹ペンタゴン”でどう?」
「良いよ 良いよ 雫華くん(涙)」
「まだ泣いてるし!」
こうして、新人歌い手グループ“凸凹ぺンタゴンが誕生したのである!ある?
しばらくして…
「社長~形としては、歌い手グループ結成出来たんすけど、これからどうします?」
「そうだねぇ~ じゃあまずはデビュー曲と行こうじゃないか!」
「は、はぁ でも所詮歌い手なんで、人気曲でもカバーさせますか?」
「そうしようか!ちなみに最近の曲とか知ってるのかい?」
「知りませんよ。だって私ガチガチの音ゲーマーだし、普通の曲には興味ないし」
「それは音ゲーマーへの風評被害なのでは? それはさておき、メンバー達に聞いてみようか」
こうして、メンバー達がぞろぞろと集まった。
「私、ジャ○ー○が良い!!」
「俺は流行りのk-pop系の曲がいいぜ」
「へへ、恋愛ソングとか……へへっ」
「ボクはボカロを推薦したいな♪」
「僕は、人気の曲なら何でも」
ものの見事に意見が、凸凹に分かれてしまった。グループ名としては成功だが、こうもバラバラだと大変だ。
「っでどうする雫華くん」
「ちょっとは社長も考えて下さいよ ったく」
ピーーーーーン
その時、この女 恵巣雫華は閃いた!
「そうだ、他の新人歌い手グループをググればいいじゃん!」
そうパクれば良いのだよ!パクれば!単純な事を思いつかなかった自分が憎い!早速調べてみる事にした。
「あぁ~ なんかボカロというか、ネット発祥の曲がメインっすね」
「それは意外だな雫華くん。テレビとかに出ている曲の方が人気なイメージがあるんだが」
「多分、界隈がニーズと合致してるんじゃないっすか?最近で一番伸びが良い曲にしますか」
「えぇ~ジャ○ー○ダメなの?」
「人気云々の前に、速攻で訴えられそう」
まぁ紆余曲折あったが、私の意見に賛成してくれた。
っという事で最近流行っている“不細工でむねん“をカバーする事になった。原曲がソロで歌われている分、グループでカバーするには、それなりの腕が必要だ。どこで・誰に繋げるか、そして自然に1つの曲としてまとめられるか、ここはプロデューサーの仕事だ。
「ちょっと良いかな?」
突然、社長が声を上げる。
「どうせだし、一回皆んなの オ・ハ・コ♡を聞かせて貰おうじゃないか!」
(うわっ
「応募の時に聞いたって言ってたじゃないですか社長」
「そうだけど、録音の環境とはまた違うからね。リアルの声質を聞いた方が、プロデュースしやすいと思うんだ」
「珍しくまともな事を言いますね~」
「珍しいは余計だろ!?」
カバー曲を録音する際は、スタジオを使うことになる。という事で慣れも兼ねて、スタジオを借りそれっぽい事をすることにした。
「わぁ~スゴいねココ!こんなにいっぱい器具が置いてあるよ!」
スタジオの中に入ると、咲良は大はしゃぎしている。
「おい!あんまマイク触んな!」
「す すいません~!スタッフさん!!」
「「うちの子がすいません」」
後先が不安になるが、まずは咲良の歌の録音を開始した。
あの頃の~ 夢を~ 思い出した~♪ 何も 分からず~ 追っていた~………
ハキハキとして、元気な声だ。キレイな高音は、思わず聴き溺れてしまいそうになった。それと同時に、不安は次第に確信へと変わり、”これならいける!“と感じた。
パチパチ パチパチ
「いやぁ~凄かったよ!私が見込んだことはあるよ~」
「ほ、ほんと素晴らしかったです咲良さん…」
「え!?社長さんにプロデューサーさんに言われて光栄ですよ~」
いつもは卑屈な態度を取る私でも、ベタ褒めしてしまった。それにしてもこのレベルが揃っているともなると、歌い手グループとしては勿体ない気がするくらいだ。
「じゃあ次は、水流くんね」
「ボクの歌を聞いてくれよ♪」
その時空気が変わった!
