9 最強の影
そうしてハヤテという最強の影を手に入れた私。
そこからハヤテは、表向きはカイの護衛として、城に住むことになった。
あれから城にパパたちが帰ってきてから、カイがハヤテのことをパパとセイ兄様に説明すると、城中が騒然とした。
セイラン家の影がついている王子は、ここ数十年、いやひょっとしたら百年単位でいないかも知れない。
いざと言うときは、大きな外交の切り札になると言う事で、全力で秘密にすると言うことになったらしい。
ハヤテは、表向きはただの流しの影ということになり、本当の出自を知るのは、王、王妃、セイ兄様、外務大臣、宰相、王国兵団長、王とセイ兄様の影。
そして私の極々少数。
でも、これで本当は私の影ということがばれにくくなると、私もカイもホッとした。
ただ、最大の懸念、セイ兄様は、なんだか不審げな顔をして、ずっとハヤテを見つめていたけれど。
ハヤテの機嫌を損ねてはいけないと、城の奥まった場所に最高の客室を与えると宰相が言うと、ハヤテは突っぱねた。
セイラン家の影として、片時も護衛の側を離れる訳にいかない。カイの部屋の物置スペースでもいいから、そこで寝泊まりさせてくれと。
そしてその発言中、ずっと私をちょっと危ない目で見ていたけど……。
バレるから、やめてよ。
そう言われてはしょうがないと、急いでカイの隣の部屋とカイの部屋を工事して続き部屋にし、ハヤテの部屋が整備された。
ハヤテの部屋は、カイの部屋からしか出入りできないようにしており、使用人たちには、物置スペースを広げただけだから、入る必要はないと説明している。
そうなるとハヤテ自身が出入りに不便のような気がしたけど、外に出るときは窓から出入りするから問題ないらしい。
ここ三階だけど?警備状の問題で、蔦って行けるような木とかもないけど。
さすが影というべきか。
ちなみに、カイの部屋の反対側の隣は、私の部屋。
私の部屋は、右側がセイ兄様、左がカイの部屋になっている。
そして、それぞれの部屋は、部屋の中に出入りできるドアがついていて、行き来自由だ。
これは幼い頃、両親を亡くした私が寂しくならないようにと、パパママが配慮してくれた結果で、学校に通うまでの間は真ん中の私の部屋のベッドで、子供3人で一緒に寝ていた。
まあ、学校に通ってからも、怖い夢を見た時とか、時々一緒に寝ていたけど。
そんな訳で、ハヤテは私の部屋に、中からすぐに入ってこれるようになった。
基本、私とカイの2人の時や、私1人の時は、よくべっとりとくっついている。
いや……影ってこう、なんていうか。
もっと潜んでるものじゃないの?
普段隠れてて、呼んだ時に天井裏から現れたり、ピンチの時にさっと現れたりとか、もっと忍んでない?
「そんなのやだ。こんなに理想的なご主人を見つけたんだから、できるだけ側にいたい。っていうかできるだけ近くでその顔を見ていたい。」
「気持ちはわかるけど、いや、分かんないけど。あんまり側にいたらバレる危険性も高くなるし。」
「そこは俺を信用してよ。腐ってもエリートな俺だよ?誰かの気配がしたら、さっと姿消せるから。」
始めるはハヤテの行動にかなりヒヤヒヤしたが、その言葉通り、誰かの気配が近くにある時は、呼ばないと姿を見せない。
普段ベッタベタのくせに、ハヤテは驚くほど見つからなかった。
うーん、ほんとに能力が高いみたいだし、私が主人なのは考え直した方がいいんじゃ。
何度なく思ったけど、ハヤテを見ていると心底満足しているようだった。
そしてそれは私を見つめる瞳が、完全に危なくなってきている証でもあった。
側にいる時は、ほんとに天使か女神でもいるかのように、ただ私の顔を見てうっとりしている。
「よく見飽きないね?毎日見てたらもう慣れるでしょ?」
呆れてハヤテに言うと
「は?姫様の顔は、見れば見るほど、味わい深いというか。摂取時間が長ければ長いほど、深みにハマって抜け出せなくなるっていうか。とりあえず飽きるとか絶対にないから!」
と断言された。
人の顔を中毒起こす薬物みたいに言わないで欲しい。
「ああー。あの時島を追い出されてほんとに良かった。あのクソ親父に感謝しかないわ〜。」
うんうん、人の足に顔を擦り付けるのはやめて。
しかし、こんな変態に成り下がったハヤテでも仕事はちゃんとしてくれているようで、城に入る不審者を俊敏に見つけて捉えまくったおかげで、城は鉄壁の守りを敷いているということが知れ渡り、不審者がほとんどいなくなった。
おかげで城の周りの近衛兵たちは、心なしか暇そうな顔をしている。
パパやセイ兄様に雇われている影たちは、ハヤテの顔を見るとすぐに正体が分かったらしく、暇があればすぐに稽古をつけてくれと頼んでいるらしい。
パパたちの影って、結構熟練っていうかそこそこの年だと思うんだけど、それでもハヤテに教えを乞うってことは、やっぱり相当ハヤテが凄いってことなのか。
ハヤテはめんどくさいから嫌がっていたけど、私もひっついていられる時間が長いのが鬱陶しくなってきたのもあって、
「他の影たちの実力が上がると、この城やこの国の平和がより保たれるってことだから、私を守るって意味になると思うの。だからお願い、できるだけ長い時間、稽古してあげて。」
と必殺スマイルをお見舞いしてあげると、胸を押さえて
「うっ、それ反則……」と言いながら、よろよろと頷いた。
「まあ、姫様の命令なら聞かない訳ないし。ストレス解消にいいか。」
よしっ!引き剥がし成功!
たまに訓練所から、影たちの悲鳴が響いてたけど、しーらない。
これによって本当に影たちの実力が上がって、リエラの城はますます鉄壁の守りとなったとか……。