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5 まさかの婚約

「まずアリスが僕のことをどう思っているかは置いておくとして。城を出たいと思っているってどういうことかな?」


城の薔薇が咲き誇る素敵な景色の中庭。

実はここ、私専用の中庭だったりする。

小さい頃に絵本で読んだローズガーデンに行ってみたいと無邪気に話したら、セイ兄様がすぐさま反応し、

全く同じ品種の薔薇を絵本から読み解いて手配し、一ヶ月後には完成していたという恐ろしい庭だ。


そこに用意されているランチ。今日は、私の大好きなオープンバケットだ。

エビとアボカドのタルタルソース、ローストビーフ、卵と生ハム。

付け合わせのサラダもスープも私の好きなものばっかり。

今日は、天気もいいし、ゆっくり中庭でランチしようとなったらしい。

誰発案か知らないけど、素敵。そう素敵。

セイ兄様が怒っていなくて、両親が未だに涙を流していなければ。


「えっと、あくまでも将来の希望というか‥今すぐと言うわけではなくて‥」

怖くて家族を直視できない私は、薔薇を見ながら答える。


「どうして、私たちと血の繋がりがないから?何かここの暮らしに不満があるの?」

「ママ、そんなことじゃないの。血の繋がりはないけど、皆のことは本当の家族だと思っているし、不満なんて持ったことないよ。」

そう。本当に本当に良くしてくれている。

欲しいものは欲しいと思う前に用意されているような生活だ。

本当の家族以上の愛情もたくさんもらっていると思う。


「ただ、生みのお父さんとお母さんはいつだって私の憧れというか。あの小さな家で贅沢をするわけでもない、普通の暮らしをもう一度してみたいの。まだあの家は残してくれているんでしょう?」

「ああ。アリスの希望だからな。時々、修繕や掃除をして、綺麗な状態を保つように、使用人を派遣しているよ。」

「ありがとう、パパ。」

実の両親が亡くなって以来、ずっと戻ってはいないけど、それなら今でも住むことはできる。

時々、夢に出てくる幸せなあの頃の思い出。

もうだいぶ朧げにはなってきているけど。


「じゃあ、僕と結婚してあの家に一緒に住もう。それならいいでしょう?」

しんみりとした空気に爆弾発言が投下された。

ビクッと思わず私の肩が揺れる。

え?結婚って言いました今? 


ちなみに私は、ここにお姫様抱っこで連れてこられ、そのまま兄様の膝の上だったりする。

兄様のいつもつけている柑橘系のコロンの匂いと石鹸の匂いが鼻をくすぐる。

いつもながらいい匂い。

いや、今はそれどころじゃない!


兄様の口から飛び出したパワーワードに、震える体を抑え、セイ兄様をみつめる。

何を言い出してるのだ、この第一王子は!

「セイの裏切り者!それじゃあ私たちはどうなるの?」

裏切りものって……。ママ、そこ?

そして色々言いたいことはあるけど、まず三人の中で、私とセイ兄様の結婚って当たり前に決まってたの?

余りの展開にさっきから心臓が凄い音を立ててる気がする。


「母様、落ち着いて下さい。家を城の庭に移動させるんですよ。そっくりそのまま。」

「まさか魔法でか?しかし転移魔法でそこまで大きなものは移動できないだろう。」

パパが思わず身を乗り出す。

「アリスがそこまで強い思いをあの家に抱いていたなんて知らなかったですからね。今から転移魔法の魔法陣を組み替えて、大きなものを移動できるように研究します。しばらく公務を休んでもいいでしょうか?二週間もあればどうにかなると思うので。」

「それは構わないが、二週間でどうにかできるのか?」

「もちろんしてみせますよ。アリスのためなら。」

セイ兄様が自信たっぷりに宣言した。

それを聞いてママは涙を引っ込めてにっこり微笑む。

「だったらこれで安心ね、良かったわ。」

いやいやいやいやいや・・・・・

どっから!どっからツッコんでいけばいいの!

そうじゃない!


「待って、それじゃあ結局、お城暮らしと変わらないじゃないですか!それに兄様と結婚?!」

「いやなの?僕が相手じゃ不足かな?」

私がこの世で一番弱い最高の美形顔が、悩ましげな顔で覗いてくる。

サラッと兄様の青い髪が、私の頬をくすぐる。

うーん、控えめに言って今日もかっこよすぎる。

「……不足だなんて、そんなわけありません。リエラ一の美男子で、歴代最強の魔力をもつ上に、頭脳明晰、将来有望な王子の兄様に不満なんか。」

「アリスはそんな風に思ってくれてたんだね、嬉しいなあ。」

兄様がニコニコと私の頭を撫でる。

「当たり前です!私は自他ともに認めるブラコンなんですから。」

そう、ブラコン。これは兄様に向ける感情。あくまで大好きな兄に向けての感情表現なのだ。


「じゃあ、半年後の僕の誕生日に婚約発表をしてもいいよね?そして来年の18歳の誕生日を迎えたら、すぐに式をあげよう。」

「なぜ?!ちょっといきなりすぎて、話についていけないんですけど。さっきも言ったように、私がセイ兄様に向ける愛情は、家族に対してのもので、セイ兄様のことは大好きだけど、兄としてなんですよ。」

「なんだ、嫌いなわけじゃないなら、全然問題ないよ。僕に小さい時のアリスとの約束を果たさせて欲しいな。」

まさか、その約束って……。

さっきからシーナやママたちも言ってる、あの子供が何気に言っちゃう「大きくなったら結婚しようね」を本気で叶えようとしてくれてる?

何だか頭がクラクラしてきた。


「アリスちゃん。今は恋愛感情を持てないからって気にすることなんてないわ。私とパパも幼馴染で、ずっと兄妹のように思っていたのよ。ね?」

ママは紅茶のカップを手に取り、パパに笑いかける。

「そうだな。だが、婚約して結婚の準備を進めて行くうちに、いつしか愛情が芽生えていってな。今は本当にシュリーと結婚してよかったと思っているよ。」

パパもママの肩に手をのせて、幸せな笑顔を浮かべる。

「ね?2人もそう言ってるんだし、大丈夫だよ。僕も婚約発表しても、アリスの気持ちが追いつくまでちゃんと待つし。」

「楽しみね。でも半年後なんて時間がないわ!セイの誕生日パーティーと婚約発表を兼ねるとなると、かなり大々的になるわね。大変!アリスちゃんの新しいドレスとそれに合うアクセサリーを仕立てないと!」


え?なにこれ?なんか私、了承した感じになっちゃってない?

「それに招待客のリストの洗い出しが必要だな。諸外国からも来賓を呼ばねば。」

「父様、それについてはもう準備してあります。送る手紙の文章も考えているので、あとはチェックして貰えばすぐに出せるはずです。」

「さすが、セイ。準備がいいな!」

なんで?

なんで、準備してあるの?

兄様にとってこのタイミングは想定内?計画的犯行?

そしてパパとママはなんでおかしいと思わないの?

たくさんのハテナマークが頭の上に浮かび、早く止めないと大変なことになると思ったその時。


「あれ?なんか雰囲気戻ってるね。問題は片付いたの?」

中庭にやっとカイが現れる。

遅いっ!

本当にシャワーを浴びてきたんだろう、髪が少しまだ濡れている。

「うん。今ちょうど、僕とアリスの婚約が半年後にきまったんだよ。」

ニコッと笑う兄様に私は心の中で絶叫した。

全く!何も!


決まってなあーいっっ!!



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