♪~
あ゛い゛さ゛つ゛は゛い゛ら゛ね゛え゛ こ゛ぶ し゛が せ゛い゛ぎ!!!!
………ん?おかしくないか?これからカバーする曲はもっと可愛らしい曲だよ?なんかデスボイスで歌ってない?
し゛に゛ゆ゛く゛た゛ま゛し゛い゛ お゛ま゛え゛を゛こ゛ろ゛す゛!!!!
あ、これ本気でやってる…
ま゛え゛の゛て゛め゛え゛お゛ま゛え゛か゛ら゛だ!!!!
~♪
「ふぅ~…疲れたね♪」
「「疲れたじゃねぇよ!!」」
「え、何?」
「応募したときは、普通の曲だったよね?」
「あぁ…これウケ悪いと思ったからね十八番とは違う曲で応募したよ♪あ、ちなみに応募した曲は、キー8くらい下げてるよ」
「どの位、無理なの?」
「国歌でもうダメだね♪」
ここにきて、扱いずらいのキターーーーーーー そりゃあ男子なんだから高音出せなくて当然だけど、素の限界でそれかよ!絶対、咲良ちゃんのパートと合わないじゃん!歌は上手いから、いっそう扱いに困るんだよ!
「は、はは… じゃあ次行こう次。えっと音萌花ちゃんね」
「へへ、私か…へへ」
不気味な笑みを浮かべながら、録音室へ入っていく変人。
すっ
届け私ぃ~~ の~ こえ~~ 縛られた~花を~~ 解いて~~~
あなぁ~たの~ 背中ぁ~が~ 眩~~~しくて~~~~
………
ガチャン
「へへ、上手に歌えたかな…へへっ」
リアルで聞くと印象がまったく違う!!めっちゃ陰湿なイメージとは裏腹に、儚げながらも力強い声はずっと聞いていたくらいの心地よさだ。
「やるじゃん君」
「社長の私より偉そうにしだした!?」
こんな事を言いながらも、次第に上がっていく口角を隠せない。
~~ポワポワァ~~
「今日紹介するのはこのグループです!」
ザワザワザワ……
キャーーーーーーーーー
「凸凹ペンタゴン!!」
「今、若い世代で急上昇中のグループだ!!」
キャーーーーーーーこっち向いてーーーーーーーー!!!
~~ポワポワァ~~
「……プロデューサーさん……」
「へっへっへ~…」
「プロデューサーさん!」
「は!!」
「次の人、録音しますよ!」
「は、はい!」
まだデビューソングすら、世の中に出していないのに妄想が膨らむ。あのミュージック番組に出れたらなぁとかメッチャ想像してしまうのは私だけなのか?童心に帰った気持ちで内心ワクワクしまくりだ。
「じゃあ次俺っすね」
髪を整えながら英二くんが部屋に入っていく。なんかマイクの位置に拘りがあるらしく、色々と位置を調整している。
「っで、そろそろ始めていい?」
「ちょっとプロデューサーさん待ってください。う~んなんか違うんだよなぁ…マイクスタンドをちょっと斜めにして… こう!」
ジャーーーン
「ロック歌手か!! もう良いこれで始めるから!」
Monsters do cling to the clumsy~♪
Watch out! If you look down, they'll come at you from behind.
If you want to know what love is, drown yourself and feel the sensation of being ignited!!
や、やべぇ~英語とかわかんねぇけど、絶対発音とか上手いやつ~。よくありがちな「俺、洋楽歌えるんだけど~」って言ってふにゃふにゃな英語で歌うのとは質が違う。アクセントはハキハキとしているし、何よりも違う言語でここまでメロディーを乗せられるのは、英二くんの強みかもしれない。てかラップ調なのに歌の上手さが分かるの凄いわ。
「うい~久しぶりにこれ歌ったな」
「メッチャかっこいいじゃん!英語喋れるの?」
「一応アメリカに留学してたんで少しは喋れるっすね」
…これここに居ていい存在なのか?と疑ってしまうほどのハイスペック!学業優秀で、歌まで上手いと嫉妬してしまいそうになるが、これがウチの所属って事でテンションはますます上がる。
「じゃあ最後、君!」
「は、はい…」
トリを務めるのは陽向くんだ。普通の男の制服を着ているが、女顔すぎて男装しているようにしか見えない…おどおどしている様子とかまんま女子だ。
「じゃ、じゃあお願いします…」
~♪
夏の草原に~ 銀河は 高く 歌う
胸に 手を当てて
風を感じる
:
:
:
~♪
まさかのCOSMOS
選曲が謎すぎるだろ!! オハコが合唱曲とか初めて聞いたわ!
おどおどしながら陽向くんは部屋を出て、真っ先にプロデューサーの私へ駆け寄った。
「あ、あの…変でした…?」
「いやいやぁ~珍しいなぁって」
「す、すいません!一番歌った曲はコレかなぁって…」
確かにそうかもしれない!中学生の時の合唱コンくらい毎日同じ曲を、何度も歌い続ける時期はないだろう。今思い返せば、合唱コンで歌った曲は何故かいつまでも覚えているものだ。
それにしても、見た目もそうだけど歌い声は極めて女声だ。そこら辺のアルトパートに自然に溶け込めるくらいである。てか私より声高いし…
「っとみんなお疲れ様!!いやぁ~みんな上手いねぇ 社長としてこれからが楽しみだよ」
「あ、社長いたんっすね」
「は?まさかの空気!?」
「ってか結構、個性バラバラっすけどパートとかどうします?」
「う~ん」
社長が腕を組みながら、天井をしばらく見つめると電撃が走ったように私を指差した!
「そうだ!みんな同時歌ってしまえば良いんだ!!」
「アホかーーーーーーーー」
その夜、私はバカみたいな根性で何度も録音した音声を聴き、徹夜でパート分けを決めたのだった…
それから…
カバーする曲は会社の素人共では指導出来ないので、個人で練習とする事にした。そうしたら咲良が『じゃあ5人で練習しない?』っと言い。5人がカラオケに集ったのである!
「よ~し じゃあ練習っすか! このファイルにパート分けとか添付して貰ったしな」
「ええと、ボクのソロパートはドコ?」
「あ、ここのアレンジしているラップ部分だけらしいよ」
「デビュー曲で主旋律に触れないって一体…」
「っとそれは置いといて一通りやっときますか」
「そうだね英二くん!私が最初だから緊張するよ~」
「へへへ、皆んなで歌うとか……へへへ」
「怖いよ音萌花さん…あと僕がトリなんだね緊張しちゃうなぁ」
「大丈夫だよ陽向くん!練習なんだからトライアンドエラーだよ!」
「ありがとうございます咲良さんちょっと楽になったような感じがします!」
「じゃあやるか!」
前奏が流れると、咲良がマイクを持って大きく深呼吸をした。
~~♪
「「わ!!」」
…………
「あ、すまん俺のパートと間違えたわ」
「早速ミス!?」
謎ミスをぶちかましてしまい幸先悪いが、咲良の言ったようにトライアンドエラーだ!何度も何度も練習していくうちに連携は高まっていく。
~~~~
「はい!次、水流くんのラップ!」
「任せてくれたまえ♪」
………
「音萌花ちゃん良いよーーー」
「へへへ、この部分は任せて…へへへ」
:
:
:
4時間後……
「ふぅ~こんなに同じ曲を歌い続けるのは初めてかも…」
「心配してたけど陽向くんメチャクチャ上手かったよ!」
「咲良さんが安定して歌ってくれてたから繋げやすかったです!」
「ボクのラップはどうだったかな♪」
「そのパートがあるせいで、採点のコメントにアレンジ云々言われまくってたけどな」
「これもまた一興じゃないか♪」
「へへへ、うまくいってたんじゃない?」
「お、音萌花ちゃんの言う通りだな!この調子で本番も頑張るぞーー!!」
「「「「「えいえいおーー」」」」」
結果として、みんなで集まって練習したのは正解だった。連携が上手くなったのもそうだが、何よりグループとして仲良くなる事が何よりも重要だ。歌い手の卵としてモチベーションを高く保つのもまたグループ活動には必須だ!
帰り道、何気なく歩くところに英二が声を出した。
「そーいえばみんなはどうしてここに応募したんだ?」
「たまたまネット広告で流れてきたから、なんとなく応募したら通ったって感じかな!」
「ボクは家で警備をしてたからね♪外の世界を堪能したかったのさ♪」
「あ、水流くんニートだったもんね!」
「咲良くん言葉を慎みなさい! フリーターだから一応! てか今は事務所に所属してるから♬」
「ははは!水流くんって面白いね!」
「なんかバカにされたみたいでショックだよ♩」
「みんな衝動的に応募した感じなんですね~。音萌花さんはどうなんですか?」
「へへへ…私は○イッターでフォロワーを監視してたら、歌い手募集って出てきたから応募したの…へへへ」
「監視!?なんか怖いよ!」
「へへへ…陽向くんはどこで知ったの…へへへ 気になる」
「相変わらずオーラすごいね音萌花さん…僕は友達に紹介されたんだよ。『君なら天下取れる!』って謎にグイグイ押してきたんだ」
「確かにその声で男ってのは珍しいもんなぁ ギャップ萌えってやつじゃね」
「え…そんな…恥ずかしいよ英二くん…//」
か、かわいい!!
そう心の中で一同がハモったのであった。
へへへ……え? 私は聞かれない感じ?
本番の日!
「へぇ~結構デカいとこ借りたんすね」
「知り合いにスタジオを運営している方がいてね。特別にいい機材を揃えているとこを借りられる事になったんだ」
「謎に人脈広いっすよね社長」
玄関で待っていると、ビシッとスーツを着たおじさんがお出迎えしてくれた。
「これはお久しぶりです江良井さん」
「久しくしてましたね音竹さん~」
「今日は、そちらの5人方のグループですかな?」
「えぇ、これからデビューするんですよ!」
「おぉ!これはこれはおめでたいですなぁ」
なんかどう考えても立場が違うような気がするが、高級そうな玄関を通ると、清潔で荘厳なスタジオがそこにあった。
「本当にここでやるんすか社長さん」
「英二くん、萎縮する必要はないよ!精一杯歌ってくれ!」
「えぇ……」
肩をポンポンと叩き鼓舞しているが、場違い感を放っているのは間違いない。デビュー曲でこのスタジオって、なんか巨大なアイドルプロジェクトでもするんじゃないかってくらいである。前に借りたスタジオとは全く違う雰囲気だ。流石に練習を重ねたとはいえ、メンバーは緊張しまくっていた。
「ボクにはこのくらいがちょうど良いね♪」
「自信過剰すぎるよ水流くん…」
「へへへ…もう私は楽しみで仕方ないわ…へへへ」
「プレッシャーに強いんだね音萌花ちゃん!私も頑張らないと!」
案外メンバーたちは楽観視しているようで何よりだ。早速ルームに入ると、そこには明らかに高そうな機材ばかりで何処を見ても眩しい!ってか何故かハープが置いてあったり、大量のパイプ椅子が掛けてあったりと、オーケストラが出来そうなくらいだ。
そうやって私たちが周りを見渡していると、社長が元気よく叫んできた
「じゃあリハ始めるよー!」
そう言われ、正気を取り戻すとプロデューサーの私と社長が呼び出され、色々と機材の説明をしてくれた。熱心に録音する時の操作を教えてくれるが、正直ボタンとかレバーが死ぬほど付いていて、どれがどのボタンなのか覚えられないほどだ。と言うかこの膨大な操作を行なっているレコーディングエンジニアの方には頭が上がらない。やっぱり仕事って一人一人が支えて出来ているんだなぁっと思いつつ、メンバーの発生練習を外から見ていた。
「……あっ……あーーーーーー! 声入ってますかー?」
グッ!
親指を高く突き上げてサインするエンジニアさん。それを横目にガチガチに緊張している2名がいた。
「本当に大丈夫なんですかね社長…個人で練習してって責任を放棄してましたけど」
「は、はは大丈夫だとも! … ちょ、ちょっとお腹の調子が…」
「なんか私より緊張してない!?」
「雫華くんはメンバーの様子でも見に行ったらどうだい?まだ本番まで時間あるみたいだし」
「それもそうっすねー」
「じゃあ後は頼んだよ!社長はトイレ行ってくるから…」
ズギューーーン
高速で部屋を出ていく社長に清々しさを覚えると、プロデューサーとして私は録音部屋へと入室した。
「あ!プロデューサーさん!来てくれたんですね!」
「ここでプロデューサーって言われると緊張しますわ」
「ここからじゃないですか!」
メンバーたちの熱意に目頭が熱くなるが、それはまだ早い。ここは落ち着いてプロデューサーっぽい事を!
「はい!皆んな集まって!」
部活動の大会かって言うくらいに円陣を組むと、胸の中の気持ちをストレートに解き放つ。
「凸凹ペンタゴン! デビュー曲頑張るよお前ら!!!」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
「ええと、体育会なんですかね…この音楽グループ…」
「なんか新鮮ですね」
興味深そうにガラスの外から見られている事に、私たちは気づかなかった。
「社長レコーディング始まりますよ!」
「ごめん雫華くん今向かう!」
ガチャン
じゃあ30秒前~
「おぉギリギリ間に合ったか」
「さっさと定位置につきますよ」
後はメンバー次第だ。祈るような手でただただメンバーの成功を願うしかない。凍るように張り詰めた空気、そしてこんな中でも至って笑顔な5人。一体私たちがいない間何があったのだろうか、何も接点のないはずのメンバーは、長年の友達のような雰囲気を感じる。零細事務所というだけありあまり面倒を見てあげられなかったが、メンバーの間で工夫して頑張ってきたのだろう。心配という気持ちもあったが、こうして見ると期待感の方が上回った。
3、2、1
咲良: 私が君のことを妬んで 何が悪いの? 整形でしょうか?
臭いだとか終わってるとか 届いてますよその陰口
英二: 大好きな二次元 大好きなオタグッズで
お決まりのイタTシャツ着て
お出かけしよ
メガネかけて ぼっちだって
幸せだもん!
一同: 厨!ブサイクで無念
不愉快な格好でごめん
厨!ブサイクで無念
気になっちゃうよね?ごめん
厨!ブサイクで無念
お風呂入らないでごめん
厨!空気で無念
ネットでイキってごめん
ムカついちゃうよね? ざまあ ブフォ!
水流: オタ活 終活 同時進行 二次と三次を 反復横跳び
鏡見て 二重を作る 1秒後に分かる その結果
現実見てない 二次が取り柄 それでもありのままが美しーーい!
:
:
:
:
:
音萌花: パーツの違い
陰キャだと バカにされても
曲げたくない てか治せない
陽キャごとき
自分の味方は推しでありたい
推しには幸せにしてあげたい
理不尽な軽蔑はさせない
“それが私”
陽向: 厨!ブサイクで無念
鏡を汚してごめん
厨!ブサイクで無念
人生楽しんでごめん!
一同: 厨!幸せでごめん
二次に愛されてごめん
厨!オタクでごめん
推し活充実しててごめん
ムカついちゃうよね? ざまあ コポォ!!
……………
「はい!お疲れーバッチリです!」
「うわぁー疲れたーーー!」
「よし!みんな完璧だったぜ!」
「ボクのラップが火を吹いてたね♪」
「へへへ…上手く歌えた…へへへ」
「緊張したけど何とかなって良かった~」
メンバー同士が労っている中、外から涙を流している不審者2名がココにいた。
「なぁ雫華くん もし倒産したとしても悔いはないよ(涙)」
「私もそう思っちゃいましたよ…もう…最高!!(泣)」
感動のあまり震えている所に、スタジオの所長である音竹さんがやって来た。
「いやぁ~いい歌でしたな!プロデューサーさんこれがオリジナル曲ですかな?」
「いえ、カバー曲です」
「ん?音楽グループのデビュー曲なのにカバー曲ですか?珍しいですな」
「一応歌い手グループなんで」
「歌い手!?」
すると社長がしゃしゃり出て来て高らかに言う
「そうですとも!この人たちは日本一…いや世界一の歌い手となる子たちです!」
「は、はぁ…」
多分この所長さん“歌い手”なるものを知らないのだろう。微妙な反応をしながら一人で高笑いをしている社長を呆れた顔で見ているところ、メンバーがこちらへ戻って来た。
「お疲れーみんな!」
「疲れたよ~プロデューサーさん!」
新人というだけあり、メンバーはぐったりとしている。初めてにしては上出来というのは間違いないだろう、私もここまで上手いとは正直思っていなかった。曲のテンポも完璧だったし、何より一人一人の個性が際立っていて、それでも自然に調和していた。金の卵とはこの事かもしれないと思わせるかのような歌唱であった。
「じゃあこれから打ち上げじゃあ!!」
「「「「「「おーーーーーーー」」」」」」
なんか私が仕切っているがその場のノリってやつだ。
「って事で、無事デビュー曲完成おめでとう!!社長本当に嬉しいよ(泣)」
「へへへ…私たち本当にやちゃった…へへへ」
「人気になる事も時間の問題かな♪」
「ちょ、ちょっと早いよ水流くん!でも、みんなに知って貰えたら嬉しいなぁ」
「それよりよぉ 食いもん注文しようぜ!」
「私もお腹ぺこぺこだよ~」
打ち上げをやったのはいつぶりだろうか。社長と二人三脚で経営しているのもあってか、こうして沢山の人と食事をする機会があまりなかった。あったとしても接待の席で、気の抜けない感じになっていたから、何というか……楽しい。
「今日は思いっきり食べなさい!社長はあんまり食べれないけど」
「じゃあ今日は社長の奢りって事で」
「雫華くん!? でもそうしてあげようじゃないか!」
「流石~尊敬する私の社長」
「そんな言葉初めて聞いたんだけど!?」
「「「「「社長の奢りだーーー!」」」」」
こうして、社長は財布に大打撃を食らったとさ。食べ盛りって怖いね。
後日
「よし、編集終わりましたよ社長」
「雫華くんお疲れ。その動画はどこで公開するのかな?」
「無難にYou○ubeじゃないっすか?」
「知ってる限りだとニ○ニ○動画とかあるらしいじゃないか」
「そのブームは10年前に過ぎましたよ…とりあえず○イッターのアカウントとか作っときますからね」
「仕事が早いねぇ!全部やってくれるじゃないか」
「社長が機械音痴すぎるだけっすよ!」
デビュー曲を公開する前に、自己紹介ムービーを作りネットの反応を伺うことにした。
「ええと…一応公開して一週間経ったんすけど」
「そうだね再生数はどうだい?」
「ええと500回っすね」
「500回?」
流石に少ないって事に気づいたようで慌てた様子を見せる。
「え?一週間でそれだけなの?」
「正直、バカみたいに少ないっすねこれ」
「雫華くん…」
社長は私の肩をポンっとたたく。
「今までありがとうな」
「諦めるのが早い!! もっと足掻きましょうよ社長!」
私は目にも止まらぬ速さでカタカタとキーボードを叩く。リストラだけは絶対にダメだ、もうこの会社以外に私に生きる術など無いのだ。言葉通り死に物狂いで、その方法を模索する。
その時、社長が衝撃的な一言を言い放った!
「あ! 広告打ったらどうかな」
「そ、それだーーーーーー」
単純な事を見落としていた。そうだ、これでこのメンバーを集めたのである。良い悪いよりも、まず知ってもらわなければ意味がない。まさに天の一声、というよりも道端に落ちていた小石の存在を忘れてしまっていた!
「どのくらい広告に資金出せます?」
「はは…恐ろしいこと言うね雫華くん ちょっと頑張ってこれくらい…」
「もっと」
「え?結構がんばっ…
「モア」
「うち結構カツカツなんd…
「倒産したいんすか?」
「ははははは…………」
鬼畜な社員により、寿命が縮まったであろう社長は、パソコンを打っている私のそばで白くなっていた。
その後、資金調達に明け暮れる社長と、編集でバチくそに忙しい日々が続くも、何とか広告を打ち出すことができた。
「プロデューサー!あれからどうですか?」
今日は5人にも事務所に来てもらった。咲良がいつものように眩しい笑顔を見せてくる。
「再生回数が20万回を超えたわ」
「20万!?」
泣けなしの資金をかき集めて作られた広告の効果はバツグンであった。それにデビュー曲が流行りの曲というのも良かったのかも知れない。日に日に増えていく再生回数に驚かされる限りだ、もちろんメンバーもそれは同じで次第にモチベーションは高まってくる。
「じゃあ次の曲もリリースしないとね!」
「乗るしかないぜ!この波によぉ!!」
どこかで聞いたようなセリフを言い、ウッキウキで話し合っている所に、音萌花がニョキっと入ってきた。
「へへへ…プロデューサーさんネットの反応知りたいです…へへへ」
「ぼ、僕もそれ気になります」
「確かに見てなかったわ、エゴサは大事だしね見てみますわ」
何気なく検索してみると、とてもじゃないがメンバーには見せられないような事が書かれてあった。
1:この新人歌い手グループがヤバすぎる件についてwwwwww
2:最近広告で流れてきて不快なんよなぁ……
3:自分で“凸凹”って名乗るのはどうかと思う
4:良くも悪くも“新人歌い手”って感じがするわwwwww
5:下手くそ
「あ…ヤバ……」
なんか一気にテンションが落ちた感じがする。こういう反応はどのような事でも必ずあるというのが分かっていても、実際に見るとクルものがある。
クッソーーー!!何も知らないくせに!! そう内心で思っていると、批判の声ばかりではない事に気がついた。
1:このグループめっちゃ良さげじゃない?
2:正直期待してるわ
3:歌も上手いし、一人一人が個性的なのにここまで合ってるの凄い!
4:一回聴いたらファンになりました!応援しています!
私は大切なものに気が付かなかったのかも知れない。もちろん批判の声もあるが、大切なのは聴いてくれる方たちだ。ファンに向かって一生懸命に歌う、それが歌い手のあるべき姿なのではないかと。こう見ると、希望が湧いて出てきた。
「うん!ネットの反応は上々!! これからも頑張って行こう!」
「そうだねプロデューサーさん!」
「行くとこまで行こうぜ俺たちで!」
「ボクたちの歌を世界に…ねぇ♪」
「へへへ…私たちなら出来そう…へへへ」
「が、頑張りましょうみなさん!」
初夏の風が吹く頃、私たちの歯車はついに回り出した。この先どうなるかは誰にも分からない。いや、それで良いのだ。私も新人プロデューサーの一人、メンバーと共に成長していく事で未来は切り開けるのだ。ちょっと変わった社長とちょっと変わったプロデューサー、そしてちょっと変わったメンバー達!!いつか夢見たトップ歌い手グループを目指し、今日も精進を続けていくのだ!………
「ちなみに先の広告代で、うちの会社借金まみれだから頑張らないとね!」
「しゃちょーーーーーーーーー!!!」
その前に倒産の危機だったり?